これでアイツに昔悲しい過去があったとかなら仕方ないかぁとはならない絶対にボコボコにしてぶっ壊す(殺意)
今日は買い出しの用事があったからルミナスクエアに足を運んでいた。
ある程度の買い出しも終わり、リチャードティーミルクでドリンクを頼んでいた。
定番のティーミルクである。
「おおお、お待たせしましたぁ」
カウンターからココが商品を渡してくる。
それを受け取って代金を置くと「ありがとう」と短く返事をしてその場を離れる。
「あ、ありがとうございましたーっ」と聞こえてくる彼女の声を聞きつつ、ふとHIAセンターのほうへ視線が向けられた。
…しかしあそこいつ行っても同じ店員しかいないな。
ワンオペか…? 通報した方がいいのでは…?
HIAセンターに改めて視線を向けると何やら人でごった返している。
何かのイベントでもやってるのだろうか。
そちらのほうに足を運んでみると、一般人の会話が耳に入ってくる。
「なんだっけ、新進気鋭のプロキシ」
「あぁ、〝千面相〟のこと? パエトーンが今大人しいから台頭してきたプロキシ」
「は。新進気鋭だか大したことないね、あの虚狩り、〝雅さま〟率いるホロウ六課の前じゃあ捕まるのも時間の問題だって」
そういえばそんな連中居た気がする。
実際大したことなかったはずだしね(先見の明)
「きゃーっ!! 雅さまがいらっしゃったわ!!」
「他の六課の人も一緒だーっ!!」
そんな声がしたかと思うと歓声がさらにひときわ大きくなる。
視線の先にいるのは〝虚狩り〟こと星見雅が率いる対ホロウ六課。
戦闘員〝蒼角〟
斥候〝浅羽悠真〟…ちなみに名前は〝はるまさ〟って読むらしい、日本語ってむつかしいね。
副課長〝月城柳〟
そして課長が我らが〝星見雅〟の四名から成る、早い話超絶スーパーエリート集団である。
ちょっと前に雅から席は空いてるとか言われてるけど入れるかあんなとこ()
美男美女すぎて気まずいのである、いや全員と知り合いではあるのだけども。
悠真はよく武器のメンテナンス道具を買いに来てくれるし柳は蒼角とセットでたまにパンを買いに来てくれる。
雅もよくパンを買いに来てくれるし、何より向こうがこちらを慕ってくれている。
流石に兄上呼びはもう恥ずかしいが。
「雅しゃまーっ!! あたしをふんでくだしゃいっ!!」
本当に踏みそうだからそういうこと言うのやめてほしい。
っていうかそうでなくても雅に変なことを教えないで()
「マーサマサーッ!! 言いっ! たいっ! ことがっ! あるんだよぉーぅっ!!」
アイツのファン特殊すぎん?
アイドルかな? …いや一般市民からしたらアイドルのようなものか。
問題はそのセリフを言ってるファンがマッチョメンだということだが。
「蒼角ちゃーん!! ボクちんを君の犬にしてくだすぁーいっ!!」
なんでどいつもこいつも上級者みたいなファン層しかいないんだ。
こんなんだったっけ、雅たちのファンって。
ツカサは訝しんだ。
次は柳かな? って思ったのだがなんでか知らんが柳のコールだけなかった。
それはそれでおかしいじゃんということで、ここは仕方ないのでツカサが一肌を脱ぐことに決めた。
軽くツカサは咳払いをすると
「柳さーんっ!! 愛してるーっ!!」
しかしツカサの語彙力はカスだった。
◇
その日、雅率いる対ホロウ六課の面々は、ちょっとした仕事でHIAセンターを訪れていた。
早い話HIAセンターとの業務提携のお話が六課に届いたのである。
六課のオフィスにやってきてくれたHIAの人と色々と仕事の話をして、HIAセンターの方にやってきたのだ。
仕事の内容は次世代の最新VRシステムのテスト。
テストスタッフとして、バーチャル空間にダイブするというものだ。
打ち合わせなどを終わらせると、そのまま雅たち六課の面々はルミナスクエアにあるHIAセンターへと赴いたのだが、まず待っていたのはホロウ六課ファンたちによる歓声。
毎度ありがたいものだ、と柳は思う。
なんだかんだ、人々の応援というものは励みになる。
先ほどもファンの人たちから熱烈…熱烈? なコールが聞こえてきた。
言葉の意味はよくわからないのもあったが、とりあえず応援されている、ということだけ柳は理解した。
ふと、その時なんとなく柳は空を見上げた。
何の変哲もない、ありふれた青い空。
「どうしたんです? 副課長」
体格のいい男性ファンの対応をしている浅羽悠馬が柳に向かって声をかけた。
柳は彼に向って視線を向けると
「…気のせいなら、いいのですが。…何か嫌な予感がするんです」
杞憂であれば良いのですが、柳は付け足した。
その時、どこかのモニターに千面相のマークが写っていたことに、その場の誰も気づかなかった。
そんな時だった。
「柳さーん! 愛してるーっ!」
びくっと柳は身体を震わせた。
まさか自分にもそんなコールをされるとは。
すかさず柳は声がした方向へ営業スマイルを作ると微笑んで対応しようとして。
コールしてた相手が思いっきり知り合いだったことに少しばかり狼狽えた。
「つ、ツカサさん、どうしてここに」
幸いにもファンたちの目は散り散りになってた、あんまり騒がしくはならなさそうだ。
「いや、買い物があってルミナに来てたんだけど、ここの店前でなんか人だかりできてたからさ。気になって来てみたら、ファンたちは六課の皆を見かけたわけ。…ごめんね、ありきたりな語彙で」
「別にそれは気にしてませんが…」
とはいえ流石に愛してる、だなんて言葉はそうそう聞かない。
しかしちょっぴり柳はびっくりしてしまったのは事実。
ましてやいつも贔屓にしてるパン屋さんの店主ならなおのこと。
思考して柳はハッとする、リサイクルショップだった。たまに得物の躯薙ぎをメンテナンスする部品を買ったりするがそれでも柳の利用するのはパン屋の比率が圧倒的に高い。
安くて、量もある、それでいて美味しい。
好物がアンパンな柳はそれだけでリピーターになったのだ。
高いアンパンももちろん美味しいが、彼の作るアンパンは素朴な味わいで、こしあんも絶妙な舌触り、喉を通るあの甘さときたらもう。
「聞いていいのかわかんないけど、何かお仕事?」
「本当に直球で聞いてきますね。まぁ貴方になら軽い概要くらい大丈夫でしょう。私たちは最新鋭のVRシステムのテストに来たんです」
「あーなるほど。デモンストレーション的な?」
「まぁそんなところです。テストの公開の予定はありませんが」
柳はツカサに説明しつつ、ふと時計を見やった。
「いけません、もうこんな時間」
「おっと。引き留めすぎたかな、お仕事頑張って」
「課長にも言ってみてほしいです。そうすればもう少しお仕事してくれると思うので」
せめてもう少し真面目に定例会くらいは出席してほしい。
雅本人がツカサを慕っているから、もしかしたら効果はあるかもしれない。
「それじゃあ終わったら連絡くださいよ、たまにはみんなでご飯でも食べましょう」
「いいですね。おおよそですが、二時間から三時間くらいで終わると思いますので」
「むむ。来ていたのか兄上」
「あーっ! ツカサーっ、この間はパンありがとう!」
「ねぇねぇツカサぁ、よかったら僕と変わってくれるとかある?」
「あるわけねぇだろ」
どうやら他のメンバーのファンサービスも一通り終わったようだ。
なんか変なこと言ってる浅羽隊員を他所にHIAセンターに入っていく。
まぁ彼も本気ではなかったので適当に二、三言葉を交わすと彼も六課の後を追ってきた。
だから、柳はこの時知らなかった。
柳が呟いた嫌な予感が、本当に当たってしまうということを。
誰かの悪意は、本当にすぐ近くに潜んでいたのだ、と。
◇◇◇
そんなわけでご飯の約束をしてディケイダーを走らせてDK堂へ無事帰宅。
店の扉を開けて入るとサラのほかにもう一人いた。
「おかえりー」
エレンである。
なんか彼女は先日の一件以来定期的にお店に来るようになっていた。
というか土日祝日は入り浸りに来てるレベルである。
なんかリサイクル品でも買ってってほしい。
アメ詰め合わせはよく買っていってくれるけど。
「おかえりなさい。今麦茶を入れるわ」
とりあえず買ってきた商品をカウンターに置く。
手慣れた手つきで店の冷蔵庫から麦茶を取り出すとコップを三つ用意して、注いでいく。
そのコップに氷を入れながら思い出したようにサラがつぶやいた。
「あ、そうだツカサ」
「ん?」
サラからコップを二つ受け取り、一つをエレンに。
彼女は「ありがと」と短く礼を言ってちびちび麦茶を飲みだした。
「多分あなたの部屋に〝ネズミ〟さんが来てるわよ」
「…ネズミ?」
やだ、野良のネズミ侵入しちゃった? と最初は本気で思ったが、冷静に思考するともう一つの可能性に思い当たる。
「…ネズミ」
「えぇ。任務終りで疲れてるんじゃないかしら」
◇
そのまま二階の自分の部屋に直行。
扉を開けると窓が開いている。そして近くの自分のベッドが少し盛り上がっている。
ツカサは真っ直ぐベッドに向かい、掛け布団を引っぺがした。
「───んぅ」
そこにいたのは軍用っぽいねずみ色のへそ出しルックな上着に赤と黒のネクタイ、黒いインナーにタイトなショートパンツや破れたタイツと言うかなり官能的な出で立ち…そう、勘のいい方ならお察しだろうが、あのジェーン・ドゥである。
「…すっかりスヤスヤな感じだしてるけど、尻尾巻き付けてるのバレてるよ」
「…あら」
ツカサの足に巻き付いた彼女の尻尾を優しくツンツンすると、観念したように目を開ける。
ただ寝てたのは本当なのだろう、おそらくツカサが来る気配がしたから起きただけで。
もぞもぞと起き上がるとジェーンはこちらに向かって意味ありげに微笑むと
「こっそりベッドに入って驚かそうとしてたのに。サラが言っちゃったのかしら?」
「うん。サラさんから聞いたから身構えてたよ。せめて連絡してから潜り込んでよ」
改めて、彼女の名はジェーン・ドゥ。
絶対に本名ではないが、もう定着しているのでジェーンで問題ないだろう。
そんでもって彼女はツカサはディケイドであると知ってる人物でもある。
いや、普通にホロウで一仕事終えた時に変身解除したらいつの間にか尾行されてて無事バレた、という面白みのない話なのだが。
もっと周り警戒しろよ俺、と自分に怒ったしなんならサラにも盛大に深いため息をつかれた。
幸いなのは向こうにバラす気がなく、こうして定期的に寝床に侵入してきたりたまにジェーンからお仕事手伝わされたりくらいする関係に落ち着いた。
「また夜間の任務だったの?」
「えぇ。区切りがついたから仮眠を取りに来たの。あ、それと、山獅子組*1の一件の時はありがと。助かったわ」
「あぁ、囮捜査してたやつ? 別に俺は大したことしてないし」
やったことと言えば送られたポイントで待機していたら空から降ってきた若いレイダーの兄ちゃんキャッチしたくらいだ。
その後治安官らと合流してせっかくだから確保に協力した程度。
G3がロールアウトされてて嬉しかったね。
「そんなことないわよぉ。あそこは一応裂け目もあったから万が一ツカサが来れなくても大丈夫のようにはしてたけど…それでもアンタがいると安心感が違うもの」
「…前々から思ってたけど、ジェーンってば優しいよね」
「───。あら、口説かれてる?」
「思った事を言っただけだよ。そんじゃあそのまま寝てていいよ、俺は下にいるから」
「わかったわー。それじゃあ、アタイはもう少し寝かせてもらうから」
正式に許可を貰った彼女は改めてぽふん、とツカサのベッドに横になる。
程よく太陽が当たり、心地いい日差しに照らされると、疲れが溜まっていたのかほどなく寝息が聞こえてきた。
彼女のことだから何かあればもちろんすぐに飛び起きるのだろうが、まぁDK堂にいるくらいはそこら辺は安心して寝てほしいものである。
◇◇◇
とりあえずジャンクパーツを直したりパンを焼いたりして、早約四時間。
「…遅いな」
二時間から三時間で終わると言っていたが、もう一時間も超えている。
ジェーンは少し前に起きてパンを買って堂々と出入口から帰っていった。
エレンはヴィクトリア家政の仕事が入ったみたいで、そのまま今日は直帰すると店を出ている。
今いるのは少し前に来たレインくらいなものだ。
あとはいつもののメンツがいるだけで。
(長引いてる可能性はあるだろうけど…)
柳はその辺の連絡はしっかりしている。
長引くなら必ず連絡を入れてくるだろう。
となると、何か向こうであったか。
「…レイン」
「? どしたの?」
ツカサ新作のハムマヨパンをもぐもぐしていた彼女は麦茶をごくんと飲み込み胃の中へ流し込むと、彼の方へと視線を向けた。
「ちょっとハッキングしてほしいところあるんだけどいいかな」
「真顔で犯罪を頼まないでよ。…やるけどね」
苦笑いを浮かべつつ、カバンの中にあるノートパソコンを取り出す。
サラからカウンターの椅子を借りると椅子に座りノートパソコンを開いて電源をつけた。
「それで、どこをハッキングすればいいの?」
「HIAセンター。監視カメラの映像とかを、音声と一緒にできないかな」
「任せて。っと…カメラの映像は拾えた。録画されてるから、一時間くらい前の時の映像だよ」
そう言ってカタカタと手慣れた感じでキーボードを操作し始めた。
数分後、画面に小窓が開いて、レインはそれを拡大させる。
映し出されたのはHIAの職員と柳のやり取りだ。
<月城さん…? 月城さんっ!>
柳はVRの機械から飛び起きた? ようにも見える。
それを職員がとても心配している感じで。
<私、は…これはまさか>
<つきじろさぁぁぁぁん!! よかっだぁぁぁぁ!! ようやぐ目を覚まじでくれたんでずねぇぇぇぇぇぇ!! こごは現実でずよぉぉ!!>
情緒どうなってるんだあの職員。
ただ本気で心配していることは伝わる…何かがあったのだろう。
<…そういうことですか。ほかの皆さんは、まだ戻ってきてないのですね。すみません、これから話すことはとても重要ですので、よく聞いてください>
<は、はいっ>
<仲間たちがVR空間に閉じ込められ、危険に晒されています。今すぐにH.A.N.D.本部に連絡して、電子戦の医療チームと専門家を呼んでください>
「…大体わかった」
案の定トラブルに巻き込まれてる…いや、この感じだと悪意ある誰かにVR空間に閉じ込められた、といったほうがいいか?
こりゃ連絡を入れる暇なんてないはずだ。
「ちょっと行ってくる」
「待ってよツカサさん、君が強いのは知ってるし、私を助けてくれた時のあの力も知ってる。でも、VR空間なんだよ?」
「レインの言う通りよ。…もしかしてそのディケイドって力は、VR空間にも行けるの?」
「…わかんない。けど、なるようになるさ」
サラとレインにそう言って一旦DK堂を出る。
とはいえマジでそこら辺どうしようとは思ってる。
でも同時に、ディケイドならいけるんじゃないか? と謎の確信もあった。
本編では龍騎の世界限定だがミラーワールドに入れたし、龍騎にライドすればいろんな鏡からミラーワールドに入れて出ることもできたし、不死性のアンデットだって撃破できた。
作品だからなのかもしれないが、そういう理のようなものを破壊できる可能性があるのなら。
そもそもオーロラカーテンは自分を別の場所に送ることのできるもの…。普段はホロウでの出入りにしか使ってないが、こういう時に応用は効かせてくれるはずだ。
「男は度胸、なんでもやってみるもんさ!」
路地裏に引っ込むと指を鳴らすように右手の指を構えながら、向かう先を思い描く。
…というかVR空間なんてどう行けばいいかわからないのでシンプルに雅のところとする。
念じるように、頭の中で、何度も思い描く。
何度も、何度も、何度でも。
(雅…っ。雅…っ!)
シンプルに居場所を想像し強く彼女の名前を呼ぶ。
念じ始めて数分後、不意に雅の声が聞こえた…ような気がした。
───ンナッ?
なんでボンプの言語?
それはともかく、ようやく視えた。
ツカサはそのまま勢いよく指を鳴らす。
すると目の前にブゥーン、とあの特徴的な音と共にオーロラカーテンが開かれた。
ただ行き先がVR空間ということもあるのか、少し揺らめきが不安定な気がする。
生身で入るのはさすがに危なそうだ。
そう判断したツカサはネオディケイドライバーとディケイドのカードを取り出すと、手に持ったままバックルを開いて、そのままドライバーにカードを装填した。
<KAMENRIDE>
そのまま腰に押し付けて、ドライバーを装着しつつ
「変身!」
<DECADE>
流れるようにバックルを閉じて、ネオディケイドへと変身を完了させた。
しゃ、と龍騎よろしく気合を入れるとそのカーテンの中へと入っていった。
◇◇◇
一度VR空間から追い出された月城柳は、どうにかして再度VR空間にログインすることができた。
相手は千面相と呼ばれる悪質なプロキシ集団。
近頃そのメンバーを摘発して捕えていたからか、その報復の対象として選ばれたのだろう、六課が。
だが相手はまだ複雑なHIAのシステム総てを掌握はできておらず、強制ログアウトの条件も変更されていなかった。
そしてその条件にもなっているエネミーを介して、向こうはこちらへハッキングをしている、ということも。
強制アウト前に二体は倒せたから、残るは一体。
再ログイン直後は雅も奮闘していたが、やがてデータ取得率百パーセントとなってしまった彼女は、愛らしいボンプの姿へと変えられてしまい、今は同じようにボンプに変えられてしまったソウカクボンプとハルマサボンプと一緒にいる。
正直に言えば状況は不利…だけれど、退く選択肢はもうない。
「…都市を守るため、我、月城柳は…───光とならん」
ボンプとなってしまった雅たちを安全な場所に移動させつつ、柳は自身の得物である〝骸薙ぎ・虚突〟を振るい現れていくホロウやらを撃破していく。
作り出されるのは結局はデータに過ぎない、それ故に柳の敵ではない。
やがて殲滅していると一際大きい機械のエネミーが現れた。
防衛軍の自律補助ユニット、重装ストライカーⅡ型。
恐らくあれが最後の条件のエネミーであり、千面相がハッキングしているやつであろう。
そしてその横にいる青白い人型のような…いいや、あの特徴的な耳は。
「…課長の…!?」
データを取り込んだことで、恐らくコピーのような存在を出現させるに至ったのだろうか。
コピー雅は無尾を抜き放ち真っ直ぐ柳に向かってくる。
太刀筋は速い。…だけど、〝速い〟だけ。
刀に乗る重さも、鋭さも、そして何より心がないのが受け太刀して伝わってくる。
相手はコピー雅がいるのなら大丈夫だろうと高をくくっていたのか、次第に焦りが見えてくる。
<馬鹿な! あの星見雅だぞ! なぜ互角に戦える…!>
「所詮は偽物です…!!」
どうにか隙を搔い潜り、ストライカーへと刃を突き入れようとする。
その時だった、ストライカーの背後から現れた何者かの矢が、柳を襲った。
「! 浅羽隊員の…!」
放ってきたのは雅と同じ要領で出現させたであろうコピー悠真といったところか。
そして地面に着地したタイミングで柳の頭上からまた何者かがこちらに向かって刃旗を叩きつけてきた。
「蒼角…!」
背後に飛びながら、コピー蒼角を見やる。
浅羽悠真のコピーを出せたのだから、蒼角のコピーも出せるか。
肩で息をしつつ、体制を整える。
…どうする?
<なめるな!! ここは私の世界、私は何度でもやり直せるが、貴様は一度のミスが命取りだ!!>
<───ンナッ?>
不意に近くに来ていた雅のボンプが素っ頓狂な声を出した。
? と疑問符を浮かべたその時だ。
<ATTACKRIDE BLAST>
そんな電子音声が聞こえたと思ったら、背後から弾丸が放たれ、ストライカーやコピー雅らに降り注ぐ。
思わず後ろを振り向くと、そこには灰色の揺らめくナニカからゆっくりと歩いてくる、緑の目をした通りすがりの…。
「…おいおい、随分可愛い姿になっちゃって」
ディケイドはボンプの雅を見ると、開口一番そんな声を漏らす。
そしてもう数発、ストライカーらにライドブッカーガンにて牽制。
<ば、バカな! ここはVR空間だぞ、なぜ現実の貴様がこんなところに…!!>
「生憎だったな。俺は戦う場所を選ばないのさ」
(まぁ詳しくは俺もよくわからないんだけどね)
相手の言葉に余裕たっぷりと返すディケイドの内心は誰にもわからない。
「まぁそんなわけだ。…援護するよ、柳さん」
「───!」
ここでうっかりディケイドはミスをした。
無意識に。
柳の耳に聞こえてきたのはとても馴染みのあるあの声色だったのだ。
だから柳は彼の正体の察しがついた。
だがそれをこの場で言うほど空気が読めないわけでもなく。
ん、んっ、と思い出したように咳払いしているディケイドを尻目に柳は改めて敵を見据える。
「横のパチモン二人は僕が相手しとく。…でも星見雅のパチモンはボスの側から離れなさそうだ」
「ええ。あちらは私が」
雅とストライカーを視界に入れたまま、柳は答えた。
そんな時、雅…もといミヤビボンプが口を開く。
<右腕だ>
「っ。課長…」
<刀を抜く衝動を抑える時、わずかに痛めた。切先がほんの少し鈍るはずだ>
(…あの時)
VRに囚われて少し経った時、柳を除くメンバー全員が身体の自由を奪われ、襲いかかってきた時があった。
その時雅も体の制御を奪われたのだが、彼女はどうにか刃を抜くまいと右手を抑え込んでいた。
おそらくその時か。
<柳。お前は常に我らを見てきた。捉えられるとしたら、お前だけだ>
短い雅の激励が、柳の中に入り込んでいく。
その短い言葉の中に、信頼が込められているのもわかった。
柳は骸薙ぎの切先をストライカーに向け、短く雅に礼を言う。
「ありがとうございます、課長」
「合わせるよ、副課長どの」
何やらカードを取り出しながら、副課長と言うディケイドの姿に少し微笑みつつ、目線はそのままに。
月城柳は駆け出した。
狙いは一つ、真っ直ぐに。
◇
駆け出した柳をフォローするように少し後ろを走る。
手に持つカードをドライバーにセットして
<FOAMRIDE 555 AXEL><COMPLETE>
ディケイドファイズアクセルフォームに姿を変えると、走りながら左腕のファイズアクセルに触れ、本体のボタンを押した。
<START UP>
動きが加速する。
まずは柳を射抜こうとしているパチモン悠真。
千倍の速度で加速して一息にライドブッカーソードで切り付けて一閃。
そしてお次はパチモン蒼角。
こちらも一気に接近してから相手の横合いから銀色のフォトンストリームを纏った回し蹴りでフィニッシュする。
<THREE TWO ONE───TIME OUT Reformation>
ディケイドファイズアクセルからディケイドファイズへ、そしてそのままディケイドに戻ったと同時、決着はついた。
「───王手!!」
コピー雅の一閃を回避した柳が、ストライカーに向かって深々と躯薙ぎを突き立てたのだ。
ストライカーは煙や火花をあげながら、信じられないといった声色だ。
<ば、バカなっ…!! 躱した、だとぉ!? な、ならば、地獄へ道連れ───>
「一人で行け」
言葉の最中、最後の力でコピー雅を再度柳に襲わせようとした、刹那。
ボンプから戻った雅の神速の居合がコピー雅を容易く切り裂いた。
斬られたコピー雅はその場で力なく倒れ伏していく。
それと同時に、ストライカーも爆散するのだった。
(…撫でればよかった)
刀身をなでながら、ツカサはディケイドのままミヤビボンプに思いを馳せる。
超可愛かったなあれ。
そうか、だからあの時ボンプの言語だったんだ。
ボンプを発明したサンブリンガーは偉大だと思う。
同時に周囲がキラキラとした光が溢れていく…彼女たちがログアウト? するのだろう。
「よーやく帰れますねぇ」
こっちもボンプから戻った悠真が背伸びをしながら歩いてくる。
「ナギねぇ! やったやったーっ!」
同じように戻った蒼角が柳に抱き着いて、彼女はそれを優しく受け止めた。
「通りすがり。…いや、ディケイド、と言う名もあるのだったな」
不意に雅はディケイドに向かって言葉を発する。
? と頭に疑問符を浮かべたディケイドは彼女のほうへ視線を向けた。
「此度はお前のおかげで窮地を脱することができた。礼を言う」
「よせやい。やな───副課長どのなら、突破できたはずだよ。あの人は優秀だしな」
「…そうだな。それには同意する」
ディケイドの言葉に雅は少しだけ口元を綻ばすと、蒼角を連れて歩いてくる柳を見やった。
「戻る準備はできていますか? …それと、通りすがりさん、本日はありがとうございました」
柳の謝辞に背を向けながら手を上げることで答えると、オーロラカーテンを開いてディケイドはVR空間から帰っていくのだった。
◇◇◇
夜、サラとのんびりしていたらニュース速報で千面相逮捕が発表された。
何やらHIAセンターに入ってから出てきてない、だの公式な発表がない、だのいろいろ憶測な噂は出ていたが、真相はホロウ六課の面々が千面相のアジトに乗り込んでいたから、というのが公式な発表となったようだ。
もちろん真相は違うのだが、これで市民が安心するのなら良しとしよう。
「すみません、今大丈夫でしょうか?」
その時、出入口からピンクの髪が美しいメガネ美人こと月城柳が入ってきた。
蒼角はおらず、珍しく一人だ。
「貴女が一人だなんて珍しいわね。大体は蒼角と一緒にくるのに」
「今日は色々あったので先に帰ってもらったんです。それとツカサさん、お食事のことなんですが、時間調整してまた後日でも大丈夫でしょうか?」
「構わないよ。なんか色々あったみたいだからね、そっちも」
そうツカサが言うと柳は微笑んだ。
「ありがとうございます。…アンパンとクロワッサン、それからこのハムマヨパンを頂いてもいいでしょうか」
それぞれ三つ入りの袋を手に取り、ツカサは柳へ手渡す。
彼女はそれを受け取ってから、代金をツカサの手に置いた。
きっちり三百ディニー。
「…ツカサさん」
「? なんだい?」
彼女は真っ直ぐ微笑みながらツカサを見つめ
「───〝本日〟は、本当にありがとうございました。また何かあったら、お願いしますね」
「…う、うん」
そう言って柳は「それでは」と踵を返すとDK堂を出ていくのだった。
そんな彼女の背中を見守りつつ、なんか変に含みのある言い方だったなぁ、なんて頭の中で先の言葉を思い出す。
サラは彼女の出て行った方向をじーっと見送りつつ、ちらりとツカサへと視線を戻すと
「…貴方、また口走ったんじゃないの?」
「…まさかぁ」
そう言いつつもかもしれない、とツカサは自分の言動を思い出す。
つくづく自分ってば口が軽いなぁとため息をつきながら反省するのだった。