Digimon States~D-1バトラーズ~ 作:宮枝嘉助
王の間の前までやって来た琢斗であったが、周りには誰の姿も無い。
仕方が無いので扉をノックしてみると、入れ、と返って来た。
やはり当然と言うべきだろうか、扉を開けてくれたりはしないらしい。
「……仕方無い。再挑戦するか」
琢斗は意志を固めたように一言呟くと、手首を回して軽く準備運動を始める。
首・肩・足首と順番に一通り回すと、琢斗は扉に手を掛けた。
「せーの……っ!」
前回と同様、渾身の力を込めて扉を押す。
すると何故だろう、家で食事をして来た直後だからであろうか、前回よりも楽に扉が動いた。
自分が通れる程度まで開いた所で琢斗は部屋の中に滑り込むようにして入り、また中から押して扉を閉める。
琢斗が一息ついてから振り返ると、少し驚いているような表情をしたリリスモンの姿だけがあった。
「坊やは確か……タクトと言ったか。よく入って来れたな」
「ん? エンシェントワイズモンから聞いてないのか? 今の俺はドルモンのデータで援助を受けてるって」
「いや、そういう訳では無いのだが……実際に見ると、な」
その言葉を聞いて、琢斗は得心が行った。
話だけでは半信半疑だったモノを、実物を目の当たりにして改めて驚く……そういった類の意味であろう。
「ああ、そういう意味か。……あれ? それなら昨日弥生がやってみせていたような……?」
「それはそうだが、成長期の補助しか受けていない坊やが開けるのを見るのは初めてだからな」
「え? ……まあいいや。ところで、エンシェントワイズモンは今どこに?」
「あやつなら、今は訓練場に居るぞ」
「……訓練場?」
王の間を出た琢斗は、リリスモンの言葉に従って城門の大扉の所までやって来ていた。
その言葉によると、そこから向かって右手の方には地下へと続く階段があり、そこが訓練場だという話だった。
「あそこか……訓練場って事は、大会に出るドルモン達もそこに居るのかな」
この階段を下りた先には、一体どんな光景が待ち受けているのだろうか。
琢斗は、若干緊張したような面持ちで階段を一段ずつ確かめるように下って行った。
「うわぁ……でっけえ……」
地下に下りた琢斗の目の前に広がっていた光景は、とても広大な闘技場とでもいうべきモノであった。
学校の校庭と同じかそれ以上といってもいい程の広さがあり、あちこちでデジモン達が激闘を繰り広げている。
ドーム状の天井の中央には穴が開いており、恐らくそこから光を取り入れているのであろうが、とてもそれだけには見えない程に明るい。
しかし、地上にそんな穴は無かったような気がしたのだが、琢斗はそれ以上考えても分からないと思い、考えるのを止めた。
「エンシェントワイズモンはどこに居るんだ? こうも広いとすぐには見付からないか……?」
琢斗は呟きながら辺りを見回すが、かなりの広さを誇るここではそう簡単に探し人は見付からないだろう。
せめてドルモンかフェアリモンでも見付かれば、探し易くなりそうではあるが……。
「誰か知ってる奴は居ないか……って、うおっ!」
その時であった。
流れ弾だと思われるが、突然火の玉が琢斗の顔面目掛けて飛んで来た。
何とか避ける事が出来たが、今の琢斗では当たったらただでは済まないだろう。
琢斗は落ち着いた所でどこから飛んで来たのか視線を巡らせた。
「はあああっ!」
「てりゃあっ!」
琢斗が容疑者を発見。
右前方で戦っている2体のデジモンが目に入った。
片方は黄色い体をした小さな恐竜のようなデジモンで、もう一方は青い縞模様の毛皮を頭から被っているデジモンだった。
「多分あいつらだな……さっきのはあいつの技っぽかった」
ドルモン達が中々見付からないので、琢斗は仕方無くその2体のデジモンが戦っている所に足を向けた。
成長期の中では有名な2体なので気になったというのもある。
そんな2体のデジモン──アグモンとガブモンは、成長期同士の戦闘にしてはかなり高度な戦いを繰り広げていた。
単純なぶつかり合いではなく、必殺技を撃つ為の駆け引きがある。
「はあっ!」
「うわっ!」
組み合っていた所から、青い縞模様の毛皮を被ったデジモン──ガブモンが一瞬で沈み込み足払いを掛ける。
一方の黄色い体の小さい恐竜のようなデジモン──アグモンも反応してかわそうとしたのだが、ガブモンの蹴りが一瞬早くアグモンの足を掠める。
蹴りをかわそうとしていた不安定な状態だった為に、アグモンの姿勢は大きく崩れた。
「今だ! ──プチファイヤーッ!」
「くっ! ベビー──」
そこにすかさずガブモンが必殺技の青い火炎を撃ち込む。
アグモンも咄嗟に必殺技での迎撃を試みるのだが、体勢が悪くて間に合わなかったらしく、プチファイヤーが直撃した。
「どうだ──?」
「──フレイムッ!」
「な────っ!」
この闘技場の地面が土だったから、と言い訳が許されればガブモンはそう言ったかもしれない。
自分の必殺技で土煙が発生し、それが丁度アグモンを隠してしまったのがいけないんだと。
琢斗は丁度真横に居たので見えたのだが、プチファイヤーがアグモンに当たる直前。アグモンは必殺技の火球を溜める動作をしながら両手をクロスさせてガードしていた。
そして相手の必殺技を堪え切った瞬間、アグモンの必殺技が炸裂したのだ。
必殺技を直撃させたと思い、完全に油断していたガブモンには土煙の中から飛んで来た火球を防ぐ余裕は無かった。
技を直撃させたつもりが逆に直撃され、数メートル吹き飛ばされてガブモンは倒れる。
その瞬間、アグモンが右腕を振り上げながら猛スピードで倒れているガブモンの所に向かって行った。
「おいおい、まさかトドメを刺しに行ったんじゃないだろうな──!」
さっきの攻撃でもう勝負は着いたと思ったのだが、もし本当にトドメを刺しに行ったのだとしたら。
琢斗は、止めなければならないと思った。
2体共かなり実力が拮抗しているように見えたし、先が楽しみになる程に動きが良かった。
もし、これから先に現れる人のパートナーになってくれたら──。
そう思った時には、琢斗は既に駆けていた。
アグモンがガブモンに目掛けて走る速度をも上回る速度で。
そして──。
「たあああっ! って、え──」
「プチファイヤー!」
ガブモンが起きざまに放った青い炎は、何物をも焦がす事無く宙へと消えた。
不審に思ったガブモンが辺りを見回すと、右手側にそいつは居た。
アグモンを小脇に抱え、こっちを見据えている人間。
その人間は何に驚いているのか分からないが、とにかく驚いていた。
そうして呆然と人間を見ていると、脇に抱えられていたアグモンが人間に向かって文句を言い出していた。
「お、お前、何で邪魔すんのよ! ってか降ろしてよ!」
「いや、てっきりもう勝負は着いたかと思ったんだけど。ははは……邪魔したな」
「え? それって──」
「さっきのお前の攻撃で決着が着いたかと思ってさ。お前がひょっとしたら相手を殺しちまうんじゃねえかと思ってつい、な。そしたら向こうもまだ動けるんだもんな。余計な事をしちまったよ、ゴメンな」
その人間は照れたように頭をかきながらアグモンを降ろした。
だが、その人間が言った事はとても心外だった。
さっきの攻撃で決着が着いた等と言われた事が、だ。
確かにモロに喰らったし、効いたのも事実だ。
しかし、決して戦闘続行不可能な程ではない。
大体アグモンとの訓練で殺し合いになんてなる訳が無い。
だから、ガブモンの第一印象では琢斗の事は気に入らない人間だという印象であった。
邪魔さえ入らなければ逆転出来たかもしれなかったのだし。
「そ、そうよ。ボクはまだガブモンが動けるだろうと思ったからこうするつもりだっただけなんだから」
そう言ってアグモンは右腕を振り下ろした。
多分、ガブモンの喉元に寸止めで振り下ろすつもりだったのだろう。
それなら、ガブモンは炎を吐けなくなっていたハズだ。
だとしたら、助けられたのはガブモンの方だったのかもしれない。
「……でも、ひょっとしたら間に合わなくてやられてたかもしれないし、止めてくれてありがとう。人間さん」
「人間、か……俺は大会に出る事にした江原琢斗って言うんだ。よろしくな、アグモン。それから、そっちのガブモンも」
あれこれ考えている内にアグモンが礼を言ったのでガブモンも一応礼を言おうかと思ったのだが。
「分かった。よろしくね、タクト♪」
「……ふん」
アグモンが笑顔で琢斗に挨拶したのを見てガブモンは前言撤回した。
ガブモンにとって琢斗の事は完全に気に入らない人間というカテゴリーに入ったらしい。
「ところで、2人共。エンシェントワイズモンがどこに居るか知らないか?」
「エンシェントワイズモン? えっと……ガブモン、知ってる?」
「いや……でも、モニター室じゃないか? いつもそこでオレ達を見てるし」
「モニター室? ってどこにあるんだ?」
「ああ、それなら──」
「あっちだよ。あそこの階段を登った所にある小さな部屋」
モニター室の場所をアグモンが答えようとしていた所に、ガブモンが横から割り込んで答えた。
アグモンは不満そうにしていたが、そんなのお構い無しだ。
どうやら、この人間とアグモンをこれ以上喋らせたくないというつもりのようだ。
「ああ、あれか。サンキュー、ガブモン」
琢斗は左後方に見えるそれらしい場所を見付けると、軽く礼を言ってからすぐに歩き出した。
……かと思うと、しばらくした所で立ち止まってアグモン達の方を振り返った。
「あ、そうだ。お前等、これから一緒に大会に出場する事になるかもしれないんだし、あまり無茶な戦い方はするなよ」
一旦立ち止まった琢斗はそんな事を言うだけ言って、また歩き出した。
アグモンもガブモンも、自分達の力を認めてもらったみたいで悪くない気分だった。
「──ねえ、ガブモン」
「何?」
「1発クリーンヒットしたら勝ちって事にしようか」
「……そうだな、そのぐらいがいいかも」
「じゃあ、また始めよっか」
「よし、今度はオレが勝つ!」
「ボクだって負けないよ!」
そしてアグモンとガブモンは対峙し、再び激突を開始するのであった。
ガブモンに案内された所にあった階段を登り、普通の大きさの扉を開ける。
扉の奥に広がる部屋はこじんまりとしていて、そこにあったのは多数のモニターとコントロールパネルだ。
「──やはり数値はこんなものか。わずかこれだけの出力係数でアレを動かしただけでも驚異的だと言っていいというのに、まさか開けてみせるとはな。やはりあやつらのオーバーライトは──」
そして、パネルを触りながらモニターを見る鋼の十闘士の姿だった。
エンシェントワイズモンは、モニターに表示されているデータらしきモノを見ながら何事かをぶつぶつと呟いている。
「ここに居たのか、コウメイモン」
「エンシェントワイズモンだ。……ほう、熱心だな。連日訪れるとは」
挨拶代わりにボケる琢斗に対し、モニターから目を離さないままではあるが律義にツッコむ鋼の十闘士。
こちらからは手は見えないのに、手元のパネルは反応して様々なデータをモニターに映し出して行く。
「出るからには勝ちたいからな。それに、あんたに話もあったし」
「む? 話とな?」
琢斗の言葉に対して鋼の十闘士は少し気にした様子を見せたが、作業の速度は全く落とさない。
琢斗はそんな態度のエンシェントワイズモンを見ても特に気分を害する事も無く話を続けた。
「昨日元の世界に帰った時に、俺は家の外にワープしたんだけど、到着地点って変える事は出来ないのか?」
「違う場所にしたいという事か? それならそこの住所等を新たに登録すれば、そちらに移動する事も出来るぞ?」
「いや、そうじゃないんだ。同じ住所の中で、もうちょっと細かく位置を調整出来ないかと思ってな」
「ああ、そういう事か。……結論から言えば、可能だ」
「ん? 何か気にかかる言い方だな。やり方が複雑だとか、そういう事か?」
「いいや、やり方自体はそれ程難しくは無い。登録地点の詳細設定で座標を調整するか、到着したい場所に立って座標の補正をすればいい。ただ──」
「ただ?」
「──ワシの構築したシステムがまだ甘いようでな。昨日お前達が帰る所を見させてもらったんだが、出現する瞬間にかなり空間が荒れてしまうようなのだ」
「空間が荒れる? どういう事だ?」
「平たく言えば、風が発生する。それも、かなりの強さで。どのぐらい強いかというと──」
「うわっ!」
今エンシェントワイズモンがやった事と言ったら、ちらりと琢斗の方に振り向いて、その右手に携えている紫色の扇を軽く扇いだだけであった。
たったそれだけの事にも拘わらず、もう少し強かったら吹き飛ばされていたかもしれない程の風が琢斗に襲い掛かった。
風が収まりを見せた所で、エンシェントワイズモンは何事も無かったかのように話を続けた。
「──だから、例えばおぬしが家の中に直接移動したいのだとすると、中の物が荒れる覚悟が必要になる」
「──────!」
あの時、琢斗にとっては走っている車から突き落とされたような乱暴さを感じたのだが、周りにもそんなに影響が出ているとは思いもしなかった。
エンシェントワイズモンが挙げた例については、琢斗は特に動揺したりはしなかった。
外に出現する所は見ていたハズだから後は中しか無いだろうとか、そういう理屈は抜きにしても、この鋼の十闘士なら自分の事情を知っていても何の不思議も無いと思ったからだった。
「そうか……でもエンシェントワイズモン、システムがまだ甘いって事は、改善が可能だって事だよな?」
「む? そうだな……あれは転移完了の際の位相変換の演算システムの変位定数にズレがあるか、あるいは到着次元領域を割り出す為の多次元方程式に過不足があるか、もしくは次元移動時に必要なエネルギー量を決める素粒子加速度の──」
訳が分からない。
と琢斗は、質問の仕方がまずかったと即座に後悔した。
先の座標調整の話は何となく分かったのだが、これは流石にさっぱり分からなかった。
それに、例え何を言ってるのかが解ったとしても、どのぐらいの期間が必要になるのか判らなければ意味が無い。
「あの……悪いけど、システムの改善にどのぐらいの時間が掛かるのか、結論だけ教えてくれないか?」
「──早くても1ヶ月はかかる。長ければ、2ヶ月ぐらいか」
「1、2ヶ月か……はぁ……」
システムの完成にかかる期間を聞いた琢斗は、思わず大きな溜息を吐いた。
流石に先程受けた強さの風が周りに発生すると聞いては、家の中を到着地点に設定する訳には行かない。
だから、今回は我慢して帰るとしても、今後どうするかが大きな問題であった。
花粉が飛び始めたばかりの時期だからまだ何とかなっているが、花粉の量はこれからどんどん増えて来る。
そうなると、例えゴーグルとマスクをしていようと、とても対処仕切れなくなって来るだろう。
……となると、大変口惜しいが、システムが完成するまではデジタルワールドへ来るのを諦めた方が良さそうだ。
「──悪いが、今回帰ったら、システムが完成するまで来ない事にするよ」
「いや、気にするな。お前達の力が本当に必要になるのは完全体以降に進化する時だ。成熟期までは死にさえしなければ放って置いても進化出来るからな」
「いや、そんな事言われたらちゃんと育つのか余計に気になるんだけど……」
「それは我々を信用して欲しい。国の大事な戦力を適当に育てる訳が無かろう?」
「………………」
真剣な口調でエンシェントワイズモンに言われ、琢斗は黙り込んだ。
鋼の十闘士が言った事は至極真っ当な話であり、反論の余地は無い。
ただ、自分で言い出した事とはいえ、ドルモンの傍でその成長を見守る事が出来ない事が少し寂しかった。
本当は、しばらく来れない事を非難されたかったのかもしれない。
そうでないと、自分の存在価値が無いような気がしたのかもしれない。
琢斗は、そんな自由に動き回る事の出来ない今の自分の病状を呪い、下唇を噛み締めた。
そうしてひとしきりやり場の無い怒りを堪えた後、琢斗は話を続けた。
「……ああ、なら頼む。ドルモンには俺が自分で話すよ。……それと、もう1つあるんだけど、いいかな?」
「それは構わんが……何だ?」
「こっちこそ出来れば早急に対応して欲しいんだけど、俺の家と弥生の家のTVに流しているあの声をカットして欲しいんだ。もうD-オルタで移動すればいいんだし、今の俺達じゃああの声が聞こえ過ぎてTVがまともに観れやしない」
「ああ、そういう事か、了解した。……終わったぞ」
「早っ!」
「どうした? もう少し後で解除した方が良かったか?」
「い、いや、別にいいけど……」
“声”の解除に要した時間、約3秒。
これぞまさしく電光石火の早業であった。
しかし琢斗は、別に解除された事で困る事は無いだろうと思ったのでそれ以上は特にツッコまなかった。
「……それで、話は終わりか?」
「え? あ、ああ、うん」
「なら、すまんが出て行ってもらえるか? ワシは見ての通り忙しいのだ。おぬしの依頼の件もあるしな」
「ああ、分かった。出て行くよ。忙しい所だったのに、仕事を更に増やしちまって悪いな、エンシェントワイズモン」
「気にするな。さっきはああ言ったが、居ないよりは勿論居た方がいいに決まっているのだからな。要望があれば、出来るだけ応えるさ」
「そっか、ありがとう」
最後に琢斗は礼を言って。
結局ずっとモニターを見ながらパネルを触り続けていたエンシェントワイズモンを尻目に、モニター室を出て行った。
階段を降りて、琢斗は再び開けた場所に出る。
訓練場の活気は相変わらずで、あちこちで様々な闘いが繰り広げられている。
さっきのアグモンとカブモンも、また熾烈な闘いを展開しているのが見えた。
……とそこで琢斗は、今更のように気付いた。
そう、ドルモンの居場所を訊くのを忘れていた事に。
「しまったなぁ……だからってまた戻るのもカッコ悪いっていうか迷惑だろうし……あ、居た」
視点が逆方向になったからであろうか、そのドルモンはあっさりと見付かった。
左手の方に居たという事は位置関係としては訓練場の入口から1番奥の方になる為、最初すぐにドルモンが見付からなかったのも当然だと言える。
何はともあれ、ようやくパートナーが見付かったのだ。
琢斗は喜び勇んで駆け出した。
……が、途中で聞き覚えのある声に呼び止められる。
「──さーん! 待って下さい、ショウさーん!」
声がした方へ振り返って見ると、そこに居たのは風のスピリットを纏うという次世代の十闘士候補──フェアリモンだった。
フェアリモンは低空飛行で琢斗の前までやって来て、着地する。
「あ、フェアリモン。……って、え? 今何て言った?」
「はい? 名前をお呼びしただけですよ? ショウさーん、って」
「……誰それ?」
「何言ってるんですか、貴方の事に決まってるじゃないですか。確か、カフンショウさんでしたっけ」
「ちっがああぁぁああ――――う! 俺は江原琢斗だ! 確かに俺は花粉症だけど、華噴翔なんていうギャグみたいな名前じゃねえええぇぇぇえええ――――ッ!」
突然、何の前触れも無く琢斗が壊れた。
どうやらその微妙に上手い事言ってる名前は、思った以上に琢斗の心を深く刔っていたようだ。
「ええっ!? そうだったんですか!? し、知りませんでした……」
「なにィ!? じゃあもしかしてあの時、話聞いてなかったのか?」
「す、すいません! あたし、あの時は緊張しちゃってて、お2人の話が、よく、聞こえなくて……」
今にも消え入りそうな声で話すフェアリモン。
琢斗はそれを聞いて思い返してみると、確かにあの時のフェアリモンはテンパっていたような気がする。
そうと分かれば流石にこれ以上ツッコむのは可哀相な気がして、琢斗はそれ以上その件についてツッコむのは止めた。
「……まあいいや。それで何の用だ? 弥生なら今日は来るかどうか分からないって言ってたぞ。だから、お前によろしくって言われた」
「あっ、そうですか。じゃあいいです」
「●望した! フェアリモンのドライ過ぎる態度に絶●した!」
「ど、どうしたんですか? ショウさん」
「もう絶対確信犯だよねそれ!?」
「じゃああたし、もう訓練に戻りますね」
「ちょっ、ここで話終わり!? 嫌だ、デジモンばかりからやたらモテるのも嫌だけど、こんなあまりにも冷たい扱いも嫌だああぁぁああ!」
「それじゃあショウさん、ハルナさ……ハルナによろしくです~」
「うわっ、酷え! しかも結局俺の名前訂正してねええぇぇええ──ッ!」
そんな琢斗の悲痛な叫びも虚しく、フェアリモンは去って行ってしまった。
軽く傷心状態になった琢斗であったが、当初の目的を思い出して歩き出した。
流石に再び駆け出す元気は残って無かったらしい。
ふと琢斗は自分のパートナーの方を見てみると、ドルモンはアグモンやガブモンに負けず劣らずの気迫で相手に向かって行っていた。
一体どんなデジモンを相手に闘いを挑んでいるのだろう、と思い目を凝らしてみると、そこに居たのは。
「あれは……ナ、ナニモン!?」
頭がケツになっていて名古屋弁を喋る宇宙人とは似ても似つかないものの、頭から手と足が生えているという、1頭身と言って差し支えない体にサングラス。
ちょっと心許ない頭髪に、赤いグローブに赤いシューズ。
一言で言うなら、どう見てもお●じっちの親戚です本当にありがとうございました。
……と、そんなにしつこく確認するまでも無くそのナニモンであった。
「ほ、本当に居たんだ……じゃあもしかして……」
ふと気になって辺りを見回してみると、すぐにそのデジモン達は見付かった。
黄色いウン●のようなデジモンとヘドロの塊のようなデジモン。
琢斗が初めてこの世界にやって来た時にもんざえモンからの脅しに挙げられた2体であり、名をスカモンとレアモンという。
今丁度その2体同士が闘っていて、その様子はさながらある種の頂上決定戦の様相を呈していた。
「……見なかった事にしよう……」
こうして琢斗は、汚物最強決定戦を見なかった事にして、足早にパートナーの元へと向かうのであった。