Digimon States~D-1バトラーズ~   作:宮枝嘉助

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第3話 決意表明

 

 

 

 

 場にほんの一時の静寂が訪れる。

 エンシェントワイズモンは琢斗達が放心状態になっている間に去って行ってしまった。

 琢斗達はといえば、祐子がここに居ない事を聞かされたショックが大きいのだろう。しばらくの間琢斗達は沈黙していた。

 

 ……そんな沈黙を破ったのは、先程まで喋っていた琢斗でも案内役として残されたドルモンでもなく、春菜だった。

 

 

「ねえ江原くん、もしかして戦うつもりなの……?」

「……ああ、俺は参加する。面白そうだし、記憶消されるのは嫌だからな」

 

「お、面白そうって、戦いになんてなったら何があるか……っ!」

「それに、ここでなら俺は花粉を気にせず自由に動けるんだ」

 

「ぁ────」

 

 

 琢斗の言葉を聞いて、初めて春菜は気付いた。

 琢斗が花粉症の時の症状を全く見せていないという事に。

 

 祐子の事についての方針を決めるよりも先に決めなければならない事がある。それは、この世界でデジモンとパートナーを組むのかどうか。

 

 パートナーを組まなければこの世界での記憶は消され、何事も無かったように元の世界に戻れる。

 パートナーを組めばこの貴重な体験の記憶は残るが、危険と隣り合わせの戦いが待っている。

 

 しかも祐子はここに来ていないという。

 春菜からすれば記憶が残らないのは残念ではあるが、ここに残る理由なんてどこにも見当たらなかった。戦いの始まる半年後まで帰る事が出来ないのなら尚更である。

 

 しかし琢斗は違う。

 ここにさえ居れば、わざわざ引き篭る必要は無くなる。

 

 元々琢斗は好きで引き篭っている訳ではない。

 昔から夜はゲームをしていたが、昼間は外で体を動かす方が好きなのだ。

 引き篭っている間に体が鈍ってしまって体育の成績は良くないが。

 

 

「確かに危ないかもしれない。大人しく帰った方が正しい選択なんだろうとも思う。でも俺は、3ヶ月も何もせず家に引き篭る生活は嫌なんだ。この世界で何か出来る事があるっていうなら、俺は──」

 

「江原くん……」

「それに、多分半年も帰れないなんて事は無いさ。元の世界での生活に支障は出ないと思う」

 

「え? どうして?」

「これはただの勘だけど、神隠しに遭った人全員が大人しく帰る事を選んだとは思えないんだ。それでも全員が帰って来てるという事はつまり、参加者も元の世界には帰れてるんだと思う。……本当にただの勘だから、全員大人しく帰ってるだけかもしれないけどな」

 

「……そうね。参加してる人だって居るかもしれないものね」

 

 

 もう1つ、国民の不安を抑える為に帰って来ていない者を政府が数に入れていないという可能性も琢斗は考えていたが、これ以上春菜に自分の事を心配させたくなかった琢斗は黙っていた。

 

 春菜の気持ちは揺れ始めていた。

 記憶を残したまま元の世界でも暮らせるかもしれないからだ。

 目の前に参加しようとしている者がいる以上、琢斗の仮説には説得力がある。

 半年も帰れないのなら遠慮がちにもなるが、帰れるのなら──。

 

 

「──だから、俺は参加する。別に弥生は帰ってもいいぞ」

「~っ! わたしも参加するわよっ!」

 

「……え? 本気か弥生? ぶっちゃけ帰った方が絶対いいと思うぞ?」

「江原くんがそれを言う訳? わたしだって記憶消えちゃうのは嫌だもの」

 

 

 春菜の発言に本気で驚く琢斗。

 言った春菜自身は、つい勢いで言ってしまった自分の発言に少し後悔していた。

 正直な話、1番の動機は琢斗に“帰ってもいい”と言われた事による意地だったからだ。

 

 何故意地を張ってしまったのかは、春菜自身よく分かっていなかったが。

 

 

「……そっか。まあ、そういう訳だドルモン。改めてよろしくな」

 

「うん、よろしくね、タクト」

「さて、そうと決まったら、わたしのパートナーは誰にしようかしら」

 

「広場に居た奴から適当に選べばいいんじゃね?」

「わたしは江原くんと違ってそんなあっさり決められないわよ……」

 

 

 そういう春菜だが、彼女自身のデジモンに関する知識はというと、アニメ版のデジモンは時々観ていて、映画版は全部観たという程度だ。

 しかも何度も繰り返し観たという訳でもないので、とても曖昧な知識である。

 ちなみにドルモンが登場している例の作品は観ていない。

 

 一方の琢斗はというと、アニメ・映画は全く観ていない。

 全て家でやっているデジモンのオンラインゲームで得た知識だ。メル友にアニメ・映画と完全網羅している者が居て、そこから得ている知識もあるが。

 

 

「じゃあさ、お前を起こしてくれた奴にしたらどうだ? ダルクモンだっけ?」

「あ、それいいかも! 可愛かったしね。透き通るような4枚の羽は綺麗だったし……」

 

「ん? 透き通る……?」

「何? 江原くん、どうかした?」

 

「ああ、いや、何でもない」

 

 

 春菜の言葉から強烈な違和感を感じた琢斗だったが、敢えてスルーする事にした。

 ついでに春菜が物凄くあっさりパートナーを決めた事についてツッコむ事もスルーする事にした。

 

 

 

 

 しばらくして広場に着いた琢斗達。

 琢斗は自分の知っているダルクモンの姿を認めると、春菜にこう切り出した。

 

 

「なあ弥生、あのデジモンは解るか?」

「え? いや、見た事あるような気がするんだけど……」

「ハルナ、あれがダルクモンだよ?」

「──え? あれ? ──っ!」

 

 

 ドルモンが2対の純白の翼を持つデジモンを差して言った言葉に戸惑いを隠せない春菜。

 まさかドルモンが間違えるなんて事は考えられないので、間違っているのは自分だったという事になる。

 

 しかもさっきの琢斗の態度と今の質問の仕方からして、琢斗が自分の間違いに気付いていた事は確実で。

 一気に気恥ずかしさが押し寄せてきた。

 頬が熱くなり、紅潮してしまっているのは間違い無い。

 

 恥ずかしさのあまり両手を顔に当ててうずくまってしまった春菜だったが、琢斗は構わず話し掛けた。

 

 

「弥生、ひょっとしてあいつか?」

「え……? あ──」

 

 

 琢斗が指差した方を顔を伏せている手の指の間から覗き見ると、そこには4枚の透き通るような羽を持つデジモンが。

 思わず顔を上げて眺めていると、ドルモンが不思議そうな顔をして話し掛けて来た。

 

 

「フェアリモンなんか見てどうしたのハルナ? ダルクモンはあっちだよ?」

「……やっぱりフェアリモンにするわ。ドルモン、良かったら呼んで来てくれる?」

「うん、了解~」

 

 

 ドルモンは無邪気に頷くと、トコトコと歩いてフェアリモンの元へと向かって行った。

 

 その様子を見て、琢斗はホッと一息ついた。

 どうにか春菜に自分が間違いに気付いた事を気付かれずに間違いを正す事が出来たと思っていたからだ。

 実際はバレバレだった訳だが。

 

 しばらくして、ドルモンがフェアリモンを連れて来た。

 フェアリモンは恥ずかしがっているのか、少し俯き気味でもじもじとしていてその様は何とも可愛らしかった。

 しかもそのフェアリモンというデジモンは、人間の女性に近い体をしており、手足や顔に付いたプロテクターの部分以外は女性が水着を着ているのと変わらないような格好をしている。

 

 つまり、肉体的にはともかく、少なくとも精神的には健全な男子である琢斗としては目のやり場に非常に困る訳で。

 自然と目線がドルモンか春菜に向きがちになる。

 

 

「どうしたのタクト、目が泳いでるよ?」

「ふっ、気にするなドルモンよ……」

「何を無意味にカッコつけてんのよ?」

 

 

 髪を掻き上げてまで無駄にカッコつけてみた甲斐あってか、本当の所はバレずに済んだようだ。

 

 

「あ、あのっ! 本当にあたしがパートナーでいいんですか? ハルナさん」

「うん、勿論よ。よろしくね、フェアリモン」

「──! は、はいっ、頑張りますっ!」

 

 

 笑顔で迎える春菜に、フェアリモンは礼儀正しくお辞儀で答える。

 ちなみに両者の間では春菜が目を覚ました時に自己紹介は済んでいる。

 何気無くその様子を見た琢斗は、また急いで目を逸らした。

 理由は敢えて言うまでもあるまい。

 

 

「わたしの仲間を紹介するわね、フェアリモン。あっちの可愛い子がドルモンで、さっきからキョドってる不審者が華噴翔くんよ」

「誰やねんそれ!? ワイは江原琢斗っちゅうんや、よろしゅうな」

 

「何で関西弁っぽくなってんのよ……」

「いや、ツッコミ言うたら関西弁やろ?」

「タクト、本場の人に怒られるから止めといた方がええで?」

 

「ドルモンにも移った!?」

「ボク関西弁分カリマセーン」

「あ、あのっ! お2人共よろしくお願いしますっ!」

「気にせず挨拶した!?」

 

「「こちらこそよろしく、フェアリモン」」

「あっさり元通りに!?」

 

 

 春菜はちょっとさっきの仕返しでボケてみただけだったのだが、逆に怒涛の如くボケ倒されてしまった。

 一気に沢山ツッコまされたので少し疲れたが、その場は何とか収拾が着きそうなので良しとしよう。

 

 お互いの挨拶も済んだ所で、琢斗達はドルモンとフェアリモンの案内で王の間へと移動する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 城の門からスタートしたので当たり前といえば当たり前だが、王の間は門から反対方向に行った所の1番奥に位置していた。

 

 王の間に移動する前に広場で少し話をしていたのだが、広場に居たデジモン達はこの国の全戦力だそうだ。

 人間達はその中からパートナーを選ぶか、または帰るかを選ぶ事になっているらしい。

 

 更によくよく話を聞いていると、実は返事を保留にしたままでも元の世界に帰る事が出来るらしかった。

 この国の王の意向で、出来る限り元の世界での生活に支障を出さないようにする為の配慮だそうだ。

 その際も、当然記憶を消される等という事は無い。

 つまり、実際の所は来るのも帰るのも自由なんだという事らしい。

 

 

「まあ、それでも」

「もう決めちゃったしね」

 

 

 琢斗と春菜は顔を見合わせてそう言うと、ドルモンとフェアリモンの力も借りて、城門程ではないがかなりの重さの王の間の扉を開けた。

 

 扉の横には重そうな甲冑を身に付けて更に身の丈以上の大きさの剣を背負ったデジモンが居り、琢斗達が部屋に入ったのを確認するとその扉を軽々と閉めた。

 

 この部屋もやはりきらびやかな内装になっており、王の間だからであろうか一層眩しく感じる。

 

 

「早かったな」

「いや、きっと彼等なら参加してくれると思っていたよ」

「ふふふ……既にパートナーも出来てるみたいじゃないかい」

 

 

 そんな王の間には、3体のデジモンの姿があった。

 1体は先程会話を交わしたデジモンで、エンシェントワイズモン。

 後の2体は、琢斗にはすぐに思い当たった。

 

 

「え? もんざえモン、と……リ、リリスモン!?」

 

 

 片方はこの世界に来て最初に会話を交わした黄色い熊の着ぐるみのようなデジモン。

 もう片方は、この世界で姿を目にするのは初めてであったが、昨日ゲームのイベントで名前が挙がっていたデジモンであった。

 襲来して来た魔王の1体にその名があったのを琢斗は覚えている。

 

 

「この国の王って、リリスモンだったのか?」

「いや、妾ではない」

「私がこの国の王だ。歓迎するぞ、この国の未来を担う戦士達よ」

「え? もんざえモンが? ──えええぇぇぇええっ!?」

 

 

 ドルモンとフェアリモンは当然知っていたようで静かに膝をついて座っていたが、琢斗と春菜は驚き目を見開いていた。

 春菜も七大魔王、という言葉とそのデジモン達の名前ぐらいは聞いた事がある。

 彼等が数あるデジモンの中でも凄まじい力を持ったデジモン達であるという事も。

 

 ──リリスモン。

 七大魔王と呼ばれるデジモン達の中で唯一女性の姿を模した存在。

 黒と紫の着物を羽織り、デジモン達の中でも珍しく素顔を曝しているその姿は、一言で言い表すのならば妖艶。

 

 その容姿は間違う事無き美人であり、傍目には究極体である事さえ失念しそうになる。

 だが、間違い無く世界を脅かすとまで云われる存在である。

 

 だから、琢斗達の驚きは意外だったというより信じられない、という方が正しいモノであった。

 

 

「──ほら、やっぱり信じられないって顔をされてるじゃないかい」

「だからワシもこの部屋では元に戻った方がいいと言ったじゃろう?」

「え~? だってこの方が面白いじゃないか。仕方無いな……」

 

 

 黄色い着ぐるみのような生物は椅子から立ち上がると、突然仰向けになって倒れた。

 すると腹のチャックが開き始め、中から茶色い着ぐるみのような生物が出て来た。

 

 

「え? もんざえモンの中から……エテモン?」

「キミ達、もう少し待っててくれ。私には後2段階の変身が残されているから」

「……あんた、そのネタがやりたかっただけなんじゃないだろうね?」

 

 

 呆然としている琢斗達を他所に、黄色い熊のような着ぐるみの中から出て来た茶色い猿のような着ぐるみのような生物は白い光に包まれ始めた。

 鋼の十闘士と魔王は呆れたようにその光を見守っている。

 

 光が収まると、そこに居たのは胸に“最強”の2文字を刻んだ銀色の猿のような生物であった。

 

 

「あ、メタルエテモンよね、あれ」

「ああ、そうだな」

「そしてこれが……はあああああっ!」

 

 

 今度は先程よりも遥かに強烈な光が目の前のデジモンから発せられ、琢斗と春菜は目の前の光景を直視していられなくなる。

 

 

「……あああああああっ!」

 

 

 光がようやく収まった時。

 そこに居たのは金色に輝くスーツと王冠、そして真紅のマントに身を包み込んだ猿のようなデジモン──キングエテモンであった。

 先程は胸に“最強”と書かれていたが、今度は“大王”と書いてある。

 

 

「──これが私の最終形態のキングエテモンだ。時間が掛かって済まなかったな。まだこの変化に慣れていないんだ」

 

「……絶対嘘よね」

「ああ、凄え嘘っぽい」

 

「そういえば最近、リアルワールドの娯楽作品に興味を持っておったな」

「ああ、それで。2つのネタを合わせたって訳かい?」

 

 

 何はともあれ、ようやく王様らしいと言えなくもない姿になったキングエテモンは、黄色い熊のような着ぐるみを拾い上げるとそれをエンシェントワイズモンに託し、自分の席に戻った。

 エンシェントワイズモンはと言うと、その着ぐるみを自身のマントの中へと仕舞い込んだ。

 それは鏡の中に吸い込まれたようにも見えたが、琢斗は深く気にしない事にした。

 

 

「──さて、タクトとハルナ。返事を聞かせてもらおうか」

「俺は、戦う。この世界で俺に何かが出来るのなら」

「……わたしも、戦います。この楽しい時間を失わない為に」

「そう、か……ありがとう。エンシェントワイズモン」

「2人共、こちらへ来てくれ」

 

 

 2人の返事を聞いて王様は笑顔を浮かべると、大臣の名を呼んだ。

 エンシェントワイズモンは頷き、琢斗と春菜を自分の所へと呼び寄せる。

 2人は言われるままに大臣の元へと歩いて行く。

 

 

「これを受け取って欲しい」

 

 

 2人の手の中に収まった物体は、ボタンが4つ程しか無い割に画面がかなり大きい黒と白の端末で、琢斗には黒い方が渡され、春菜には白い方が渡された。

 

 

「これは……iPod touchか?」

「いや、デジヴァイスでしょ?」

「いや、iPhoneだ」

「「違うんかい!」」

 

 

 琢斗はわざとボケたつもりが半分当たっていたので思わず春菜と一緒にツッコんでしまった。

 だがエンシェントワイズモンは特に動じる事も無く話を続ける。

 

 

「ただし、ワシが改造した特別品だ。名付けてD-オルタ」

 

「D-オルタ……」

「D-オルタ間では例え世界を隔てていようとも通信が可能な上に、どこに居ようともデジタルワールドとリアルワールドの移動が可能。更にiPhoneとして使う事も可能だ。流石に携帯として契約は出来んがな。既にiPhoneのSIMカードを持っているのなら話は別だが」

 

「へえ、凄いんだ……」

「ちなみに改造品の為iPhoneとしてのOSのバージョンアップは出来んのでこっちでワシがやる。その時に、何か思い付いたら別の機能も付けておこう」

 

 

 ボタンを押して画面をタッチしてみると、確かに見た目はただのiPhoneである。

 ただ、見た事も無いアイコンがいくつかあり、それがこのD-オルタならではの機能という事なのだろう。

 

 

「それとは別に、D-オルタを持っているだけで有効になる機能がいくつかある。まず1つが、お前達のデータ配列の組み替えだ。パートナーのデータ構成を元にお前達のデータの組成強度を上げるモノで、その気さえあればお前達自身が戦う事も可能になるだろう」

 

「へ? 俺達自身が、戦う……?」

「ていうかデータ配列がどうとか訳分かんないんだけど」

 

「要するに俺達の体をデジモン並に丈夫にしてくれるって事だろ?」

「へ~……そうなの?」

 

「その通りだ。だが別にそれは強制ではない。戦場となる闘技場にはお前達も立たなければならないのだから、これはお前達が巻き添えを喰らっても死なないようにする為の機能だ。勿論、この機能はリアルワールドでは働かんぞ」

 

「巻き添えって……本当に大丈夫なの?」

「それは分からん。何せ実験のしようも無かったからな。だが理論上は完璧だ。お前達のパートナーが強くなればなる程お前達自身の強度も上がって行くハズだ」

 

「エンシェントワイズモン、このPartnerとかいうアイコンは?」

「それでお前達のパートナーを登録するんだ。いくらワシでも、お前達が参加するかどうか、ましてやどのパートナーを選ぶかなんて分かる訳が無かったからな」

 

「ふ~ん……出来たわ。フェアリモンをパートナーに登録したって」

 

 

 春菜は入っていたアプリの案内に従ってフェアリモンをパートナーとして登録した。

 後は琢斗がドルモンを登録すれば話は終わるのだが……。

 

 

「なあ、ここであんた達の内の誰かをパートナーにする事も出来るのか? 例えばリリスモン、あんたにするとか」

 

「え? タクト!?」

「妾をパートナーにすると申すか? ふふふ、面白い事を考えよるな、坊や」

 

「だって、おかしいだろ? あんた達のような究極体が居ながら、何で俺達がわざわざ参加して戦う必要がある? どう見たって俺達は足手まといじゃないか」

「……まあ、坊やの言い分も最もよの。だがこれはイグドラシルが決めた戦のルール。如何に妾といえどそれは覆せぬ」

 

 

 驚くドルモンを余所に、琢斗はこの国の王妃に向かって疑問をぶつけた。

 リリスモンは特に気分を害する事も無く妖艶に微笑みながら琢斗に答える。

 それに付け加えるように、この国の王が口を挟んだ。

 

 

「究極体は1度しか参加出来ないんだ。だから私もリリスモンも参加出来ない。勿論そこの、……エンシェントワイズモンも」

 

「おぬし、今何故詰まった?」

 

「それは、ドルモンの究極体が過去に既に出場していたら出れないって事か?」

「それは違う。デジコアで区別される為、そういう場合は出場可能だ」

 

「なあおぬし、何故さっき詰まった?」

 

「だから勿論、さっきまでの私のように完全体に戻れば出場出来なくも無いが、それよりは当然キミ達のパートナーを究極体まで育て上げた方が強いに決まってるからね。だからお願いしているんだよ」

 

「さっきから何故詰まったんじゃと訊いとろうが、オイ」

 

「さっきから何だい? コ……エンシェントワイズモン」

「コって何じゃ、コって。……まさかおぬし、あの時聞いておったのか!?」

 

「な、何の事かな? ……ぷ」

「何を笑っとるんじゃ、何を!?」

 

 

 キングエテモンとエンシェントワイズモンのやり取りは放っておき、琢斗はD-オルタを操作してドルモンをパートナーとして登録完了させる。

 先程は驚いていたドルモンであったが、琢斗が登録してくれた事がドルモン自身にも解ったのか、安心した表情になった。

 

 

「──で、リリスモン」

「何だい坊や?」

 

「そのD-1トーナメントとかいう大会のルールを訊いときたいんだけど」

「ああ、そうさね。話しておかないといけないね。まず、トーナメントとは言っておるが、この戦いは国別のチーム戦になっておる」

 

「……って事は、わたしと江原くんは同じチームとして戦うって事?」

「その通りさ。それから、チームは補欠1体を含めて最大6体まで。そして戦いの内容は毎回大将同士の話し合いで決める。勝ち抜き戦でも総当たり戦でもいきなり6対6で戦い始めてもそれは構わない」

 

「成程、大体解った。チームは最大6体という事はそれより少なくても一応チームとしては成立する訳か。ちなみに、参加を決めたのはまだ俺達だけか?」

 

 

 琢斗の質問を聞いたリリスモンは目を丸くした。

 言葉の中に含まれた裏の意味もきちんと読み取れる者は少ないからだ。

 だからリリスモンは思わずただ嬉しそうに微笑んでしまった。

 それはまるで、生徒から自身が意図した以上の答えを出してもらった時の先生のような表情であった。

 

 

「中々頭が回るようだねえ、坊や。確かにこの国のチームは残念ながらまだ2体という事になるね」

 

「──って事は、期限までに立候補者が集まるのを待つか、俺達自身が元の世界で勧誘するかしないといけない訳か。すると、最悪の場合は広場に居たデジモンを適当にチームに入れて頭数を揃えなきゃいけなくなるな。別に人間と組んでなきゃダメって訳じゃないんだろ?」

 

「え、そうなの? じゃあ何でわたし達に参加して欲しいだなんて……?」

「詳しい理屈は妾も知らぬが、人間と組んでいた方が強くなるらしいのさ。そうでもなきゃ、ウチの王は人間に頼らずにチームを作り上げていた事だろうさ」

 

 

 語弊の無いように補足すると、キングエテモンは人間を信用していないという訳ではない。

 自分達の世界の問題で、人間には出来る限り迷惑をかけたくないと考えているだけだ。

 

 しかし実際の所、現在この国に残っている戦力では大会の勝利は絶望的と言ってもいい。

 この国で出場が可能な戦力で最強なのは、正直な話この部屋のデジモン達が完全体に戻って出場するのが最高の布陣だと言っていいぐらいだ。

 

 そして、デジモン達が自力で究極体まで進化しようと思うと、完全体から究極体になるまで1年以上は命懸けの実戦で戦い続けなければならない。

 訓練で進化する場合は5年以上はかかるであろう。

 

 そこで、一般にデジヴァイスと呼ばれる端末を通す事によって、人間が内在的に持っているとされる精神エネルギーをデジモンが吸収出来るデータに変換し、注入する事が可能となる。

 それを恒常的にパートナーデジモンが取り入れる事によって、進化に必要な経験値が劇的に下がる。

 

 つまり、人間と組む事が出来ればまだ勝利の望みはある。

 だからキングエテモンは人間達に頼る事にしたのであった。

 そしてそれは同時に、国の命運を琢斗達に託した事を意味する。

 

 

 

 

 2月も下旬に入ろうかというある日。こうして少年と少女は、知らず知らずの内に一国の命運を背負ったのであった……。

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