Digimon States~D-1バトラーズ~ 作:宮枝嘉助
本日の日付は3月20日であり、陽成学園高等部の合格発表日でもある日。
陽成学園とは、単位制を採っている珍しい学校であり、授業の出席は自由というとんでもない方針の学び屋である。
だが、その授業の出席率はそれほど悪くは無い。
それはそうだろう。いくら出席が自由と言っても、単位を取得する為の試験は当然あるのだから。
実際に欠席する者と言ったら、事情のある者か自信のある者、あるいは諦めてる者ぐらいである。
……話を戻すが、今日はそんな陽成学園に入学出来た者を発表する日だ。
別にわざわざ学園まで足を運ばなくても、翌日か翌々日には受験者の自宅に通知書が届くし、環境があればインターネットで確認する事も可能になっている。
だが、やはり当日に、その場所で合否を確認したいという者は多かった。
「わあ、合格だ! 合格だよ、お姉ちゃん! おめでとう!」
「うん、ありがと、陽菜」
「これで高校も琢斗さんと同じ学校に行けるね、お姉ちゃん!」
「へ!? な、な、何言ってんの陽菜ったら! 別にわたしはそんなつもりで──」
「そうだったの、春菜?」
「ひどい、あたし達の事なんかどうでも良かったのね……!」
「もうっ! 紗枝も亜樹も同じ学校でしょっ!?」
こんな者達や、
「あ、紗雪? 良かった、ちゃんと受かってたわよ」
『え、ホント?』
「嘘なんてつかないわよ。良かったわ、これで無事に高校も卒業出来そうね」
『うん……ありがとう、お母さん』
こんな者達、
「やった! 合格出来た!」
「良かったじゃないか、希海。ここなら追い込みの時、どうしてもキツかったら休めるぞ」
「うん。ありがとうパパ、こんないい学校を紹介してくれて」
こんな者達もおり、
「おっ、やったじゃん詩織。これでまたあたしと同じ学校だよ」
「ええ、またよろしくお願い致しますわ、立花さん」
「も~堅いな~詩織は」
他にも、
「おっ、合格だ! やったな遠藤、合格してるぞ!」
「……ああ」
「何だよ素っ気無いな~合格だぞ? もうちょっと喜べよ」
「眠い」
「何だよ、せっかくこの本田様が連れて来てやったのに」
「………………ぐ~」
「ってオイ、寝るな!」
こんな者達なんかも居た。
勿論他にも、多種多様な者達が陽成学園に合格発表を見に来ており、その数なんと約2千人。
その内合格者は3割程度ではあるが、この学校がいかに巨大なマンモス校であるかが分かる。
そこに、新たな人影が現れた。
少年が1人と、その母親らしき人物が1人。
その少年は物静かでどこか儚げな雰囲気を持っているが、サラサラの髪に整った目鼻立ちで余計な脂肪の見当たらない、スラリとした細身の体の持ち主だった。
母親らしき人物の方はというと、背は低くショートヘア、少年に似て整った目鼻立ちをしていて、これでオシャレにさえ気を遣えばとても少年の母親には見えないであろう。
「──あっ、ちゃあんと受かってるわよぉ~尚ちゃん♪」
「──っ! ちょっと、止めてよ母さん」
その母親に抱き着かれ、少年は少し怯えたような表情で拒絶する。
だが、母親はそんな事はお構い無しとばかりに力強く少年を抱き締めた。
「んもぉ~尚ちゃんったら、一緒に喜びを分かち合いましょう?」
「や、止め、て──」
すると、少年の顔色がみるみる内に青く染まっていく。
顔面蒼白になった少年は、そのまま失神してその場に崩れ落ちた。
「──あら? 尚ちゃん? 喜びのあまり失神しちゃったのかしら?」
少年を抱き留めた母親は、何故少年が倒れたのか分かってないまま、脳天気に首を傾げているのであった……。
少年の名は、小宮尚貴という。
それが、母親に抱き締められて失神してしまった少年の名前である。
少々線が細い印象を受けるが整った目鼻立ちをしているというこの少年には、重大な欠陥があった。
──女性恐怖症。
家族、特に母親より幼少の頃から過度のスキンシップを受けて来た事が原因で発症した症状である。
発症すると少年の意志とは無関係に全身の血の気が引き、その状態が長時間続くと失神までしてしまう。
しかし、この少年にある“欠陥”はそれだけではなかった。
先程から何度か、この少年の目鼻立ちが整っているという話をしているのだが、それが原因でこの少年は女性、特に40代以上の女性に大人気を博しているのだ。
ちなみに、尚貴の母親もその例に漏れず42歳である。
だが、見た目は異常に若く、尚貴の姉どころか彼女に見られた事なんかもある程だ。
結果、人に触れる事に関して遠慮の無いおばさんのスキンシップ攻撃に晒されるという、少年の受難の日々が続いている。
そんな少年の日々の楽しみといえば、古本屋を巡る事ぐらいであった。
元々の理由としてはなるべく家に居たくない、尚且つあまりお金もかからない、等という酷く後ろ向きな理由だったのだが。
今ではすっかり前向きにのめり込み、古本屋に置いてある本の半分ぐらいは読破してしまった。
1番好きな漫画はドラゴンボール。1番好きなアニメはデジモンシリーズ。
そんな少年、小宮尚貴の運命は陽成学園の合格発表の日から大きく動き出す。
「──ん……うぅ……あれ?」
尚貴が目を覚ました時、最初に飛び込んで来た景色は白い天井だった。
尚貴はもしかして気絶してる間に家まで運ばれたのかと思い、周りの景色を確かめてみたのだが、我が家のどの部屋でもなさそうだった。
もう少し注意深く観察してみる。まず自分は今ベッドに横たわっており、病院のように白いカーテンがベッドの周りを囲っている。
尚貴は体を起こし、カーテンを開け放った。色々な薬品が入った瓶が収められた棚や、医師がよく座っている動く椅子や、患者がよく座る丸い椅子なんかもある。
「保健室か……?」
そこまで観察して、ようやく自分が保健室に居るという事を認識出来た。
部屋の中の色合いからすると、陽成学園の保健室だろうか。
続いて尚貴は自分の現状を確認する。
ベッドに横たわっていたおかげなのか、それほど体調は悪くない。
誰がここまで運んでくれたのかは分からないが、誰も部屋に居ない。
尚貴は、誰か来るのを待つのは何となく嫌だったので、部屋を出る事にした。
……決して、親が部屋に来たら抱き着かれるのを恐れた訳では無い。多分。
「やっぱり広いな~……この学園は」
周りに誰か居る訳では無いのだが、尚貴がついつい1人ごちってしまう程、この学園は広かった。
中学校から大学院、ついでに自動車学校や各種専門学校まで揃っているこの学園は、流石に超能力を開発している某学園都市には及ばないものの、某マスコットに会えるランドとシーを併せたぐらいの敷地面積は誇っていた。
「え~と、ここは……ピロティーかな?」
しばらくして、少し開けた空間に出た。
一面に灰色の絨毯が敷き詰められ、白いソファーが所々に点在し、その中央には60型ぐらいの液晶テレビが設置されている。
昼休み等の時間にくつろぐ為の場所であろうか。
こんな日でもまばらだがくつろいでいる人が何人か居る。
丁度テレビでは、ここ最近騒がれている神隠し事件についてワイドショーのコメンテーター達が、何の根拠も無いであろう自分達の憶測をさもそれが正解であるかのように熱弁していた。
『──いやぁ~皆ひょっこり帰って来てるんで、親に黙って遊びに行っただけなんじゃないですか?』
『いやいや、それだけじゃ説明が着かないケースも沢山あるんですよ? 僕は、遂に宇宙人が本格的に人間を調べ始めたんじゃないかと思いますね』
『はっ? 何を言うかと思えば……宇宙人? バカバカしい、宇宙人なんて居る訳が無いでしょう。大体、仮に宇宙人だとしても説明出来ない事はあるんです。何故事例の99%以上が日本で起きているのか? それが問題でしょう』
『──私は、この連続神隠し事件について、少なくとも事件性は無いと思っています。人為的ではないのではないか、と』
テレビから澄んだ声が聞こえて来たので、不意に尚貴は目を留めた。
温泉卵のようにつやつやした白い肌、キラキラと輝きを放つくびれ辺りまで伸びた美しい金髪。
見た者が吸い込まれてしまいそうな程に澄み切った蒼い瞳。
少し肩幅はあるが、その肩幅に合ったバランスの良い肉付き。
今は座っていて判らないが、スラリと伸びた長く美しい脚。
「うわあ………………」
なるべく家に居ないようにしている為にあまりTVを観ていない尚貴ですら知っている。
そして、知っているにも関わらず思わず溜め息が洩れる程の美貌がそこにあった。
『ではフローラさんは、一体何が今回の事件の原因だと考えているんですか?』
オリンピックの女子レスリングで金メダルを獲得した事で一躍脚光を浴び、その後はモデル・女優・声優と幅広く活躍しているスーパーマルチタレント、御子神フローラ。
名字が日本語なのを見て分かる通り、日本人である。
日本人ではあるがハーフとかではなく、両親共に日本に帰化したという非常に珍しいケースだ。
ちなみに両親共に元外国人なのにも関わらず、彼女は日本語以外は一切喋れなかったりする。
『──私は、何らかの超常現象が起きているのではないかと思っています』
『ほう……例えば何なんです?』
『異世界へ飛んでしまったとか』
その瞬間、スタジオが笑いに包まれた。
勿論、この場での笑いはただの笑いではなく、嘲笑。
しかし、彼女は全く気にしていない様子で続けた。
『でも、誰も真実を説明出来ないんですから。例えば突然校庭に魔法陣が出来てヤマノータに飛んでしまったんだとしても、謎の音が聞こえてデジタルワールドに飛んだとしても、そう不思議な事じゃないと思います』
『そうは言いますけどね、フローラさん。いくらなんでもそれは……』
『ですから、私の事をバカにするなら真実を解き明かして下さい。貴方は有名な物理学教授なんでしょう? 今の場合でも“シュレディンガーの猫”が成り立つと、そう思いませんか?』
『うぐっ、し、しかし……』
フローラのあまりにも堂々とした物言いに、さっきから人の意見を否定ばかりしていた教授が言葉に詰まる。
ここでいくつか補足しておくと、まずヤマノータというのは、彼女が声優として出演した記念すべきデビュー作「竜天動地ドルガート」という作品の舞台となる国の名前である。
彼女はそこで、主人公達をヤマノータへと召喚したという女神ナミーザの役を演っている。
続いて“シュレディンガーの猫”について。
実際は凄くややこしい話なので詳しくは割愛させて頂くが、ここでフローラが言いたかったのは「真実が判明するまではどんな理論でも平等に可能性があるんじゃないですか?」という事である。
その会話の一部始終を聞いていた尚貴は、フローラの言い分に感心していた。
物理学の権威を相手にしても全く退く事も無く、自らの意見を毅然として発表する。
そうそう出来る事ではない。
「凄いけど、でも流石にヤマノータやデジタルワールドってのはなぁ……」
感心しつつも、やはり信じられないといった様子で呟く尚貴。
しかし、尚貴もデジモンファンの端くれ。
自分がデジタルワールドへ行き、デジモンのテイマーとなる事を夢見た事が無い訳ではない。
──だからきっと、これは必然の出来事だったのであろう。
尚貴の耳に“あの声”が届いたのは。
『我々はいつでも待っている。──招待しよう、我々の事を信じる者達よ。だがこれは強制ではない。来たくなったらいつでも来るがいい。意志が固まったら、デジタルゲートオープンと言えばいい。我々はいつでも待っている──』
「──え、な、何だ、これ……」
最初、尚貴は自分の頭がおかしくなったのかと思った。
それはそうだろう、急に頭の中に直接声が聞こえてきたのだから。
しかし、同時にこの“声”が本物だと信じようとしている自分も確かに存在していた。
ただ自分の願望がこんな有り得ない声を受信しただけかもしれない。
──でも、たった1回だけ。
その単語を言ってみてもいいのではないか……という強烈な誘惑。
それが今、尚貴の頭を悩ませていた。
「まだ聞こえる……やっぱり、これは」
3分程の時間が経過した頃、尚貴はこの“声”を受け入れるようになって来ていた。
断続的ではあるが聞こえて続けているこの“声”が、どうしても自分の妄想の産物だとは思えなくなって来ていたのだ。
──そして、彼は遂に決断を下す。
「──……デジタルゲート、オープン」
次の瞬間、尚貴は自分の存在が歪んだような非常に奇妙な感覚に捕われ、先刻取り戻したばかりの意識を再び手放す事になってしまうのであった。
「──ねえ、大丈夫?」
「なあ、そんな心配しなくても気絶してるだけだろ? 放っておこうぜ」
「でも、このままじゃボク達の訓練の邪魔だよ?」
「ぐっ……仕方無い。そいつをオレの背中に乗せてくれ」
「うん、やっぱキミは優しいね♪」
「いいから、オレの気が変わらない内に早く乗せろ!」
声が聞こえる。
どうやら倒れていた自分を運んでくれるらしい。
……と、そこで尚貴は気付く。
自分が先程まで意識を失っていたという事に。
そして、今自分は誰かに背負われている。
ふわふわとした毛が尚貴の頬を優しく撫でて、とても気持ちがいい。
「……毛?」
そんな、中々に斬新な第一声で尚貴の意識は覚醒した。
目を開けて周りを見渡すと、そこは明らかに校舎の中ではなかった。
一言で表現するならば円形の闘技場のようなその場所は、あちこちで闘いが行われていた。
だが、そんな場所なのにも関わらず、不思議と殺伐とはしていなかった。
そこで行われていたモノが殺し合いではなく、闘いによって切磋琢磨している所であったからであろうか。
「あ、目が覚めたんだね」
「何? ならさっさと降りろ。オレの背中はそんなに安くないんだ」
「え? あ、うん……って、ええっ!?」
別に尚貴は、いきなり降りろと言われた事に驚いた訳ではない。
自分が何の背中に乗っていたかを知って驚いたのだ。
白と蒼の美しい毛並み。
肩には擦れ違うモノを切り刻むブレード。
隣に居るのは、茶色い兜のような頭に黄色と茶色の縞々模様の皮膚と、非常に隆々とした体躯。
……間違い無い。ここはデジタルワールドで、今自分を乗せているこのデジモンは、尚貴の“背中に乗ってみたいデジモンランキング”第1位に君臨する孤高の蒼狼──
「ガ、ガルルモン──!」
「お前、オレの事を知ってるのか?」
「ねえねえ、ボクの事は?」
「勿論解るよ、グレイモン!」
「わぁ~嬉しいな! ボク達有名人だね、ガルルモン」
「う、うるせえ! おい人間、目が覚めたんならさっさと降りやがれ!」
「わ、分かったよ。でも1つ言わせて。僕は“人間”じゃない。小宮尚貴だ」
「うん、よろしくねナオキ!」
「ふん、だったらさっさと名乗れってんだ」
ガルルモンに急かされて尚貴は背中から降りる。
改めて周りを見てみると、闘っているのは全てデジモン達であった。
そこで尚貴はもう1度、ここがデジタルワールドであるという事を認識した。
ついでに頬をつねってみる。
……痛かった。どうやら夢ではないらしい。
「……で?」
「いや、いきなりで? とか言われても」
「ナオキはもうパートナーが決まってるのかって訊いてるんだよ」
「パートナー? いや、今初めて来たから何の事やら……」
その時、ほんの一瞬グレイモンとガルルモンの目の色が変わったような気がした。
獲物を見付けた時のような、そんな視線を一瞬感じた尚貴は、思わず身震いしてしまう。
「もう、そんな態度じゃダメだよガルルモン、ちゃんと話せばボク達も参加出来るかもしれないんだよ?」
「ふん! そんなにあいつらと一緒に戦いたいってのか。オレはゴメンだね」
「ボクは戦いたいな。それに、枠は後3つしか無いんだよ? 枠がある内に決まった方がいいよ。だってボク、キミと一緒に戦いたいんだから」
「ぐっ……でも、こいつは1人しか居ないんだぞ。一緒に戦えないじゃないか」
2人が何か話しているようだが、尚貴には何の事やらさっぱりであった。
だが、この世界に来れたという達成感や好奇心の方が勝ってしまったのであろう。
尚貴は2人に詳しい話を訊き出した。
「えっと……2人共、どういう事なのか説明してくれない?」
「──成程、D-1トーナメントっていうチーム戦が4ヶ月後にあって、そのメンバーを募集してると。それで、1チーム6体までで、枠は後3体。キミ達は何とか揃って出場したいと……そんな感じでいいのかな?」
「ああ、そうだ」
「──僕が2人共パートナーにする……ってのは無理なのかな?」
「うん、それは無理なんだって。この間ウィザーモンとパートナーになった人が“残り全員と組みたい”とか言ってたんだけど、コウメイモンが“それは無理”だって。1人1体としか組めないって言ってた」
「ふ~ん……そっか、ダメなんだ……って、コウメイモンって誰?」
「エンシェントワイズモンだ」
「エンシェントワイズモン? ──ぷっ、成程ね」
グレイモンの口から自然と出た名前に尚貴が疑問を呈するが、ガルルモンがそれに答えてくれた。
尚貴はそれを聞いて1人納得する。
どうやらすぐにその由来が分かったらしい。
ひとしきり笑ってから、尚貴は尋ねた。
「……コウメイモンなんて、一体誰がそんな上手い名前付けたの?」
「チームの1人目のメンバーで、タクトっていう人だよ。最近は来てないんだけど……」
「ふん、怖じ気付いて逃げたんじゃないのか?」
「もう、そんな事言っちゃダメだよガルルモン。それでこの間ハルナに半殺しにされたばかりじゃないか」
「は、半殺し!? ガルルモンが?」
「ああ、アレは本当に死ぬかと思った。ナオキとか言ったか、人間の女ってのは皆あんな化け物なのか?」
「さ、さあ……僕はそれを見た訳じゃないから分からないけど。そんなに凄かったのかい?」
そこまで聞いて尚貴は、タクトとは仲良くなれそうだが、ハルナの事はちょっと会うのが怖いと思ってしまった。
ただでさえ女性恐怖症なのに、そんな恐ろしい逸話を聞かされれば尚更である。
ちなみに、尚貴もグレイモンもガルルモンも、D-オルタによる身体能力向上の力の事は一切知らない。
なので、そのまま話は進んで行く。
「ああ、片手で薙ぎ払うだけでオレのフォックスファイヤーを掻き消された上に、蹴り1発で50mぐらい吹き飛ばされた」
「いや、それもう人間技じゃないよ!?」
「そうなの? 人間も本気出すと強いんだな~って思ってたのに」
「普通なら1mでも吹き飛ばせたら上出来だよ……本当にそんな子がいるの?」
「ああ、間違い無く人間だったぞ」
「………………」
その話を聞いて、尚貴はハルナが女性かどうか等関係無く恐怖を感じていた。
だが不思議な事に、尚貴はそれでも戦いへの参加を躊躇する気にさえならなかった。
それだけデジモンが好きだというのも勿論だが、もう1つ。
──やっぱり、出来るだけ家には居たくないしね……
家族──主に母親からの過度なスキンシップを受けずに済むという打算的な考えもあっての事であった。
ここで、心配をかけた方がスキンシップが酷くなるのでは、とはツッコんではいけない。
どうせ元々スキンシップは激しいのだから。
「……まあいいや。それで、ガルルモンにグレイモン。僕はどっちと組めばいい?」
「「え……?」」
期せずして、グレイモンとガルルモンの声がハモった。
何故そんなに驚いたのかは、驚いた当の本人達もよく分からなかった。
彼等の記憶では、今までに断った者は数人しか居なかったのに、である。
今までに断った者達の大半が、鋼の十闘士によって「デジタルワールドに来た事」自体を無かった事にされている。
だが、事実は消えても記憶の残滓だけは残っていたという事であろうか。
「じゃあボクがナオキと組むよ!」
「いや、ちょっと待て。やっぱりそいつとはオレが組む」
「え~どうしてさ! ガルルモンはあまりやる気無さそうにしてたくせに!」
「そ、それは……と、とにかく! お前にそいつと組まれるぐらいなら、オレが組んだ方がマシだ!」
「訳が分からないよガルルモン! じゃあさ、ナオキに決めてもらおうよ!」
「え? 僕が決めるの?」
最初はグレイモンとガルルモンの2人で話し合っていたハズなのに、突然話を振られて困惑する尚貴。
「ねえナオキ、ボクと組もうよ!」
「オイ、オレを選ばなかったらどうなるか分かってるんだろうな……あぁん?」
「僕、何で脅されてんだろう……?」
正直な話、選ぶならグレイモンがいいと思っていた。
アニメで主役だからとかそういう事ではなく、ただ単にガルルモンとはあまり仲良くなれそうに無いと思ったからである。
だが、自分の何倍もの体躯を誇るガルルモンに凄まれると、正直怖い。
だから尚貴は、すぐに返事を返す事が出来なかった。
「え~と、僕は──」
「もう! どうして邪魔するのさガルルモン! ガルルモンはナオキの事嫌いなんだったら次に来た人と組めばいいでしょ!」
「それでもオレは! お前がこいつと組むのを見るぐらいだったらオレがこいつと組んだ方がマシだ!」
「──グレイモンにする」
「くっ……! こ、この分からず屋! だったら、どっちがナオキと組むのか戦って決めようよ!」
「いいだろう、望む所だ!」
「「──って、え?」」
思わず2体の声がハモった。
尚貴の表情からは、ついさっきまであった怯えの色が消え、強い意志を感じさせる色が浮かんでいる。
その意志に圧されたのか、ガルルモンが少し緊張した声色で訊いた。
「……理由を、聞こうか」
「単純な理由だよ。僕は、僕と本心から組みたいと思ってる方と組もうと思った。ただそれだけの理由だよ」
「………………」
その言葉を聞いて、ガルルモンは言葉を返す事が出来なかった。
実際問題、ガルルモンが立候補した理由には打算的な考えしか無かったからである。
「それじゃあナオキ、これからよろしくね♪」
「うん、よろしくグレイモン。……ガルルモン、キミが組みたいと思うパートナーが見付かったら、一緒に戦おう」
「………………」
ガルルモンは尚貴から顔を背けていて、その表情を読み取る事は出来ない。
悔しそうな表情をしているのか、あるいは悲しそうな表情をしているのか。
それは尚貴にもグレイモンにも解らなかった。
ガルルモンの表情は気にかかるが、ここで待っていても判るとは思えない。
尚貴とグレイモンはこの場を離れ、エンシェントワイズモン達が居るであろう大広間へと向かうのであった……。
「そういえば、グレイモン」
「ん? どうかしたの、ナオキ?」
「いや、この国の王様って誰なのかな~と思って」
「キングエテモンだよ。と言っても、今は出掛けてるからリリスモンが代理をやってるけど」
「そうか……それでこの国の名前がエリテリスなのか」
アニメで敵だったデジモンの進化系と七大魔王の名を聞いて、尚貴が悪いイメージを全く持たなかったといえば嘘になる。
だが、この国に漂う雰囲気は全然悪くない。
次の戦いに勝とうという活気に満ちていて、とても健全だった。
だから尚貴は、この国ではそういう先入観は捨てる事にした。
尚貴がそんな決意を固めている間に、大広間に到着する。
門の前には、身の丈程の大剣を持ち銀の甲冑に身を包んだデジモン──ナイトモンが佇んでいた。
「やあ、ナイトモン」
「おお、グレイモンじゃないか。そうか、遂にパートナーとなる者を見付けたのか」
「うん。だから、入るよ」
「ああ、行くがいい」
ナイトモンが門の前から動き、尚貴とグレイモンが門の前に立つ。
だが、そこでグレイモンは1度立ち止まった。
その行動に違和感を感じた尚貴は、グレイモンに尋ねる。
「──グレイモン、どうしたの?」
「いや……ナオキ、ホントにいいんだね? ボクと一緒に戦ってくれるんだね?」
「何だ、そんな事か。うん、僕はキミと共に戦うと決めたんだ。行こうグレイモン、D-1トーナメントへ」
「──うんっ!」
そしてグレイモンは、遂に出会えた自分のパートナーと共に、その門を開け放った──。