緑谷一家が豪邸に引っ越した翌日。
出久は何時もより少し早い時間に起床し、何時も通り顔を洗う。
そして、何時もならこのまま寝間着の状態でリビングに行くところを今日は一度部屋に戻って、学ランに着替える。
そう今日は学校なのだ。
今までは春休みで、朝の時間に余裕があったが、今日から新学期が始まると言うことで、少しバタバタしている。
学ランに着替え終えた出久は朝食を摂るためにリビングへと向かう。
「おはよう、皆。」
「おはよう、出久。今日から学校でしょ、早く朝食食べちゃいなさい。」
リビングでは既に引子によって朝食が用意されており、出久は言われるがまま、朝食を食べ始める。
今日の食事当番は引子だったようだ。
実は緑谷一家ではエミヤ、刃、引子、姫子の順に一日ごとに料理当番を交代する決まりとなっている。
つまり明日は姫子が食事を作る番なのだ。
「…ご馳走さま。お母さん、明日の朝食、僕の分はいらないって姫子さんに言っておい「出久、何か言ったかしら?」
朝食を済ませた出久が明日の姫子の料理を回避するために予め予防線を張って置こうとした刹那、突然出久の背後に姫子が現れた。
「明日の朝食が何かしら?もしかして
「…あっいえ…食べます食べます!ありがたく完食させて頂きます!」
「そう、それは良かったわ。明日は私の愛情をたっぷり注いだカツ丼にするつもりよ。出久カツ丼大好きでしょ?」
既にお分かりだろうが、あの姫子が普通のカツ丼を作るわけがない。
一応姫子の名誉の為に弁明しておくと、彼女は決して料理が不得意と言うわけではない。
ただ、アベンチュリンや星穹に続いてスタレキャラの例に漏れず、価値観がかなり変人寄りなのだ。
普通に料理する事は出来るのだが、何故か彼女は料理に開拓を見出だす為に普通は料理に使わないような食材を投下して、前人未到の味を模索しようとしてしまう。
かなり前にも姫子はカツ丼を作った事があるのだが、その時は鳥の卵ではなく、カエルの卵を使ってカツ丼を作っていたのだ。
この事から分かる通り、姫子の料理を食べてもろくな事にならない。
「あっ明日が楽しみだな…。」
そんな弱々しい声を漏らして出久は学校へ行くために家を出るのであった。
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家から徒歩20分弱…だったのは前の家の話で、昨日新居に引っ越した事で、かなり通学路が伸びてしまった出久の通う学校 市立折寺中学校。
本来なら、昨日の引っ越しの際に転校手続きをするべきなのだが、今の出久は鍛え過ぎて、軽く乗用車よりも速く走れるフィジギフ状態なので、一切遅刻する事なく始業式の10分前には教室にたどり着いていた。
「ここが今年度の教室か…。」
今の出久は14歳、誕生日は7月15日なので、今日から中学三年生だ。
「教室には誰がいるかな…?」
「てめえ!クソデク!」
誰とクラスメイトに成れたのか少しドキドキして、教室に入ると、突然聞き慣れた怒号が出久を襲った。
「かっちゃん…!」
「てめえよ!俺になんの挨拶も無しに引っ越しやがって、どういう了見だコラ!」
怒号の主は出久の幼馴染みで
「ごめん…かっちゃん。アベンチュリンさんが、色々勝手に事を進めちゃって…。」
「チッ!知ってんだよそのくらい。あの成金野郎…ご丁寧に俺が欲しかったアメリカ産のキャロライナ・リーパーと一緒に手紙まで送りつけて来やがった。」
「なら、別に良いんじゃ…。」
「良くねえ!俺が怒ってんのは、てめえの個性をてめえでちゃんと制御出来てねえ事なんだよ!今朝なんか、てめえんとこの灰色髪が俺んちのゴミ置き場に捨ててある俺のゴミを漁ってやがったぞ!」
恐らく清掃員として働く星と穹の事を言っているのであろう。
毎日仕事から帰ってくる度にこの二人は出久に拾ったゴミを見せびらかすのが日課と成っているのだ。
「ごめんね…。ちゃんと言い聞かせるから…。」
「チッ!俺がてめえの個性の事良く理解してっから良いが、他の奴にはあんまり迷惑かけさせるなよ。バレたら面倒な事になる。」
幼馴染みである爆豪は引子を除いて、出久の個性の詳細を知る唯一の理解者なのである。
と言うのも、10年前は何事もなく出久は個性を隠さず生きていたのだが、この10年、アベンチュリン達カンパニー組を筆頭にスタレキャラ達が皆この世界でかなりの著名人に成ってしまい、そんな彼らが出久の個性の一部だと知られてしまっては世間が大騒ぎに成ってしまうと思い、出久は爆豪以外には自分の個性を隠しているのだ。
「それより、今日の放課後てめえの家行っていいか?どんな所に引っ越したんか知りてえ。」
「うん!良いよ!凄く大きくてびっくりすると思う。」
因みに、この二人は原作とは違い、仲はそこまで拗れてはいない。
寧ろ良きライバルとして、親友としてかなり仲が良い。
理由として大きいのは出久に個性があることが関係している。
とは言っても、出久自身自分の個性の発現経緯をしっかり話しているため、出久の個性が特殊な事を爆豪は既に知っている。
それでも、爆豪が原作より若干丸くて、出久を親友として認めているのは、この10年間で起きたある出来事が切っ掛けなのだが、それはまた別の話。
「始業式始まるし、並ぼう?」
「おう。」
そうして二人は仲良く並び中学三年生の始業式を迎えるのだった。
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「始業式は終わり午後の授業は無い…が、このホームルーム中にお前らには進路希望を書いてもらう。」
そう言って、始業式が終わった後に再び生徒達が集まった教室で担任の先生が『進路希望』と書かれた紙を生徒達に配っていく。
そして、配られた生徒から早速進路希望を書いていき、全員書き終えた事を見計らって先生が進路希望のプリントを回収した。
「お前達ももう中学三年生だ。そろそろ将来の事を真剣に考える重要な時期だが…。」
そこで担任の先生はパサ~とプリントを投げてこう告げる。
「皆、大体ヒーロー志望だよね!」
その言葉と共にクラメイト達は一斉に自身の個性を見せびらかす様に発動させて、手を挙げる。
「うんうん…皆素晴らしい個性だ!だが、校内での個性使用は原則禁止だぞ~。」
「せんせえ…皆とか一緒くたにすんなよ。
クラメイト達が意気揚々と騒ぎ立てる中、爆豪は自分と出久以外の人間を見下すような言動をとる。
多少原作の時よりも性格が改善されようとも、ここのセリフは変わらなかったようだ。
しかし…。
「緑谷も雄英だけど、ヒーロー科じゃなくて普通科だな。」
「あ?」
その言葉でクラス中の空気が一気に凍った。
「嘘だろ、あの緑谷が?」
「頭も良いし、スポーツも出来るし、イケメンじゃん。私てっきりヒーロー科に行くのかと思ってた。」
「あいつがヒーローならなくて誰がなるんだよ。」
各々原作と違い、出久がヒーロー科に進まない選択をした事に疑問を抱いている様子。
この世界の出久は原作と違い、頼りがいがあり、肉体も強く、そしてイケメンである。
よって皆出久の事を認めており、誰もが出久ならヒーローに成れると信じていた。
それは当然爆豪も同じ。
「デクてめえ!どういう事だ!」
「ごめん、かっちゃん。でも、君なら分かるだろ?僕の個性で戦うとなると、必ず皆の迷惑になる。皆折角一人の人間としてそれぞれの分野で活躍してるのに…その邪魔をしたく無いんだ。」
出久の個性はスタレキャラを召喚すると言うもの。
しかし、そのスタレキャラ達は芸能やファッション、ビジネスと言った様々な分野の著名人として活躍している。
もし出久が個性を使用して戦おうとした場合、必ず彼らの仕事の邪魔に成ってしまう。
そうまでして、出久は自分の夢を優先しようとは思え無かった。
「てめえ!それをあいつらの前で言ってみろ!ぶっ殺すぞ!」
爆豪は怒る。
しかし、その怒りは自分の為ではなく、自分が認めた出久とその個性達の為の怒りだ。
「てめえのそう言う所前から気に食わなかったんだよ!そうやって自分の事を二の次で、自分よりも他人を優先するムカつくくらいにヒーロー向きな自己犠牲の精神がな!」
「かっちゃん、落ち着いて…。」
「うるせえ!大体ヒーロー諦める奴がヒーロー分析ノート書いてんじゃねえよ!本当はヒーローに成りたいんだろ!」
そう、原作と同じで出久はずっとヒーローに憧れており、ヒーローの事件現場に赴いてはヒーローノートを書く習慣をつけている。
「あっそうだね。ヒーローを諦めるなら必要無い物だった。かっちゃんこれ爆破しといて…「ふざけんじゃねえ!それはてめえの大切なモンだろうが!次同じ事言ってみろ…屋上から突き落とすぞ!」
そこからは怒りで暴れる爆豪を皆で抑え、出久の進路希望だけ一旦提出を保留する事で何とか事なきを得た。
そして放課後。
「やっぱ今日はお前の家に行かねえ。このまま家に帰る。」
そう言って爆豪は一人でドカドカと自分の不機嫌さを表すように大きな足音を立てて帰ってしまった。
「あちゃ~爆豪の奴、滅茶怒ってるぜ…。」
「でもよ、爆豪の気持ち分かるぜ。緑谷にも何か事情があんだろうけどよ。折角個性も性格もヒーロー向きなのにヒーロー成らねえのはもったいねえよ。」
残されたクラメイトは口々に爆豪を養護するような言葉を吐く。
「うん、皆も心配掛けてごめんね。もう一度良く考えてみるよ。」
「おう、そうしろ。じゃあな緑谷。」
「うん、また明日。」
クラメイト達に別れを告げて出久は真っ直ぐ家に帰るために通学路を辿るのだった。
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通学路上のとあるトンネルにて出久は家に向かってゆっくり歩を進めながら、先程のホームルームについて考えていた。
「かっちゃんには悪いことをしたな…。明日謝らないと…でも、今さらヒーローになるなんて…。」
何時ものように独り言をぶつぶつ呟いていると、突然歩いていたトンネルのマンホールの蓋が飛び出して、そこからヘドロ状の異形個性を持ったヴィランが現れた。
「Lサイズの隠れ蓑…。」
「っ!ヴィラン!」
ヴィランを前にして、出久は怯えること無く冷静に警戒体制を取る。
「こいつはラッキーだぜ。あんなのがこの街にいるなんてびっくりしたが、お前の体を乗っ取れば逃げ切れる。」
「何か良く分からないけど、そう簡単にヤられる気はないよ。」
「ガキが…おざけ!」
ヘドロヴィランは何を焦っているのか、真っ直ぐ出久に向かって突貫してくる。
しかし、相手は10年間スタレキャラと共に鍛練を積んだ猛者。
ヘドロヴィランの動きなど、止まって見える。
「…ヘドロって言うことは恐らく流体で触れない…でも、生物である限り、絶対に流体に出来ないところがある。それは心臓や腸と言った内臓…歯、そして…目。」
出久はこんな状況にも関わらず冷静に定番のブツブツを披露し、ヘドロヴィランの弱点を看破する。
そして、恐らく流体でないと推測される目に向かって思い切り手を突っ込んだ。
ーーグチュ!
生々しい音と共にヘドロヴィランの片目が潰れる。
「ぐあああ!いてええええ!…このガキ!もう、生きては返さねえ!」
「おじさんに付き合ってあげたい気持ちは山々だけど、そろそろ時間だよ。」
「あ゛?」
「君さっき『逃げ切れる』って言ってたよね?と言う事は誰かから逃げて来たと言うことになる。こう見えて、ロビンさんやセーバルさん達の音楽を聴かされている関係で結構耳が良いんだよね僕。だから、分かるんだよ…君を追ってきた人が近付いて来るのが…。」
「はっまさか…もう、近くにまで…。」
「そして、この重厚感のある音は間違いない…!」
次の瞬間、マンホールの蓋が再び飛び上がり、中から2m以上ある筋骨隆々の大男が現れた。
「もう、大丈夫だ少年!何故って?私が来た!」
「…オールマイト。」
現れたのは出久の憧れのヒーロー。
最高にして最強の平和の象徴 オールマイトであった。
「テキサス…スマーシュッ!!!」
オールマイトは何もない空間に拳を振り、強烈な風圧を起こすことで、ヘドロヴィランの体をバラバラにして無力化させた。
「巻き込んでしまってすまない。そして、ありがとう!少年。君のお陰でヴィランを捕まえる事が出来た。」
オールマイトは空の2Lコーラペットボトルにヘドロヴィランを詰めながら、出久に感謝を述べる。
「いえ、僕は何もしてないですよ。」
「HaHaHa!謙遜するなよ少年!どうだ?お礼に私直筆のサインを書いてあげよう!」
「本当ですか!」
出久は意気揚々と大事なヒーロー分析ノートを取り出してオールマイトに手渡す。
「ヒーロー分析ノート?君もしかしてヒーロー志望かい?」
「あっえっと…。」
「一目見たときに良く鍛えられていると思っていたが、そうか、君もヒーローを目指しているのだな!頑張れよ少年!」
「…いえ、僕はヒーローにはなりません。」
その瞬間、一瞬だけその場の空気が凍り付き、気まずい沈黙が流れた。
「それは…どうして?」
「僕の力は…僕一人だけの物じゃ無いから…。」
「少年…。…ぐっ!シット!私とした事が…見誤ってしまったか!」
その瞬間、突然オールマイトの体から煙が沸き立った。
「おっオールマイト!?」
やがて、オールマイトの体は身長はそのままに筋肉が萎んで骸骨の様な姿に成ってしまった。
「えええ!?オールマイト!?偽者!」
「私は正真正銘のオールマイトさ…げぼっ!」
そう言って、オールマイトは口を開くと共に吐血をしてしまう。
ガリガリな見た目通り病弱なようだ。
これが憧れのヒーローの現在の姿。
受け入れがたいその現実に出久の脳は尚も理解を拒む。
「そんなオールマイトが…ごめんなさい!僕のせいで知られたくない秘密を…。」
「君の責任ではない。私が活動時間を見誤っていた。私の責任だよ。」
そう言ってオールマイトは自分の服を捲って出久に自身の腹部を見せる。
「秘密を知られた次いでだ。5年前にとある大物ヴィランとの戦いで深手を追ってしまってね。それから度重なる手術によって胃袋を全摘。何とか一命を取り止めたが、全盛期程の体力はもう私には残っていない。活動限界時間は1日3時間と言った所だ。」
「そんな…5年前って、もしかしてどくどくチェンソー…。」
「詳しいな…。だが、あんなゴロツキに遅れを取ったりはしないさ。…所で少年、君は先程この力は自分一人だけの物じゃないと言ったね?」
「はい…。」
「その意味を詮索するつもりはない。だが、これだけは言わせてくれ、力だけでなく君の体も命も君だけの物じゃない。私のような怪我を負って悲しむ友人や親、恋人が君にもいるだろう。ヒーローは命がけだ。私はなるべく子供達の夢を否定したくは無いが、今の世代の子達には君のようにヒーローの道を諦めて幸せな道を選んで欲しいと言うのが本音だ。」
「オールマイト…。」
「ハハ…悪いね、おじさんの長話に付き合わせてしまって。さて、私はそろそろ行くよ。早くこのヴィランを警察に届けなくては…。」
そう言ってオールマイトは自身のズボンのポケットをまさぐる。
しかし、そこで違和感を覚える。
明らかに軽いのだ。
液体がパンパンに入ってるペットボトルがズボンに入ってる筈なのに、オールマイトはズボンに重みを一切感じなかった。
「なっ無い!ヴィランを閉じ込めていたペットボトルが…。」
「オールマイト!あそこ!転がっています!道路の上を止まる気配も無く、どんどん先へ。恐らくさっき萎んだときにポケットから落としたんだと思います。早く捕まえないと二次被害に…!」
「ああ、本当につくづくすまないね巻き込んでしまって。」
そう言ってオールマイトと出久は道路の上を転がるペットボトルを追って走り出す。
しかし、幸運な事にヘドロヴィランが入ってるペットボトルが転がる進路上にはゴミ置き場があり、このままならペットボトルはゴミ置き場にぶつかって止まるだろう。
「オールマイト!あそこにゴミ置き場があります。」
「ああ!不幸中の幸いだ!」
そう二人が喜ぶのも束の間、ゴミ置き場の前を転がるペットボトルを拾い上げる一人の陰が現れる。
「おっ!プラゴミ発見!星、見ろ!見付けたゴミの数勝負これで俺の一歩リードだな!」
拾い上げたのは現在清掃員としてゴミ収集車でゴミ置き場のゴミを回収している出久の個性の一人穹であった。
「うわ!負けた!」
「へへ!これで明日の昼飯星の奢り~。」
「…でも、何かこのペットボトル汚くない?目ん玉着いてるし。」
「うわっ!本当だ!気持ちわりい…。星、やっぱりあげる。」
「いらない!それは穹が拾ったんだから穹のものだよ!」
星と穹はどうやらこのペットボトルの事で少し揉めている様子。
そこに慌てた様子の出久とガリガリのオールマイトが近付いて行く。
「星さん!穹さん!そのペットボトルこっちに渡して!」
「出久、お前も遂にゴミに目覚めたか!だけど、このペットボトルは止めとけ…。汚いし、臭いし…。」
「良いから!そのペットボトルを渡して!」
「お、おう。分かったよ。」
出久のただならぬ気迫に押し負けて穹は出久にペットボトルを渡す。
但し、
「はい、これで少しは綺麗に成ったでしょ。コレクションにするならちゃんと洗えよ。」
「「何してんの!?」」
出久とオールマイトの驚愕の声が同時に重なった。
「何って中身が汚かったから…。」
「その中身が欲しかったんだよ!僕達は!」
「中身!?出久変わった趣味してるな…。」
大惨事にも関わらず、未だに成り立たない会話を繰り返す穹と出久。
「少年!無駄話してる場合ではないぞ!ヴィランが動き出した!」
「くそ…緑のガキ…オールマイト!お前達は絶対に許さねえ!いつか必ず殺してやる!」
そう言ってヘドロヴィランは人通りが多い商店街の方へと逃げて行った。
「不味い…!この先は商店街です!早く追わないと犠牲者が!」
「追うぞ!少年。」
「何か良く分からないけど、乗ってくか?」
「二人乗りでしょ!」
「俺と出久が上に乗っかれば大丈夫!」
そう言って、運転手は星、助手席はオールマイト、そしてゴミ収集車の上に穹と出久が乗り、ヘドロヴィランを追って全速力で走り出す。
「交通ルールは破る為にある!」
「しかっりと守って!」
そんなオールマイトの突っ込みはゴミ収集車が起こした疾風によって書き消されるのであった。
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爆豪side
「くそが…ムカつくぜ。何が迷惑掛けたくねえだ。あのクソ朴念仁。周りの人間がてめえの事どう思ってるか知りもしないで…。」
俺はデクをおいて、一人で通学路から外れた路地を歩きながらそう悪態を着いていた。
あいつは何時もそうだ。
昔から変わらねえ、自分よりも他人を優先する。
気持ちわりいくらいにお人好しな優男。
根本的に俺と馬が合わねえ。
でも、何故か俺はあいつを嫌いになれねえ。
離れようとも思わねえ。
きっとこれにはうんと昔の出来事が関係している。
俺は昔から凄かった、天才だった、圧倒的強者だった。
周りの同年代の奴らも大人も俺の事を持て囃した。
容姿にも運動神経にも個性にも恵まれた俺は天狗に成っていた。
そんな俺に取ってデクは何も出来ない木偶の坊のデクで、常に俺の下だった。
でも、その立場は10年前のある日を境に逆転した。
デクにも個性が宿りやがったんだ。
それもかなり特殊な…。
その日を境にデクが変わっていった。
体は逞しくなって、みすぼらしかったソバカスは消え、俺と並ぶくらいにイケメンになって、そして俺よりも身長が高くなっていた。
おまけにテストの点も喧嘩も俺より強くなっていた。
それなのにあいつは威張ること無く、あたかもそれが当たり前の事のように振る舞ってきやがった。
俺はそれが気に食わなくて、何度もデクに殴りかかった。
その度に俺は返り討ちにあった。
それから俺の人生で俺の思い通りに成る事なんて一度もなかった。
俺の弱さと未熟さと出久の強さを思い知る10年間だった。
気付けば俺は自分に自信を無くしていた。
そんな時にあいつはこう言ったんだ。
『自信をなくさないで、かっちゃんはいつでも、オールマイトよりも身近にいる僕の憧れの人なんだ。だから君を超えたいんだよ。これは僕のエゴだけど、僕が君を超えた分、君に僕を超え返して欲しいんだ!君は僕の親友でライバルで憧れだから!』
その言葉を聞いてやっとの俺の人生が動き出した気がした。
俺は強い。
だが、出久はもっと強い。
だから超える。
俺が超えたら、今度は出久が俺を超える。
そうして俺達は二人でオールマイトを超えるんだ。
これからの人生、同じオールマイトに憧れた者同士、No.1に憧れた者同士、そしてライバル同士雄英に入った後も共に高め合えると思っていた。
でも、あいつはヒーローを諦める選択をした。
俺と高め合う約束をしたくせに…!
てめえのエゴを俺に押し付けたくせに…!
「勝手に諦めてんじゃねえよ!クソデク!」
俺がそう叫んだ直後、ちょうど路地を抜けて商店街に出てきた。
思いの外俺の声が響いちまったようで周りの変な奴を見る目がいてえ…。
そんな俺に近付く無定形の影が一つ。
「フラストレーションが溜まってるんだね~俺もだよ!Mサイズの隠れ蓑くん。」
「あ?」
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Noside
ーーバコーンッ!!!
「商店街から煙が…!」
出久達がゴミ収集車に乗って商店街に向かっている最中、突然商店街の方から爆発音と共に大きな煙が立ち込めて来た。
「遅かったか…!灰色の少女、もう少しスピード出せないのかい?」
「ゴミ収集車のスペックじゃこれが限界。これでも交通ルールガン無視なんだけど。」
そう言いながら、出久達は商店街向かう。
十数分程走った末にようやく、ゴミ収集車は商店街に到着した。
しかし、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
「これは運が良い。凄い個性の隠れ蓑!」
「離…れろ…!くそが!」
ヘドロヴィランは爆豪の体を乗っ取り、爆破の個性で暴れていた。
「そんな…かっちゃん…。ヒーローは一体何を…。」
信じられない光景に出久は誰か助けに来たヒーローはいないか周りを見渡す。
すると…。
「あのヴィラン…体が流体で掴めん…他に有利な個性の奴は…いないか!」
「私、二車線以上じゃないとムリ!」
「炎は俺の苦手とするところ…今回は譲ってやろう。」
「そりゃどうも。消火で手一杯だよ!今どんな状況?」
デステゴロ、Mt.レディ、シンリンカムイ今話題の若手ヒーロー達が個性の相性が悪いからとヴィランを押し付け合って棒立ちしていた。
「何やってんの?あれがヒーローのする事?」
「相性が悪いみたいだな。だとしても他にやりようはやるだろうに…あんなのでもヒーローに成れちまうんだな…。」
ヒーロー達の情けない姿を見て星と穹は幻滅したような感想を抱く。
「そんな…このままじゃ、かっちゃんが…。」
次の瞬間、ヘドロヴィランに取り込まれている爆豪と出久の目ががっちりと合う。
「…っ!」
出久にはその目が助けを求めるような目に見えた。
そして次の瞬間には出久の体は勝手に動いていた。
「「出久/少年!?」」
「おい!そこの少年!何してる!止まれ止まれー!」
驚く星、穹、オールマイトと静止するヒーローの声を置き去りにして、出久は全力でヘドロヴィランに突貫する。
「かっちゃんから離れろ!ヘドロ野郎!」
「さっきのガキ!ちょうど良い!ぶっ殺してやる!」
ヘドロヴィランによる爆破攻撃が出久を襲う。
しかし、そんな鈍い攻撃は出久には当たらない。
難なく攻撃を避けた出久はさっき潰した目とは反対の目に手を突っ込んで潰す。
「があああ!」
その瞬間、ヘドロヴィランによる拘束が緩み爆豪の口が自由になる。
「たはっ!出久、てめえ何で!」
「そんなの分からないよ!ただ…君が助けを求める目をしてたから、僕が…来ちゃった…。」
「「「「っ!」」」」
その場にいる群衆の中で、爆豪と星、穹そしてオールマイトだけが出久の言葉に衝撃を受けた。
「やっぱり駄目だな…僕は。ヒーローを諦めるつもりなのに体が勝手に動くんだ…!僕、やっぱりヒーローになりたいよ!君と一緒に!」
「っ!出…久…!」
「邪魔するな!くそガキ!」
出久が爆豪と話すのに夢中になっている隙に目潰しから回復したヘドロヴィランからの攻撃が再び出久を襲う。
しかし…。
「「槍先に火を!」」
存護の槍を構えた星と穹が出久をヘドロヴィランの攻撃から見事守り抜いてくれた。
「ヒーローに成るなら俺達も一緒だろ?」
「出久は私達がいないと何も出来ないからね。」
「二人とも…。」
「情けない…君達の様な若人に諭しておいて、己がただ指を咥えているだけなんて…!私は君達の夢を終わらせる為にヒーローに成ったんじゃない!始める為にヒーローに成ったんだ!」
そう言って出久達の前に現れたのは筋骨隆々な姿のオールマイトマイト。
「デトロイト…スマーシュ!!」
その瞬間、ヘドロヴィランは再びオールマイトが巻き起こした風圧によって無力化された。
更にオールマイトが起こした風圧は上昇気流を起こして雨を降らせてしまった。
「風圧だけで、天候を変えやがった!」
「また、一つ伝説残しちゃったよ!」
こうしてヘドロヴィラン事件は幕を下ろした。
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あの後、オールマイトはインタビュー、爆豪はヒーローからのスカウト、そして出久、星、穹はヒーローからの説教を受けた。
そして今現在爆豪、出久、星、穹の4人で仲良く帰路についている。
「出久、滅茶苦茶怒られていたな。」
「穹さんこそ!」
「くそが…あの底辺ヒーローども、何もせずに指を咥えていただけの癖に偉そうに…!俺はあいつらよりデクの方が下だとは思わねえ!寧ろあん時のてめえは誰よりもヒーローだった。」
「かっちゃん…。」
「その通りだ!少年!」
その瞬間、マスコミに囲まれていた筈のオールマイトが独特な体制でやって来た。
「わーたーしーがー!独特なポーズで来た!」
「「「「オールマイト?!」」」」
「何でここに?マスコミに囲まれていた筈じゃ…。」
「あの程度抜け出すなんて私には造作もない事…げふっ!」
その瞬間、大量の血液を吐き出しながら煙りを出してオールマイトはガリガリの姿に成った。
「「「えええ!?」」」
「おっと失礼、緑の少年以外は事情を知らないんだったね。実は斯々然々で…。」
「マジかよオールマイトが…。」
今の説明を聞いてオールマイトに憧れを抱いていた爆豪は大きなショックを受けた。
「と言うわけで、緑の少年に礼と提案をしに来たのだ。」
「礼と提案?」
「ああ、あの場では誰がどう言おうと君が一番のヒーローだった。君のお陰で私は限界を超えてヴィランを捕まえる事が出来たんだ。本当にありがとう。」
「そんな…わざわざ…。」
「そして提案は、君に私の個性を引き継いで欲しい。」
「え?」
「私の個性は巷では超パワーだの怪力だのと考察されちゃいるが、実際は違う。私の個性は何人もの義勇の心を持つ人間達が何代にも渡って受け継いだ力の結晶。冠された名は『ONE FOR ALL』。これを是非君に受け継いで欲しい。」
「僕に?」
「ああ、トップヒーローは皆学生の内に逸話を残している。その誰もが一言目にこう結ぶ。勝手に体が動いていたと。」
「っ!」
「君は私の個性を受け継ぐに十分値する。君なら最高のヒーローに成れる。」
このオールマイトの言葉を持って、遂に緑谷出久が最高のヒーローに成るための物語が始まるのだった。