うちがハッピーエンドにしちゃる。
……なんだこれ。
体が動かない。
さっきまで「俺」として生きていたはずなのに、今は自分の手足がどこにあるのかすら、まともに感覚が掴めない。
ただ、自分がとんでもなく小さくなっていることだけは、直感でわかった。
(……おい、どうなってんだよ。ここ、どこだよ)
声を出そうとしても、喉が変な感じで鳴るだけで言葉にならない。
視界もぼやけていて、周りがどうなっているのかもさっぱりだ。
その時、急に目の前がひらけた。
眩しい光が差し込んできて、俺は反射的に目を細める。
「んんんん??」
誰かの声がした。
驚きに満ちた、若い女の声だ。
「何これ!?赤ちゃん!?なんで!!?」
気づく。俺は転生したんだと。
「とりあえずケイサツ…?どうしよ…」
気づく。ここは『超かぐや姫!』の世界なんだと。
(……嘘だろ。まさか、あの物語の世界なのか……!)
断片的に知っていた知識が、目の前の状況と合致していく。
困り果てているこの女子高生は、いろはだ。そして隣にいるのは、かぐや。
本来のストーリーには存在しないはずの「俺」が、なぜかここに混ざり込んでしまっている。
(警察……? 待て、それはまずい。そんなことになったら、この先の展開が全部めちゃくちゃになる……!)
どうにかして止めたいが、赤ん坊の体では言葉ひとつ発することができない。
もどかしさだけが募る。
だが、その混乱の最中、俺は自分の中に「何か」があることに気づき始めていた。
おそらくそれは、転生特典。使い方は直感でわかる。
が、今はまだ使わない方がいいだろう。
「私じゃ面倒見れないよ…」
彩葉が俺とかぐやを抱きかかえながら言う。
すると次の瞬間、かぐやが泣き始めた。
「えっ。ええっ⁉」
彩葉が焦っている間に、扉がスウッと閉じる。
何とか放置はなさそうで助かった。
「思わず連れてきちゃったけど…。これって人さらい…?全ッ然、泣き止まないし!」
(大丈夫だ。それは人さらいじゃない)
敷布団に寝かされた俺は、彩華とかぐやを見てそんなことを考えていた。
「何か。子守り……唄」
彩華はそういって『Remember』を歌う。
するとあら不思議。かぐやが泣き止みててしまったではありませんか。
かぐやが寝た後は、彩華も疲れたのか、すぐに布団で寝てしまった。
(……ちょうどいいか、今の状況を考えるとしよう)
敷布団に寝かされたまま、俺は天井を見つめて思考を巡らせる。
隣で寝息を立てているかぐやと、疲れ果てた顔のいろは。
俺は自分の中にある「違和感」をなぞる。
転生した時に感じた、あの直感的にわかる『力』の残滓。
まだそれが何なのか、はっきりとした言葉にはできない。
だが、今の俺に何が必要か、その答えだけは本能が理解していた。
(……このままだと、明日いろはが起きた時、またパニックになる。……成長しなきゃダメだ。せめて、自分の足で立てるくらいには)
体が熱を帯びるのを感じる。
普通なら何年もかかる成長を、たった一晩で「強制終了」させるような、理不尽なまでのエネルギー。
これが俺の持っている『何か』の作用なのか。
(……ぐ、あ……。……少し、きついな)
骨が軋み、筋肉が作り変えられる感覚。
赤ん坊の小さな視界が、少しずつ、けれど確実に高くなっていく。
一晩で一気に数年分。いや、もっとか。
いろはに負担をかけないため。このハッピーエンドとは程遠い物語を、俺が変えるため。
意識が遠のく中、俺は自分の体が「子供」のサイズへと変貌していくのを感じていた。
翌朝。
差し込んできた光に、いろはが目を覚ます。
「幻覚…じゃなかったけど。こんなにでかかったかな…?」
いろはが寝ぼけ眼で、隣に寝ているかぐやを見て呟く。昨夜の衝撃的な出会いが夢ではなかったことに安堵したようだが、その視線がもう一つの布団に向けられた瞬間、彼女の動きが止まった。
そこには、赤ん坊の姿はもうなかった。
代わりに、白と青の混じった不思議な髪色の、10歳かそこらの中学生くらいに見える子供が、緑色の瞳で彩葉を見返していた。
「……ん。おはよう」
「……は!!? だ、誰えええ!!?」
俺の新しい人生、二日目。
アパートの部屋に、彩葉の絶叫が響き渡った。
疲れた