Digimon States~D-1バトラーズ~ 作:宮枝嘉助
「なあ……」
「どうした? たちばな」
「立ちゃん、気にしちゃダメだって」
「放っておいても大丈夫だと思いますよ?」
ここは、畦道という表現がピッタリと当て嵌まりそうな道。
周りは緑に囲まれ、土色と緑色の入り混じった何の舗装もされていない道だ。
そんな道の上を、琢斗達4人とそのパートナーデジモン、そして先導役のザンバモンとギンリュウモンが歩いていた。
そしてその一行からわずかに離れた所をついて来る人影が1つ。
「お~い、もうちょっとこっち来いよ」
「………………」
立花が振り返り声を掛けてみるが、全く反応が無い。
こちらに歩いては来ているので屍という訳では無く、聞こえていないか無視しているのかどちらかだと思われる。
約20m後ろである事から考えると前者の方かもしれない。
その人影は、足取りが重いが眼光は非常に鋭く。
染めた金髪の前髪を頭の上で束ねた青年だった。
白い円形の下部が三角になって、円の中に眼を思わせるような黒い円が2つ付いているという、少し不気味な雰囲気のTシャツを着ている。
「うわ、無反応~」
「リッカ、何でそんなにあいつが気になるんだ?」
「何でってそりゃ、1人だけ離れてたら気にな──って、うおっ! あたしに近寄んなっつっただろガブール!」
「う……す、すまん」
派手に飛び退きつつガルルモンに怒鳴る立花。
その勢いに圧されたのか、ガルルモンの口からは普段出なさそうな素直な謝罪の言葉が零れた。
以前、詩織が春菜に話した事があるが、立花は動物アレルギーである。
一言で動物アレルギーと言っても様々な症状があると思うが、立花の場合はというと──
時を少し遡り、約3週間前。
立花がガルルモンとパートナーを組む決意をして、グレイモンが立花を連れてガルルモンの所へ向かっていた時の事である。
「なあ、グレイモン……いや、レイだったっけ?」
「ん? どうしたの、リッカ?」
「あたし、デジモンの事はよく分からねえんだけど、お前等って一体何種類居るんだ? ポケモンみたいに何百種類とか居たりするのか?」
「さあ……どのぐらい居るんだろう? そんなの考えた事も無いや。でも、沢山居ると思うよ」
「ふ~ん……」
「それがどうかしたの、リッカ?」
「いや、何でもない」
ちなみに立花はデジモンの事を知らなかったが、かといってポケモンに詳しい訳でも無い。
原作のゲームをやった事も無いし、アニメ版を観ている訳でも無い。ただ人づてに聞いた事があるだけだ。
つまりどういう事かと言えば、立花はきちんとデジモンの事を知ろうとしている、という事であった。
その取っ掛かりになるモノとして、少しでも近いと思ったポケモンを物差しに利用しただけである。
「正直ボク達も判ってないから何種類居るかは覚えなくていいと思うけど、成長の段階ぐらいは覚えておいた方がいいよ」
「成長の段階? 何だそれ?」
「解りやすく言えば、強さの段階かな。まずは幼年期。タマゴから生まれたばかりの状態のデジモンさ。生まれたてとその後しばらくした状態の2段階ある。それから成長期。名前の通り、ここからの育ち方でこの後の成長の仕方が大体決まっちゃうぐらい大切な時期。そして今のボクの状態が成熟期。大体のデジモンがこの段階までは辿り着ける」
「ふ~ん……まだ上があるのか?」
「うん。その成熟期の上が完全体。成熟期の中でもこの段階まで辿り着ける奴は限られてくる。この国には今、トノサマゲコモン1体しか居ない」
「トノサマ……あ~……あいつか。あいつっていつもあんななのか?」
「う、うん、まあね……この国の王様相手にもアレだからね……。で、最後が究極体。ここまで進化出来るのはホントに少ない。この国には、前回大会に出場した5体しか居ないし」
「おお、何か名前からして強そうだな。……でも、何だか言ってる事おかしくないか? その、究極体ってのより完全体の方が少ないんだけど」
「あはははは……この国は5体だけが飛び抜けて強かったからね。トノサマゲコモンだって1ヶ月前は成熟期だったし、ボクもガルルモンも1ヶ月前は成長期だったんだから」
「……もしかして、この国って次の大会ヤバイ?」
「……かなり」
「そっか。だからあたし等の力が必要なのか。何か、あたし等と組んでるだけでその進化ってのがしやすくなるんだろ?」
「うん。理屈はボクもよく分かんないんだけどね。何か、人間の精神エネルギーを使ってデジモンのオーバーライトを増幅して進化を促すとか何とか」
「……よし、さっぱり解らん」
そんな話をしている内に、グレイモンにもひけを取らない程の大きさのデジモンの近くまで来ていた。
2足歩行のグレイモンと違って4本足のデジモンで、お腹の下を丁度立花がそのまま通れてしまう程の大きさだった。
その全体の姿を立花が把握した瞬間、立花の身が強張った。
そして同時に、そのデジモンと目が合ってしまう。
恐る恐る、立花はグレイモンの方を見遣って尋ねた。
「なあレイ、ひょっとしてこいつ?」
「え? うん、そうだよ。お~い、ガルルモーン!」
言外に違っていて欲しいという願いを込めた立花の言葉はあっさりと肯定されてしまい、グレイモンはそのデジモンへと声を掛けた。
そのデジモン──ガルルモンはグレイモンの呼び声に反応し、こちらに歩み寄って来る。
4本足の狼に近い見た目のガルルモンは、白と青の毛並みと首の辺りにたてがみのようなモノを持つデジモンだ。
それが近付くにつれ、立花の体の強張り様が段々と強くなって行く。
「なんだ、グレイモン。ん? その女は……?」
「ちょっ、待っ──」
「紹介するね。リッカって言うんだ。キミのパートナーになってくれるって」
「何……!?」
ガルルモンはグレイモンの言葉を受けて、立花をまるで品定めするかのように観察する。
その少女はどうやら自分に怯えているらしく、体を縮こませているのが分かった。
だからだろうか、普段のガルルモンであれば突き放すような言動をしたであろうが、この時ばかりは珍しく優しい言葉を掛けながら顔を寄せてみた。
「お前がオレのパートナーになってくれるって……?」
「ひっ────!」
だが、効果は今ひとつだった。
少女はますます萎縮し、目には涙までが溜まっている。
そんな様子を見てガルルモンは少女を安心させようとしたのであろうか、その顔を舐めた。
「──っ! きゃあああぁぁぁ~~~っ!!」
そして、普段の言動からは似つかわしくない程に可愛らしい悲鳴と共に、その少女──立花の涙腺は決壊したのであった。
その後の展開は、意外と早かった。
ひとしきり涙を流して落ち着いた立花はその理由をグレイモンとガルルモンに告げ、気安く近付かない事を条件にあっさりと承諾した。
その時はあまり人間と馴れ合わないつもりだったガルルモンにとって、その条件は逆にありがたかったという事もある。
そして王の間に行き、D-オルタを受け取った立花は。
春菜から操作方法をレクチャーしてもらい、詩織からガルルモンについて教わりながら、ガルルモンにガブールという名前を付けたのであった。
──という訳で立花の場合、涙が止まらなくなるというのがその症状だ。
ちなみにこの事はメンバーの全員が知っている。
しかしそれは琢斗の症状をアルドが喋ってしまったのとは違い、立花が自ら皆に話したからである。
「まあ、たちばなが気になるのも分かる気がするよ。あいつがついて来るって言い出した時は本当にビックリしたもんな」
「はい、僕も驚きましたよ。あの人、この国ではちょっとした有名人でしたからね」
そんな立花の様子を見ながら、琢斗は独りごちる。
すると尚貴もそれに反応した。
「だよな。いつ見ても木の下辺りで座ってじーっと遠くを睨んでるんだもん。ちょっとビビるよな」
「これは噂ですけど。彼、この国にやって来た人の第1号だったらしいですよ」
「え、そうなのか? それはちょっと聞いた事無かったな。でも、そんなに前から居たって事は……」
「そんなに怖い人じゃないのかもですね」
2人はそんな事を思いながら後ろについて来ている青年の様子を窺う。
だがそんな2人の気持ちとは裏腹に、青年は相変わらず鋭い眼差しでこちらを睨みつけてくるのであった。
「…………あははは、まだ睨まれてら」
「昨日、彼が急に王の間に来た時もずっとあんな感じでしたよね」
「そうだな。……ところでさ?」
「……なんですか?」
「どうして敬語なんだ?」
「いえ、何となく」
2人の会話はそこで途切れた。
また時を少し遡り、22時間程前。
琢斗と尚貴が龍斬丸を持ち上げようとして全く持ち上げられなかったという一幕の直後の事である。
エンシェントワイズモンが琢斗を呼び出し、アップデートされたD-オルタを手渡した。
それを受け取った琢斗は、早速座標を調整し、玄関の中へ帰れるように設定。
話も終わったので、春菜が言いかけていたD-オルタの新機能の事を訊こうと彼女の元へと歩き出した、その時。
開きっ放しになっていた王の間の扉の中央に、1人の青年が佇んでいた。
琢斗は……いや、この場に居た者達全員が、その青年に見覚えがあった。
よく木の幹にもたれ掛かって微動だにせず座っていた人物だ。
その青年の下顎辺りまで伸びた髪は金色に染まっており、前髪は頭頂部で束ねられている。
そして彼の眼光はこの場に居る誰よりも鋭い。
そんな青年に向かって最初に口を開いたのは、意外な人物であった。
「待たせたな、これで良いか?」
「……ああ」
「ならば、これを受け取るがいい」
一体いつの間に動いていたのであろうか、エンシェントワイズモンが青年の目の前に居た。
特に驚いた様子の無い青年は、身に纏った雰囲気とは裏腹にけだるそうに返事をして、鋼の十闘士から琢斗達と同じD-オルタを受け取った。
すると青年は足取り重そうに歩き出し、ギンリュウモンの前でその歩みを止めた。
「──俺と組まないか?」
「私が? お前と? 何の為に?」
青年の申し出の意味する所を全く理解していなさそうな反応を示すギンリュウモン。
青年にとってそれは思いもよらない反応だったらしく、一瞬眉をひそめて怪訝そうな表情を示す。
そんな青年に助け舟を出したのはザンバモンであった。
「ギンリュウモンよ、人間はな、共に戦うと力を限界以上に引き出してくれるのだ」
「何と! そうなのですか御館様?」
驚いた様子のギンリュウモンの問いに、青年とザンバモンが大きく頷いた。
「……人間よ、すまぬが少し考えさせてくれ。提案はとても嬉しい。だが、私自身の力だけで師を超えたいという想いもあるのだ」
「────! ……そうか、分かった。だが、その時が来るまでお前について行ってもいいか?」
「……ああ、私はそれで構わない」
だが、それでもギンリュウモンの口から返って来た答えは青年の想像に反したモノで。
青年は思わず目を見開いてしまうのだが、すぐに落ち着きを取り戻して頷いてみせる。
しかしそのまま引き下がった訳ではなく、自分が一行について行く事を認めさせるのであった。
その青年の言動に琢斗達は多少なりとも驚かされたようで、全員の目がわずかに見開かれていた。
そして、その会話が終わるのを待っていたのであろうか、おもむろにエンシェントワイズモンが話し始めた。
「話はもう1つ。実は、新しい機能を追加した。今ワシから渡した2人のD-オルタには既に追加してある」
「どんな機能なんだ?」
「お前達の世界では有名な機能だ。多分アプリの名前を見ただけで想像が着くと思うが……」
「……?」
その言葉を受けて、琢斗はD-オルタの画面をスクロールさせ、それらしいアプリが無いか探してみる。
……それらしいアプリはすぐに見付かった。
それは非常に判り易いアプリで、それを見付けた瞬間に琢斗は思わず吹き出してしまったぐらいだ。
それと時をほぼ同じくして、青年の方が激しく咳き込んだ。
それはまるで、吹き出しそうになるのを堪えたらむせてしまったかのようだった。
「……ホントに測れるのか、コレ?」
「無論だ。本来であれば人間を基準にすべきなのだが、人間は個体差が激しいからな。幼年期のクラモンを基準にしてある」
「ねえ江原くん、一体何のアプリだったの?」
「……“Scouter”だ」
「え……?」
春菜も聞いた事があるその単語を聞いて、思わず訊き直してしまった。
すると琢斗は、D-オルタの画面をこちらに向けてきた。
その向けられた画面を覗き込んでみると、そこには左目側を赤いフィルムが覆うというあのアイテムそっくりなアイコンが表示されていた。
「これはあたしも知ってる。これでもしかして、デジモンの強さが測れるのか?」
「それは間違い無いと思いますよ、立花さん。エンシェントワイズモン、これで測れる強さの限界値はあるんですか?」
「表示領域の関係で999999までだ」
「へえ~じゃあ早速……うおっ!」
尚貴達の会話を聞きながら、琢斗は早速アプリを起動してみた。
するといきなり左耳にイヤーマフぐらいのサイズをした黒いインカムが出現した。
手で触ってみると、真ん中と前側に2つボタンがある。
「真ん中のボタンが通信モード、前側のボタンがスキャニングモードだ。強さを測るなら前側のボタンを1度押した後、測る相手を見てもう1度同じボタンを押せ。ちなみに、D-オルタ側で設定を変えれば右耳にする事も出来る。それと、すまんが今のバージョンでは目視出来ない所に居るデジモンの強さは測れん」
「へ~……じゃあ手始めにアルド」
「え、ボクの強さを見るの?」
「まず1回押して、と……うおっ、かっけえ!」
琢斗は前側のボタンを1度押す。
するとインカムの前側にある小さい穴から光が飛び出し、左目の前で赤いディスプレイを作り出した。
琢斗はそのギミックに感心しながら今は成熟期のドルガモンを見つめ、ボタンをもう1度押した。
すると、アニメでよく聴いた覚えのある電子音をさせながらアルドをスキャンし、その戦闘力を計測した。
「──193、か」
「それって凄いのかな?」
「じゃあレイを測ってみようか。……211だな」
「なあ江原、あたしのガブールは?」
「え~と……210か。ちなみにフィアリスは、と……おっ、374もあるぞ」
「ボクって1番弱いんだ……」
次々と計測されていく数字を聞いて、アルドは落ち込んでしまった。
その様子を見かねたのか、エンシェントワイズモンが一言口を挟んできた。
「それはあくまで“今”の数値だからな。技を使う時や戦闘中はもっと上がるし、それにそんな数値はあくまで目安に過ぎん」
「要は戦い方次第って事だアルド。まあ、あまりにも差があるとどうにもならないんだろうけど」
「うん……でもタクト、ちょっとこれも測ってみてよ。やあああああああっ!!」
測った琢斗自身もアルドを諭したのだが。
アルドは納得が行ってないらしく、突然気合いを入れ始めた。
いや、ただ気合いを入れただけではない。
アルドの体が光に包まれ、そして。
「お、おお……! すげえ、一気に3800まで上がったぞ。これが20倍●王拳か」
「違うよ! ドルグレモンだよ! ……ふう」
アルドは数秒の間だけ完全体の姿を見せたかと思うと、すぐにドルガモンに戻った。
どうやらほんの数秒の進化であればドルモンには戻らないらしい。
……と、そこまで測った所で琢斗はアプリを終了した。
同時にインカムは消え、元通り手ぶらな状態に戻る。
「他にも色々と試したいのは山々だけど、楽しみは後に取っておこうかな」
琢斗がそう呟きながらふと周りを見回してみると、既に先程の青年の姿は無かった。
訊く所によると、最初は琢斗と同じようにスカウターを使っていたのだが、しばらくすると部屋を出て行ったらしい。
それからは、今から出発するにはもう遅い時間になっていたので、同じチームになったメンバーと話したりしてお開きとなった。
時は現在に戻り。
「そういえばさ、エントリーっていつまでにやんなきゃなんないんだ?」
「さあ……? そう言われてみればいつまでなんでしょう?」
「お~い、ザンバモーン! エントリーっていつまでにやんなきゃダメなんだ~?」
「Mの31日までだ」
琢斗がふと疑問に思い、期限を尋ねたらそのように返事が返ってきた。
その日付の表現に反応した尚貴が更に質問を重ねる。
「M……3月はもう過ぎてますから、5月ですかね。ちなみに、そこまではここからどのぐらいかかるんですか?」
「……今のペースだと6年ぐらいか」
「ろっ──! 6年って全然間に合わねえじゃねえか!」
「……何……だと……!? ……おお!」
「いや気付いて無かったのかよ!?」
全く予想だにしなかったザンバモンの答えに愕然とする琢斗。
その話を聞いていたらしい春菜と立花も目を見開いてこちらに顔を向ける。
「おいおい、それってヤバイんじゃねえのか?」
「うん、それに、ひょっとしてその時間ってわたし達がずっとこの世界に居て歩き続けたらっていうのじゃない?」
「いや、流石に儂もそこまでは抜けておらん。1日あたり3時間程の移動での計算だ」
「そこまで一体何kmあるんですか?」
「直線距離なら4500km程度だが、エントリー兼試合会場のある“世界の首都”セント・イグドラシティは天然の要塞になっていてな。陸海空のどのルートでも直接入るのは難しいのだ。もっとも、おぬし達のパートナーが究極体なら話は別だが」
それを聞いた尚貴はそれだけでは納得が行かない様子で食い下がったが、ザンバモンから詳しい内容を聞いて諦めた。
ちなみにその内容だが。
まずそのセント・イグドラシティは大陸の沿岸部にある都市である。
陸路は首都の周囲約1000kmに渡って“アイアンデザート”と呼ばれる砂鉄の砂漠が広がっており、1日の温度差が200℃を超える。
海路については、首都周辺が非常に入り組んだ湾になっている為か渦潮が大小併せて千を超える程ある。
更に何の前触れも無く嵐が頻繁に発生するという魔の海域を越えて行かなければならない。
最後の空路には、都市の中心に聳え立つ世界樹“イグドラシル”の枝葉が首都の周囲約300kmに渡って伸びており、更に凄まじいまでのダウンバーストが吹き荒れているとの事だった。
「そんなのどうやって辿り着けばいいんだよ? どっからも入れねえじゃん」
「…………後は超高空からか、地下からぐらいしか思い付かないな」
「超高空は無理だな。噂ではイグドラシルの頂上には“世界の中核”と云われるカーネルとやらがあるらしく、ある高度から上には障壁があって枝葉より上まで飛ぶ事は出来ん。だから、地下から向かう」
「でも、その道も楽じゃなさそうね」
「そうでもない。ただやたらと距離が長いだけだ。“グランド・ケイヴ”と呼ばれるそのトンネルの長さは、儂等が使う予定の場所からでも全長約2万2千km」
「メチャクチャ遠回りじゃないですか」
「何でも、首都を中心に螺旋状になってるらしいからな」
「だったら、その何とかって砂漠のギリギリのトコからトンネルに入ればもうちょっと近えんじゃねえのか?」
「確かにそうすれば総行程1万kmぐらいになるがな。残念ながら他国の領地を通らねばならんのでそのルートは使えん」
「……まあこの際距離の事は後回しにして、間に合わせる方法を考えよう。直線距離の4500kmだって、今のペースじゃあ1年ぐらいかかりそうだし」
結局距離よりもまず移動速度が問題であるという結論に達し、沈思黙考する琢斗達一堂。
最初に発言をしたのは、意外な事にガルルモンだった。
「オレだけだったら、1ヶ月あれば1番遠回りなルートでも行けるんだがな」
「ガブールだったらって……そうだ!」
「何か思いついたの、立ちゃん?」
「あたし等も走ればいいんだよ! 今のあたし等って、パートナーの力が使えるんだろ? て事は、あたしもガブール並の速さで走れるんじゃねえかな?」
「ああ! そういえばそんな設定ありましたね!」
「なんだ? 尚貴やたちばなは試した事無かったのか? 結構面白いぞ?」
「ちょっとした漫画のキャラみたいになれるわよ」
ガルルモンの言葉で閃いた立花の案に尚貴は感心したが、琢斗と春菜はそこまで驚いた様子は無く。
2人で目配せし合ったかと思うとこう言い放った。
「何なら、どんなもんかちょっと見せてやるよ。悪いけど尚貴とたちばなは100mぐらい離れた所で測ってみてくれ」
「かなり速いと思うから、集中しててね」
「わ、分かりました」
「……何かちょっと面白くなってきたな、ガブール」
「──後でリッカもやってみればいいさ」
その提案を聞いて尚貴と立花は、素直に離れ始めた。
尚貴がD-オルタで位置情報のアプリを使って100mを測り、立花はストップウォッチのアプリを立ち上げると同時にスカウターを起動し、春菜に通信を入れた。
『春菜、こっちは準備OKだ』
「うん、分かった。江原くん、いいって」
「ん、ん、……っし、まだアルドが成熟期になってからは本気で動いた事はねえけど、いっちょやってみっか」
立花からの通信を受けた春菜の合図で、屈伸運動をしていた琢斗はクラウチングスタートの構えを取る。
そして2、3度深呼吸をした所で春菜に声を掛けた。
「…………よし、弥生、俺もOKだ」
「こっちもOKだよ、立ちゃん」
『分かった。じゃあ、春菜がこっちにも分かるように合図をしてくれ』
「うん。じゃあ江原くん、行くよ。よ~い……どん!」
「──っ!」
春菜がその手を振り下ろした瞬間。
琢斗の体が弾けるように前に出た。
スタート地点には春菜の背丈程の砂埃が舞い上がり、現在の琢斗の瞬発力が常人のそれを凌駕している事を物語る。
案の定、立花が立っている地点までの距離はみるみる内に縮まって行き。
そのまま立花の前を通過して20m程の地点まで滑り込み、止まった。
「──どうだった?」
「……5秒6だった」
「凄かったですよ、琢斗君。まるで黒神ファイ●ルみたいで」
「……いや、あの程度じゃせいぜい黒神●ァントムだろ。それに、多分弥生の方が速い。あいつの方が長い事フェアリモンの力を使ってるから慣れてるだろうし」
「あ~……そういえば以前ガブールを……いや、何でもないです」
以前、春菜がガルルモンを軽くあしらった事があったらしい、という話を尚貴が思い出しながら呟いていると、春菜から通信が入った。
『江原くんはどうだった?』
「5秒6だった。もうビックリしたよ」
「最初の修業の時の亀仙人と同じスピードですからね」
『5秒6ね……立ちゃん、わたしはもういいから適当に合図して』
「ああ、分かった。……?」
立花はすぐさま手を挙げ、合図をしようとしたが、春菜の様子を見て手が止まってしまった。
どことなく不自然な格好をしているように見えたからだ。
春菜は手を少し広げ、足を少し前後にズラした状態で爪先立ちをしているように見える。
とても走り出す姿勢には見えない。
「あれはもしかして……50%の力を出す前のフ●ーザの構え?」
「楽しかったよ。こんなに運動したのは本当に久しぶりだった……ってんなアホな。ってか弥生の奴、少し浮いてね?」
「はい、浮いてますよ~♪」
「え? フィアリス、今何て? 春菜が浮いてるって言ったのか?」
「その手を下ろせば解りますよ」
「…………。よ~い……どん!」
立花が手を振り下ろした瞬間。
尚貴や琢斗、更に我関せずといった風に歩いていた青年までもが目を疑った。
何せ人間が頭からミサイルのように飛んで来るのだ。
驚かない人間はほとんどいないであろう。
春菜は凄まじい勢いで立花の前を通過したかと思うと、爆風を巻き起こしてピタリと止まった。
ちなみに、今日の春菜は赤紫色のキュロットスカートだ。
「……立ちゃん、どうだった?」
「す、凄え……3秒2だ」
「3秒っていうと、最高速度を出した時のチーターが同じぐらいでしたよね」
立花と尚貴が春菜を讃えている側で、琢斗は未だに驚愕の表情のままで固まっている。
春菜はその表情を見て得意げな笑顔を見せ、尚貴は怪訝そうに話し掛けた。
「琢斗君、どうしたんですか? 弥生さんは琢斗君より早いかもしれないって、自分で言ったんじゃないですか」
「え? どういう事?」
尚貴の問い掛けを聞いて、春菜は不思議そうな表情を見せる。
それからしばらくして、ようやく琢斗が口を開いた。
「……バカな……あれだけのスピードで飛んで急停止をしたのに、スカートが全くめくれない……だと……!?」
その琢斗の発言は。場の空気を殺すのに十分過ぎる程の威力を持っているのであった……。