Digimon States~D-1バトラーズ~   作:宮枝嘉助

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第7話 2つの力

 

 

 

 

 中型犬程度の大きさで額に赤いインターフェースが付いている獣型デジモン──ドルモンは、体勢を低くし風のように駆ける。

 成長期と成熟期という、基本性能の大きな差を埋める為には相手の裏をかくような行動を取るしかない。

 曲がりなりにも成熟期であるナニモンに勝つにはそうする事でしか活路は開けないと、未だ成長期でしかないドルモンは自覚していた。

 

 パワーは当然及ばず、スピードではほぼ互角。

 しかし俊敏性では僅かに分がある。ここまでのぶつかり合いで、ドルモンは戦況をそこまで理解していた。

 

 

「そらそらァッ! どうしたどうした、えェ? ドルモンちゃんよォ! オレっちに一撃も入れれないようじゃあ国の代表なんざ程遠いぜえッ!」

「くっ────!」

 

 

 まるでサッカーボールを蹴るようにナニモンは脚を振り上げた。

 その蹴りは間一髪で方向転換したドルモンの身体を掠め、ドルモンの体毛が何本か宙に舞う。

 

 この闘いは、勝利を収めるのが目的のモノではない。

 訓練という枠組みの中で、出来得る限り不利な状況を作り、課題をクリアする事で経験値を上げるのが目的だ。

 

 その課題が、今回はナニモンに一撃を加える事。

 勿論、勝つに越した事は無いが、それが今回の目標である。

 ちなみに、昨日の訓練では結局達成出来なかった目標だ。

 

 昨日はあっという間にのされてしまったが、今日こそは課題をクリアしてみせる。

 ドルモンはそう強く心に誓って、攻撃の体勢に入る。

 

 

「メタル──」

「おっとォ! そうは行かねェなァ! オラァッ!」

 

「ぐ──ッ!」

 

 

 力を溜める為に動きを止めてしまったのが裏目に出た。

 動きを止めた瞬間に追い付いて来たナニモンの強烈なタックルが脇腹に直撃し、ドルモンは軽く数メートルは吹き飛ばされる。

 

 そこで、闘技場の隅で闘っていたのが裏目に出てしまう。

 ドルモンは吹き飛ばされた勢いで受け身も何も出来ないまま、闘技場の壁に激突した。

 

 

「がぁ──~っ!」

 

 

 そのあまりの衝撃で、呻き声と共に肺の中の空気が絞り出されてしまい、身体の両側から伝わる激痛と呼吸困難の二重苦に苦しめられるドルモン。

 

 

「……っ、はあっ、はあっ、はあっ……くっ、あぁっ……!」

 

 

 だが、苦しんでいてもこの訓練が終わる訳ではない。

 息を荒げ、全身をぶるぶると震わせながらもドルモンは立ち上がった。

 

 そして、それを悠然とした態度で待っているナニモン。

 何だかんだと条件を付けても、この闘いはただの訓練に過ぎない。

 成熟期であるナニモンにとって勝負にすらならないこの闘いでは、わざわざドルモンに追い打ちを掛ける理由も存在しなかった。

 

 

「さァどうする、ドルモンちゃん? まだ続けるかい?」

「はあっ、はっ……も、勿論……!」

 

「ほう、いい根性だドルモンちゃん。だが──ッ!」

「──────っ!」

 

 

 しかし、立ち上がって訓練続行の意志を見せたのなら話は別だ。

 ナニモンは直ぐさま駆け出し、猛然とドルモンに襲い掛かる。

 だが、ドルモンも続行の意志を見せただけの事はあり、初撃は何とか横っ跳びで回避する。

 

 

「く……はあっ、はっ、ぐ──っ!」

 

 

 その時、特に着地に問題があった訳でも無いのにドルモンの体勢が崩れた。

 

 無理も無い話だろう。

 成熟期の攻撃をまともに喰らったのだから、一撃で気絶しなかっただけでも立派なモノだ。

 

 

「──根性だけじゃオレっちに一撃入れるのは無理だぜ、ドルモンちゃん!」

 

「──────!」

「ラ●ダーキイイィィィック!」

 

「あん? ────ぶべっ!?」

 

 

 ドルモンへのトドメの一撃が入る寸前の出来事であった。

 突如飛来した飛び蹴りによってナニモンが吹き飛び、そのままの勢いで訓練場の壁に叩き込まれた。

 いきなり目の前からナニモンの姿が消えた事でキョトンとなるドルモン。

 

 しかし、目の前に現れた人影の正体に気がついた時、ドルモンの表情がみるみる内に晴れやかなモノに変わった。

 

 

「タクト──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、ドルモン。無事か?」

「う、うん。今の、タクトが?」

「ああ、まさかあんなに上手い事当たるとは思わなかったけど」

 

 

 琢斗はナニモンが吹き飛んだ方向を一瞥すると、ドルモンの方に向き直って無事を確認する。

 実の所、一部始終を見ていてヤバイと感じたからこそ琢斗は咄嗟に飛び蹴りを繰り出したので、まず無事だろうとは思っていたのだが。

 

 

「なあ、ドルモン。何で相手がナニモンなんだ? あっちのアグモンとガブモンみたいに、成長期同士でやればいいのに」

「え~と、この組み合わせで戦ってみろって、コウ……あ、いや、エンシェントワイズモンに言われて、昨日から」

 

「ふ~ん……いくらなんでも勝てないだろうに、何考えてんだ、あいつ」

 

 

 ドルモンの説明に一応納得すると、琢斗は誰に宛てた訳でも無く1人呟いた。

 ついでに、自分の発言が原因でコウメイモンという呼び方が流行ってるのではないか、と少し心配になった。

 

 ちなみにそのコウメイモンという呼び方は、元の名前が長い事も相成ってか、その年のエリテリス流行語大賞に選ばれる事になるのだが、それはまた別の話。

 

 

「いちちち……何者だ、お前?」

 

 

 とそこへ、闘技場の壁まで吹き飛ばされていたナニモンが戻って来た。

 その言葉とは裏腹に、ほとんどダメージを受けている様子は見られない。

 

 

「俺か? こいつのパートナーだ」

「あァ、お前がドルモンちゃんの……だからああなったのか……」

 

 

 琢斗の返事を聞いて、ナニモンは何やら納得したようだった。

 そしてすぐにドルモンの方に向き直り、構える。

 

 

「さて、どうするんだい、ドルモンちゃん? オレっちは別にそこの兄ちゃんと一緒に掛かって来てもらっても構わないぜ? まァ、そこの兄ちゃんにデジモンと闘う度胸があればの話だが」

「……ドルモン、頑張れよ」

 

 

 ナニモンに挑発じみた言い方をされた琢斗だったが、あっさりと引き下がってドルモンの頭に手をポン、と乗せた。

 

 

「えぇっ! 今の怒るトコじゃないのタクト!?」

「いや、今の俺の力じゃ不意打ちが精一杯だって」

 

「何フリー●蹴っ飛ばしに来たピッ●ロさんみたいな事言ってんの!?」

 

 

 そう言った琢斗自身狙って言ったのは事実だったが、今エリテリスではリアルワールドの娯楽作品が流行ってるのだろうか?

 

 

「──でも、お前が1人で戦って勝たなきゃ意味無いだろ? こいつはお前の訓練なんだから」

「ぁ────」

「まあ、作戦ぐらいは考えてやるからさ」

 

 

 ナニモンに挑発された琢斗であったが、結局その挑発には乗らないまま、ドルモンに戦いを任せた。

 ドルモンは最初不満げだったが、琢斗の説明に納得したようであった。

 

 

「話はまとまったみたいだな。それじゃあ、行くぜドルモンちゃん!」

 

 

 琢斗とドルモンの話が終わったと見るや否や、ナニモンは獲物に向かって駆け出した。

 ドルモンは琢斗から何か耳打ちされた後、ナニモンに向かって走り出す。

 

 そしてそのまま口を開いた。

 

 

「ダッシュメタル!」

「うおっ! っと、危ねェ危ねェ」

 

 

 ドルモンの口から撃ち出された出の早い小型の鉄球をナニモンは咄嗟にかわす。

 一撃でも喰らったらこちらの負けという条件なのだ、こういう隙の小さい攻撃をされる方が遥かに厄介である。

 

 

「とりあえず当てるのが優先ってか? ドルモンちゃん、エンシェントワイズモンの条件を覚えてんのか?」

「覚えてるよ。一撃当てればいいが、出来れば必殺技を直撃させる事」

 

 

 ドルモンはナニモンに訊かれた事にしっかりと答えながらも動き回るのを止めはしない。

 そればかりか小型の鉄球を口からどんどん撃ち出し、ナニモンに思い通りの動きをさせない。

 

 

「なら撃てよ。撃たなきゃ当たらねェぞ」

「その手には乗らないよ。──ダッシュメタル!」

「チッ! だったら──」

 

 

 ナニモンに必殺技を撃って来いと挑発されてもドルモンは相手にせず、走り回りながら小型の鉄球を発射し続ける。

 

 そこで初めて、ナニモンが舌打ちをした。

 さっきまでは、追い回しながら必殺技の体勢になる瞬間を狙っているだけで良かったのだが、今回はそうも行かない。

 これだけ牽制されると近付くのも中々難しい状況。

 ならば──とナニモンは避けるのを止めた。

 飛んで来る鉄球を手で弾きながら、ナニモンはドルモンに向かって真っ直ぐ突っ込んで来る。

 

 

「追い詰めたぜェ、ドルモンちゃん!」

 

「跳べ!」

「──────!」

 

 

 鉄球を全て弾き飛ばして間を詰めたナニモンが拳を繰り出した瞬間、琢斗の鋭い一声がドルモンの耳に飛び込んで来る。

 それを聞いたドルモンは大きく跳び上がった。

 高さ5m程にも達する大ジャンプだ。

 咄嗟の事だったにも関わらず、これ程の跳躍が出来た事にドルモン自身も驚いていた。

 自分の体は逆さまになっているが、ナニモンの背中だか後頭部だかよく判らない後ろ姿がまる見えになっている。

 

 

「何、どこへ──」

「撃てえっ!」

「──メタルキャノン!」

 

 

 至近距離から不意にドルモンが居なくなった事で相手を見失ったナニモンを見て、好機と見た琢斗が思い切り叫んだ。

 ドルモンもそれに応え、空中で逆さまの状態から必殺技を放つ。

 撃ち出された鉄球はサッカーボールと同じぐらい大きく、先程まで牽制で放っていたソフトボール程度の大きさの鉄球とはまるで大きさが違う。

 ナニモンがその迫る鉄球に気付いた時には、鉄球は既にナニモンの目前にまで肉迫していた。

 既に、ナニモンのスピードでは避けようも無い程の至近距離。

 

 これなら、当たる──!

 

 

「ッ! ──OYAJIパンチ!」

 

 

 しかし、ナニモンは腐っても成熟期。

 そう簡単に問屋は卸さなかった。

 

 時速100km程の速さで向かって来るサッカーボール大の鉄の塊を、そのやたら逞しい腕から放たれる渾身のパンチで弾き飛ばしたのだ。

 

 

「危ねェ~、今の攻撃はなかなか良かったぜェ、ドル──ッ!」

 

 

 ドルモンの必殺技をギリギリで防いだナニモンが一息吐いたのも束の間、目の前に今度は野球の球程の大きさの鉄球が迫って来ていた。

 パンチに使った右腕は鉄球を殴った衝撃で痺れており、残った左腕で咄嗟にガードする。

 

 だが次の瞬間、天地がひっくり返った。

 両腕が上がった瞬間を狙われ、足払いをされたのだと気付いた時にはもう遅かった。

 

 

「──メタルキャノン!」

「ぐえっ!」

 

 

 ナニモンが頭から地面に落ちた瞬間。

 ドルモンの放ったサッカーボール大の鉄球が、ナニモンの背中だか後頭部だかよく判らない部分に直撃。

 見事にナニモンを闘技場の壁まで吹き飛ばしたのであった。

 

 

「やった! やったよ、タクト!」

「ああ、よくやったな!」

 

 

 訓練が成功した事を理解したドルモンは、満面の笑みを浮かべて琢斗に駆け寄った。

 さっきまでフラフラだったハズなのに、ドルモンはとても元気だ。

 

 

「タクトのおかげだよ! ありがとう!」

「いや、お前の実力だよ。俺は『得意技も使え』としか言ってないんだし」

 

「そんな事無いよ! タクトが言ってくれなかったらずっと思い付かなかったかもしれないし」

「そうか? ……さあ、ドルモン。俺様を崇めよ! 讃えよ! ふははははは!」

 

「人が変わり過ぎだよ!?」

 

 

 とそこへ、

 

 

「くそっ、やられたぜ」

 

 

 ナニモンが戻って来た。

 言葉の割には悔しそうでも無く、ダメージも大した事は無さそうだ。

 

 

「何言ってんだか、かなり手加減してた癖によ。技、ちっとも使ってなかったし」

「あ……」

「ふん、それでも1回使わされたんだ。上出来だと思うぜ、オレっちは」

 

「とりあえずミッションクリア、か」

「ああ、合格さ。まさかこんなに早くクリアされるとは、オレっちもまだまだだな」

「………………」

 

 

 まあ、得意技で●ンチ投げられても鉄球には敵わないと思うが。

 一方、ドルモンはさっきまで喜んでいたのが嘘のように静かになってしまった。

 自分の事で精一杯で、相手が本気かどうかなんて考えもしなかったのであろう。

 

 

「……ナニモン、ちょっと外してくれるか? ドルモンと2人で話がしたいんだ」

「ああ、分かった。丁度エンシェントワイズモンへ報告もあるしな」

 

 

 琢斗には、何か思う所があったのであろう。

 ナニモンに席を外して欲しいと言い出した。

 するとナニモンはあっさりと承諾し、エンシェントワイズモンに報告しに行くと言ってその場を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピピピピッという電子音が断続的に鳴り続けている一室。

 その一室のドアが開きナニモンが入って来たが、その電子音はほとんど途切れる事無く鳴り続けている。

 

 だがナニモンはその事は特に気にしないまま、電子音を鳴らし続けている人物に話し掛けた。

 

 

「もうクリアされちまったぜ、エンシェントワイズモンさんよ」

「ああ、見ておった。手加減させたとはいえ、まさかもうクリアするとはワシも思わなんだがな」

 

「しかしよ、あの人間の力、D-オルタの能力なのか?」

「うむ。人間はパートナーデジモンのデータ組成を頂き、パートナーデジモンは人間の高いオーバーライト能力を手に入れる。それが、ワシの作ったD-オルタに組み込まれた“契約”じゃ」

 

 

 エンシェントワイズモンは琢斗と話していた時と同様、手を休める事無く会話を続ける。

 ナニモンにとってそれはいつもの事なのか、構わず話を続けた。

 

 

「あの人間の指示を受けた途端、ドルモンちゃんのパワーが上がったのもか?」

 

 

 ナニモンの攻撃をかわした時の大ジャンプと、その後放たれたドルモンの必殺技。

 どちらも、普段のドルモンには出来ないレベルの事だった。

 普段であればあんなに跳び上がる事は出来ないし、あんなに短い溜めで最大威力の必殺技を撃つ事など不可能だ。

 

 

「……そうじゃな。アレは恐らく、指示を受けた事によってオーバーライトの力に指向性が発生したのじゃろう」

「ふ~ん……ま、どうでもいいけど」

「なら何故訊いた?」

「あんさんに説明がつく事なのかどうかが気になったんだ」

 

 

 ナニモンにとって重要だったのは、あの時起きた出来事が必然的な事だったのか、それとも偶発的なモノだったのかの区別であって、何故ああなったのかは彼にとってはどうでもいい事だ。

 要するにナニモンは、自分が負けるべくして負けたのか、たまたま負けただけだったのかが知りたかったのだ。

 

 

「そうか……なら、次は本気でやってもいいかもな」

 

 

 ナニモンはそんな事を呟くと、この引っ切り無しに電子音が鳴り続けている部屋を出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、ドルモン。話があるんだけど」

「………………」

「……ドルモン?」

「──えっ? ああ、何? タクト」

 

 

 ナニモンがこの場を離れた直後の事。

 琢斗がドルモンに話し掛けたのだが、ドルモンはまだ落ち込んでいた様子ですぐに反応する事が出来なかった。

 琢斗はドルモンが落ち込んでいる事に気付いてはいたが、敢えて気付かないフリをして本題を打ち明ける。

 

 

「……実は俺さ、今回帰ったらしばらく来れないんだ」

「え……? ど、どうしてさ!?」

 

 

 ドルモンは案の定驚いた表情を見せる。

 その表情には、先程まで落ち込んでいた所為か悲しみの色も含んでいるかのようだった。

 そんなドルモンに対して琢斗は、出来る限り丁寧に理由を説明した。

 自らが花粉症である事も包み隠さず全て話した上でだ。

 デジタルワールドには花粉が無い為、ドルモンにはこう説明してある。

 

 

「ねえタクト、その……カフンショウって何なの?」

「ああ、そっか。ええっと……そうだな、簡単に言えば、くしゃみが止まらなくなる病気だよ」

「うわぁ、それは大変だね……」

 

 

 ……どうやらくしゃみはデジタルワールドにも存在するらしい。

 そんな琢斗の説明にドルモンは納得したようでしばらく俯いていたが、顔を上げるとこう言った。

 

 

「うん、分かった。じゃあ、タクトが帰って来るまでに進化もして、もっと強くなってみせるよ!」

「おう、頼むぞドルモン! 大会に出るからには絶対勝つからな! ……そうだ」

 

 

 琢斗はドルモンの気合いの入った声に応えると、ふとD-オルタを取り出した。

 

 そしてそのままPartnerというアイコンに触れる。

 すると、琢斗のパートナーであるドルモンの様々なデータが表示された。

 身長・体重・パワー・経験値等が網羅されている中に、1つだけ空白のデータがあった。

 琢斗はそこを触りながらドルモンに話し掛ける。

 

 

「せっかく俺のパートナーになってくれたんだからな。お前に名前を付けてやるよ」

「えっ、名前? ……って、何?」

「──────!」

 

 

 ドルモンの素っ頓狂な声を聞いて、琢斗は思わず闘技場の壁に頭をぶつけてしまった。

 琢斗はぶつけた後頭部をさすりながら、“名前”の説明を考える。

 

 

「……ドルモンっていうのはさ、お前と同じカタチをしてたら呼ばれる呼び方だろ? それとは違ってさ、俺のパートナーであるお前を呼ぶ為だけの呼び方だよ」

「わあ、いいねそれ! 何かカッコ良さそう! どんな“名前”になるんだろ!?」

 

 

 琢斗がそう言うと、ドルモンはとても強い興味を抱いたようで、目を爛々と輝かせながら琢斗を見つめる。

 その視線に応えるように、琢斗は昨日の夜にD-オルタを弄っていた時にこの欄──【Personal Name】を見付けた時から考えていた名前を口にした。

 

 

「──アルド。お前の名前、アルドでどうだ?」

「アルド……アルド……うん、いいよ! アルドかぁ……うん、アルド……」

 

 

 琢斗が口にした名を聞いたドルモンはしばらくの間その呼び名を反芻し、その名前が気に入ったのか満面の笑みを浮かべて琢斗に応えた。

 そしてその後でもドルモン──アルドはしばしその名を繰り返し呟くのであった。

 

 

 

 

「これでよし、と」

 

 

 琢斗はD-オルタを操作し、ドルモンのデータの空欄部分に名前を打ち込む。

 

 

「それじゃあ改めてよろしくな、アルド」

「うん! 改めてよろしく、タクト! 次にタクトが来るまでに絶対進化してみせるよ!」

 

 

 琢斗の声掛けにアルドが応えたその時だった。

 突如、D-オルタの画面が異常な程の発光現象を起こした。

 

 

「なっ、何だ!?」

「な、何か分かんないけど、どんどん力が湧いて来る……!」

 

 

 D-オルタから発せられる光が眩し過ぎて琢斗には何も見えなかったが、そこには白い文字でこう書かれていた。

 

“EVOLUTION type-D&α Release!”

 

「ドルモン進化~──ドルガモン!」

「おお、進化した……進化したぞ、アルド! やったな、おい!」

「進化出来た……ボク、進化出来たんだ……~っ!」

 

 

 成熟期、ドルガモンに進化したアルド。

 その体躯は随分と大きくなり、背中の位置が琢斗の頭と同じぐらいの高さになっている。

 更に、紺色をした一対の翼が生えており、飛行能力まで獲得していた。

 

 そんなドルガモン──アルドが声にならない叫びをあげながら喜びに打ち震えているその様子は、琢斗にとっても大変嬉しい事であった。

 ふと琢斗は、先程異常な程光り輝いていたD-オルタを見る。

 そこには、EVOLUTIONという新しいアイコンが表示されていた。

 

 それがどんな機能なのか気になった琢斗だったが、今はそれよりもアルドと進化の喜びを共有する事を優先した。

 

 

「おっ、進化したのか」

「あ、ナニモン」

 

 

 そこへ、ナニモンが戻って来た。

 アルドは嬉しそうな表情のままでナニモンに話し掛ける。

 

 

「ありがとう、ナニモンとの訓練のおかげだよ! おかげで今さっきドルガモンになれたんだ」

「そいつぁ違うぜ、ドルモンちゃん。いや、今はドルガモンちゃんか」

 

 

 ドルガモンに進化出来るようになったアルドが礼を言うのだが、ナニモンに否定されてドルモンは目を白黒させる。

 

 

「それはどういう事さ、ナニモン?」

「──お前の意志が足りなかったとか、そんな所じゃないのか?」

 

「えっ?」

「ほう……その通りだぜ、兄ちゃん。よく分かったな?」

 

 

 アルドのナニモンへの質問に答えたのは、意外な事に琢斗であった。

 その事にアルドが驚く間も無くナニモンが琢斗の回答を正解だと認め、アルドは更に驚いた。

 

 一方、ナニモンはその答えに行き着いた理由に興味が湧いたらしく、興味深そうに次の言葉を待っている。

 アルドも、何故琢斗にそんな事が分かったのか気になる様子で、琢斗が口を開くのを待つ。

 

 

「──最初におかしいと思ったのは、お前達が闘ってるのを見た時からだ」

「あ、それで──」

 

 

 アルドは、最初に琢斗が駆け付けてくれた時にされた質問を思い出していた。

 

 

「成長期と成熟期で訓練するなんて、普通に考えたらおかしいだろ? 普通ならあっちで訓練してるアグモンとガブモンみたいに、成長期同士で訓練するハズだ。そりゃあ、ドルモンが例えばルーチェモンみたいに成長期としては異常に強いってんならともかく、ドルモンは普通の強さだ。なのに、明らかに格の違う成熟期と戦わせるのは何故か? それで俺に考えられるのは2つ。1つは、アルドがドルモンの中でも特別に強いって可能性だけど、ナニモンには勝てそうに無かった。そしてもう1つは、敢えて差のある相手と闘わせる事で、アルドの進化への意志を促す目的だ」

 

「そうだったんだ。それでボクはナニモンと……」

「──もっとも、アルドは逆に今のままで何とかしようと思っちまったみたいだけどな」

 

「……見事な推理だ、兄ちゃん。全くもってその通りだ」

 

 

 琢斗が披露した推理にアルドは納得し、ナニモンは見事と褒め讃えた。

 だがその後、ナニモンは少し残念そうに一言付け加えた。

 

 

「──だからホントは、今から兄ちゃんの指示ありのドルモンちゃんと本気で闘おうかと思っていた所だったんだが、……必要無くなっちまったな」

「どうして? 闘えばいいじゃないか。せっかく成熟期同士になったんだから」

 

「そうだよ、ナニモン。ボクはまだまだ強くならなきゃいけないんだから。これからもどんどん闘わなきゃ」

「だが、兄ちゃんの指示ありのドルガモンちゃんが相手ではオレっちじゃ力不足だろうからな。訓練の相手を変えた方が……」

 

「それは気にしなくていいぞ。俺はしばらくここに来れないし」

「ん? そうなのか兄ちゃん?」

 

 

 意外そうな表情で琢斗を見るナニモンに、琢斗とアルドが同時に頷く。

 それを見てナニモンは、先程場を離れて欲しいと言われた理由に察しが付いた。

 

 

「それに、俺が何もしなきゃいいんだったら今からでも出来るよな? 俺が黙ってりゃいいだけの話なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それじゃあアルド、俺はしばらく来れないけど、元気でな」

「うん、それまでにボク、この2つの力を使いこなせるようになっておくよ」

 

 

 王の間に戻って来た琢斗を見送りにやって来たアルドの姿は、先刻とは異なっていた。

 紺色であった毛並みは狐色になり、頭から背中に掛けて機械的な装備が取り付けられている。

 翼も金属製になっているその種族の名は、ラプタードラモンと言った。

 1つ断っておくが、ラプタードラモンは先刻の姿であったドルガモンと同じ成熟期だ。

 要するに、ドルモンは2種類の進化が出来るのである。

 

 結局あの後、訓練は琢斗が一切口出ししない、という条件で続行された。

 アルドが成長期の状態でもまあまあ闘えていたので、成熟期になったらアルドがあっさり勝ってしまうのでは、なんて事を琢斗は思っていたのだが、それは大きな間違いだった。

 むしろ、ほとんどずっとアルドが押されていたぐらいだ。アルドが成長期だった時、ナニモンがいかに手を抜いていたかを思い知らされたのであった。

 

 

「頑張れよ、アルド」

「うん、タクトも元気でね」

 

「おう、じゃあな。リリスモンも、キングエテモンとエンシェントワイズモンによろしく言っといてくれ」

「うむ、覚えておこう」

 

「──デジタルゲート、オープン! また必ず来るからな!」

 

 

 そして琢斗は再びこの世界を訪れる事を誓い、元の世界へと帰って行った……。

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