Digimon States~D-1バトラーズ~ 作:宮枝嘉助
時は、尚貴が陽成学園のピロティーから忽然と姿を消した直後の事。
2人の少女がピロティーの近くにある階段の踊り場から姿を現した。
「な、なあ……詩織、今の……」
「ええ、間違い無く私も見ましたわ、立花さん」
「あいつがデジ何とかって言ったら突然消えたけど──」
その2人の少女は、どうやら尚貴がデジタルワールドに行く瞬間を目撃してしまったらしい。
軽い興奮状態にあるようで、2人の頬は少し上気し、目が輝きに満ちている。
そんな中、詩織と言われていた方の人物が、立花と言われていた方の人物に問い掛けた。
「──ねえ、立花さん」
「何だ、詩織?」
「……デジモン、ってご存知ですか?」
「いや、全っ然。ポケモンの新しい奴か何かか?」
「………………」
だが立花のあんまりな物言いに、詩織は言葉を失ってしまうのであった……。
最初に、2人の少女について説明しておこうと思う。
まずは、詩織。
フルネームは鷹咲詩織といい、昔ながらの正統派ヒロインを思わせるような真っ直ぐで艶のある黒髪が腰の辺りまで伸びており、落ち着いた立ち振る舞いも相まって“大和撫子”という表現がとても相応しい少女。
ちなみに目は俗に糸目と言われる程の細目である。
次に、立花。
フルネームは武森立花。
こちらは詩織とは対照的に、天然パーマっぽいふわふわで肩に軽く触れる程度の長さの茶髪。
くりくりとした可愛いらしい目をしている少女であるが、立ち振る舞いはヤンキー1歩手前かというぐらいにがさつ。
ちなみに名前は“りっか”と読むが、立花は間違われても訂正しないのでそのまま“たちばな”と呼ばれ続ける事もしばしば。
そんな見た目も性格も対照的な2人であるが、だからこそなのか2人は不思議とウマが合った。
「知りませんか? デジモンというモンスターを育てて戦わせるゲームなんですが」
「いや、全然知らない。つーかそれってポケモンと何が違うの?」
「そ、それは……」
立花の素朴な疑問に、詩織は即答を返す事が出来なかった。
正直な所、詩織自身もポケモンとデジモンの明確な違いを挙げられないからであった。
ポケモンとデジモンの違い。
それを正確に挙げる事は、実はかなり難しいと言わざるを得ない。実際問題、両者はかなり似ているのだ。
力と知性を持ったモンスターを人間が育てて、そのモンスター同士で戦う。
その基本形が同じである以上、何も知らない者にとっては同じに見えてしまうのは当然と言えよう。
その中で違いを挙げるとするなら、パートナーの数であろうか。
ポケモンは1人のトレーナーに対してポケモンは6体。
預けているポケモンを入れたらもっと多い。
対するデジモンは、1人のテイマーに対してデジモンは1体。完全にマンツーマンだ。
と言っても、勿論例外はある。
1体しかポケモンを連れていないトレーナーも居るし、逆に複数のデジモンを育てているテイマーも居る。
だが、それはあくまで例外。
後は、人間の言葉を喋るかどうかというのも違う。
ポケモンはまず喋らない。
喋れるのは異常に知性が発達したヤドキングぐらいではなかろうか。
後はテレパシーで語りかけて来る者ばかり。
反対にデジモンは、理性の無い者以外はそのほとんどが喋る。
ポケモンの中には進化しない者も居るが、デジモンはほぼ全てのデジモンが進化するという点も、違いとして挙げても良いであろう。
こうやって挙げていくと、確かに違いはいくつか見つかって来る。
しかしそれは、ある程度理解しているから解る違いなのであって、一般の人はそれでは納得しない。
もっと根本的に“やっている事”が違わないと、一般の人には同じに映ってしまうのである。
そして、そこまで具体的な違いは解らず、ただそういうモノもある、という程度の認識でしかない詩織が立花にどう説明したかというと──
「と、とにかくそういうのがあるんですよ」
「ふ~ん……それで詩織、それがどうかしたのか?」
説明は丸投げして強引に押し通した。
「ところで立花さん、先程から何か聞こえませんか?」
「え? いや、何も聞こえんけど?」
「そうですか。成程……」
「なあ詩織、それがどうかしたのか?」
詩織の歯切れの悪い台詞に、少し落ち着かない様子で問い質す立花。
だが詩織は、そんな立花の事を気にする事も無く話を進める。
「──立花さん、さっき消えた人が最後に言った台詞ですけどね」
「ん? 何て言ってたか分かったのか?」
「こう言ってたんですよ。……“デジタルゲート、オープン”って」
「──────え……し、詩織っ!?」
……今、目の前で起きた事が信じられない。
たった今この目で見たにも関わらず、酷く現実感が無い。
逆に言えば、立花の目の前で、それだけ信じ難い出来事が起きたとも言える。
今の今まで目の前に居たハズの友人が、忽然と姿を消してしまったのだ。驚かないハズが無い。
だが、人が消えるのを目撃するのが2度目だったおかげであろうか、立花はそれ程時間を要さずして冷静さを取り戻す事が出来た。
そして、平静を取り戻して来たと同時に、今の状況を冷静に分析し始める立花。
とは言っても、2つの事以外はさっぱり分からないのだが。
1つは、本当に人が消えてしまったという事。
そしてもう1つは、ある言葉が鍵になっているらしい事。
「詩織の奴、デジモンがどうとかって言ってたよな……って事はひょっとして、そのデジモンとかいう奴の世界にでも行った……とか?」
今の状況を声に出して整理する立花。
声に出してみて改めてその言葉の意味を認識してみると、立花は自分が酷くアホらしい事を口走った気になってきた。
しかし立花はすぐに頭を振って思い直す。
どれだけアホらしくても、今目の前で起きた事に対する仮説としてはこの考えが1番正解に近いと思う。
さて、その答えが正解だろうという考えに到った所で、それからどうするのか。
いや、それも解っている。2つに1つだ。
「え~っと、デジタルゲート、オープン! ……だったっけ?」
だが、立花にとっては答えは1つしか無かった。
友達の後を追う。それ以外の答えは有り得なかった。
──こうして、この召喚方法では初めて、デジモンを知らない者がデジモンの世界に行く事になるのであった……。
立花が目を覚ました時、目の前には2人の人間が居た。
1人はとても見慣れた人物。
腰の辺りまで伸びた綺麗な黒髪を携え、落ち着いた物腰の少女──詩織。
そしてもう1人も少女なのだが、こちらは初対面だ。
僅かに茶色が混ざっているが、黒と言って差し支えない黒髪を両耳の後ろ辺りで纏めていて、快活で誰にでも好かれそうな雰囲気を身に纏っている。
「立花さん、しっかりして下さい!」
「ねえ、大丈夫?」
その2人から身を案じられる立花だが、立花自身はその心配があまりピンと来なかった。
立花自身としてはただの寝起きのような感覚であったからだ。
立花は、ひょっとしてお伽話のお姫様も、王子様に起こされたりする時はこんな気分だったのかななんて思ったりして夢想したりしていると、どうやら余計に心配させてしまったらしい。詩織が心配そうな声色で声を掛けてきた。
「立花さん、どうかなさいましたの?」
「え? あ、いや、何でもない。ちょっとボーッとしてただけ」
「本当に大丈夫ですか?」
「まあ、わたしが見てきた中では誰も気分が悪くなったりした人は居なかったからきっと大丈夫よ、詩織ちゃん」
「え……?」
「なら良かったですわ。ありがとう、春菜さん」
「ええ……?」
立花は、目の前で行われた何気無いやり取りに驚きを隠せなかった。
詩織と出会ったのは中学になってからではあるが、名前で呼び合うようになるまでは結構時間が掛かったのを覚えている。
そんな詩織が、自分がちょっと気を失っていた間に親密そうな関係になっていて驚いてしまったのであった。
「ところで……あんたは?」
「へ、わたし? え~と……」
立花の心の中に嫉妬に似た感情が生まれてしまっていたのであろうか。
言い回しにかなり棘がある感じになってしまった。
その所為か、快活そうな少女は戸惑い口ごもってしまう。
その代わり、詩織が口を開いた。
「紹介しますわ、立花さん。この方は──」
「待って詩織ちゃん、自分で言うから。わたしの名前は弥生春菜。あなた達と同い年よ。よろしくね……え、と……」
しかしその台詞はすぐに遮られ、快活そうな少女が自分で名乗った。
春菜、というその少女は名乗りつつ手を差し出すのだが、どこか歯切れが悪い。
だが立花はすぐにその理由にピンと来て口を開いた。
「──武森立花。別に呼び方は好きにしてくれていい」
「立花……うん、よろしくね、立ちゃん」
「……ま、いいや。こちらこそよろしく、春菜」
凄く短いやり取りであったが、それだけでも立花の心の中にあったしこりのようなモノは消え失せていた。
誰が相手でもこういう風に接する事が出来るのなら、詩織とすぐに仲良くなれたのも納得出来そうだったからだ。
「それで春菜、ここはどこなのか、説明してくれない?」
「え? どこって、デジタルワールドだけど?」
「あ、いや、え~と……もうちょい詳しく説明してくんない?」
「春菜さん、立花さんはデジモンの事をよく知らないんですよ」
「え? そうなの? てっきり知らないと来れない仕組みだと思ってた」
立花の境遇を聞いて意外そうな表情を見せる春菜。
そんな表情をされた事に対して、立花は特に気には留めなかった。
デジモンの事を知らない奴がデジモンの世界に来ている。
そんな、正直場違いと言っても過言ではない立場なのだから。
それが物語の主人公であれば、そんな状況であっても難無く適応してみせるのであろうが。
生憎自分は4月から女子高生になる、というだけの人間だ。
この世界に来られたのは偶然としか言いようが無い。
「あたしは、詩織が最後に言った言葉を真似したらこっちに来ちゃっただけなんだ」
「へ~そうなんだ? アレが聞こえなくても、合言葉さえ言えばいいんだね。……それじゃあ立ちゃん、わたしがこの世界について説明するね」
そうして始まった春菜の説明を、立花は黙って聞いていた。
正直な話、立花は巻き込まれただけなのですぐに帰ってしまっても良かったのだが、帰るなら詩織と一緒に帰るつもりだった為、話を聞いていたのは暇潰しの側面が強い。
だが、立花は人の話は常に真面目に聞くタイプだった為、聞き流したりはせずに真剣に耳を傾けていた。
「──と、まあこんな感じかな。デジモンとポケモンの違いについては、立ちゃんが自分で見て感じてくれた方がいいと思う」
「ふ~ん……ちょっと面白そう、かも」
その結果、立花はこの世界について少し興味を持ったようだった。
その様子を横で見ていた詩織は、一緒に春菜の話を聞きながら少し嬉しそうにしていた。
「──それで、詩織ちゃんと立ちゃんはどうする? わたしみたいに闘いに参加する? それとも、ここでの記憶は無しにして帰る?」
「……あたしは、他の連中に迷惑じゃなければ出てみたいと思う」
「え? 立花さん、貴女……」
「いや、こんなデジモンの事を何にも知らないような奴でも良ければ、って話だよ。春菜も結構困ってるみたいだし、出来れば助けになりたい、とも思うし」
立花の台詞がかなり意外なモノだったのか、春菜も詩織も少し目を見開き驚いている。
しかし程なくして、春菜と詩織が口を開いた。
「ありがとう、立ちゃん! 凄く嬉しいよ! デジモンの事で分かんない事があったら答えるから、遠慮無く訊いてね」
「私も、デジモンに興味を持って頂けて嬉しいですわ、立花さん。応援していますので、頑張って下さいね」
2人の口から出た言葉はどちらも感謝の言葉であったのだが、詩織の言葉だけがどこか他人事のようで。
立花も春菜もその言い方に気付いたらしく、すぐに詩織に問い掛けた。
「詩織?」
「詩織ちゃんは、参加しないの?」
「ええ。ただ1つだけ言わせて下さい。私は決して闘いに怯えたとか、そういう事ではございませんわ」
「……ああ、そっか。詩織ん家は色々と厳しいもんな」
詩織の家は、日本の伝統芸能、特に華道でその筋の人には名の知られている名家である。
そんな家のお嬢様であり、既に師範代になっている詩織には、興味はあってもデジモンの世界に行ったり来たりする程の時間は取れなかった。
その辺りの事情をかいつまんで聞かされた春菜は少し残念そうにしていたが、すぐに感情を切り換えて話を続ける。
「う~ん……残念だけど、それじゃあ仕方ないね。それはともかく、立ちゃんはパートナーどうする?」
「え? ああ、どうしよっか。あたしはよく分かんないし、別にどんな奴でもいいけど……」
春菜からの質問を受けて、立花はここで初めて周りを見回した。
まず今居る場所は白を基調とした医務室のような部屋で、ベッドが今自分が座っている物を含めて8台。
次に目に入ったのは、立花から見て右の壁際の椅子に小さく座っている少女だった。
少女、とは言ったが見た目には色々と違和感がある。
頭髪の色は薄紫色をしているし、やけに露出の高い恰好をしている。
更には背中に生えているのであろうか、薄い透明の4枚の羽が時々動いていた。
「なあ、春菜」
「何? 立ちゃん」
「あそこにいるアレもデジモンなのか?」
「アレ? ……ってああ、あの子はわたしのパートナーよ。フェアリモーン!」
「………………」
「あれ? 聞こえなかったのかな。フェアリモーン!」
立花にフェアリモンの事を訊かれた春菜はすぐさま自らのパートナーに呼び掛けた。
だが何故だろう、フェアリモンは一瞬身じろぎこそしたが、春菜の呼び掛けに応じようとしない。
疑問に思った春菜が少し大きめの声で呼び掛けてみても、全く反応が無い。
「フェアリモンったら~! ……もう、フィアリスのバカ」
「ハルナ、呼んだ?」
「「「きゃあっ!」」」
半ば諦めかけた春菜が別の呼び方で呟いた途端、フェアリモンが凄まじいスピードでこちらにやって来た。
春菜と立花と詩織の3人はビックリして思わず飛び退いてしまったが、何とか気持ちを落ち着かせた春菜がフェアリモンに話し掛ける。
「も~ビックリさせないでよフィアリスったら~!」
「え~だって、ハルナがいつ呼んでくれるかずっと待ってたのに全然呼んでくれないんだもん」
「え? 春菜さんがずっと呼んでましたが、貴女はフェアリモンじゃないの?」
「あたし? あたしはフェアリモンだけど、ハルナが名付けてくれたフィアリスって名前があるの」
少し拗ねたような表情で自分の名前を告げるフェアリモン……もとい、フィアリス。
どうもその様子からすると、先程の呼び掛けは全て聞こえていて、ちゃんと名前で呼んでもらえるまで敢えて無視していたようだった。
「分かった。あたしは春菜の仲間になった立花だ。よろしくな、フィアリス」
「はい、よろしくです、リッカ」
それを察したのかどうかは判らないが、立花はフェアリモンの事をきちんと名前で呼んだ。
フィアリスは余程その名前が気に入ったのか、立花に呼ばれてもかなり嬉しそうだった。
「まあ、とにかく外に出ないか? ここにずっと居たってあたしのパートナーは決まらないだろうし」
「そうですね、とりあえず外に出ましょうか皆さん」
3人の人間と1体のデジモンは、医務室を後にして城内の中庭のような所に出た。
そこには様々なデジモンと、数人の人間達が話したり触れ合ったりしており、和気藹々とした雰囲気を醸し出している。
その中に1人、輪から離れた木陰で木にもたれ掛かっている人物が目に入った。
そこまで気にする程の事でも無いのかもしれないが、何故だか立花はその人物の事が気に掛かった。
「なあ春菜、あの離れた所に居る奴って、一体何しに来てるんだ?」
「ああ、あの人? あの人……聞いた話では、わたしが初めて来た時よりも前からここに来てて、ずっとああしてるらしいわよ。何しに来てるかは分かんないけど……寝に来てるとか?」
「ふ~ん……」
春菜に訊いて返って来た答えに対してどことなく投げやりな反応を返す立花。
別に立花は春菜の答えに納得が行かなかった訳ではない。
確かに見た限りでは寝てるようにしか見えないのだし、特に不審な点がある訳でもない。
立花自身何故そんなに気になったのか上手く言葉に出来ないが、何となく印象に残ったというのが正しいであろうか。
「それで、立ちゃん。何か気になるデジモンは居た?」
「え? ああ、いや、正直デジモンの事は全然分かんないから誰でもいいんだけど……」
「ほう、じゃあお嬢ちゃん、オレっちでもいいのかい?」
「ああ、別に──」
その時、不意に声を掛けてくる者が居た。
立花が振り返ってその者の姿を確認すると、これまたクセの強い姿のデジモンが。
顔から手足が生えているという1頭身の体型にヒゲを蓄え、無駄にスタイリッシュなサングラス。
更にタイミングが悪いと言うべきか、片手には汚物が握られていた。汚物を触ったら消毒しましょう。
「立花さん、あちらの方でも?」
「──いや、やっぱり少しは選ぼうかな」
その名はナニモンというのだが。
立花にそれが伝わる事は無く、彼女はそそくさと行ってしまうのだった。
「おお、凄えなここ」
「ええ、何と言いますか……活気がありますわ」
「普段あたし達はここで訓練をしてるんだよ」
「国のデジモンのほとんどがここに居るから、ここで立ちゃんが気に入った子にするといいよ」
汚物を掴んでいたナニモンから逃げるように立ち去った春菜達一行は、今度は地下の闘技場にやって来ていた。
今では琢斗が初めて降りた時以上と言ってもいい程の活気に満ち溢れていて、知らず知らずの内に立花達のテンションも上がって来る。
「何か知んないけど、ちょっとわくわくして来たな」
「どうです? 立花さん。どんなデジモンと組みたいか、少しはイメージが湧いて来ませんか?」
「そうだなぁ~……あたしは素人な訳だし、強い奴がいいかな」
「強いのか……じゃあわたしがオススメのデジモンを紹介するから、とりあえず参考にしてみる?」
「ああ、そうしてみるよ」
春菜の提案に乗って、オススメのデジモンを紹介してもらう事にした立花。
まず最初に紹介されたのは、白い翼を4枚生やしていて、天使のような雰囲気と戦士のような雰囲気を併せ持ったデジモン。
「まずは、わたしとフィアリスが普段の訓練で手を合わせているダルクモンよ」
「………………よろしく」
「あ、ああ、よろしく」
「強さでいうなら、今のフィアリスよりも強いから立ちゃんが苦労する事はほとんど無いと思う」
「………………任せて」
「へえ~……」
「ダメかな? 立ちゃん」
「………………どう?」
「いや、ゴメン無理」
二言三言話してみて、立花は早々に見切りをつけた。
単純明快な理由だ。
コミュニケーションが取り辛い事。
この1点に尽きる。
次に紹介されたのは、トノサマガエルを赤くして巨大化させ、更に2本足にした上で両肩に金管楽器のホーンを背負わせたようなデジモンだった。
「じゃあ、次ね。前回の大会のメンバー以外では最強のデジモンなのよ」
「──フッ、まずはよろしくと言っておこうか。朕の名はトノサマゲコモン。覚えておくといい」
「あ、ああ、よろしく」
「──フッ、緊張しておるのか? 朕はトノサマではあるがこの国の王ではない。もっと気楽にするがよいぞ」
「そりゃどうも。それで、あんたが今この国で1番強いのか?」
「──フッ、その通りだ。勿論、前大会の5体の究極体には及ばぬがな」
「ふ~ん……それで今回の大会で勝てるのか?」
「──フッ、朕の力だけでは勝てんよ。せめて朕も究極体に成らんとな。だから、朕が大会に出るならパートナーの協力が不可欠なのだ」
「そっか……あたしも頑張んなきゃな」
「──フッ、案ずるな。朕ならおぬしのエネルギーを借りるだけですぐに進化出来るであろう。おぬしは何もする必要は無い」
「…………ごめん春菜、あたしはコイツとは合わないと思う」
さっきよりは長く会話を交わしたのだが、結局立花はこのデジモンとの話も断る事にした。
王だか殿だか知らないが、いちいちカッコ付けたような喋り方と、何もしなくていい、という物言いに立花は気を悪くしていたのだった。
そして次に紹介されたのは、アニメ版を知っている者であれば大半が知っているデジモンであった。
橙色の体皮に茶色の縞模様が入り、まるで恐竜を彷彿とさせる体躯。
茶色い兜を思わせるような頭部には、鼻先の辺りから角が1本生えている。
「次はグレイモンね。さっきの2人よりは弱いけど、凄く有名なデジモンなのよ」
「へえ~……そうなんだ。あたしは立花。とりあえずよろしくな、グレイモン」
「うん、よろしくリッカ。だけど……ゴメン、ボクはキミと一緒には闘えない」
「え? どうして? ずっとわたし達と一緒に闘いたいって言ってたのに……あ、ひょっとして──」
「うん、パートナーになってくれる人が出来たんだ」
「あっ、やっぱりそうなんだ! おめでとう、グレイモン! じゃあ相手はもしかして、さっき来てた人?」
「そう、ナオキって言うんだ。レイっていう名前ももらったし。何か、心配させるとエライ目に遭うとか何とか言ってさっき帰っちゃったけど」
「ふ~ん……じゃああたしとは組めないんだ?」
「うん……ゴメンね、リッカ」
「いや、気にしないで」
口ではそう言っている立花であったが、その表情は少し残念そうだった。
3体目にしてようやくまともそうなデジモンが出て来たので、このデジモンでいいかと思おうとしていたのだ。
そうして立花が少し俯いていると、グレイモンが声を掛けてきた。
「……そうだ! ねえリッカ、ボクの代わりと言っては何だけど、ガルルモンと組んでくれないかな?」
「ガルルモン……? どんな奴なんだ、そいつは?」
「コロモンの頃からずっと一緒だったボクの親友なんだ。ボクとほぼ互角の強さだし、いい奴なんだ。ボクが保証するよ」
「………………」
グレイモンに言われ、立花は少し考え込む。
このまともそうなデジモンの親友と言われれば、同じようにまともそうなデジモンか、あるいは正反対なぐらい変なデジモンぐらいしか想像がつかない。
だがそこで、意外な横槍が入った。
「……わたしは、あのガルルモンの事はあまり好きじゃないのよね」
「あら、どうしてですか? ガルルモンと云えば、グレイモンと人気を2分するとも云われるデジモンですのに」
「それはそうだし、確かにここのガルルモンもあのガルルモンと結構似てるトコはあるんだけど……」
「だけど?」
「……されたのよ」
「え?」
「……バカにされたのよ」
「春菜さんがですか?」
「ううん、わたしじゃないわ」
そういう春菜の表情は険しくなっていて、その時の事を思い出しているようで。
立花が少し戸惑った様子を見せていると、詩織が爆弾発言を投下した。
「──春菜さんの想い人とかですか?」
「えっ? ──っち、ちち、違いますわ! 琢斗くんとはそんなんじゃ──」
「春菜さんったら、口調は無茶苦茶ですし、名前なんてまだ訊いてませんわ」
「ぁ……ぅ……~~~っ」
「……でも、そっか。春菜の大事な人をけなしたのか。だったらあたしも、そいつとはあまり組みたくないな」
澄まし顔の詩織と顔面茹でダコ状態の春菜のやり取りを聞いて、立花はグレイモンの頼みは断ろうかと思い始めていた。
だがそこへ、グレイモンからの弁解が入る。
「あ~……それなんだけどね。ガルルモンはあまりボクとは人の好みが合わないみたいなんだ。特に、ボクが好きになった人間やデジモンはガルルモンにとっては嫌いな奴みたいで……」
「「「………………」」」
「でもね、ガルルモンは本気で嫌ってる訳じゃないんだ。言ってる事おかしいのはボクも解ってるんだけど、何て言うのか時々優しい所も見せてくれたりして……」
「ありがとうグレイモン、もう十分だ。やっぱりあたし、そのガルルモンとかって奴と組む事にするよ」
「え、ホント!?」
「ああ、あたしに二言は無い」
グレイモンの弁解を聞いた立花は思い直し、ガルルモンと組む事を決意した。
理由は単純に、ガルルモンが特定の人やデジモンを嫌う理由に察しがついたからである。
「じゃあ早速そいつのトコに行ってみるとするかな。どこに居るんだ?」
「え~と……あっちだよ。付いて来て」
そして立花はグレイモンに誘われるままにガルルモンの元へと歩いて行った。
一方、その場に取り残される形になった春菜と詩織はというと……。
「……あっ、そういえば春菜さん、立花さんは大丈夫でしょうか……」
「何が? 詩織ちゃん、別に襲われたりはしないわよ?」
「いえ、そうではなくて。実は立花さんは……動物アレルギーなんですのよ」
「え゙?」
そしてその数分後、立花の普段の言葉遣いからは似つかわしくない可愛らしい悲鳴が辺り一帯に響き渡るのであった……。