Digimon States~D-1バトラーズ~   作:宮枝嘉助

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第12話 無法の街

 

 

 

 

 普通、女子が男子に絶対領域の中の世界の話をされたら、どのような反応が返って来るであろうか。

 

 勿論、その女子の性格に因って違うであろう事は容易に想像が着く。

 顔を真っ赤に染めて黙り込む者もいれば怒鳴り返す者も居るだろう。

 あるいは突然艶っぽい表情をして誘惑して来る者も居るかもしれない。

 

 しかし、件の少女、春菜の反応はそのどれにも当て嵌まらないモノであった。

 

 

「ふふん、凄いでしょ。まあ、風の闘士であるフェアリモンの力を使ってるからなんだけどね」

 

 

 自慢げに微笑んでみせる。

 という新しい反応を見せた春菜の言葉を聞いて、琢斗はようやく得心が行った様子で頷いた。

 

 

「そうか、データ組成が同じになるって事は、そのデジモンそのものになるのと変わらない……って事は、ドルガモンにも翼があるし、俺も飛べるのか?」

 

「うん、多分飛べると思うよ。慣れるまでは結構大変だと思うけど」

「ハルナは飛べるようになるまで2週間ぐらい掛かったよ」

「でも、感覚が掴めたらすぐ飛べるよ。わたしはそれが中々掴めなかっただけで」

 

「感覚?」

「そ。1番ピンと来る例えは……そうだ、ソー●アー●オンラインの妖精達」

「あ~……すまん弥生、それ俺観てないわ。何かありきたりな感じがしたんで最初で切っちまった」

 

 

 琢斗がそう言った瞬間、琢斗は一瞬殺気のようなモノを感じて身をすくませてしまう。

 琢斗は最初、それが春菜から向けられたモノだと思ったのだが、春菜の表情は一瞬も変化していなかった事を思い出して首を傾げた。

 

 

「そっか、江原くんは観てなかったのね。じゃあ、●ーファちゃんの受け売りだけど、わたしが説明するね」

 

「おう、それで頼む」

「……こほん。えっと、まずは背中の肩甲骨の内側辺りに意識を集中して。そこに、人間にはあるハズの無い翼があるというイメージをするの」

 

「………………」

「そして、そのイメージ上の翼を実際に羽ばたかせるの」

 

「──くっ……!」

 

 

 琢斗は目を閉じて集中しているが、全く飛び立てそうな気配が無い。

 やがて、琢斗は諦めて一息つく事にした。

 

 

「──っ! ……はあっ、はあっ、はあ……くっ、ダメだ、全然解んねえ」

「あれ? おっかしーな~このアドバイスだけでキ●トくんは飛べるようになってたんだけど……」

「はあ……俺がギガ●マニアックスだったら簡単に飛べるだろうに」

 

 

 ここでフォローを入れさせて頂くとすれば、春菜が挙げた作品のあの世界ではそもそもプレイヤーが飛ぶ事が“可能”であるという事がある。

 

 ある程度上級者でないと補助コントローラー無しで飛べないにせよ、元々プレイヤーが飛べるように作られているのだから、あの作品でトップクラスのゲーマーであった彼がすぐに飛べるようになったのは至極当然であろう。

 

 加えて、本来であればあの世界でもそれなりに練習をしなければ飛べないハズで、更に言えば妖精の羽での飛び方と鳥のように大きな翼での飛び方とでは、感覚が大きく違って来るであろう。

 だから、琢斗がいきなり飛ぶ事が出来ないのも仕方が無いのではないだろうか。

 

 

「まあしょうがないですよ琢斗君。それに、僕と立花さんはどちらにせよ飛べないんですから落胆する事は無いと思いますよ」

「……そう、だな。まあ練習は続けるけど、すぐに飛べなくてもいいか」

 

「後は、あたしと小宮が走れればOKって事だよな」

「走るだけなら恐らく簡単だ。気合いを入れて“俺は人間をやめるぞ!”と叫んで走るだけで出来る」

 

「──ぶふっ!」

「「「「────!?」」」」

 

 

 後は尚貴と立花の移動方法という話になり、今まで黙っていたザンバモンが横からいきなり割って入って来てジョ●ョネタを口走ってきた。

 すると、思いもよらぬ方向から噴き出す音が聞こえてきた。琢斗達は反射的にその音がした方を見遣る。

 

 

「……ああ? んだよ?」

 

 

 そこに居たのは、ギンリュウモンにパートナーにならないか持ち掛けて保留にされていた青年であった。

 

 皆の視線が集まったのが不快だったのか、相変わらずの鋭い視線で琢斗達を射抜いて来る。

 その威圧感は、並の人間なら逃げ出してしまってもおかしくない程であったが、相手が悪かった。

 

 

「おぬし、今のが解るのか?」

「……ああ、悪いか?」

 

 

 究極体であるザンバモンには、人間の威圧など通じるハズも無く。青年は普通に答えざるを得なかった。

 

 

「流石御館様、我々に出来ない事を平然とやってのけるッ! そこに痺れる憧れるゥッ!」

「そこでお前は“お前もかよ!”と言う」

「お前もかよ! ……ハッ!?」

 

 

 そのザンバモンの青年への対応を見たギンリュウモンがネタを被せ、更に琢斗がネタを盛る。

 素だったのかノッたのかは判らないが、青年がツッコミを入れてハッとした表情になる。

 そして青年がハッとした表情になった瞬間、辺りが静まり返るのであった。

 

 

 

 

 完全に固まってしまったかと思われた空気の中で、沈黙を最初に破ったのは立花だった。

 

 

「……あんた、思ってたより面白い奴だったんだな」

「………………」

 

「時に人間よ、そういえばおぬしはパートナーがまだ居ない。故にこれからの移動に付いて行けぬのではないか?」

「…………ギンリュウモンが俺のパートナーになる決心が付いてない以上、俺は歩くしか無いだろう」

 

「ふむ……ならばギンリュウモンよ、この者を乗せて行け」

「了解しました、御館様」

 

 

 そして、琢斗達はパートナーがまだ居ないこの青年がどうやって一行に付いて行くかという点についてすっかり忘れていたのだが、ザンバモンの指示でギンリュウモンが青年を乗せていく事になった。

 

 

「ところで、尚貴とたちばなはどうするんだ? 少し練習するか?」

「いや、多分何とかなると思います」

「気合いで何とかなんだろ?」

 

 

 琢斗が2人に訊くが、2人は共に大丈夫との返事だった。

 ……と、そんな返事をしつつ、尚貴が両手を振り上げ、

 

 

「────ふんっ!」

「……おお」

 

 

 垂直跳びの要領で一気に5m近く跳び上がった。

 それを見て感嘆の息を漏らす琢斗を前に、尚貴は難無く着地を決める。

 

 

「このぐらい跳べたら、多分走る方も大丈夫だと思います」

「そうだな。……たちばなは試さなくていいのか?」

 

「…………変態」

「江原くん、サイテー」

 

「え? ──っ! あ、いや、そんなつもりで言った訳じゃ……!」

 

「さっき春菜にあんな事言ったくせに」

「……江原くんのえっち」

 

 

 尚貴の様子を見て、琢斗は立花も試さないのかどうか訊いてみただけだったのだが、立花だけでなく春菜からも罵声を浴びてしまう。

 

 そこで琢斗は自分の発言の意味に気付き、慌てて言い繕おうとするが、時は既に遅く、2人からジト目で睨まれてしまう。

 

 ちなみに本日の立花の出で立ちは襟と袖口が白く、それ以外の部分はパステルピンクで彩られたワンピースであった。

 

 

「話は終わったか? 終わったなら行くぞ。出来れば3日以内に街に着きたい」

「ここから3日というと、あそこですか御館様?」

 

「うむ。あそこからなら“グランド・ケイヴ”の入口も近いからな」

「悪いなザンバモン。俺達人間が丸1日こっちに居られたら1日で着いただろうに」

 

「気にするなタクトとやら。おぬし達が帰っている間は儂がパートナーをみっちりと鍛えてやる」

「だからタクト、気にしなくていいよ。ボク達はもっともっと強くならなきゃ」

 

「……分かった。じゃあとりあえず、今日も行けるトコまで行くか」

 

 

 こうして、琢斗達はパートナーの力を借りながらエントリー会場に向けて移動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、着いたぞおぬし達。ここが儂等の第一の目的地“ワイルドスラム”だ」

「おお、ここが……!」

 

 

 数日後の土曜日の午前中。

 数日間走り続けた琢斗達一行は、ようやくザンバモンが言っていた街“ワイルドスラム”に到着した。

 

 その街の雰囲気を一言で表すのならば、西部劇の舞台とスラム街を足して2で割ったような街というべきであろうか。

 メインストリートを1本でも外れると、ガーベモンやスカモンの手厚い歓迎を受けそうな気がする。

 

 

「ここに居るのか? 前回の優勝国デュメガスのメンバーの1体が」

「ああ、我がエリテリスとデュメガスは友好国でな。ここの奴とは何度も死合ったものだ」

 

「友好国なのに死合うんだ……」

「嘘ではない。その証拠として、おぬし達の持つD-オルタは、実はウチとデュメガスの共同開発だ」

 

「そうなの!? わたしてっきり、コウメイモン1人で造ったモノだと……」

「奴も1人で造ったと言い張っておるがな。実際はデュメガスのイーバモンの技術が必要不可欠だった」

 

 

 琢斗が確認するように呟いた質問に事もなげに答えるザンバモン。

 

 だがさりげなくツッコまれた尚貴の言葉はスルー。

 ザンバモンの口から驚きの新事実がサラっと告げられ、春菜達は驚愕した。

 

 

「つまり、ハードウェアをイーバモンが造って、ソフトウェアをコウメイモンが造ったって事か。こうして出来たのがD-オルタ……という事は、まさか!」

 

「どうしたの、タクト?」

「宇宙から来たデジモンと云われるイーバモンが造ったモノがiPhoneにそっくりという事は、アップ●の前会長スティー●・ジョ●スは宇宙人だったんだよ!」

 

「「「な、なんだって~っ!!!!」」」

 

 

 メン・イン・●ラックだったら本当に宇宙人にされそうですが、そのような事実は一切ございません。

 

 とそこへ近付く影。

 その影は堂々たる仁王立ちの状態でこちらに話し掛けて来た。

 

 

「よくぞ来た、ザンバモン。それと元気にしていたか、我が弟子ギンリュウモンよ」

「御師匠様、お久しぶりです!」

「久しいな、まだリュウダモンだったこやつを儂に託して以来か、バンチョーレオモン」

 

 

 その者は公立学校の男子の黒い学生服──学ランを羽織り、威風堂々とした立ち振る舞いをしていた。

 

 バンチョーレオモンは獅子の獣人といった装いだが、身に纏う雰囲気はまさしく“漢”の番長そのものであった。

 

 そしてその番長に付き従うように、リボルモンやトゥルイエモンやスターモン、ゲコモンやスカモンやガーベモン等の様々なデジモン達がずらりと並び立って琢斗達一行を歓迎していた。

 

 

「そうだな。我が国は既に出場枠が埋まってしまっていたのだが、お前の国の状況を聞いてリュウダモンを託したのだったな」

 

「丁度この人間の頼みでもあったからな」

「そうか、そういう意味だったのか」

「……え? どういう事?」

 

 

 究極体同士の会話を聞いて納得の表情を見せる琢斗。

 しかし春菜は突然のその言葉に訳が分からない。

 

 

「弥生は覚えてないか? あいつにエンシェントワイズモンがD-オルタを渡す時に“待たせたな、これで良いか?”って訊いてたのを」

「う~ん……言われてみればそんな事言ってたような……?」

 

「……まあとにかくだ。リリスモンは俺達が最初の参戦者だって言ってたけど、多分あいつの方が早かったんだと思う。パートナーが決まったのが俺達の方が早かっただけで」

「どうしてあの人の方が早いと思うの?」

 

「俺達が参戦を決めた時にはもうザンバモンはこの国に居なかったからだ」

「あ、そっか。そういえば、わたし達が参戦した時は連れて行ける人が居ないって言ってたものね」

 

「だから多分、あいつはこの世界に来てすぐに参戦を決めたけど、組みたいデジモンが居なかった。そこで、アテがあるザンバモンに頼んだんだと思う」

「なるほどね~」

 

 

 琢斗は違う可能性も考えていたので、最も可能性が高そうな話を春菜にしただけなのだが。

 春菜はあっさりとその推理を受け入れ、感心しているのであった。

 

 そして、そういう会話を他所にザンバモン達の会話は続く。

 

 

「どうだ? 久方ぶりに儂と死合うか?」

「それも悪くないが……まずは弟子の成長を確かめたい」

 

「ふむ、それもそうだな。ギンリュウモン、今のおぬしの力を見せてやるといい」

「わ、分かりました。──では師匠、全力で行かせて頂きます!」

 

「ああ、来い!」

 

 

 そう言ったバンチョーレオモンは、ギンリュウモンを迎え撃つべくどんと仁王立ちで構える。

 一方のギンリュウモンはと言うと、体勢を低く構えて力を溜め始めた。

 

 

「はあああああっ!」

「む……? これは、まさか──!」

 

 

 ギンリュウモンのその様子に真っ先に違和感を覚えたのは、対峙していたバンチョーレオモンであった。

 

 ただ力を溜めるだけにしては長過ぎるのだ。

 そしてその違和感は、次の瞬間にザンバモン以外の全員が認識するモノになる。

 

 

「なっ……! あいつまさか、完全体に進化する気か?」

「2000……2500……3000……まだ上がってく。これは、本当に──」

 

 

 一体いつの間に出したのであろうか、尚貴がスカウターでギンリュウモンの戦闘力を測っていた。

 ギンリュウモンの身体は既に白い光に包まれており、弾ける寸前だ。

 そして、その白光の飽和状態は長くは続かなかった。

 

 

「7000……7500……8000……バカな……ッ!」

「はああああ~っ! ギンリュウモン超進化~! ──ヒシャリュウモン!」

 

 

 光が弾け、そこに現れたのは紛れも無くギンリュウモンが進化した姿であった。

 

 成熟期であった時は、まだ獣や恐竜を思わせるような雰囲気が残っていたが、完全体となった今は文字通り完全な龍と化していた。

 

 その姿は、トカゲ等の4本足の爬虫類が巨大化したとされる西洋のドラゴンではなく、蛇が巨大化して神格化したとされる中国の龍に近い。

 

 平たく言えば、DQのし●りゅうに黒い甲冑を装備させて深緑と深紅の珠を持たせたら同じような姿になるのではないだろうか。

 

 

「な、尚貴、あいつの戦闘力はいくつになった?」

「8000以上だ……! ──ぁ」

 

 

 琢斗の問いに答えつつ、尚貴はノリでついスカウターを握り潰してしまったのだが、アプリを再起動したらスカウターは元通り復元された。

 ひょっとするとコウメイモンは、ノリでスカウターを壊される可能性も想定済みだったのかもしれない。

 

 

「ほう、もう完全体になれるようになっていたか。ならば──ふんっ!」

 

 

 完全体に進化した弟子を見たバンチョーレオモンは、獅子としての本能からか獰猛な笑みを浮かべた。

 そして1つ気合いを入れて震脚を打ち込み、腰を深く落として構え直した。

 

 

「──さあ、来い!」

「し、師匠、いくら師匠でも今の私の攻撃をまともに喰らったらたたでは──!」

 

「お前は師匠をナメてるのか? 強くなったとはいえ、完全体ごときの攻撃で我輩がどうにかなる訳が無いだろう! いいから全力で来い!」

「──わ、分かりました。では、行きます──っ!」

 

 

 バンチョーレオモンに強い口調で諭されたヒシャリュウモンは、師匠の気が変わって防御するか避けるかしてくれる事を願いつつ、必殺技の準備に入った。

 

 ヒシャリュウモンは天高く舞い上がり、その身体を1本の巨大な日本刀に変化させた。

 そしてそのまま、真っ直ぐ地面に向かって直滑降した。

 

 

「はああああ~! 奥義ッ! 成・龍・刃ッ!」

 

 

 ヒシャリュウモンは上空から急降下し、地面に到達する寸前にその向きをバンチョーレオモンが居る方向に急転換する。

 

 その技の名の通り1つの刃と成った龍は、重力の力を借りて十分な加速を得て、その刃は音速の壁を容易く切り裂き音速を超越していた。

 

 

「────ッ!」

 

 

 バンチョーレオモンは腕を交差させ、咄嗟に顔面だけを守った。

 

 それとほぼ同時に刃と化しているヒシャリュウモンが激突。

 音速で飛行する日本刀の運動エネルギーは凄まじく、バンチョーレオモンを数百メートル離れた所にある20階建てのビルまで吹き飛ばしてヒシャリュウモンは急上昇。

 バンチョーレオモンが叩き付けられた建物を両断した上で、その建物の瓦礫の上空で元の姿に戻った。

 

 

「……凄え技だったな、今の」

「ええ、単純な技ですが、それ故にこれといった穴が無い」

「何で? 簡単に避けられそうな技だったけど」

「いいえ立ちゃん、今のは凄く避けにくいと思うわよ。地面スレスレまで落ちる間は、どこに避けても意味無いし」

 

「そっか、動いた方に向きを変えればいいから、避けるとしたらあいつが向かって来てからじゃないとダメなのか」

「でもさっきのスピードですからね。向かって来るのを察知してからでは避けるのも難しいって訳です」

「勿論、対策が無い訳じゃないけどな。例えば、あいつより上まで飛ぶとか」

 

 

 地上で琢斗達がそんな話をしているとは露知らず。

 元の姿に戻ったヒシャリュウモンは今の技に確かな手応えを感じていた。

 

 幸い、バンチョーレオモンが腕を交差させて防御してくれたので、殺してしまう確率が0になったというだけでもヒシャリュウモンは安心していた。

 

 

「──せああっ!」

 

 

 瞬間、瓦礫の山が吹き飛び、下からバンチョーレオモンが現れた。

 だがその姿はヒシャリュウモンが予想していたモノとはかなり異なっていた。

 

 これ以上無いぐらいの会心の手応えだったのだ。

 例え相手が究極体であろうと、まともに喰らったらただで済むハズが無いと確信出来る程の。

 

 にも関わらずバンチョーレオモンは殆どダメージを受けている様子が無い。

 学ランの肘の部分から先がボロボロになっているぐらいだ。

 

 ──とそこでヒシャリュウモンはバンチョーレオモンの姿に違和感を覚える。

 

 技を仕掛ける前と今とで何かが違う。

 その答えに黒き鎧龍が辿り着いたのは、十数秒が経過した後の事であった。

 

 バンチョーレオモンが身に付けている学ラン。

 これは装着者の“漢気”によって強度が変わると云われ、その“漢気”を最高まで高めると全ての物理攻撃の威力を89.9%殺してしまうとされている。

 

 バンチョーレオモンは、その学ランに袖を通していたのだった。

 それが意味する所は、弟子であるヒシャリュウモンは当然理解していた。

 

 

「リュウダモン……いや、今はヒシャリュウモンだったか。素晴らしい攻撃だったぞ。よもや我輩に学ランの袖を通させ、かつその学ランをここまでボロボロにしてみせるとは」

 

「では、合格ですか、師匠!?」

「……我輩の一張羅をこんなにしてくれた罪は重いぞ、ヒシャリュウモン」

 

「え゙!?」

「それとな……」

 

「はい?」

「ちょっと痛かったじゃねえかコンチクショウ!」

 

「ぶろぉぅえっ!?」

 

 

 完全に油断しきっていたヒシャリュウモンの顎にバンチョーレオモンの強烈なアッパーカットが直撃。

 その一撃でヒシャリュウモンはリュウダモンにまで退化し、昏倒してしまう。

 

 

「うわあ……何て理不尽な扱い」

「……何か、ああいう扱いを受けるのが彼の個性に見えてきましたよ」

 

 

 そして同時に、琢斗達からはボコられキャラのレッテルを貼られてしまうのであった。

 

 

 

 

「──まあ、とにかくだ。よく来たな、我々はお前達を歓迎するぞ」

「バンチョー、本当にこんな奴等を歓迎するのか? 正直こんなチーム、オレ様だけで全滅出来そうだけど」

「今はまだ確かにそうかもしれんがな。見た目で判断はしない方がいい。今の姿が本来の姿ではないだろうしな」

 

 

 改めて歓迎の言葉を述べてくれたバンチョーレオモンの意に水を差すかのようなタイミングで、1体のデジモンがバンチョーレオモンの横に進み出て来た。

 

 そのデジモンは、さながら黄金の星とでも言うべき姿をしていた。

 その星から手足が生えて、星の中央部分にはサングラスが黒光りしている。

 

 

「あ、あいつは知ってる。ス●フィーだろ?」

「違うよ! スーパースターモンだよ! スタ●ィーはもっと可愛いよ!」

 

「いや、それ以前に●タフィーにはあんな風に手足は生えてねえよ」

「クロスウォーズのスターモンだったらちょっと似てるかもしれないですけどね」

 

「オイお前等! 無視すんな! お前等の事を言ってるんだぞ!」

 

 

 実際、結構屈辱的な事を言われたハズだが、琢斗達は特に意に介した様子も無く任天堂のキャラクター談議に興じていた。

 その為、挑発したつもりが完全にスルーされてしまい、逆にスーパースターモンが怒ってしまった。

 

 

「だが、スーパースターモン。1対1では確かに勝てんかもしれんが、俺達全員を相手にして勝てるってのは流石に言い過ぎじゃないか?」

「ふん……多分、お前等のパートナーもさっきのリュウダモンのように完全体になれるんだろう?」

「………………」

 

 

 スーパースターモンのその言葉を聞いて、琢斗の表情がわずかに強張った。

 

 その黄金の星型デジモンが言った言葉が正しかったからである。

 実は旅立った時には、グレイモンとガルルモンはまだ完全体になれなかったのだが、この街に到着するまでの間にわずかな時間ではあるものの進化出来るようになっていた。

 

 それは尚貴と立花が移動の為に走る事でD-オルタを“使って”いたという事と、人間達が帰っている間のザンバモンのしごきのおかげであったのだが。

 

 

「──そいつを考えに入れてもオレ様の計算では……約50パーセント。つまりマックスパワーの半分も出せばお前等をデータのチリにする事が出来る」

 

「いっせーのーせ3! おっしゃあ抜けたぁっ!」

「くそ~」

 

「──って無視すんなコラァッ!」

 

 

 琢斗達はグループ内で立てた指の数を的中させるゲームに興じていた。

 またもや無視されたスーパースターモンが怒り狂っている。

 

 

「……余程俺達と闘ってみたいんだろうが、無駄だぞスーパースターモン」

 

「何……?」

「正直な話、今の俺達ではお前の言う通り、束になってもお前に勝てん。そうだな、尚貴?」

 

「ええ、貴方の今の戦闘力が40000。さっきのヒシャリュウモンが成龍刃を放つ瞬間ですら20000。僕達の中ではシューツモンがギルガメッシュスライサーを放つ瞬間の12000が最高。これだけ差があると流石に勝てないでしょうね」

 

「~~……ったくお前等、そんな事で大会を勝ち抜けると思っているのか!? 言っておくが、オレ様の国の代表は強いぞ? 既に全員のパートナーが究極体になっているしな」

 

 

 その言葉に真っ先に反応を示したのは琢斗だった。

 だがスーパースターモンに煽られた訳ではない。

 彼が言ったある単語に反応したのだ。

 

 

「パートナー? そうか、だから共同開発だったのか!」

「どういう事だ、江原?」

 

「デュメガスも俺達みたいに人間と一緒に出場するって事だよ! イーバモンがどうしてわざわざ俺達の国の為にデジヴァイスの開発に協力してくれたのか気になってたんだけど、そういう事だったのか」

 

「ふ~ん……で、それってそんなに驚く事なのか?」

 

 

 立花のあまりにも淡泊な反応に琢斗はずっこけてしまった。

 ずっこけている琢斗の代わりに、春菜が立花に普通の国は人間と一緒に参加はしないんだという事を説明した。

 それでも立花は納得しただけで特に驚きを顕わにする事は無かったが。

 

 

「──オレ様にすら勝てないようじゃ、大会には絶対に勝てないぜ」

「勿論これから修行するさ。だから、しばらくここに居てもいいか、ザンバモン?」

「ああ、この旅はお前達の修行も兼ねている。だから、元々1週間ぐらいはここに留まるつもりだ」

 

「だったら、1週間以内にお前ぐらいには勝てるようになってみせるさ」

「頼むぜ、ちっとは強くなって面白い試合にしてくれよ。まあ勿論、最後に勝つのはオレ様の国だがな」

「──フッ、僕達に協力した事を後悔させてあげますよ」

 

 

 琢斗とスーパースターモンのやり取りに尚貴が割り込んだ途端、空気が変わった。

 

 

「おお、ナオキかっこいい~」

「ケッ、口だけになるんじゃねえぞ」

 

「小宮くんもそういう事言うんだね」

「小宮も中々言うじゃねえか」

「ははっ、俺の台詞取られちまったな」

 

「え、あ、ちょっ、からかわないで下さいよ~!」

「……俺が割り込むつもりだったのに」

 

「「「「え゙!?」」」」

 

 

 一同から一斉に囃し立てられて照れる尚貴。

 だがその盛り上がりも、今までずっと黙っていた金髪の少年に全て持ってかれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、琢斗達は1週間程の間この“ワイルドシティ”で主に格上の者達との組み手を中心とした修行を積む事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その修行の日々は瞬く間に流れて行き、金曜日。

 修行の仕上げとして、琢斗達はギンリュウモンを除いた全員でスーパースターモンへと挑む。

 

 この街に到着した土曜日から前日の木曜日までの間、琢斗達は敢えて1度もスーパースターモンとは組み手をしていない。

 それは、彼に事前情報を出来るだけ与えないようにする事で、可能な限り公正な実力勝負にしたかったからだ。

 

 

「さあ、この1週間の成果、オレ様に見せてみろ!」

「ああ、行くぜスーパースターモン!」

 

 

 間もなく、この街最後の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた……。

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