超いろは姫!!!   作:ノーばでぃ

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それは竹取物語の―――

「可愛い……わぁぁ……」

 

目の前で起きた事は現実や常識からかけ離れている。こんな時、普通の人ならば宇宙人の侵略だとか、物体X的な感じな敵性存在と大部分の人間が思い警察に即通報するだろう。異常事態に冷静に対処するならばきっとそうなる。だが、青春真っ只中の少年少女ならどう思うか、どう行動するか。

 

答えは簡単だ。一も二もなく赤子を抱き寄せた。

 

「ふぇ……ふぇぇぇ」

「よ~しよし。ダイジョブダイジョブ、抱き方あってるのかなコレ?」

 

子供を産んだ事は当然ないし、末の娘である為子供の世話のやり方もよく分からない。だが、腕の中に感じる確かな温もり、重さは間違いなく生命の在り方を正しく守っている。今更見捨てるなんて有り得ない。元々出会った瞬間に育てると決めてしまっていたのだが。

 

さて、よく見るSFパニックホラーとは全然違うようで安心安心……とはならない。別に問題は特に終わっていないのだから。

 

とは言えだ、かぐやの初手の行動は大成功であった様子。抱かれる赤子は少し前まで可愛らしく泣いていたが、今では大人しく静かにしている。じっと、丸々お目目はかぐやを見つめて見定めているよう。と思ったら、「あ~」と柔らかな産声を上げて、かぐやが肩に乗せていた茶ともグレージュとも言える珍しい髪色に目を輝かせ、その長髪を手で掴んで遊び始めた。

 

「あ~、んあ~」

「もう可愛いなぁ。あっ髪の毛食べちゃメッ、あちゃちゃヨダレ付いちゃった。あれ、電柱普通に戻っちゃった?」

 

七色に輝いていたゲーミング電柱、何故か付いていた取っ手も扉もいつの間にか消えていた。まるで「その子任せましたよー」と言わんばかり。なんと無責任な事だろう。

 

電柱が戻った事から興味が消えて、残された赤子に再度興味が移る。変わらず毛先を弄んで、味を確かめて楽しそうにしている。腕の中に抱かれる赤子の姿を、かぐやは初めてしっかり見た。

 

「0歳って感じ…じゃないね。何ヶ月だろ。」

「あぅう~?」

「この出会いに感謝感激雨あらもーど、ってね。………」

 

余りに弱々しい小さな手足、もちもちふわふわなほっぺた。惚れ惚れするほど綺麗な濡羽色の髪の毛、顔形も整っていて、成長したならばきっと自分よりも綺麗で可愛い人になるだろう。その時の光景が目に浮かぶ、勝手ながら顔がほころぶ。

しかし、しかしだ。それよりも何よりも、惹き込まれるのはその瞳。電柱の元で、足らない光量の中で目と目が合う。

 

「綺麗」

 

翡翠のような、優しい緑色を湛えた目。その目を見ていると、自分の胸の中に暖かい何かが、昔何処かで感じた事のある物が心の中に満ちていくのを感じる。なんだっけ、と思い出を遡ろうとしたその瞬間―――

 

―――ワオーーン

―――酒くれよおおおお!!

―――ドッシャーン!

 

「わっ!?や、やばっ」

「ふぇ、ふぇ」

 

 

「ふえぇぇぇぇえええええ!!」

 

な、泣き出しちゃった!?

というかいつの間にこんなに治安が悪くなってたのって愚痴を言わせて欲しいもんだ。こんなに可愛い子を泣かせて罪悪感はないのかこんにゃろー!

もう、こんな事ならさっさと部屋の中に入っておきゃ良かったなあ。さっさと行って泣き止ませなきゃ、こっちまで悲しくなってきちゃう。

 

急いで階段を上って、落とさない様に慎重に鍵を懐から取り出して扉を開ける。まだまだ泣き止みそうにないから、ベロベロバーをしたり抱きながらユラユラしたり―――途中で久しぶりに壁ドンされて大変になったけど、元々大人しい性格なのか、静かになったら簡単に泣き止んじゃった。

 

「あぅあ」

「賢い子、かぐやちゃんが褒めたげる。よーしよし」

「あぅああ!」

 

子供をあやして、甘やかして、笑顔にさせて、気づいたら時刻は23時超。地獄の如きアルバイトを終えてからのお世話、流石の元気ハツラツなかぐやでもこれには身体の力が抜けてしまう。ずっとそのままでいる訳でもいかないので、さっさと寝巻き姿に着替え、布団の上に寝転がる。

 

服を着替えている間に、疲れたのかぐっすり眠ってしまった謎の赤ちゃんを隣に寝かせる。

 

本当に、本当に今日は疲れた。でも願い事がまさかの叶ってしまって、電柱から赤ちゃんが出てきて、拾って、あやして…………これからの事、いっぱい考えなくちゃならないのに、もう瞼が重くて開けそうにない。最後の気力を振り絞って、部屋の電気を消してから弱めの冷房をかける。こうでもしないと危ないからね。

 

大切なメロディ……は、流れてるよ。

あなたの、ハートに

鼓動のよう途絶えずにあふれてるよ

 

ら~ら、ら~ら、ら~らら……

 

子守唄、聞いてくれたかな?

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 

「はっ!?」

 

目が覚めた。目を閉ざしたと思ったら、いつの間にか朝になっていた。寝巻きに着替えたからの記憶が全くない。どんだけ熟睡したのかと思って時計を見ると午前7時、なんと7時間も眠っていたとは驚きだ。カフェインを飲んで飲んで深夜の2時超まで勉強するのが常だったこの頃、身体が気だるくて頭が動かない感じで目覚めるのが普通だったのに、寝るって素晴らしい。

 

「夢じゃなかったんだ。おはよう、今日もよろしくね。」

「ふぇぇ、ふぇぇ」

「泣いちゃった、え、え、なんで。あっ濡れてる?」

 

小さく泣き出して、なんだなんだと探ってみると布団が冷たい。赤ちゃんだからね、お漏らしするよなーと後悔。今日は三連休の初日の土曜日、本当は一日中勉強に費やすつもりだったが、そんなに計画的にプロジェクト表は作ってないし、命の方が大切だ。

 

「なんか昨日よりもおっきくなってるような……なってないような。うーむ?」

 

慣れない手つきで、ゲーミング電柱の数少ない良心のお包みを慎重に脱がしていく。気持ち悪いもんね、そりゃ泣くわ。オムツ替わりの物を履かせて、ほっぺをむにむにしてあげると最高の笑顔を向けてくれる。母性が生まれちゃいそうだ。勉強の予定が吹っ飛んだなら、やるべき事は1つ。今日の予定が決まった。今日は”東竹屋”で子供用品を買い揃えて、ミルクをやる!!夢だったんだよね、ミルクやるの。

 

ミルク………………!?

 

「な、何時間もやってないじゃん!?大丈夫だよね?」

「あぅあ?」

 

心臓が悪い意味でドクンと大きくなる。提出期限ギリギリに課題に気づいた瞬間のように、冷や汗が湧き出る。頭の中に”餓死”という文字が浮かび上がって、スマホをかつてない速度で検索する。すると、大体3から4時間おきと書いてあった。

 

やばい

 

「あーあ!うきゃーきゃ!」

「大丈夫……なのかな。かぐや、ミルクの事気づかなかったよ、ごめんね。」

「うきゃあっ!」

「元気いっぱいだね。おりゃーなでなで!」

「うゃああ!」

 

心配っちゃ心配だけど、今の所は大丈夫みたい。多分地球人と宇宙人で身体の構造が色々違うのだろう、そう信じたい。切り替えて、開店まで時間があるからメモに買う物纏めとこう。左手でお遊びに付き合いながら、右手でメモを書いていく。マルチタスクは得意分野なのだ!

 

そこから先は時間が早かった。メモを書き終わったら、濡れたお布団を洗濯機にぶち込み、干してから子供向け用品を買うべく東竹屋へと開店20分前にアパートを出発する。抱っこ紐、はないので代替品で何とか解決。二人で初めてのお買い物へレッツゴー、景色に人、風と知らない物がいっぱいの世界が面白くて仕方ないのだろう、ずっと「あぁー」と手を伸ばして遊んでいた。

 

お店に着いて、メモ通りに沢山カゴに詰めていく。

 

「粉ミルク、授乳瓶、抱っこ紐、オムツに子供服。その他諸々、子育てって本当に大変なんだ。てか高ぇ、全国のお母さんお父さんってすげー、その1人になっちゃったけど。」

「あぅぅ?」

 

想像以上に子供用品の値段が高い。正社員で働いている大人ならいざ知らず、自分は貧しい苦学生。たった一人の赤ちゃんを育てるだけで渋沢栄一が1.5枚が消えていった。これだけで1ヶ月と少し分の消費になった筈と考えると余計に頭が痛くなる。安いもんよりも高いものって選んだのが悪かったか?。

もうお金について考えるのはやめよう、うんそれがいい。

 

今更になって、子育てをしている実感と母親という在り方を身近に感じる。お母さんみたい、ではなく本当にお母さんになってしまった。

 

「ふふ、お母さんだよ。べろべろばー、えっと……名前決めなきゃ呼んでも反応しないよね。お家に帰ったら名前あげたげる!」

「だあぁ!」

「嬉しいか嬉しいか!かぐやも嬉しいよ、ウェーイ!」

「うぇぇ」

 

気軽にめちゃくちゃ重要な事を宣言してしまった気がするが、この子も嬉しそうに笑っているし問題ないだろう。ほっぺすりすり、やばいな中毒になってまうわ、これ。

 

東竹屋を出て、アパートへ直帰する。途中でスーパーでもやしでも買おうと思ったが今の姿を同級生とか同じ学校の人に見られる訳にはいかない。確実に問題になるのは丸わかり。地雷原には飛び込まない、子供の頃にお兄ちゃんから徹底的に教え込まれた事だ。

 

上り坂に下り坂、それから子供をあやしながら帰宅する。

 

「名前より先にミルクだよね。ほら、座って待っててね。よーし、先ずは―――それから人肌まで冷まして……完成!」

「あーあ!あー」

「よーしよし、抱っこしちゃる!。ほ~ら、初めてのミルク、たんとお飲み」

 

口元まで哺乳瓶の乳首を運ぶと、勢い良くがっついて飲んでいく。これまで取れなかった分を精一杯飲む様子を、かぐやは微笑みながら見守る。それは正しく母親のようで……授乳の傍ら、これで餓死しないという安心感で気が和らいでいた。

 

「こく、こく」

「美味しそうに飲むね。良かった、良かったぁぁ」

 

ミルクを飲み干した後は、背中を優しく叩いてげっぷをさせて終わり。初めてで実はタジタジでやっていたものの、上手くいって本当に良かった。

 

その後は、適当にオムツを交換したり、子供服を着せたり色々。そうして、かぐやがお昼ご飯のもやし炒めを食べ終わって歯磨きを終えると、完全に一日の用事が終わってしまった。アルバイトと同じぐらい長く感じる午前中だった。

 

「だららららら、蟹!」

「きゃっきゃ」

「だららららら、兎!」

「きゃぁぁあ!」

 

かぐやの行動が面白おかしいのか、喜色満面に応えてくれる。笑顔いっぱいのその子を抱き寄せながら、珍しく真剣なトーンで告げる。名前決めよっか、と。

 

名前、お母さんお父さんが命の次にくれる大切なもの。決して巫山戯てつける事は許されないし、納得に足る名前にしないと満足できない。生涯にわたって、誇れるような名前にしてあげたい。かぐやは今日目覚めてからずっと名前について考えていた。そして、今ようやく自分の中で納得にいく名前を決められた。

 

竹取物語、そこから選んだ。日本で1番人気で、有名な名前を

 

「この兒(ちご)、養ふ程に、すくすくと大きになりまさる。」

「三月ばかりになる程によき程なる人に成(なり)ぬれば、髪上げなどさうして、髪上げさせ、裳着(もき)す。帳のうちよりも出ださず、いつき養ふ。」

「この兒のかたちけうらなる事世になく、屋(や)のうちは暗き所なく光り満ちたり」

 

かぐやはプログラミングの次に古典が好きだ。プログラミングもそうだが、難解な文字を解読して見えてくる独特な世界と空気感が堪らなく好きなのだ。例えるなら、ガチで面白い映画を見終わった後の余韻を消化しているようなソレを味わえるような感じが二つからする。後単純に読み解くのが楽しいのもある。

 

「翁、心地あしく苦しき時も、この子を見れば、苦しき事もやみぬ、腹立たしきことも慰みけり。」

「翁、竹を取る事久しくなりぬ。いきほひ猛(もう)の者に成にけり。この子いと大きに成ぬれば、名を、三室戸齋部(みむろどいんべ)のあきたを

よびて、つけさす。」

 

かぐやは古典のほぼ全ての物語を暗記している。方丈記に平家物語、徒然草に枕草子の全て暗記している。勿論その中には竹取物語が含まれている。出逢いは突然で、人生死ぬまで忘れはしないだろう。流れ星に願いを唱えて、ゲーミング電柱から現れた赤ちゃんを拾って育てる。かぐやだけでなく、日本人ならば竹取物語と結びつけて考えるだろう。ならば自ずと名前は決まる。そう―――

 

「―――あきた、なよ竹の

 

 

 

 

いろは(彩葉)姫”と、つけつ。」

 

 

「これからよろしくね、いろは!」

「あうぁあ!」

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