Digimon States~D-1バトラーズ~   作:宮枝嘉助

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第1話 神隠し

 

 

 

 

 時は二○XX年。世界は核の炎に包まれた!

 

 

 

 

 ……なんて事は無く。

 景気がイマイチ悪い事を除けば平穏無事な時が流れていた。

 しかし、今回語られる話の中心人物となる少年は、無事とは少し言い難い状態にあった。

 

 その少年の齢は十五。

 世が世なら既に元服を済ませ大人の仲間入りをする年齢であるが、二十一世紀の現代日本においてはまだまだ子どもとして扱われる年齢だ。

 

 ……と書くとこの少年があたかも大人として見られたいと思っているかのように思われるかもしれないが、この少年はそういう背伸びはしない少年であった。

 現在の自分の立場を自分なりに理解し、弁えていた。

 

 弁えているからこそ、俗に言う“十八禁”と云われているモノには一切手を出した事が無い。

 どんなに面白そうでも十八禁のゲームはやらずに全年齢対象版が出るのを待つし、AVは観ずに年齢制限の特にかかっていない青年誌の漫画等を見て想像を膨らませていた。

 

 運動能力は中の下程度だが、勉強は学年トップの成績を収める秀才。

 しかし家ではアニメ・漫画・ゲームと遊びに全力を注ぐ。

 今回語られる物語の中心人物は、そんな少年である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな少年が何故無事とは言い難い状態にあるのか。

 物語はそこから語らなければならない。

 

 時は二月も下旬に差し掛かろうかという所の平日の昼間。

 少年は自宅へ向かう車の中に居た。

 昼間、具体的には十三時を回った辺りの時刻で、平日なのだから当然学校はある。

 テストは上旬に既に終わっており、後は卒業式を待つばかりなので、当然まだ下校時間ではない。

 であるにも関わらず、少年は下校しているのだ。

 

 

「ぶぁ~っくしょいっ! あ゛~ぐしょっ! わぁ~っくしゅっ!」

「大丈夫? だから今日ぐらいから止めときなさいって言ったのに」

 

 

 かなり激しい勢いでくしゃみをする少年に、呆れたように話し掛ける女性。

 少年はというと、目からは涙を流し、鼻水は溢れ、更にくしゃみは止まらないというかなり酷い状態にあった。

 

 

「まだ大丈夫だと思っ……はぁ~っくしょいっ!」

「もう予報では飛び始めるって言ってたんだから、もうちょっと早くから休んでても良かったぐらいよ」

「毎年三ヶ月近くも自宅に引きこもるなんて……地獄だ……ぁ~っくしゅっ!」

「まだ飛び始めでそれなんだから、ピークを迎えたらあんた死ぬわよ?」

 

 

 女性にそう言われると、少年は黙り込んでしまう。

 確かに、飛び始めの初日からこんな調子では、ピークを迎えた時に外に出たらどうなってしまうのか。

 ……冗談抜きで死ぬかもしれない等と想像し、少年はゾッとした。

 

 

「とりあえず横になってなさい。寝てた方がまだ楽でしょ?」

 

「うん……祐子さん」

「ん、何?」

 

「毎年毎年、ありがとう」

「……仕方無いわ、アレルギーなんだから。ほら、寝てなさい」

 

「はぁ~……ぁ~っくしょんっ!」

「………………」

 

 

 返事を言い終わる間も無く、少年はまたくしゃみをする。

 鼻水やら唾液やらが飛び散り、仰向けだったが為にそれらは少年の顔面へと降りかかる。

 その様子を見て女性──喜多川祐子は苦笑すると、ティッシュだけ差し出して黙って少年の家へと車を走らせるのであった……。

 

 

 

 

 少年がこの悪夢のような症状──花粉症を発症したのは三年前。

 といっても別に進化の可能性やら時空の歪みやら神やらの所為で発症した訳でも無く、単に小学校卒業間近になって突然くしゃみが多くなり、病院に行って調べたら花粉症だったというだけの話。

 そしてそれは年々エスカレートして行き、今では花粉が飛び始めるだけで重症患者になってしまう程だ。

 

 その症状があまりにも重い為、三月や四月にやるイベントは何一つ参加が出来ない。

 小学校の卒業式然り、中学校の入学式然り。

 そして、間近に控えている中学校の卒業式も、恐らく出席する事は出来ないであろう。

 少年は堅苦しい催し物に参加しなくてもいい安堵感を覚えると同時に、寂寥感も当然ながら感じていた。

 そんな少年が花粉症の時期はどうしているのかというと、自宅の地下に建造されている地下室にこもり、そこで両親が雇った家庭教師に勉強を教わりながら漫画やアニメやゲームに没頭する日々を送る。

 外に出られない以上、必然的にそれぐらいしかやる事が無いのであった。

 

 

 

 

 少年を乗せた車が少年の自宅に到着する。

 祐子は手早く車から降りると後部座席のドアを開け放ち、少年を車内から引きずり出した。

 外に引きずり出された途端、多少は落ち着きかけていた少年の症状が悪化し始める。

 激しいくしゃみを連発し、連発のし過ぎで頭が呆然としてくる。

 

 

「早く中に入って! 入ったらすぐにお風呂に行きなさい!」

 

 

 祐子が少年の背中を叩きながら少し声を荒げて指示を出す。

 別に何かに怒っている訳ではない。

 そうでもしないと少年の意識が飛んでしまうかもしれないからだ。

 

 現在の少年の状況は喘息による呼吸困難に近い。

 顔色も少し青くなっており、最早酸素欠乏症(チアノーゼ)といってもいい程。

 少年は止まらないくしゃみでふらつきながらも、何とか家の中に入る事に成功する。

 そしてそのまま、祐子の指示通りに少年は風呂場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここで一度、少年が置かれている環境を整理しよう。

 まず、少年自身は重度の花粉症を患っており、その重さはとてもじゃないが外を出歩く事は出来ない程である。

 

 次に、少年を家まで連れて行った女性の名は喜多川祐子と言い、少年の家庭教師をしている人物だ。

 大学卒業後間もなく少年の両親に雇われ、三年になる。

 当時は色々とあったのだが、今では少年の良き理解者として、勉強だけでなく生活面もサポートしている。

 

 その少年の両親だが、二年程前から海外で働いており、一ヶ月に一度電話連絡が来るぐらいで後は祐子に全権を委ねている。

 二年前から祐子は少年の家に住み込みで働いており、毎月祐子の口座に給料兼生活費として五十万円が振り込まれる。

 余った分は全て祐子の給料になるという仕組みだ。

 

 少年の自宅は三階建てになっており、更に地下にも部屋がある。

 本来の少年の部屋は三階なのだが、花粉症が発症して以来、地下の方がモノが充実するようになってしまったのであった。

 その地下室にはパソコンやTVや漫画は勿論、冷蔵庫やシャワールームまであり、本当に様々なモノがある。

 そこで少年は花粉が収まるまでの期間、一歩も外に出ない生活を余儀なくされるという訳だ。

 

 食料品等は祐子が全て買って来て、少年自身の嗜好品等についてはインターネット通販を利用する。

 勿論カード名義は祐子になり、受け取りも祐子になる為、買う物については祐子の検閲が入る事になる。

 検閲と言っても、少年の小遣いの範囲であればまず許可が下りるのであるが。

 

 

「はぁ~……意識が飛ばなくて良かった。もしぶっ倒れてたら、いくらなんでもカッコ悪過ぎる」

 

 

 風呂から上がり、症状も落ち着いた所で少年は一人ごちる。

 初めて発症した時は、酸素欠乏症(チアノーゼ)になってそのまま失神してしまったのだ。

 その一件があってから家に引きこもる事になり、祐子が雇われたという経緯になる為、祐子はまだ少年が失神した所を見た事は無いのであった。

 

 二年も共に暮らしていると、少年にとって祐子はもう姉のような存在だといえた。

 なので、特に祐子を恋愛対象として見ている訳ではないが、男として女性にカッコ悪い所は見せられないという心意気のようなモノである。

 

 ……既に色々とダメな気がしなくもないが。

 着替えも終わって地下に下りてみると、そこには既に祐子が待っていた。

 

 後ろの髪を纏め上げている今は家庭教師モードである。

 そして髪を下ろしている時はオフになる。

 祐子に初めて会った時から髪を纏めていたのだが、共に暮らすようになってからは髪を下ろしている姿も見かけるようになった。

 家庭教師モードになる時に髪を上げるのは、自分の中でメリハリをつける為。

 そして少年も、それを見たら自然と彼女を“先生”と呼ぶのであった。

 

 

「先生、いきなり勉強ですか?」

「そうよ、江原君。貴方は学校を早退して来たんだもの。その分は勉強しないと」

 

「まだちょっとしんどいんですけど……」

「はい、まずは英語の教科書の八十三ページからね」

 

「無視された!?」

「ほら琢斗、さっさと済ませて狩りに行くわよ。今日こそ天鱗ゲットするんだから」

 

「全然メリハリついてないような気がしてきたな……」

「んじゃあまずここを訳してみて」

 

「また!?」

 

 

 少年──江原琢斗は理不尽さを多分に感じつつも、諦めたように溜息を吐き机に向かって勉強を始めるのであった。

 彼女──喜多川祐子の指導方針は、琢斗の考え方を尊重しつつより良い方向へと軌道修正していくという方針で、頭ごなしに否定をしない事で琢斗のやる気を引き出していく。

 暗記系と言われる科目では、物事の流れを意識させる事で単純な暗記科目にしてしまわないようにさせている。

 結果、一度流れさえ作ってしまえば後は面白いようにどんどん覚えていく。

 

 

「──実はアメリカは日本が出していた真珠湾攻撃の暗号文を解読していたと云われているの。それを敢えて先に攻撃を受ける事でアメリカに正当性を持たせる為に伏せていた。……つまり、この戦いでの日本は最初からアメリカの掌の上で踊らされていたに過ぎなかったのよ!」

「な、なんだって~っ!?」

 

 

 ……この辺は三年の間に二人の間で出来上がったただのノリである。

 

 

 

 

 時刻は十六時を指す頃。

 

 

「──よし、終わりねっ! さあ狩るわよ琢斗! 早くインしなさい!」

「ちょっ……早えよ祐子さん!?」

 

 

 学校が終わるであろう時刻に合わせて勉強は終了し、祐子は目にも留まらぬ速さで髪を解いて予めスタンバイになっていたゲーム機を起動した。

 ほぼ準備万端の状態で、後は集会所に入ってクエストを受注するだけだ。

 

 三年前の段階では、祐子はゲームをする女性ではなかった。

 漫画は読んでいたが、今ほど幅広くはない。

 それは偏に、二年前に江原家に住み込むようになってからだ。

 勿論外に遊びに行く事もあるが、琢斗をほったらかしにするような性格もしていないので、夜は家に居る事がほとんど。

 それはつまり、夜は琢斗と過ごす事が多いという事で。

 自然と、琢斗が読む漫画やゲームに興味を持つようになっていた。

 

 

「あ、天鱗だ」

「何、またなの琢斗!? 一つぐらいお姉さんによこしなさい!」

 

「いや、無理だから」

「も~何でこうも出ないのよ~!」

 

「物欲センサー、か……まさか本当に実在するのか……?」

 

 

 この日二人は五回同じクエストをやり、祐子が求めるレアアイテムを琢斗は二度手に入れ、祐子は一度も手に入らなかった。

 

 

「あ、もうこんな時間だわ。琢斗、すぐ作るからちょっと待っててね」

 

 

 五度のクエストが終わる頃には、十八時半を過ぎていた。

 祐子はふと思い出したように立ち上がると一階へと上がって行った。

 少し遅めになりそうな夕食の準備の為である事は言うまでもない。

 

 祐子の料理の腕前は、別にプロ級に上手い訳でもなければ、食べたら三途の川を渡りそうになる程壊滅的な訳でもない。

 可も無く不可も無くといった所だ。

 

 しかしそこに“最近は”という注意書きが付く。

 何故なら二年前に初めて作った時の卵焼きは、黄色い部分がどこにも見当たらなかった。

 

 なので当時はお隣りさんにお世話になったり、琢斗が学校に行ってる間に祐子がお隣りさんの家で料理を教わったりしていたぐらいだ。

 おかげで今ではまともな料理が作れている。

 それが縁で、もう味の心配の無い今でもたまにお世話になる事があったり、逆に招いて食事をする事もある。

 

 ちなみにお隣りさんには琢斗の事は春先になると決まって体調を崩してしまう病弱な設定にしてある。

 流石に花粉症で引きこもっているとは言えなかった。

 

 勉強道具もゲーム機も片付け終わり、中途半端に暇な時間が出来たので琢斗はTVでも点けて時間を潰す事にする。

 丁度ニュースの時間帯で、最近になって少しずつ話題になって来ているニュースがあり、今日もその続報が報じられていた。

 

 

『本日、この連続神隠し事件の被害者数はとうとう千人を超え、総理の方からも国民全員に注意を呼び掛けており、──』

 

「もう半年になるんだよな、このニュース。まあでも、今まで全員無事に帰って来てるんだし、そうビビる必要も無いよな」

「お待たせ~……何、またこのニュース? へえ~千人を超えたんだ」

 

 

 丁度祐子が戻って来た。

 両手の皿にはオムライスが乗っている。

 色も良く、今回も成功と言えるだろう。

 

 

「うん、今神隠しの謎解きに懸賞金をかける話まで出てるらしいよ」

「そうなの? じゃあ今頃五ちゃんの掲示板では躍起になってるかもしれないわね」

「ははは……前に覗いた時も凄い説が飛び交ってたしな」

 

 

 琢斗が机を拭き、そこに祐子がオムライスを並べる。

 祐子は地下の冷蔵庫を開け、予め作ってあったサラダを出して並べた。

 後は水を注いで、食卓の準備が整う。

 

 

「宇宙人による入れ代わり計画だとか、右翼の人達が洗脳の為に誘拐しただとか、そんな説が出てたわよね」

「他にも幻界の扉が開いただとか、古道に迷い込んでいただとか、ネメ●スQに連れていかれただとか、龍に三国志の時代に飛ばされてただとか、漫画やアニメのネタそのままな説もあったよ」

 

「でも実際のトコはどうなのかしらね。被害に遭った人達って、確かみんな記憶が無いんでしょう?」

「うん、催眠術でもダメだったらしいし。ああ、記憶が無いから星人と戦わされて百点を取って帰って来たんだなんて説もあったっけ」

 

 

 そこまで話した所で、二人は手を合わせた。

 今までも何度かこの話題で話し合った事があるが、毎回かなり長くなるので食べながら話す事にしたのであろう。

 

 

「いただきます。……ホントに色々あるわね。ねえ琢斗、もしその中に正解があるとしたら、どれだと思う?」

「いただきます。う~ん……一番辻妻が合うのは宇宙人による入れ代わりだと思うけど、それが正解だと嫌だしね」

 

「うん、宇宙人が実際に居たら出来そうな気がするだけに怖いわね、それ」

「──だから、どれが正解かはともかく、異世界に行ってたって説は有り得そうな気がするよ」

 

 

 上手く半熟になっていた卵の膜がとろけるように破け、中から湯気と共に橙色に染まったご飯と細かく切り刻まれた鶏肉が姿を見せる。

 口に運んでみると少し熱かったが、ほんのりと甘くまろやかな味が口の中に広がった。今回は大成功だ。

 

 

「確かに私も人の仕業とは思いにくいけど、それは飛躍し過ぎなんじゃない?」

 

「それだよ、祐子さん」

「? どういう事、琢斗?」

 

「祐子さんだって飛躍し過ぎだと思うだろ? だからこそさ」

「飛躍し過ぎてて逆にアリって事?」

 

「違うよ。飛躍し過ぎてるから、皆が記憶が無いって言ってるんじゃないかってね」

「ああ、そっか。異世界に行ってました~なんて、普通信じてもらえないものね」

 

「催眠術の件は、その人が催眠術に掛からなかったのか、もしくは突拍子も無い話だったんでTV局にカットされたかってトコかな」

「成程ね、結構簡単に辻妻は合わせられるって訳か」

 

 

 サラダの方は、薄くスライスしたきゅうりとマカロニ、細かく刻んだハムにマヨネーズを混ぜ込んであるごく普通のサラダだ。

 スプーンでも食べやすい物にしてあるという点が、評価する所といえばそうかもしれない。

 

 

「祐子さんは、どれだと思う?」

 

「私? う~ん……身も蓋も無いけど、家出説かな」

「新説だけど、確かに身も蓋も無いね、それ……」

 

「みんながみんな無事に帰って来てる事を思うと、異世界に行くとかより現実的かなって思ったんだけど……」

「確かに異世界だと命の危険がありそうだもんね。全員戻って来てるから、か」

 

「それだけじゃなくて、被害者の人達って十代の子がほとんどでしょ? だから家出ぐらい出来るかなって」

「う~ん……確かにそれも結構辻妻が合ってて、かつ現実的だね」

 

 

 その日の二人の意見交換は、大体このような内容であった。

 この時の二人は、夢にも思わなかったであろう。

 まさかこの後、世間を騒がせている連続神隠し事件の答えを知る事になろうとは。

 そしてその事件と長く関わりを持つ事になろうとは。

 ……事件に関わってみたい、とは思っていたかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食が済んだ後は、基本的に二人は別々に過ごす事になっている。

 翌日が休みであれば夜中まで共にゲームをやる事もあるが、普段は祐子は翌日琢斗に教える部分の予習をし、琢斗は一人で過ごすのが日常となっていた。

 そんな訳で今夜も、祐子は地下のリビングでTVを観ながら琢斗の学校の教科書を開いて明日琢斗に授業する為の予習を始める。

 一方で琢斗はヘッドホンを着けつつリビングの隅に置いてあるパソコンを起動し、ユーザー名Takutoでログインをする。

 

 

「さて、何かイベントの通知は来てるかなっと……おっ、何々……【七大魔王、襲来】? 何か凄え面白そうなのが始まってる」

 

 

 琢斗はログインを済ませると早速メーラーを起動し、自分に届いているメールをチェックする。

 琢斗のメル友は非常に少ない為、メーラーに入って来るメールといえばネット通販のサイトからの販促メールと、琢斗がプレイしているオンラインゲームのメルマガぐらいしか無く、メル友からのメールはほとんど無かったりする。

 

 メールの内容に惹かれた琢斗は、早速そのオンラインゲームを起動。

 黒いカードをリーダーに通し、ゲームのログインが完了する。

 タイトルは『デジモンアイランド』といい、マイナーを抜け出してメジャー入りするかしないかぐらいの人気のオンラインゲームで、オープン当日にセキュリティホールが見つかって1ヶ月程オープンが延期したといういわくつきのゲームである。

 だがその後は24時間体制でサーバーの監視とユーザーのサポートに徹する事で再発を防止している。

 

 

『七つの島・大陸に迫る魔王達の軍団を食い止めろ! 魔王を仕留めた者には莫大な褒美が手に入るぞ! ※ただし、このイベント参加中はアイテムの使用は不可』

「うわ、アイテム禁止かぁ……かなり厳しいイベントだな」

 

 

 イベントの詳細を見て溜息を吐く琢斗。

 他にも細かい条件は付いていたが、アイテムが使用不可なのが一番辛い条件であった。

 このゲームは自身のパートナーとなるデジモンを育て、共に楽しく過ごすのも良し、最強を目指して鍛え上げるも良しというゲームである。

 パートナーとなったデジモンは『進化』をしてどんどん強くなっていく。

 そのレベルは幼年期1から究極体までの六段階が原則で、このゲームでは一度でも正当な条件で『進化』した姿にはいつでもなる事が出来る。

 

 そして今回禁止されているアイテムの利用についてだが。

 このゲームには様々なアイテムがあり、種類によっては利用すると体力を回復させたり、一時的に能力値を強化したり、強制的に進化させる事も出来るモノもあったりするのだ。

 つまり、アイテムが使えないという事は、パートナーデジモンの地力のみで魔王の軍団を相手にしなければならないという事である。

 

 ちなみにこのイベントの魔王達の強さは凄まじく、パートナーデジモンを極限まで鍛え上げているような廃人プレイヤーがアイテムを惜し気も無くフル活用してようやく一対一でもギリギリ勝てるぐらいで、アイテムの使用が禁じられた今回のイベントではどんなプレイヤーでも単騎でクリアするのはまず不可能とされている。

 

 

「俺のパートナーはついこの間究極体になったばっかだしな……チーム組んでくれそうな相手を探さないと」

 

 

 掲示板に掲載されている情報等を参考に、琢斗はチームを組む必要があると判断してメンバーを募集しているスレッドを探していた時の事であった。

 少し気になるスレッド名が琢斗の目に入る。

 

 

「ん? 『連続神隠し事件の真相』って、マジか? それともただの釣りか?」

 

 

 ついさっきまで祐子と話していた話題がスレッドになっていて、少なからず興味を惹かれる琢斗。

 まあ九割以上釣りだろうとは思いつつも、琢斗はそのスレッドを開かずにはいられなかった。

 

 

「う~ん……確かに新しい説で、辻妻も合ってると思うけど、やっぱデジタルワールドに行ってましたなんてのはちょっとな……」

 

 

 そこにあった書き込みの八割近くがスレ主を叩く内容だったが、スレ主の言い分を要約するとこうだ。

 まずスレ主は神隠しに遭っている間、六人で旅をしていたらしい。

 勿論名前を出す訳には行かないが、神隠しから戻って来た後で確認した所、六人全員同時期に神隠しの犠牲者リストに載っていたそうだ。

 

 次に、スレ主が言うには神隠しに遭う前、おかしなメールが届いたらしい。

 六人それぞれ携帯なりパソコンなりに何らかのメールが届いており、それらが全て変なIPアドレスみたいな数字のみのアドレスだったそうだ。

 その時にそのメールを開かずに消した者は何ともないらしい。

 六人のメンバーの知人にもそのメールが来ていて、その人は全く見向きもせずに消したそうだ。

 

 そしてそのメールを開くと、添付ファイルも何も無く『準備はよろしいですか?』とだけ書いてあり、その下の部分に『はい』と『YES』とだけ書いてある。

 そこでメールを削除してしまっても何も起こらないそうだ。

 物好きがその『はい』か『YES』でクリックしてしまうと、ほんの一秒程度『ようこそ!』か『Welcome!』とだけ表示される。

 これは単にどっちにクリックしたかで変わるだけだとの事。

 するとそこでその携帯やパソコンがブラックアウトしてしまい、電源が落ちる。

 そして最後に電源を入れ直すと、通常では考えられない程の光が発生して神隠しに遭い、このゲームの世界に辿り着く……というモノであった。

 ちなみに戻って来てからその携帯やパソコンを見てもそんなメールは残っていないそうだ。

 

 

「かなりリアルな説明だとは思うんだけど、やっぱり異世界説自体、現実味が薄いからなぁ……叩かれるのも当然か」

 

 

 琢斗は一通りスレッドのコメントに目を通すと、本来の目的である仲間探しの方に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~くそう、先走り過ぎたか。一気にベルフェモンを倒せるかと思ったんだけどな~。まさか一発でやられるとは」

 

 

 悔しそうにしながらイベントの顛末を眺める琢斗。

 究極体になったばかりにしては善戦し、七大魔王の一角との直接対決まで持ち込んだがやられてしまったらしい。

 ちなみにやられてしまった事によるペナルティは観戦しか出来なくなるという事ぐらいで、そこまでに手に入った修練値というポイントやアイテムは失われない。

 

 観戦するのも色々な戦い方が見えて面白いのだが、もう時間が遅いので琢斗はログアウトする。

 翌日の夜にもう一度見に来る頃にはとっくに終わっている事であろう。

 ログアウトが終わってパソコンも切ろうとしたが、ふと何気無しにメーラーを起動した。

 

 その行動に特に深い意味は無かった。

 ただ、心のどこかでほんの少し期待していたのかもしれない。

 

 

「──────っ!」

 

 

 受信ボックスに、メールが一件入っていた。

 

 思わず息を呑む琢斗。

 まさか、噂をすれば何とやらという奴であろうか。

 琢斗は緊張した面持ちで受信ボックスを開く。

 

 

「──ってなんだ、リュウジンさんか」

 

 

 メールの差出人の名前を見て一気に脱力する琢斗。

 リュウジンというのはこの『デジモンアイランド』のゲーム仲間で、琢斗の数少ないメル友である。

 やり始めた時期がほぼ同時期で、実力もほとんど同じなのでイベント行事ではよくチームを組んでいた。

 今回のイベントではリュウジンは先に脱落してしまい、今し方琢斗がやられたのを見て労いのメールを送って来たのだった。

 

 

「ん? 音声ファイルになってる……」

 

 

 メールを開いてみたが、本文は何も無く、MP3形式の音声ファイルが添付されているだけであった。

 ファイルは軽くて圧縮もされておらず、ただ一言か二言入ってる程度だと思われる。

 琢斗は早速そのファイルを聴いてみる事にした。

 

 

『ざまあみろ』

「………………」

 

 

 フ●ーザ様の声が入っていた。

 しかも某ゲームのゲームオーバーの時の声だ。

 琢斗はそのゲームの事までは知らなかったが、●リー●様の事は知っていたので、その台詞を聴いてムカつくと同時に笑いが込み上げて来た。

 

 そんな事をしながら琢斗はリュウジンとメッセをかわし、終わった頃には十二時を回っていた。

 お互い学生の身だという事だったので、話はあっさりと終わる。

 琢斗はそろそろ寝ようかと思い、ふとパソコンから目を離してTVの方に目をやるが、祐子はおらずTVは点きっ放しのままだ。

 電気代が勿体無いと思って琢斗がTVを消しに行った時、不意に机の上のモノに目が行った。

 

 そこには無造作に置かれているスマートフォンと教科書が。

 最後に触れられて間も無いのか、画面は明るく点灯したままである。

 琢斗はふと掲示板の書き込みの内容を思い出し、祐子には悪いと思いながらもメールボックスの中身を確認した。

 だが不審なメール等は何一つ残っておらず、琢斗は家の中に居るのかと思い直して祐子を捜索してみるのだが見つからない。

 現実的に考えれば何か急用が出来て慌てて出て行った為に今居ないと思うのが普通だが、食事中の話や先刻読んだスレッドの内容が頭から離れなかった。

 

 祐子は神隠しに遭ってしまったのではないか。

 そんな想像が琢斗の脳内を満たしていく。

 

 ……いや、寝よう。祐子さんはきっと何か急用があって出て行っただけに違いない。

 明日になればきっと帰って来る。

 琢斗はオカルトな想像を頭から無理矢理追い出し、着替えて寝る事にした。

 朝起きたら祐子が帰って来ている事を信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし結局、朝を迎えても祐子は帰って来なかった。

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