そして、問題はそこからさらに重なっていく。
新しい術式を使わせないことが三人の作戦だが、そもそも、もう新しい術式を使うまでもないほどに、お互いに戦力差があることがばれてしまった。
「クィーリア、本体の補足はまだか!?」
「ごめん、気配を完全に消している。私の耳じゃ捉えられない!」
「おいどうすんだ!? そろそろ押され始めてきてんぞ!」
ルードの言葉通り、術印を書く隙を潰しきったことで、勇者はいっそのことと今使っている術式だけで割り切って戦い始めた。
結果的に選択肢を狭めることで、余計な行動を挟む余地のなくなった勇者の動きはかえってよくなり、攻勢に出ていたはずのゼノン達が押され始めることとなった。
こうなってしまえば、次の作戦を立てなければじり貧だ。
「いっそ勇者に術印を書く時間をくれてやるか? 剣を持ち替える隙を突く!」
「だめだ。失敗のリスクが大きすぎる上に、勇者が術印を描くタイミングを計り切れん」
「ゼノンの茨を索敵に回せないか? 氷龍召喚さえ使われなければ私の盾でも防ぎ切れる!」
「一切の気配を消すような奴が、俺の茨を警戒しないはずがないだろう」
勇者という格上の攻撃を凌ぎつつ、クィーリアの策敵が効かない相手に次の一手を打つ。
三人が口々に話すも、現状を変えるような手が中々浮かんでこない。
その光景を見ていたクィーリアは、自分の不甲斐なさに奥歯を噛み締めた。
せっかく与えてくれた役割を全うできず、せっかく作ってくれた作戦をふいにした。
けれど、まだ諦めるわけにはいかない。
考えろ、考えろ、考えろ!
何もできない自分になるな!
その時ふと頭をよぎったのは、ゼノンと出会ってからの日々。
まるで走馬灯のように、この数日の出来事が、彼との会話が頭の中に蘇る。
――術式は、できないことをできるようにするためにあるものだろう?
「……いける、かもしれない」
クィーリアの口から、思いがけずそんな言葉が漏れ出てきた。
理屈でいえば成功する。結果から逆算して、自分が考えた一手に必要なものを洗い出す。
それが終わるや否や、クィーリアは三人に向けて叫んだ。
「お願い三人とも、五秒勇者さんの動きを止めて!」
クィーリアの要求に、カラルメイカとルードが思案する。
今戦っているのは三対一で、かつ新たな術式の追加を封じたにも関わらず、その圧倒的な出力差のごり押しだけで対等以上にわたりあってくるような化け物だ。
そんな相手に、五秒は長すぎる!
不可能の三文字が、二人の頭をよぎった。
「任せろ」
ただ一人、ゼノンだけが違った。
可能だと言い切り、勇者の前に一歩踏み込む。
「カラル、ルード。俺が失敗したときのリカバリーは任せるぞ」
「――頼んだぞ!」