Digimon States~D-1バトラーズ~   作:宮枝嘉助

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第4話 帰還と再会

 

 

 

 

 大まかな説明を一通り聞いた琢斗と春菜は、しばらくの間黙り込んで何事かを考え込んでいた。

 今聞いた情報を頭の中で整理しているのであろうか。

 

 だが、そんな2人に話し掛ける人物が居た。

 他でもない、この国の長を務めているキングエテモンである。

 

 

「ところでタクトとハルナ。キミ達はまだ戻らなくてもいいのかい?」

「……戻る? って、どこへ?」

「リアルワールドへじゃ。D-オルタに時計が付いておるだろう? それがリアルワールドでの時間を示しておる」

 

 

 もう言い争いは終わったようで、王様だけでなく大臣からも話し掛けられた。

 言われて琢斗と春菜はD-オルタで現在の時刻を確認してみる事にする。

 

 

「へ~……え? もう9時なの?」

「9時か……俺はともかく、弥生は戻った方がいいんじゃないか? 陽菜ちゃんや智菜さんがそろそろ心配するだろ?」

 

「……江原くんは帰らないの?」

「ああ、ちょっと試したい事が……って、何故に人を射殺すかのような目をなさっておいでなのでしょうか、弥生さん? ねえ、弥生様?」

 

「──じゃあわたし、先に帰ってるから。またね、フェアリモン」

「はいっ、またですハルナさん」

 

 

 春菜はそういうと本当に琢斗を射殺すかのように睨み付け、フェアリモンには満面の笑顔を向けて扉へと向かう。

 

 

「──あ、ちょっ、おい弥生、その扉は1人じゃ無理だって──!」

 

 

 部屋を出ようとする春菜に声を掛けようとした琢斗だったが、次の瞬間には言葉を失ってしまう。

 バン、と机を本気で叩いたかのような大きな音がしたかと思うと、春菜は扉を凄まじい勢いで開け放ち、そのまま出て行ったのであった。

 

 

「わぁ~ハルナさんって実は凄い力持ちだったんですね~」

「いや、違うだろ。あれは──」

「ふむ、どうやらワシの理論通りの結果が出たようだな。しかしこれは──」

 

 

 フェアリモンにツッコんだ琢斗の予想を裏付けるようにエンシェントワイズモンが口を挟んだ。

 鋼の十闘士はどこか思う所があったらしく、何事かをブツブツと呟き続けている。

 

 

「……よし、じゃあ俺も開けれるようになったかどうか試してみよう」

 

 

 扉の外に控えている甲冑の騎士──ナイトモン──がその重い扉を閉じるのを待ってから扉に歩み寄る琢斗。

 そして扉に手を当てると、琢斗は一気に扉を押した。

 

 

「はあっ! ぐ、くくく……っ!」

 

 

 渾身の力を込めて扉を押す琢斗。

 その甲斐あってか、扉が少しずつ動き始める。

 これも間違い無くD-オルタの恒常的な能力によってデータ配列がパートナーデジモンの配列を基に変化した事による恩恵だ。

 

 ちなみに、琢斗自身は特に違和感のようなモノは感じなかった。

 いつも通りに力を込めて押しているだけだった。

 

 

「もう少しだ……ぐ、くぶるあっ!?」

「タクトっ、大丈夫!?」

「あ、戻って来ました~」

 

 

 もう少しで扉が開くという所で、突如反対側から凄まじい勢いで扉が押され、琢斗は変な声を出しながら吹き飛ばされる。

 直ぐさまドルモンがパートナーの元へと駆け寄るが、フェアリモンは扉の向こうからやって来た人物に目を奪われていた。

 

 

「ねえ、コウメイモン」

「だからワシはエンシェントワイズモンじゃと言っとろうが。……何じゃ?」

 

 

 外側から琢斗を上回る力で扉を押した張本人は、間違った呼称で鋼の十闘士に声を掛ける。

 エンシェントワイズモンは、律儀にツッコミを入れつつその人物──弥生春菜──に訊き返した。

 

 

「どうやって帰れば……って、江原くん、どうしたの?」

「………………」

 

 

 質問に答えようとした春菜だったが、扉から5mぐらい離れた所で自爆に巻き込まれたヤ●チャのような格好で倒れている琢斗に気付き、声を掛ける。

 だが返事が無い。どうやらただの屍のようだ。

 

 

「死んどらんわ! ……あ、川の向こうにお花畑が見えるぞ、行ってみよ~……」

「ちょっ、タクト! まだ誰とも戦ってないのに死なないで!」

 

 

 琢斗はまだ死んではいないようだが、目は虚ろでどこか恍惚とした表情になっている。

 ドルモンが慌てて叫ぶが、変な呻き声しか返って来ない。

 ……とそこへ、駆け付けた春菜が声をかけた。

 

 

「江原くん、大丈夫!?」

 

「……ぅ……ん……」

「それにしても一体誰がこんな事を……」

 

「お前だよ、お前!」

「へ? わたし?」

 

「「「「「うん」」」」」

 

 

 春菜のボケで息を吹き返したらしい琢斗がツッコミを入れたのだが、何と春菜には全く自覚が無かったらしい。

 この王の間に居た者全員が春菜の疑問に頷いた。

 

 

「ご、ごめんなさい江原くん。……でも元はと言えば江原くんがわたしを……」

「ん? 何か言ったか弥生?」

「え? あ、う、ううん! 何でもないのよ? 何でも」

「…………?」

 

 

 春菜は謝罪しつつ何事か呟いていたが、琢斗には春菜が何を言っていたのかよく分からなかった。

 とそこへ、ずっとその様子を見ていたフェアリモンが話し掛けて来た。

 

 

「あの~ハルナさん、何か用があって戻って来たんじゃ……」

「あ、そういえばそうだったわね。え~と……」

「帰り方を訊くんだろ、弥生? もう試したい事も済んだし、俺も帰ろうと思っていた所だ」

「そうなの? じゃあえっと、エンシェントワイズモン」

 

 

 琢斗も帰ると言ったからであろうか、春菜の機嫌が少し良くなった気がする。

 それと関係があるのかは分からないが、今度は名前を間違えなかった。

 

 

「だからワシの名はエンシェントワイズモンじゃと言って……何?」

「どうやって帰ればいいの?」

「確かD-オルタならいつでも移動出来るとか言ってたよな?」

 

「ああ、帰り方か。まずGateというアプリを起動してくれ。そしたら移動先を選ぶ所があるんだが、まだこの城しか登録されておらんだろう?」

 

 

 エンシェントワイズモンに言われた通りにD-オルタの中にあるアプリを起動してみると、確かにこの城らしき名前だけが移動先として登録されていた。

 ちなみにElitelithという名前らしい。

 

 

「その画面の新規登録という所でお前達の家等を登録するんだ。登録の仕方は、リアルワールドにあるカーナビとやらと同じにしてある」

 

 

 新規登録の画面を開いてみると、現在地を登録するだとか、住所やら電話番号やら施設やら50音やらと本当にカーナビみたいな入力方式になっていた。

 2人は早速それぞれの自宅を登録してみる事にする。

 

 

「そして移動する時は、行き先をその登録した所から指定して、デジタルゲートオープンと言えば完了だ。ただし、世界を隔てた移動しか出来んから気をつけろ。それと、さっきは何処でも使えるとは言ったが必ずしもそうとは限らない。デジタルワールド内では結界の類が張ってある所では使えんし、リアルワールドでは携帯としての電波が入らない所では使えん」

 

「え~と、この世界から元の世界か、元の世界からこの世界への移動しか出来ないのか。まあ、そりゃそうか」

「向こうで電波が入らないと使えないのは、わたし達の世界の電波を使ってこっちの世界に移動するからかしらね」

 

「ワシの改造で携帯と同等の電波が入るようになっているが、SIMカードを挿さん限り電話は出来んからな。それと、リアルワールド側の移動先が何らかの原因で電波障害が起きている場合も移動は出来ん」

 

「大規模な太陽風が発生した時とか?」

「江原くんは何を言ってるの?」

 

 

 とりあえず2人共行き先の設定等はさっき完了していたので早速帰ってみる事にした。

 行き先をセットしてみると、画面に“Please speak now.”と表示された。

 恐らくここで“デジタルゲートオープン”と言えば元の世界に帰れるという事なのだろう。

 

 

「じゃあな、修業頑張れよ、ドルモン」

「うん、……タクト、次はいつ来るの?」

 

「そうだな……この世界ではやる事もあるし、またすぐ来ると思う」

「そっか、分かった。待ってる」

 

「ハルナさん……」

「わたしもすぐ来るわ。それとフェアリモン、ちょっといい?」

 

「は、はいっ、何ですかハルナさん?」

「さん付けは禁止。わたし達はパートナーなのよ? 呼び捨てでいいわ」

 

「呼び捨てですね。分かりました、ハルナさん……はぅっ!? ご、ごごご、ごめんなさいハルナさ……~~っ!」

「──ぷっ、あはははっ! ……まあいいわ、それ宿題ね、フェアリモン」

「うぅ~……はい……」

 

 

 今し方言われたばかりですぐに直す事が出来ずあたふたするフェアリモンに、笑って目尻に溢れた涙を拭きながらであったが優しく声をかける春菜。

 フェアリモンは笑われて不満げであったが、頷く事しか出来なかった。

 名前を言わなかったのは、言うとまたさん付けしてしまいそうで怖かったのであろう。

 挨拶も済んだ所で、琢斗と春菜はどちらからともなく帰還の言葉を口にした。

 

 

「「デジタルゲート、オープン!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──それにしても、全く中途半端なルールにしてくれたものよな、イグドラシルめ。おかげで今回は10ある国の内の4ヶ国に多大なアドバンテージがある」

 

 

 少年と少女が淡い光に包まれて消えたのを見送った後、現状を憂いた魔王が忌ま忌ましげに呟いた。

 それによると、このD-1トーナメントという大会には10の国が参戦するらしい。

 

 

「他の国は何とかなるとしても、マグゼルとディベリオン、エンマー、そしてルカディの4ヶ国からは前回の出場者が必ず出て来るだろうからな。万が一彼等の育成が間に合わなかった場合、非常に厳しい戦いになるだろう」

 

 

 魔王の言葉を受けてデジモン界の諸葛亮孔明……もとい、鋼の十闘士がそのアドバンテージを持っているという4ヶ国を挙げていく。

 どうやら場のデジモン達にとってはもう解り切っている話らしく、その4ヶ国に所属している具体的なデジモンの名前は言わなかった。

 

 

「しかし、その点はもう彼等に任せるしかない。我々は彼等を全面的にバックアップしていくしかないさ。訓練の相手になるとか、道中の護衛をするとかな」

 

 

 だが自分達が出来る事と言ったら、この国──エリテリスの運命を背負わせてしまった彼等を、国を挙げて全力でバックアップしていく事だけだ。

 それしか無いという事をよく解っているのであろう。

 国王は半ば自嘲的に呟いた。

 

 

「……ところで、ドルモンとフェアリモンはどうしてる?」

「訓練中だ。ロード……いや、今はただのナイトモンか。あやつが担当している」

「広場の人間達は、やはり参加する気は無さそうか?」

 

 

 エリテリス国王──キングエテモンの問いに、エンシェントワイズモンは首を横に振って答えた。

 その表情はさっぱり読めないが、諦めているような雰囲気を発しているのだけは何とか解る。

 

 

「──いいんじゃないかい? 妾はその気の無い奴にこの国を任せとうはないしの」

「……そうだな、エンシェントワイズモン。彼等にはもう帰ってもらって、その後全員無かった事にしておいてくれ」

「了解した。では行ってくる」

 

 

 魔王の言葉も最もである。

 無理矢理巻き込んだ所で、少しでも意志のある者でないと足手まといになるのは目に見えている。

 

 キングエテモンはリリスモンの言い分に納得し、エンシェントワイズモンに指示を出した。

 鋼の十闘士はその指示に了解すると、王の間から退出していく。

 

 

「ああ、ちょいと待っておくれ」

「何じゃ、リリスモン?」

「書き換える条件を変えて欲しい」

「それは構わんが……いいのか?」

「条件を聞いてからだな」

 

 

 部屋を出ようとしたエンシェントワイズモンを、リリスモンが呼び止めた。

 何でも、鋼の十闘士が事実を消す相手を変えて欲しいというのだ。

 それを国王に確認したが、国王はとりあえず話を聞こうという。

 

 ここで余談になるが、鋼の十闘士が如何にして人間達の記憶を消すのか、説明を入れておく。

 いきなりだが、エンシェントワイズモンには世界の歴史──俗に言うアカシックレコードを書き換えるという能力がある。

 そう一言で言ってしまうと凄まじい能力だが、何をどこまで書き換えるかによって対価が著しく変わってしまい、中には書き換える事が到底出来ないような内容も存在する。

 具体例を挙げれば、前大会の結果や今大会のルール等がそれだ。

 

 話を人間達の記憶消去の話に戻そう。

 実の所、エンシェントワイズモンは人間達の記憶を直接操作している訳ではない。

 その人間達がこの世界に来たという事実そのものを消しているのだ。

 だから記憶が残っている者でも、周りに記憶が消えている者が1人も居ない為に消されないと思い、記憶が催眠術でも蘇らない者はデジタルワールドに行ったという事実が消えている以上、思い出せるハズが無いのである。

 

 元来、人間という存在はこの電脳世界に於いては居てはならない存在だ。

 よって、その事実を消去する場合に於いては世界からの補助も入る為に実に容易い。

 支払う対価など殆ど無に等しい程だ。

 つまり、今回リリスモンの言う条件というのは、事実を無かった事にする相手を変えて欲しいという事になる。

 

 

「1週間以上前から1度も来ていない者だけにして欲しいのじゃ」

「一応理由を訊こうか、リリスモン」

「前大会が終わってから半年、喚び続けて来たハズじゃが未だに参加者は2人しか居ないのじゃぞ。実際今までに何人切り捨てて来たのか妾には判らぬが、切るのが早過ぎるのではないか?」

 

 

 しつこいようだが、リリスモンが仮定的な言い方をしているのは、彼女自身も覚えていないからである。

 

 

「……成程、一理あるかもしれん」

「もしかしたら決意を固めている最中の者も切り捨てて居たのやもしれんと思うと、あっさり切り捨てるのは少し、な」

「なら何故1週間と期限を作る? リアルワールドでずっと悩んでいる者も居るかもしれんぞ?」

「参加するつもりが少しでもあるなら、悩むにしても時々この世界に来るじゃろうと思うてな」

 

 

 リリスモンの言い分は至極最もなモノで、キングエテモンは得心した。

 実際の所、書き換えた本人以外は覚えていないが、今までは平均3日毎に事実を抹消されていたのだ。

 だから、これは大きな進歩と言えるかもしれない。

 

 

「──エンシェントワイズモン」

「分かった、そのようにしよう。……毎日その条件で消した方がいいか?」

「……そうじゃな、頼む」

「了解した」

 

 

 エンシェントワイズモンはそんな会話をかわすと、今度こそ王の間から退出していくのであった。

 

 

「──ところで、キングエテモン」

「何だい? リリスモン」

「もういいのかい、完全体に戻らなくても? あのオメガモンとの戦いで力を使い果たして以来、滅多にその姿になっていなかったじゃないのさ」

「まあ、その代わりこの半年間は随分と楽をさせてもらったからね。そろそろこの姿で慣らして行かないと」

 

 

 不意に発せられた魔王の問いに対し、国王はそのように答えると肩を回しながら立ち上がった。

 そして今度は足首を捻ってみたり、首を回してみたりと、突然準備運動を始めた。

 

 

「──さて、それじゃあ手始めに国内の見回りにでも行って来るとするかな」

 

 

 最後に屈伸運動を終えたキングエテモンはそう言うと真紅のマントを靡かせ、悠然と王の間を出て行った。

 

 

「……ふん、やっとやる気が出て来たみたいだね。坊や達には感謝せんとな」

 

 

 その姿を見送ったリリスモンは相変わらず妖しく微笑んでいたが、少し嬉しそうな声色で呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間が歪み、そして捻れる。

 そこに無いハズのモノが突然そこに割り込もうとして発生した空間の異常。

 割り込んだモノはそこにあった分子を押し退け、周囲に風を巻き起こす。

 

 強風はしばらくの間吹き荒れていたが、異常も収まり空間がそれを受け入れた時、そこに現れたのは人間だった。

 

 

「──ったく、もうちょっと穏便に転送出来ねえのかよ、……っ! ……ぁあっくしょんっ!」

 

 

 そこに現れた人間──江原琢斗は現れるや否や文句と同時に目を見開き、そして大きなくしゃみをした。

 くしゃみをしながら、琢斗は自分が置かれている状況に愕然とした。自分が外に居るという事に。

 

 

「やべっ……外かよ……はぁっくしょいっ! 家の鍵なんて持って来て無えぞ」

 

 

 琢斗は今更ではあったが手持ちのゴーグルを掛けて、身の回りの環境を確認すると、ここはどうやら自分の家の玄関の前のようであった。

 

 

「ぶぁっくしょっ! くそったれ、あの野郎今度会ったら訴えてやる……くしゅん! それよかマジでどうするよ俺……」

「江原くん大丈夫!? あまり意味無いかもだけど、マスク持って来たよ!」

「あ゛ぁっくしっ! や、弥生……?」

 

 

 琢斗が自分の家の前でくしゃみを連発していたら、春菜がマスクを持って来てくれた。

 琢斗は早速マスクを着用し、完全では無いものの幾分症状が落ち着く。

 

 

「いや、すげー助かる。ありがとう、弥生……くしょっ!」

「……それよりどうする、江原くん? 江原くん家は鍵が掛かってるんでしょ?」

「ああ、お前が来た時に鍵は締めたハズ」

 

 

 琢斗の言葉を確認して、春菜は何事かを逡巡し始めた。

 そして何かを躊躇っているのであろうか、春菜はまるで会ったばかりの時のフェアリモンのようにもじもじとしている。

 

 

「ど、どうかしたか、弥生?」

「……じゃ、じゃあさ、ウチに来る?」

「ぇえっしょいっ! え、弥生ん家に!? い、いいのか?」

「だってそのままじゃ江原くん、死ぬかもしんないよ?」

「う゛…………」

 

 

 つい昨日の昼間にも似たような事を言われた記憶が蘇り、その時にしていた想像もつい思い出してしまう。

 

 

 

 

 ──少年、自宅前で謎の窒息死──

 

 ○月×日未明、△◎市にお住まいの少年、江原琢斗さん(15)が自宅の玄関の前で倒れている所を、たまたま近くを犬の散歩の為に通り掛かった男性が発見。直ちに救急車で病院に運び込まれたが、少年は既に亡くなっていた。

 事件発覚当初は目立った外傷も無く、急性心不全ではないかと思われたが、その後の調べにより窒息によるものであると断定された。しかし何故窒息に至ってしまったのかは判っておらず、警察は事件と事故の両方の可能性を視野に入れて捜査中だという。

 

 ──自宅前窒息死事件、立件か──

 先日、自宅の前で謎の窒息死を遂げた江原琢斗さん(15)だが、その後の調べで何らかの事件に巻き込まれたのではないかとの疑いがある事が明らかになった。

 少年の部屋からとある手記のような物が見付かったという。

 その内容だが、「僕が何故こんな事で死ななきゃならないのかが分かりません。一体何故こんな事になってしまったんでしょうか。これを読んだ貴方、真相を暴いて下さい。それだけが僕の望みです」という物で、既に何事かに巻き込まれているかのような文面である。

 この手記から、警察は何らかの事件に巻き込まれていた可能性が強くなったと見て捜査中だという。

 

 

 

 

「それだけは勘弁して下さっくしょん!」

 

 

 新聞の三面記事のような想像をしてしまってから、琢斗は思わず懇願していた。

 それを聞いた春菜は一瞬きょとんとしていたが、家に来る事に肯定したと取れる琢斗の言葉らしきモノに吹き出した。

 

 

「ぷっ……ははは、何それ。下さっくしょんって、……はははは」

「わ、笑うな! 花粉症の所為でくしゃみが止まらぁっくしょいっ!」

 

「──っ! あははははっ! 止めてよそれ、面白過ぎ」

「くっ、このっ……ちくしょおおおぉぉぉおおおっ!」

 

 

 春菜に笑われっ放しで悔しかったのか、琢斗はさながら某お笑い芸人のように絶叫した。

 しかし、今の時間は夜の10時を指そうかという所。

 当然、この時間帯の大きな音は良く響く。

 

 案の定、声を掛けられてしまった。

 門の外から人がやって来る。

 

 

「何よ今の変な声……って、あれ? 琢斗、と……春菜ちゃん? 何やってんの、こんな所で」

「はははは……って、え?」

「祐子、さん……?」

 

 

 門の所にやって来た人影が門の中に設置されている光に照らされた時、そこに見えた人物は行方不明になったと思われていた祐子その人であった。

 

 

「何ぽけ~っとしてんのよ? あっ、そっか。そういえば私、何も言わずに出てっちゃったんだっけ」

 

「え? じゃあ今まで一体どこに……? は、はぁっくしょいっ!」

「ああ、その前に中に入りましょ。マスクとゴーグルをしてたってあんたは防ぎ切れないんだから」

 

「あっ、あの……」

「春菜ちゃんも、せっかく来てくれたんだから少し上がっていきなさい」

 

 

 琢斗がくしゃみした所を見て、祐子は2人に家に入るように促す。

 だが2人は顔を俯かせたまま、その場から動こうとしない。

 怪訝に思った祐子が扉の前まで進んで扉に手を掛けると、鍵が掛かっていた。

 

 

「あれ? 開いてないの? 琢斗、あんた鍵はどうしたの?」

 

「え~と、その……」

「祐子さん、それも中で話します。なので、先に開けてもらえませんか?」

 

「──そうね、考えてみたら、鍵が開いてたらあんたが外に居る訳無いもんね」

 

 

 祐子は怪訝そうな表情のままであったが、春菜の真剣な表情を見て今はそれ以上訊かない事にした。

 扉が解錠され、2人は祐子について家の中に入る。

 

 

「あれ? TVが点きっ放しじゃない」

 

 

 祐子は琢斗にシャワーを浴びて来るように言うと、春菜と一緒に地下に下りた。

 当然ながら地下のリビングのTVは点きっ放しになっており、それを見咎めた祐子がTVの電源を落とす。

 

 

「すいません、それも後で話します。先に祐子さんが今まで何処に居たのかから教えてもらえませんか?」

「……分かったわ。順番からすれば私が先に居なくなったんだものね。じゃあ、琢斗が来るのを待ちましょうか」

 

 

 祐子がTVが点きっ放しになっていた理由を問うかのように春菜を見ると、春菜は先に祐子から話して欲しいと言う。

 春菜のその表情も先程と同様に真剣そのもので、祐子もただ事では無いと感じたのであろう。素直に春菜に従う事にした。

 

 しばらくの間お互い無言の時間が流れ、何となく手持ち無沙汰になる2人。

 春菜はどことなく緊張した面持ちでソファーに腰掛け、祐子は部屋の中の様子を何とは無しに見て回る。

 ふと、祐子の視線がとある箇所に止まった。

 祐子はそこを見ながら口を開く。

 

 

「ところで春菜ちゃん」

「はい?」

「まだ付き合ってないの?」

「へ? な、何言ってるんですか祐子さん。江原くんとはそんなんじゃ……」

 

 

 その答えを聞いて、祐子の表情が邪悪な笑みに変わった。

 どうやらそれは祐子にとって予想通りの回答だったらしい。

 

 

「あれ? 私、相手が琢斗だなんて一言も言ってないんだけど?」

「ぁ──いや、違っ……た、江原くんはただのお隣りさんでっ──」

「今年もあんなに手の込んだチョコを作ってたのに?」

「あっ、あれはただの趣味で……」

 

 

 祐子が見ていたモノは、琢斗がチョコを食べた跡が残っている皿であった。

 チョコは春菜からもらったモノ以外無かったという事なのであろう。

 最初祐子がカマをかけたのは確かだが、面白いように狼狽える春菜。

 しかし祐子がこの件で2人のどちらかをからかうのはしょっちゅうで、毎回面白い反応を返してしまう2人の自業自得と言えなくもない。

 

 

「もうユー付き合っちゃいなよ」

「だ、だから江原くんとは違うって言ってるじゃないですか……」

「……ねえ、春菜ちゃん。まだ琢斗の事を名前で呼ばないの?」

「────っ!」

 

 

 その時、祐子の口調が変化した。

 つい先程までノリのいいからかい口調だったのが、突然口調に真剣味を帯びたのだ。

 春菜はその変化について行けず、言葉に詰まってしまう。

 

 

「意地を張っちゃう気持ちは解るけど、何なら私から琢斗に言っておこうか?」

「え、と、それは──」

 

「ふう、お待たせ~……って、あれ? 何この空気。弥生、何かあったのか?」

 

「……バカ」

「え、え? 俺が何を? え?」

 

「はぁ~…………」

 

 

 そこへ、シャワーを浴びた琢斗が戻って来た。

 しかし春菜からはいきなりバカと言われ、祐子からは呆れたように溜息を吐かれてしまった。

 琢斗からすれば踏んだり蹴ったりであるが、この場合は琢斗の自業自得と言えなくも無いので放っておこう。

 3人が揃った所で話をする準備が整い、琢斗達の長い初日がようやく終わりを迎えようとしていた……。

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