「《模倣》の術式―
カラルの宣言と共に、彼女の手に無骨な光の剣が生成された。盾を構えつつ勇者に突撃し、カラルが剣を振り下ろす。
勇者はその攻撃を剣で受けた。武器を強化する術式があらかじめ施されていたのか、カラルの剣はたったの一合でぼきりと折れてしまう。
「《風》の術式―
カラルの攻撃を受けた瞬間を狙い、ルードが死角から竜巻の槍を放つ。風の術式で空中を自在に駆ける彼は、狭い木々の隙間をすり抜けるように移動しながら勇者に攻撃を与えていく。
「《花》の術式―
ルードの攻撃に反応して勇者が一歩引いたその先で、ゼノンの術式が待ち構えるように生み出される。粘つく粘液を分泌し続ける草が勇者の脚に触れた。
その刹那、勇者が足元に剣を突き立てた。剣に付与された冷気が大地を伝いゼノンの植物を粘液ごと凍らせ、生み出された氷の壁がルードの風を阻む。
「《強化》の術式―
その壁を、カラルメイカが叩きつけた大盾がぶち割った。露わになった勇者に向けて、カラルメイカがさらに一歩踏み込む。
懐に入られるのを嫌った勇者がさらに後ろに飛び退く。そこにルードがさらなる追撃を加える。
ゼノン達の戦いぶりに、クィーリアは舌を巻いた。
三人の攻撃が途切れることなく続くおかげで、勇者が新しい術印を描く暇を与えない。
これもすべて、冒険の道すがらゼノンが話した作戦通りだった。彼らの戦いを目にしながら、クィーリアはその内容を思い返す。
「勇者は右利きだ」
「それがどうかしたの?」
ゼノンが突然発した言葉の意味が分からず、クィーリアは首を傾げて聞き返す。
「それ自体は別にどうということはないが、あの勇者は剣を持つ手も、術印を書く手も右なんだ」
ゼノンの説明を受けてもなお、クィーリアは今一つピンと来ていないらしい。術式の発動に術印も宣言も必要としない亜人だからこそ、ゼノンの言わんとしていることが伝わりにくいのだろう。
「武器を持つ手と術印を書く手が同じせいで、勇者は右手に持った剣をわざわざ左手に持ち替えてから術印を書く癖がある。本来ならば、左右両方の手で術印を書けるよう訓練をするはずなんだがな」
「早く私達にお披露目するために、その訓練を怠ったんだろうな」
「あるいはこれまで、その癖を直さずとも勝てていたから放置されてたってところか?」
カラルメイカの愚痴に、ゼノンとルードもうなずいて返す。
「模擬戦は基本的に一対一だが、今は四人いるからな。この隙は積極的についていくぞ」
そうして対勇者戦の作戦が編み出された。カラルメイカとルードが主体となって、術印を描く隙を与えることなく勇者に攻撃を加え続ける。ゼノンは二人の補佐に入り、攻撃の切れ目を埋めたり、逆に勇者の攻撃をいなす役割を請け負う。
その間クィーリアは《音》を操る能力を使い、三人の宣言ややり取りを勇者に聞かれないようにしつつ、勇者を操る猿の魔物の索敵を担った。
想定外だったのは、クィーリアの聴力をもってしても猿の魔物を補足できないことと、新たな術式を使わずとも、勇者を倒しきれないことだった。
戦闘が始まる前から勇者が使っていた、自身の身体能力と剣を強化する持続型の術式だけで、三人の攻撃を凌ぎ切ってしまっている。こちらがどれだけ策を練って、勇者のわずかな弱点を突こうとも、手にした剣をたった一振りするだけで、カラルの武器は破壊され、ルードの風は打ち消され、ゼノンの花は凍りついた。