超いろは姫!!!   作:ノーばでぃ

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それは運命的な宣言と悪戯

「彩葉、彩葉ってば」

「……あれ?」

 

揺さぶられ、耳元の大きな呼び声でようやく意識を取り戻す。確か自分はヤチヨのライブを聞いていて、それで……興奮し過ぎて……。どうやら自分は十数分に渡って意識を持っていかれたようだ。恐るべき魔性、月見ヤチヨ。

 

と、脳裏で巫山戯たことを思いながら意識が覚醒する。そこで自分の違和感と心配そうな眼差しを向けるかぐやさんの姿に気付いた。なんだろう、目元から何か熱い物が流れている。こっち(ツクヨミ)でも、現実でも同じく存在するようだ。これは……何?

 

「彩葉、泣いてるの?」

「泣いて…る?あれ、なんで……」

 

自分にも分からなかった。どうして涙を零しているのか全く理解が出来なかった。如何に優れたスペックを誇る月人であっても、今回に限っては無力なのだ。涙が勝手に溢れてくる、適当に理由を考えるがどれも説得力に欠ける物ばかり。一番良いのはヤチヨの歌に感動した、だろうか。しかし、幾らなんでも初対面の相手の歌でここまで感動するものなのか?

 

色々と説明する為の理由を並べて納得しようとしても、涙は止まる気配がない。どれだけ止まれ止まれなんて思っても、体の制御が効かない。

そんな彩葉の姿に、居た堪れない気持ちになったかぐやが自分に出来る限りの事をするのは当然の道理だ。

 

「よ~しよし、何かあったんだよね。大丈夫、大丈夫」

「ぐずっ……」

 

優しく抱き締めて、頭を撫でてくれている。しかも現実の方でも同様である。嗚呼、何と恥ずかしく、何と情けないのだろうか。その温もりに、その言葉と仕草に甘えたくなる。自分の肉体が故障したのか不安になっていたが、そんな事はおくびにも出してはならないのだ。これ以上心配を掛けさせるなど自分が許さない。そうだ、優しすぎる彼女の前でこんなに弱い自分は見せてはならない。シャキッとしろ。

 

「え、えと、ヤチヨの歌声に感動しちゃって、つい涙が出ちゃいました」

「ほんと?」

「ほんとです。」

「……そっか。まっ、ヤチヨの歌聞くと泣く人たくさんいっからね。そういうことで!」

 

困らせて、しかも見え透いた嘘を受け入れさせてしまった。本当に申し訳ない。……ずっとこんな気分じゃダメだ。よし、周りの状況はどうなっているのか確認しなければ。

 

周りの人達は相変わらずヤチヨの方を向いていた。私の記憶がない時間、ヤチヨは何曲か歌い続けていたらしい。周りは興奮と感動に身を任せて拍手と歓喜の声を捧げている。その期待を一身に浴びながらも、一切の緊張も感じさせず大きく手を振って感謝のアピールを欠かさないヤチヨ。これがプロの為せる技であろうか。

 

続いて何か歌うと思っていたら、次のイベントについて告知を始めた。

 

「ここでお知らせ、今度ヤチヨカップって言うイベントを行うよ。FUSHI、説明お願いっ」

「おーし、ヤチヨカップの参加資格があるのはツクヨミの全ライバー。1ヶ月で一番新規ファンを獲得した優勝者は、次のライブでヤチヨとコラボ出来る権利を進呈するよ。」

 

「コラボライブだとぉ……!?」

「そんなに凄いんですか?」

「そりゃもう凄いことだよ。例えば夕食に牛肉が出てくるレベルで有り得ない事なんだよ!」

「………………?」

 

色々と早口に説明をしてくれた。なんでも、ヤチヨは配信の方ではコラボはあったが、ライブでは一回もコラボした事ないらしい。いつもは一人で数時間歌って踊ってライブを完遂しているのに、突然どうしてこんな突飛な事をしたのかと興奮気味に考察していた。私も何百通りの可能性の考えてみたが、イマイチ判然としない……となっていた時、後ろから牛車ならぬ虎車が突然現れる。

 

「ブラックオニキスじゃないの?」

「黒鬼じゃんっ」

 

バーン、と爆音がなった瞬間に屋形が割れる。その中から超有名ライバーさんが姿を現し切る前に、かぐやさんが私を庇うように前に出る。どうしたのだろうか?

 

「よう子ウサギども。お前らの帝様が来たぜ!」

「宴がまた……始まるな」

「俺っていつも作画良すぎ♥でしょ♥」

 

ブラックオニキス、或いは黒鬼。ツクヨミが公開されてからデビューした事もあって、インターネットの歴史的には新参者もいい所だがその人気度はトップクラスだ。三人組のプロゲーマーチームとして活動しながらもアイドル業もこなし、その活動は幅広い。ヤチヨと同レベルかそれ以上に色々と活動している。

 

そんな三人組のリーダーであろうか、先頭に立つ彼の言葉に周囲の観客が歓声をあげている。そんな時だった、ふと視線が交差した。彼の視線には?マークが付いているように思えた。ただ、目と目が合っていた状況は一瞬で、かぐやさんが間に入って止めてきた。何故かあっかんべー、をしている。

 

 

そのまま、彼らは自分達が優勝してみせると宣言した。ヤチヨも「それが運命ならねー」的な発言をする事で余計にある事を想起させる。周りの人も同じ事を思っていただろう、普通の人からライバーとして活動しているような人も、至る人が同じ事を………極々少数の例外を除いて。

 

(やっぱり、これって最初から決ま―――――――)

 

嗚呼、何処まで行ってもかぐやはかぐやだ。

 

「ヤあああああああーーーーチいいいいいいいーーーーヨおおおおおおお!!!!!!!」

 

え゛っ!?!?!?!?

 

さあさあ、見ざる者よ刮目せよ。聞かざる者よ耳の穴搔っ穿って傾聴せよ。言わざる者よ彼女の在り方に度肝を抜かれろ。酒寄かぐやはつまらない常識や在り来りのシナリオを認めはしない。もっともっと、楽しい事を求めているのだから。

 

この場にいる幾千万の群衆の誰も持ち得ない素質、或いは極々少数のトップライバーが魅せるカリスマと呼ぶ先天的なソレを発露する。こんな空間で、突然大声で宣言しだすなんて、普通ならば炎上待ったなしの迷惑行為だが、かぐやの宣言は誰も不快にしなかった。寧ろ、その場で黒鬼の迫力に負けて黙っていた他のライバー達の闘志に火を付けた。

 

「かぐや!!!今から彩葉と一緒にライバーになって、そんで絶対優勝して、コラボライブするーーー!!!!!!」

 

あ、あああ!?

 

「むぐぐぐ……」

 

な、何してるのよ、かぐやさんっ

周りの人達全員が振り返って凝視している。ある者は好奇の視線を、またある者は奇妙な者を見る視線で、またまた遠く遠くから見つめる彼女は愛ある視線を、またまたまた近くて遠い彼は自らへ立ち向かってくる愛おしい挑戦者へ先人として「面白ぇ」と強い喜悦の感情を込めた視線を向けている。

 

彩葉は必死にかぐやの口を塞ぐ。でないともっと叫びそうだったから。場の収拾はヤチヨが努めた。

 

「さてさて、ライブはここで休憩。みんなの元へLet's go!」

 

次の瞬間、ヤチヨが分身をして飛び立って行く。それと同時に、握手()を持たぬ者達は休憩の為会場からログアウトして消えていく。その後は空からヤチヨが握手と会話の為に各々の元へと現れる。

 

それは当然、チケットを保有するかぐやと彩葉の元にも現れる。

 

「Hey!yo!」

「ミニヤチヨだーー!!」

「YES I am!。さっきは堂々と宣言してたね。ヤッチョは驚き桃の木山椒の木だったよ。でもね、かぐやみたいな人を待ってたんだ。チャレンジャー現るってね。うりうり」

「偶にヤチヨが何言ってるのか分からない時があるんだけど、絶対死語だよねソレ。えへへ、ヤチヨと絶対コラボって見せるからねーうりうり」

「ぎぐっ…期待して待ってるよ。うりゃー」

 

楽園は実在した。育ての親であり友人でもあるかぐやさん。超一流ライバー兼歌手であるヤチヨ。その二人が目の前でワキャワキャしている。なんで、かぐやさんは臆せず堂々と接していられるのか、私はこんなにもドギマギしているというのに。ふぅ、落ち着こう。先ずは気持ち悪いかもしれないが、このとても絵になる光景を保存しなければ。これが尊いと言う感情か……脳内フォルダに写真を保存しておいた。絶対に忘れないようにロックも掛けておいた。

 

としていたら、いつの間にか握手をしている二人。ライバーとして必要な事とか真剣な表情をして聞いているかぐやさんに、微笑むながら応えるヤチヨ。ダメだ、尊すぎる。アッ■

 

「それでね……てっ、彩葉だいじょぶ?」

「oh…限界化してるねぇ。ヤッチョに任せて!」

 

思考スペックを凌駕した感情量に耐えきれず、頭からぷしゅぷしゅと白煙を上げるエフェクトが上げる彩葉。あれ、現実でも同じエフェクトがあるような、とかぐやは焦ったが、百戦錬磨のヤチヨにかかれば、お茶の子さいさいと言うもんだ。彩葉の前までスタスタと歩み、その両手を握り―――

 

「さっきぶりかな。彩葉ちゃん、戻っておいで~♪」

「…うおおぉぉ、ヤ、ヤチヨと握手してるっ!?ほへぇ……」

 

綺麗だ……いや、綺麗なんて言葉じゃ全然足りない。なんでそんなに可愛い過ぎよ。本当に可愛い。顔がいい、目がいい、髪が綺麗、笑顔が反則。声も最高、仕草も最高、もう全部好き。肌も綺麗だし、横顔まで完璧だし、見てるだけで幸せになる。なんでそんなに眩しいの。 や、やばい。か、顔が近いぃ。うおっ美人。顔整ってる。え、今自分に微笑んでくれたっ。温かいし、手スベスベするし、な、なんか良い匂いがする。こ、呼吸を整えないと。ぬあああああああ、っ演算と処理で忙殺されるうぅぅ!?!?

 

傍目から見ると完全にキャラを崩壊し破顔させている彩葉。幸福感に支配されてどこからどう見てもメロメロだ。幾らなんでも初見の相手に心を奪われ過ぎである。そんな様子を見せつけられる人間の気分はどうだろうか

 

「……むぅぅ」

 

頬を膨らませ、涙目になっている。拾い育てここまで一緒にいたのに、先に敬称抜きで名前を呼んだのは自分ではなく目の前のヤチヨ。いや、自分も敬称抜きでヤチヨと呼んでいる訳だし、それを真似したのなら仕方ないと許そう。だがしかし、頬を緩ませメロメロになっている。これには何か負けた感じがする。

 

待て待て、今日の本来の目的を忘れてはいけない。嫉妬心よりも感謝を、だ。彩葉と一緒にツクヨミを巡って楽しんで、ヤチヨのライブコンサートを満喫するというのは彩葉が現れてから出来た目的であって当初の目的では無い。これは何年にも渡って伝えたいと思っていた事で、引越しの初日にいつかヤチヨに言わなきゃと決めていた事なのだ。ここを逃せば次のチャンスはかなり遠くなってしまう。言わなくては

 

「はいっ、これで終了。今日は楽しめたかな二人ともっ」

「あぁ、ありがとうございました!」

「そうだ、かぐや、ヤチヨに言っておかなきゃいけない事ある!」

「ん?ライブの事かい?」

 

こほん、ひとつ間を整えてからハッキリと。相手の目を見つめて

 

「”ありがとう”って言いたくて」

 

「いっつもヤチヨの歌とか配信を見て寝てたの。そうすると、悪夢を見ないで安眠できるから。それで、引越しして最初に朝日を見た時に言わなきゃって決めたんだ。だから……」

 

「ありがとう、ヤチヨ」

 

▼△▼△△▼△▼▼▼△△△▼△

 

「いつも来てくれてありがとう。……帰っちゃった。」

「これから二人は忙しくなるからね。次に会えるのはコラボライブかな」

「今回もそうなるかは、その時まで分からないからね。ふわぁぁ、もう意識が……」

 

握手会が終わってから、ライブコンサート(ミニ)は一時間強で閉幕となった。あれだけ人で埋め尽くされていた会場には一人もいない。そこに居るのはツクヨミの支配人たる月見ヤチヨと家族兼ペットのFUSHIのみ。今回のライブは規模の大きいなイベントでもなんでもないが、記憶に残る特別な出来事だった。

 

あの二人に出逢えた。それだけでいっぱいだ。百億円を失ってもお釣りがくるだろう。それに、そう……あのオレンジ色の瞳と翡翠色の瞳が自身にのみ向けられた感覚、触れ合って互いの体温を感じあって語り合った時間は本当に

 

「楽しかったなぁ」

「ヤチヨ。もう五時間経っちゃった。眠らないと」

「もう、FUSHIは心配性だね~。ふわぁぁ、流石に早く起きすぎちゃったな。ごめんね、FUSHI、この後の配信……おね……が…い」

 

次の瞬間、彼女は泡沫となって消えてしまう。残されたのは小さなウミウシのFUSHIだけだ。そうして、設定画面を呼び出し、アバター一覧を表示する。

 

さて、話が変わるが妙な噂がある。それも信憑性が低くまことしやかに囁かれる程度の低い噂が存在する。それはヤチヨが嘗て書き込んだと思われる16chの掲示板で始まった。

 

その内容は、月見ヤチヨ2人説

 

最初は普通の人たちで溢れたスレだった。ただ、突如飛来した徹底的に小馬鹿にし、怒らせる悪魔達によってスレ主はブチ切れ、怒涛の検索と配信のア―カイブを視聴することで徹底的にヤチヨを調べた。結果、僅かな誤差を見つけた。その戦果を嬉々揚々とスレに持ち帰って来た結果、更なる冷笑で心をポッキリ折られた。という流れを切り抜き動画として世に発散された事で広まった。

 

ちなみに僅かな誤差というのは、ちょっとした口調の違いである。

 

「ん、んん。ああ。よし。」

 

たった一人、会場に残された筈のFUSHIの姿は消えて、代わりに彼女の姿が現れる。いつもは元気溌剌で陽気な彼女は、今だけは物憂げな雰囲気を身にまとっている。

 

「こんにちは……じゃない、ヤオヨロー♪今日のライブ、どうだったー!。bok、んんヤッチョはとっても楽しかったよ♪。うん、これで行こう。

 

うぅぅ、ヤチヨぉ……こんな役割僕には無理だよ。どうしたらいいのかな」

 

何度も何度も調整して、入念に準備をする。見た目も声も完全にヤチヨそのものだ。これまで何度か配信もしてきたし、明確にバレた事は一度もない。ずっとずっと一緒にいた一蓮托生の筈……の家族の真似など造作もない。これからの事を考えれば、必要な事と言えど心が耐えられるかは別の話。

 

大きく息を吸い、吐いて深呼吸をして意識を統一する。それでも溜息をひとつ漏らした彼女は、満月を模したミラーボールを強く見つめていた。

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