もう一人のかぐや姫、というか俺。   作:8アイス8

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おにぎり

「……は!!? だ、誰えええ!!?」

 

彩葉が叫んでいる。まあ当たり前だ。一日で大きくなるどころか中学生?くらいの大きさになってるんだから。

 

「まあ、おちついて」

 

俺は、呆然と立ち尽くす彩華に向かって、努めて穏やかな声を出す。

 

「お、落ち着けるわけないでしょ!? なんで、昨日まで赤ん坊だった子が……っていうか、誰なの!? どこから入ってきたのよ!」

 

彩葉は混乱の極みにあり、よくわからないことを言っている。

無理もない。白青の髪に緑の瞳をした、中学生ほどの年齢に見える見知らぬ少女が、いきなり自分の部屋に全裸で座っているのだから。

 

「…ボクだよ。昨日、君が拾った」

 

俺は、床に散らばった産着の成れの果てを指差した。

 

「お、お引き取りください‼」

 

「やだー」

 

まじで嫌だ。だが、彩葉はちょろ葉といわれるほどにちょろい。

上目遣いでお願いしたら何とかなるだろう。

 

でもその前に、

 

「おなかすいたー」

 

「お、おなか……すいたって、あんた……」

 

彩葉は毒気を抜かれたようだ。

さっきまで「不審者だ!」と通報せんばかりの勢いだったのに、俺の情けない空腹宣言を聞いた途端、その緑の瞳に「困惑」と、少しの「同情」が混じり始める。

 

(よし、食いついた。やっぱりちょろいな、彩葉……いや、ちょろ葉)

 

「……本当にお腹空いた。動けないくらい」

 

俺は膝を抱え、少しだけ上目遣いで彼女を見つめる。

中学生くらいの少女の姿(しかも白青の髪という謎の美少女っぷり)でこれをやられて、お人好しの彩葉が耐えられるはずもなかった。

 

「……あーもう! わかったわよ! 何か、何か食べられそうなもの持ってくるから! だからそんな目で見ないで!」

 

彩葉は頭を抱えながら立ち上がり、台所の方へとバタバタと走っていった。

完全にペースを握った。

 

(ふふん、チョロすぎるぜ。……あ、待てよ)

 

俺は彩葉の背中を見送りながら、ふと自分の今の格好を思い出した。

産着は弾け飛び、彩葉の部屋にあった大きめのタオルを適当に体に巻き付けているだけの状態だ。

 

「……ねえー、あと、服も貸してー。動くとタオル取れそうー」

 

「ひっ!? ま、待ってなさいよ変態中学生!!」

 

台所から怒号に近い返事が返ってきた。

 

「……あー、もう! 昨日の今日で、なんで私がこんなことに!」

 

台所からバタバタと戻ってきた彩葉の腕には、彼女が普段部屋着にしているパーカーとスウェットパンツが抱えられていた。

 

「とりあえず、それ着て! あとこれ……本当は今日の私のお昼にするつもりだったんだからね!」

 

彩華が差し出してきたのは、少し大きめのおにぎりだった。

 

「……いいの?」

 

「いいわよ! そんなお腹空かせた顔で見られたら、喉を通らないでしょ!」

 

やっぱり彩葉は、期待を裏切らない「ちょろ葉」だ。

ボクはさっそく、借りたばかりのぶかぶかのパーカーに袖を通し、おにぎりを一口頬張る。

 

「……ん、おいしい」

 

「……そりゃよかったわね。ただ握っただけだけど」

 

ボクがもぐもぐとおにぎりを頬張る様子を、彩葉は毒気を抜かれたような顔で眺めている。

ぶかぶかのパーカーから手先だけを出して食べるボクの姿に、少しだけ警戒心が緩んだのかもしれない。

 

「……本当にお腹空いてたんだね、ボクっ娘ちゃん」

 

「ん。……あ、もう一個ある?」

 

「あるわけないでしょ! お米、もう炊飯器にないんだから!」

 

それは、失礼なことをした。これからスマコンを買う予定なのに、ここでも迷惑をかけてしまうとは。

 

「……あなたたち。何者なの…?電柱から出てきたし、急にでかくなるし」

 

「わかんない」

 

本当にわからない。何がどうなってここにいるのか。

自分が月人の可能性も捨てれないが、かぐやとは知り合いではないだろうし。

 

「わからないって、そんな無責任な」

 

「でもこっちは、しらない」

 

こっちというのはかぐやのことだ。現状俺がどこから来たかわからないが、かぐやは間違いなく月から来てるはずだ。

 

「…?一緒に来たんじゃないの?」

 

「ちがう、と思う。記憶にはない」

 

「…」

 

少し重い空気が流れる。

俺はそんな空気を断ち切るように言った。

 

「おなかすいた」

 

「まだ食べるの⁉」

 

「だってもう消化しちゃったんだもん。育ち盛りなんだよ、ボク」

 

お腹をさすりながら、俺は平然と言ってのけた。中学生くらいの体格になったとはいえ、中身のエネルギー効率がどうなっているのかはボクにも不明だ。ただ、猛烈に腹が減る。

 

「育ち盛りってレベルじゃないでしょ! 数時間で何年分成長してるのよ!」

 

彩葉はそう叫びながらも、キッチンの方をちらりと見た。口では文句を言いながら、冷蔵庫の中身を必死に計算しているのが手に取るようにわかる。

 

「……あーもう、わかったわよ! 卵なら一個残ってたから、目玉焼きくらいなら焼いてあげるわよ。それで最後だからね!」

 

「やったー、彩葉大好き」

 

「っ……! 調子いいこと言わないの!」

 

彩葉は顔を真っ赤にしてキッチンへ逃げ込んだ。

……やっぱり、面白いほどにちょろい。

 

そういえば、さらっと名前で呼んでしまったが、まあ気づいてなさそうなので問題ないだろう。

 

そして、もしこの世界が俺の知っている通りの『超かぐや姫!』の世界なら俺がやらなければいけないことはまだたくさんある。

 

まずは、この世界の技術の要ともいえるスマートコンタクト――通称『スマコン』を手に入れること。これがなければ、現代の情報戦、ひいてはこの世界独自の奇想天外な展開についていけない。

 

ジューッという卵の焼ける音を聞きながら、俺は思考を巡らせる。

 

この世界の主人公、彩葉は本当にお人好しだ。原作では、月からの侵略者やら何やらとんでもない連中に振り回されながらも、その「ちょろさ」ゆえにすべてを受け入れてしまう。

 

俺の役目は、この物語の「かぐや」が原作通りの悲劇や混乱に巻き込まれないよう、一足先にこの世界の情報を取得する。

 

「ほら、焼けたわよ。……今度こそ、最後だからね!」

 

彩葉が少し不機嫌そうに、でも丁寧に皿に乗った目玉焼きを運んできた。

 

「わーい。ありがと、彩華」

 

「……だから、なんで呼び捨てなわけ?」

 

「え、ダメ?」

 

箸を止めて、首を傾げてじっと彼女を見つめる。

 

「……っ、別にダメじゃないけど! 昨日の今日で、妙に馴染みすぎじゃないの!?」

 

彩葉はそう言って顔を背けたが、追い出そうとする言葉はもう出てこない。

 

俺は熱々の目玉焼きを口に運びながら、心の中で笑った。




彩葉はちょろ葉
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