Digimon States~D-1バトラーズ~   作:宮枝嘉助

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第10話 先導者

 

 

 

 

 現在の日付は4月8日。

 

 世間では新年度を迎え、学校でも新学期が始まった頃。

 花粉症を患っている少年は相変わらず自宅の地下での謹慎を余儀なくされていた。

 

 建物の中に直接移動しても大丈夫になるようにシステムの改修をエンシェントワイズモンに依頼してから約1ヶ月半。

 早くて1ヶ月、遅くて2ヶ月という話だったので、そろそろ完成してもいい頃だ。

 

 勿論、琢斗は向こうの状況を把握していない訳ではない。

 時々春菜が家にやって来てあちらの世界での近況を教えてくれるのだが、それを聞かされる度に早く気兼ね無く向こうの世界に行けるようになりたいという想いが募るのであった。

 

 

「はあ~ウチの地下にもスーパーロボットがあればなぁ~その格納庫だったら広いだろうし、気にせずあっちの世界と行き来出来るのに」

「何バカな事言ってんの。そんなのあったらそれで学校に行かすわよ」

 

「うわ、何という超兵器の無駄遣い」

「それより琢斗、今日も春菜ちゃんが来てくれてるわよ」

 

「ん、分かった。……でも、何かあったのかな? いつもより早いな……?」

 

 

 1人ごちる琢斗に向かって律儀にツッコミつつも来客を伝える祐子。

 それを聞いた琢斗は怪訝な様子を見せながらもモニターの所へと足を運ぶ。

 

 ちなみに琢斗がいつもより早い、と言ったのは本当で、大体報告に来る時は夜の7時前後がほとんどなのだが、現在の時刻はまだ夕方の5時過ぎだ。

 プリント等を渡しに来たのならもう少し早く来るハズで、どうにも腑に落ちない。

 

 そしてモニターを覗き込んで見えたのは、肩を上下させて息を弾ませているお隣りさんの姿であった。

 今日は7分袖の白いブラウスに赤いリボンをして、黒と黄色のチェック柄のスカート、そして髪を両耳の後ろの2ヶ所に焦げ茶色のリボンで留めている、という出で立ちである。

 

 何かいい事でもあったのか、息を弾ませて顔を上気させた状態で表情が凄く明るい。

 琢斗はそんな春菜の表情に訳も分からないままドキッとさせられた。

 

 

「……よう、弥生。今日は早いな?」

『はぁ……え、江原くん。とりあえず入れてもらっていい? 中で話すわ』

 

「え、あ、ああ分かった。……開けたぞ」

『ありがと……はぁ……じゃあ、ちょっと待っててね』

 

 

 琢斗は玄関の鍵を地下のコンソールを操作して解錠し、春菜が降りて来るのを待つ。

 すると、さほど時間も掛からない内に春菜が地下の扉を開けて入って来た。

 

 春菜はインターホンの前と同じように、息を弾ませながら上機嫌な顔をしている。

 そんな春菜の第一声はこうだった。

 

 

「……ふぅ……江原くん、出来たわよ!」

「――!! 出来たのか!?」

 

「ええ、空間を荒れさせないままに移動するシステムが、ついさっき完成したそうよ。わたしもさっき試してみたけど、出来栄えも問題無いわ」

「~~~~っ! っし! これでやっと俺も自由に行けるんだな!?」

 

「うん! これでやっと琢斗くんと一緒に行けるわ!」

「ああ! 報告ありがとう春菜!」

 

 

 春菜の報告を聞いた琢斗はテンションがリミットブレイクしたのか、春菜と手を取り合って喜んでいる。

 春菜は春菜で今まで寂しかったのであろうか、琢斗と同じぐらいのテンションで喜んでいた。

 

 そんな2人を、凄いレアアイテムを見付けた時のような笑顔で見つめている者が居た。

 その者とは当然、琢斗の家に住み着いて早2年を数える家庭教師、喜多川祐子その人である。

 

 

「うふふふふ……あはははは……あぁ~はっはっはっはっはっはっ!」

 

「ちょ、祐子さんってば何ワ●プ●ギスの夜みたいなキモい声で笑ってるんスか」

「ふふふふ……いや、だって琢斗と春菜ちゃんってば、やっと名前で呼び合ったんだもん。何か嬉しくって」

 

「「え……? ……ぁ──っ!!」」

 

 祐子の指摘を受けた瞬間は2人共首を傾げていたのだが。

 すぐに自らの言動に思い当たったらしく、2人共爆発するような勢いで顔を真っ赤に染め上げた。

 更に未だに手を取り合っていた事に気付いた2人は超スピードで距離を取った。

 

 だが勿論、今更そんな事をしても2人が祐子からからかわれるのは避けられる訳も無く。

 

 

「あら~? どうしたのかしら、いきなり離れちゃって」

 

「べ、別に何でもないよ。なあ、弥生」

「……ええ、そうね江原くん。何でもないわ…………バカ」

 

「え? 今なんか言ったか?」

「何も言ってないわよっ!」

 

 

 2人共否定の言葉を口に出したのは同じだったのだが。

 完全に照れ隠しで言っている琢斗と違い、春菜は照れていない訳ではないのだがどことなく表情が暗い。

 

 そして、春菜は琢斗に同意する言葉の後に何事かを呟いたが、琢斗の耳に届く事は無かった。

 

 

「琢斗……そんなんだからあんた達に春が来ないのよ」

 

「達って、よく分からんけど俺がこうだと弥生も影響があるのか?」

 

「わ、わたしに訊かないでよっ!」

「そんな事ぐらい自分で考えなさいよ」

 

「……ふう……こういう話の時、キミ達は決まって同じ反応をする。全く、訳が分からないよ」

 

「え? 江原くん、今なんて?」

「琢斗、何か言った?」

 

「……い、いえ、何でもありません」

 

 

 さっきの照れがまだ残っているのか、顔が赤いままの春菜を不思議そうに見つめる琢斗。

 

 その時、とあるアニメで一躍有名になった地球外生命体の台詞が頭を過ぎったので呟いてみたのだが、2人から恐ろしい程穏やかな笑顔で訊き直されたので琢斗は慌てて頭を振る事になった。

 

 それからしばらく間を置いて、琢斗は恐る恐る春菜に話し掛けた。

 

 

「……え、と……弥生、さん?」

「何、江原くん?」

「そろそろ、行かないか?」

「あ……そ、そうね、行きましょうか。フィアリスも待たせてるし」

 

 

 琢斗の言葉で我に返ったのか、春菜はあっさりと同意してくれた。

 そして2人は1階に上がって玄関で靴を履き、後ろについて来ていた祐子の方に振り返った。

 

 

「それじゃあ祐子さん、行ってきます」

「行ってらっしゃい琢斗、それから春菜ちゃんも」

「はい、行ってきます」

 

 

 先程までとは違い、真面目な表情で挨拶を交わす3人。

 琢斗と春菜はおもむろにiPhone……もとい、D-オルタを取り出し、合言葉を口に出した。

 

 

「「デジタルゲート、オープン!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くう~~~っ! ひっさしぶりのデジタルワールドだ! テンション上がるぜ!」

「江原くんったら、もうちょっと落ち着いたら? もう……ふふっ」

 

 

 実に1ヶ月半ぶりにデジタルワールドの空気を吸った琢斗は、それだけで少し気分が高揚した。

 

 これからは存分にこの世界での様々な体験をする事が出来る。

 そう思うだけで琢斗の気分は高ぶり、身震いしてしまう。

 

 そんな琢斗を横から見ているだけで、春菜は温かい気持ちになった。

 まるで、琢斗の喜びが春菜に伝染したかのように。

 

 ……と、そこへ近付いて来る者が……いや、正確には者達が居た。

 それが何者かなどというのは言うまでも無く、琢斗と春菜のパートナー達だ。

 

 

「タ~クト~!」

「おお、アルド! 久しぶり!」

 

「ハルナ~!」

「フィアリス、ただいま」

 

「あっ、ショウさんお久しぶりです」

「まだそのネタ引っ張るのか!?」

 

 

 再会して早速和気藹々としたムードになる2人とそのパートナー。

 その姿は琢斗が来られなくなる前と変わらず、アルドはドルガモン、フィアリスはフェアリモンのままだ。

 

 ところが、

 

 

「アルド、あれからどのぐらい強くなったんだ? 弥生の奴、それだけは教えてくれないんだよ。自分のパートナーがシューツモンになれるようになったとかそんな話ばっかでさ」

 

「いいじゃない、自分で確かめた方が江原くんも嬉しいんじゃないかと思ったのよ」

「まだあたし、ハルナに支えてもらわないとシューツモンでいられないんですけどね。1人だと暴走しそうになっちゃって」

 

 

 やはりこの1ヶ月半、無為に過ごしていた訳では無いようだ。

 フェアリモンはもう1つの姿であるシューツモンに変身する事が出来るようになっていた。

 

 尤も、春菜がD-オルタの力を使って理性を支えていないと上手く制御出来ない様子ではあったが。

 

 そして肝心のアルドはというと、

 

 

「ボクは、ドルグレモンに進化出来るようになったよ。って言っても、1分ぐらいしかなってられないんだけど」

 

「おお、もう完全体になれるのか! 1分ぐらいしかってのは、体力が持たないとかそういう意味か?」

「うん、すっごい疲れるんだ。ドルグレモンになった後は、なってた時間と同じぐらいドルモンに戻っちゃうし」

 

「お前はギア3でも使ってんのか」

「ギア3? いやぁ~照れるなぁ~」

「褒めてねえ!」

 

「……でも、江原くんが補助すればもっと長い時間進化していられると思うわ」

「そうなのか、弥生?」

 

「ええ、このD-オルタのBit Evolutionってアプリを使うんだけど……って、江原くんのD-オルタにはまだ無い機能だったわ。まずはバージョンアップしなきゃね」

「そうだな、帰りの移動システムの改良もあるし、まずはエンシェントワイズモンに会わないとな。……あ」

 

 

 春菜の言葉で、まずはエンシェントワイズモンに会う必要があると判断した琢斗であったが。

 

 急に何かを思い出したらしく、声が漏れた。

 そんな琢斗の呟きが気にならない訳は無く、春菜が琢斗に疑問を投げる。

 

 

「どうかしたの?」

「しまった……帰りの座標を修正するのを忘れてた」

 

「え? それじゃあひょっとして……」

「ああ、今回の帰りも外に出ちまうって事だ……しかも今日は、もう花粉に怯える心配も無いと思ってゴーグルとかも持って来てねえし……最悪だ」

 

「江原くん……まだ諦めるのは早いよ。コウメイモンなら何とか出来るかもしれないし」

「……ああ、そうだな。どっちにしても会わないとな」

 

 

 そんな、琢斗にとっては死活問題な難題を解決出来るかどうかはともかく、鋼の十闘士に会う事にした。

 

 その鋼の十闘士の居場所だが、アルドの話ではどうやら今回は王の間に居るとの事だったので、琢斗達は早速王の間へと向かう事にする。

 

 

 

 

「よっ……と、やっぱりパートナーが成熟期だと扉を開けるのも楽だな」

「フィアリスは最初からフェアリモンだったから、わたしは苦労しなかったけど」

 

 

 王の間に到着した琢斗達が扉を開けて中に入ると、そこにはリリスモンとエンシェントワイズモン、それからグレイモンとガルルモンが居た。

 勿論、グレイモンとガルルモンだけが居た訳ではなく、それぞれのパートナーである少年と少女もその場に居たのだが。

 

 

「久しぶりだな、みんな」

「ほう、坊やじゃないか。久しいな」

「待たせてしまってすまなかったな。さあ、早くD-オルタをワシに渡せ。すぐにアップデートしてやる」

 

 

 エンシェントワイズモンが謝罪の言葉を言いながらD-オルタを求める。

 琢斗はそれに従い、歩み寄ってD-オルタを手渡そうとする。

 

 その時、琢斗が口を開いた。

 

 

「なあ、帰りの座標の調整をこっちで上手くやる方法って何か無いか? 今回来る時に帰りの座標を調整してくるのを忘れちまってさ」

「いや、手入力で座標を打ち込むしか無いな。だが、要するに家の中に直接移動したいのだろう? だったら方法は無くはない。例えば、今回の出発点の座標をそのまま到着点に設定するとかな」

「あっ、その手があったか。座標は設定画面を開いた時に確か表示されるもんな」

 

 

 どうやら解決の糸口が掴めた所で、琢斗は端末を鋼の十闘士に託した。

 

 端末のアップデートには10分程度かかるようで、琢斗はとりあえずみんなの所に戻る事にする。

 戻る途中、グレイモンの傍らに居る少年とガルルモンの傍らから少し離れた所に居る少女の2人と目が合った。

 

 2人の事は春菜から聞いていた。

 と言っても名前ぐらいしか聞いておらず、解る事と言ったら少年の方が小宮尚貴、少女の方が武森立花という名前であるという事ぐらいだった。

 

 しかし目が合ってしまった以上、何も話さない訳にも行かなかったので琢斗は2人に話し掛けた。

 

 

「やあ、初めまして、だな。俺の名前は江原琢斗で、ドルガモンのパートナーだ。以後よろしくな。え~と、尚貴と武森さん」

 

「ええ、よろしくお願いします、琢斗君」

「ああ、こちらこそよろしく、江原。ただ、名字にさん付けは気持ち悪いから止めてくれ」

 

「え? ああ、分かった。じゃあ……“たちばな”でもいいか?」

「ああ、さん付けじゃなけりゃ別に何でもいいぜ」

 

「そっか、分かった。それじゃあ改めてよろしくな、たちばな」

「ああ、よろしく江原」

 

 

 琢斗が話し掛けたのに対して、尚貴も立花も結構好意的に応えてくれた。

 というのも実は、琢斗の事については事前に春菜から話をされていたという事が大きい。

 

 琢斗本人にはまだ知らされていないが、実は花粉症の事も伝わってしまっていた。

 ただこれは春菜が話したというよりは、アルドが普通に喋ってしまったので、春菜がフォローを入れたという形になる。

 

 

「グレイモンとガルルモンも久しぶりだな。アグモンとガブモンだった時以来だもんな。お前等と一緒に戦えて嬉しいよ」

 

「うん、久しぶりタクト。ボクは今ナオキからレイって名前を貰ってるから、レイって呼んでくれていいよ」

「ふん、やっと戻って来やがったか。オレはリッカからガブールとかいう名前を貰ってる。好きに呼べ」

 

「ああ、分かった。改めてよろしくな、レイとガブール」

「うん、よろしく」

「ふん、オレ達の足を引っ張るなよ」

 

 

 一応知らない仲でもないので尚貴と立花のパートナーとも挨拶を済ませ、琢斗はリリスモン達の方に向き直った。

 アルドや春菜達の所に戻るつもりだったのが、急に心変わりしたのであろうか。

 

 

「ところでリリスモン。どうして俺達をここに集めたんだ?」

 

 

 その琢斗の台詞に驚いた者は少なくない。

 集められた事を知らなかった春菜は勿論、その事をまだ伝えてないハズのアルドとフィアリスも驚きの表情を見せていた。

 

 尚貴達は元から集められてこの部屋に居たのだろう、特に表情に変化は見られなかった。

 

 

「そうさな。別に坊やのD-オルタのアップデートを待つ必要も無い事だし、もう話を始めるとするかね」

「ああ、ワシはそれで構わん。先に話を進めておいてくれ」

 

 

 エンシェントワイズモンは琢斗のD-オルタのアップデート作業を進めながらリリスモンに話の続きを促す。

 それを受けてリリスモンは小さく頷き、話をし始めた。

 

 

「結論から言うと、お前達には大会のエントリーをしに行ってもらいたい」

「エントリー? 全ての国が強制参加って訳じゃないのか?」

 

「その通りさ。例えば東の果てに、出場したら間違い無く優勝候補と云われているグラフェドという国がある。だがこの国は覇権に興味が無いらしく、前回出場していない。あやつらの性格を考えると、恐らく今回も出て来ないだろう」

「へえ……その優勝候補の国ってどんな奴が居るんだ?」

 

「──グランドラクモン、ベルフェモン、ベルゼブモン、ブラックウォーグレイモン、メギドラモンだ」

「うわ、確かに物凄い国ですね」

 

 

 琢斗の当然の疑問に答えたのは、琢斗のD-オルタをアップデート中のエンシェントワイズモンだった。

 その答えを聞いて、全部のデジモンがすぐに浮かんだ尚貴が同意する。

 立花は当然ちんぷんかんぷんだったが、周りの者達の反応を見て凄さを何となく感じ取っていた。

 

 

「あの……どうしてわたし達がエントリーしに行かなきゃならないんですか? エントリーするだけなら、貴女達がやっておいてくれてもよさそうですけど」

「それは、出場資格の無い者はエントリーすら出来ないルールになっているからさ。エントリー時に人数は足りなくてもいいが、必ず出場者が自らエントリーしなくてはならないのさ」

 

「じゃあもう1つ訊きたい。何故このタイミングなんだ? 極端な話、俺と弥生が参戦を決めた段階でエントリーしに行っても良かったハズだろ?」

「それは、お前達をエントリー会場まで案内する先導者が居なかったからだ」

 

「──それは要するに、道中に危険があるって事か?」

 

 

 その琢斗の発言には、流石にその場の全員が目を丸くしていた。

 デジタルワールド随一の頭脳を持つとまで云われるエンシェントワイズモンでさえ少し驚いているようで、一瞬作業を中断して琢斗の方を見遣っていた。

 

 

「──そうだ。国同士のエントリー前の小競り合いとかな。だが国の最低限の守りを考えると、妾達はここを離れられぬ」

「成程な。……それで、先導者になれる程強い誰かが最近まで国を離れてて、そいつがさっき帰って来た……ってトコか?」

「……本当に坊やは察しがいいな。その通り、ザンバモンが今し方戻って来た所さ」

 

 

 そのデジモンの名を聞いて最初に反応したのは尚貴だった。

 

 

「ザンバモン……究極体ですね。という事は、ひょっとして──」

 

「ああ、キングエテモンとリリスモン、エンシェントワイズモンにロードナイトモン、そしてザンバモン。これが前回の大会に出場したメンバーなんだろうな」

 

「何かよく知んねーけど、ここって前回は準優勝だったんだっけ?」

「うん、そうらしいわ。オメガモンの居るデュメガスって国に僅差で負けたって、前訊いた時に言ってた」

 

「ああ、オメガモンって奴なら知ってる。この間詩織に見せてもらった映画に出て来てた。あいつは確かに強かったもんな」

 

 

 これは余談になるが、詩織は非参戦を確定させた者の中で唯一記憶を消されていない。

 何故なら詩織がこの世界に来る事は、立花が参戦を決める為の絶対条件となっており、かなり強力な因果関係が形成されていたからだ。

 つまり単純に、書き換えが非常に困難な事例だったという事である。

 

 その為立花は、詩織にデジモンの事を少しずつ教わりながら今日まで過ごして来る事ができた。

 その詩織も、時間に余裕がある時は時々こちらの世界に来て、ガルルモンの事を中心に立花に話をしている。

 

 

「いざ尋常に、勝負!」

「「「「「っ!?」」」」」

 

 

 その時だった。

 突如、今の会話の流れからは遠く掛け離れた言葉が琢斗達の耳に飛び込んで来た。

 

 声が聞こえて来たのは、王の間の扉の外から。

 声に驚いた琢斗達が扉の方を振り返った途端、甲高い金属音が扉の向こうから鳴り響いて来る。

 

 

「扉の外で誰かが戦ってる……?」

「戦ってるのは多分、ナイトモンと──」

 

 

 春菜の呟きに対して琢斗が答えようとした次の瞬間、王の間の扉が乱暴に開け放たれた。

 

 と同時に、黒い塊のようなモノが部屋に飛び込んで来た。

 その黒い塊のようなモノは床に激突する直前にその形を4本足の獣に変え、多少床の上を滑りながらも着地を決めてみせる。

 そして直ぐさま扉の向こうに佇んでいるナイトモンに向かって駆け出した。

 

 その姿は、さながら黒い甲冑を身に纏った恐竜とでも言うべきだろうか。

 全身が甲冑で包まれており、頭と足の部分ぐらいしか素の部分が見えない。

 

 

「はあああ……貫け! 徹甲刃!」

「させん! ベルセルクソード!」

 

「なっ! 私の槍がこうも簡単に……!」

「スキありっ!」

 

「──────!」

 

 

 そしてその獣とも竜とも言い難い黒い甲冑のデジモンは口から鋭い槍を出現させ、果敢に白銀の甲冑の騎士に攻撃する。

 しかし、ナイトモンの必殺剣によって槍を両断されて攻撃は失敗。

 加えて強力な当て身を食らわされ、黒い甲冑の獣竜は昏倒したのであった。

 

 

「あ、あれはひょっとして──」

「ギンリュウモンですよ! これで彼が究極体になって、琢斗君のドルモンが上手く進化すれば──」

 

「いや、あんなデジモンはこの国には居らんぞ。勿論、進化前のリュウダモンも」

「え? じゃああの子は敵なの?」

 

 

 エンシェントワイズモンの言葉に対して発せられた春菜の疑問に答えられる者。

 それは、居るとすればギンリュウモン本人を除けばただ1人。

 

 

「──いや、多分味方だ」

「タクト、何で分かるの?」

 

「まずは、あいつが成熟期だって事だ。いくらなんでも1体でこんなトコまで攻め込めるとは思えない」

「まずはって事は、まだ何かあんのか?」

 

「もう1つは、あいつがやって来たタイミングだ。ザンバモンが帰って来たのとほぼ同時に現れたんだから、あいつはザンバモンが連れて来たって考えると辻妻が合う」

「成程、味方が連れて来たから、守りを抜けてここまで来れたって事ですね」

 

「──やっぱり凄い……」

 

 

 琢斗の推測は非常に強い説得力を持っていた。

 それを聞いて得心がいったように頷く尚貴と、感心しきりの春菜。

 

 そして、その推測を裏付けるかのようにもう1体のデジモンが現れた。

 その黄金の甲冑を身に纏ったデジモンは下半身が馬と一体化しており、右手には身の丈程もある巨大な騎馬刀、左手には妖しい輝きを放つ刀を携えている。

 

 

「久しいなナイトモン。こんな場所での門番なぞ暇であろう? どうだ、1つ究極体になって儂と死合わぬか?」

「ふむ、久々にそれも悪くないなザンバモン……だが断る」

「──ふん、そう言うだろうと思っておったわ」

 

 

 その人馬一体のデジモン──ザンバモンは簡単にナイトモンとの挨拶を済ませると、先程倒されたギンリュウモンの元へと向かう。

 

 そして──

 

 

「起きんか、このバカ弟子があああぁぁぁあああっ!」

 

 

 下半身の馬の前脚で思いっきり蹴飛ばした。

 

 

「へぶっ!? ──はっ! ……あ、お、御館様ああぁぁ負けてしまいましたああぁぁっ!」

「負けてしまいました、じゃないわああぁぁっ! 誰が戦え等と言った!? それと、儂の事は師匠と呼べと言っとるだろうがああぁぁっ!」

「ぐぶはっ!?」

 

 

 更に、右手の身の丈程もある騎馬刀“龍斬丸”の腹の部分で殴り飛ばした。

 

 

「────はあっ、はあ……それは御や……師匠が……」

「儂は“挨拶をして来い”と言ったんだ」

 

「いえ、ですからこうして尋常に勝負を──」

「だぁぁからお前はアホなのだ!」

「ぶべらっ!?」

 

 

 今度は下半身の馬の後ろ脚で回し蹴りを放った。

 

 

「なあ、あいつ死ぬんじゃね?」

「いや、立ちゃん。ああいう時は案外大丈夫だったりするわよ」

 

「ボクは、あのザンバモンはちゃんと手加減してると思うよ。ねえ?」

「──ふん、本当に殺る気ならあいつはとっくに死んでる」

 

「……なあ、尚貴」

「なんですか、琢斗君?」

「ザンバモンの下半身の馬って、風雲再起って名前だったりするのかな?」

「知りませんよそんなの」

 

 

 ちなみにザンバモンの馬の名前に関する資料は見付からなかった。

 ザンバモンとギンリュウモンのやり取りは続く。

 

 

「し、しかし師匠! 我々の挨拶といえば一勝負ではありませんか!」

「それは儂等の間だけに決まっとるだろう! 普通の挨拶をせい、普通の」

 

「我々の間ではあれが普通ではありませんか!」

「その通りだ! だぁがっ! そぉれは間違っている!」

 

「違うのですか、御館様? では一体、普通とはどのような……?」

「ならば儂が今から見本を見せよう」

 

 

 ザンバモンがそう言った途端、場がしんと静まり返った。

 と言っても、ザンバモンの“見本”を見る為に静かになった訳ではない。

 単に元から2人のやりとりを皆が黙って見守っていたというだけの事だ。

 

 そういった実情を知ってか知らずか、ザンバモンは悠然と琢斗達の前にやって来た。

 相手が究極体だからだろうか、琢斗達は思わず身構えてしまう。

 

 

「我が名はザンバモン! おぬし達を彼の地まで先導するよう参上仕った!」

 

 

 ザンバモンは龍斬丸を抜き、琢斗達に向かって構える。

 

 

「しかし! 今のおぬし達で大会を勝ち抜く事は絶対に出来ぬ! そこでだ、儂と1つ尋常に勝負を──」

 

「結局勝負すんじゃねえかぁぁああ!」

「ぬぅおっ!」

 

 

 次の瞬間、ギンリュウモンの全力の体当たりがザンバモンに直撃した。

 

 完全に不意を突かれたのだろう。

 ザンバモンは王の間の外まで吹き飛ばされた。

 その時、抜いていた龍斬丸が琢斗達の前に転がった。

 琢斗はそれを恐る恐る手に取ってみる。

 

 

「ふんっ! くっ……うおっ、重っ!」

 

 

 全然持ち上がらなかった。

 続いて、尚貴も挑戦する。

 

 

「はっ! ……ダメだ、全然持ち上がらない。実はゼットソードなんじゃないですか、これ?」

 

 

 んな訳無い。

 

 

「……まあ、とにかく。ザンバモンと一緒にエントリーに向かっておくれ」

「分かりました」

 

 

 何はともあれ、こうして琢斗達は遂にこの国を出る事になったのであった……。

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