高かった弾薬費。
安いコンビニ弁当のコーナーの隣でピストルが売ってある世界なら、そんなものは簡単に買えると思われるのだろう。需要と供給、インフレーション、その他ややこしい経済用語等々…この世界での銃弾はトイレットペーパーだった。キヴォトス人にとっては、パンツよりも弾が完全に装填された銃の方がよっぽど大事だ。そのためお買い得価格で手に入れられるという発想が必然的に思い浮かぶのだろう。
残念ながら、こんなところに来てしまった時に、一つ、初めて気付くことがある。それは頭が錆びに錆びきった奴らがこの街の経済の大半を牛耳っていることだ。
どういうわけか、動きがカックカクな液晶顔のアバズレどもがマガジン一個あたりの価格を絶妙に調整していやがる。一個だけならそこまで負担にはならないが、十個だとあっという間に金がなくなってしまう。治安が良い学校であれば十個で一ヶ月は持つ。しかし掃き溜めみたいな所だとなんと一週間も持たない。完全な罠だ。周りの生徒たちは何も知らない十代らしく気付けばマガジンも懐もすっからかんの借金まみれになっていった。
高かった食費。
地球でも、キヴォトスでも変わらない事だが、キヴォトスではその度合いが百倍だった。安いお菓子や飴なら簡単に買えるが、きちんとした飯や食料品となれば話は別。それもカスみたいな砂漠のすぐ側で、だ。笑ってしまうこんなもの。やっとの思いでやっすいラーメンを食べられる生活に慣れないといけない。何かしらの病気になっていないのは頭上のヘイローのおかげだ。
高かった家賃。
マズローの欲求段階説なぞくそくらえ。ここで暮らす奴らにとっては住処があるかの心配なんてものは死ぬほどどうでもいい。たとえ素寒貧になったとしても、空き家なんて探せばごまんとある。とはいえ電気なし水道なし暖房なし
大多数の生徒はこんなことには気にかけていない。学校が生活費の大半を負担してくれるため、唯一気にかけていることは学費の支払いだけだ。無料で弾が貰えて、食堂で美味しいご飯が食べられて、寮で安心安全な生活が過ごせられる…いいね。だが一方で、それ
「出費、出費、また出費…ここに来たからというものひたすら出費ばかりだ!」
私は唸るようにしてそう言った。
「ここはキヴォトス!夢と青春の街だろ!過労のサラリーマンが責任感溢れる大人のフリして未成年の生徒に欲情できるパラダイスだろぉ!?なのに私はなんでこんな請求書なんかに時間を費やしているんだ!?」
もちろん、気絶している生徒に怒鳴りつけても、うめき声しか返ってこず、またしても答えが得られなかった。いじわる。
「あそこだ!」不良集団が路地裏に押し寄せ、既に銃を構えていた。恐らくお友達を何人か転がしたせいだろう。「逃げられると思うなよ!」
「ちっ」すぐさま私は刀の柄を握る。「すっとろいにも程があるぞ百鬼夜行の不良ども!ブラックマーケット相手なら二十分は節約できたんだぞ!こっちは時間が限られてるの、分かる?」
「る、るっさいな!」リーダーが口ごもりながらも叫ぶ。「あたしらを誰だと思ってやがる!?あたしらこそがぁ──」
「魑魅一座をなんとかしたせいで図に乗りまくったモブ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「モブじゃねえし!」不良になりたがりの少女がそう言った。
「あー、まあそうだ、どのみち私はあんたらをぶっ飛ばしてお金を手に入れることになっている。だからさっさとケリをつけよう。」そう言って手首を軽く返し、鞘から愛刀を引き抜く。冷えた鋼が陽の光を反射して輝き、そして刀身に相手の恐怖が映る。
「銃を捨てろ。そうすればこっちからブン殴らなくて済む。」
あまりにも間抜けすぎて絶好の機会を見逃したあいつらは、銃弾の嵐で私を沈めようと試みる。
二十分後、のされた子供たちで満ちた路地から歩いて出る。地球にいたのなら、暴力を振るってしまったことで申し訳ないことをしたと思うが、ここはキヴォトス、一日二日で元通りになる。だがしかし、あいつらに教訓を与えた方が私にとってはよっぽど重要なことだった。
そして相手はクライアントになるが、その時に唯一気にかけていること──それは報酬をきちんと受け取ることだ。「証明書はお送りしました。
嫌悪感を剥き出しにして、私は電話を切る。この街の大人が大っ嫌いだ。ここの生徒はほとんどが子供、つまり契約書も交わさずに取引したり、利用規約も読まずに契約したりするほど世間知らずが多すぎる。その結果、
元先生である私もいつか楽園に連れて行ってもらえると夢見たことがある。それは否定のしようがない。誰だってそう思うはずだ。しかし先生という立場は変わらないと、いくらなんでも性別だけは変わらないと思い込んでいた。そうすれば美少女たちの街で男という特権を得られるからだ。
だが──違った。
素寒貧な少女になってしまい、ただのモブ同然の存在になってしまった。むしろ落ちこぼれの方が私よりもずっといい環境だった。中学校までの記録が残っているからだ。だが私はここに来るまでは
とはいえキヴォトスでは、薄くて細い──
ここ一年ほど文字通り身を粉にして働き、必死に生き抜いてきた。裏通りを転々としながら、できる限りの雑用をこなし、最初は安物のピストルを使っていたが、馬鹿らしく思いながらも刀に乗り換えた。(あくまでもこれは経済的な事情で決めただけだ。もう弾代は御免だ!)そうしてクソウザイロボットどもをなんとかしたりして…ありとあらゆる手を使って日々を乗り越えてきた。
そしてなんとか地獄みたいな環境を抜け出し、祭りの本場である百鬼夜行でまともな場所に身を置くことができた。
…ん?ブルーアーカイブのストーリーを知っていたらなんでアビドスに行かなかったのかだって?そっちのほうが安上がりで済むと?
確かに私は対策委員会の皆が大好きだが、これには二つの理由があった。
まず一つ目、足を踏み入れた時点で砂漠のクソ暑さに気付き、すぐに引き返した。振り返ることすらしなかった。
そして二つ目は…税金だ。
アビドスはもうかつての栄光を失っているし、カイザーが土地の99.9%を所有している。アビドスの未来をどれほど願っていたとしても、生活の糧を搾取しようとする大人どもが支配する自治区に店を構えるつもりはさらさらなかった。一方、百鬼夜行は生徒会なんてものが存在しない。様々な部が一つの旗の下に集まったような状態で、特に私がやろうとしていたことも考えれば、税金も安かった。
「ただいまぁ!」そう叫びながら私はスタジオのドアを勢いよく開ける。「私が出ていた間に何か燃やしたとかはないよな?」
「
「静かに。また大家にどやされてしまうぞ。」
「仕事の方は?
「するわけがない。私を誰だと思っているんだ。」と呆れたように言いながら、私はソファに身体を預ける。「そっちの準備はどうだ?配信は問題なく出来そうか?」
「はい!」と別の生徒が答えスマートフォンを私に手渡す。「ミレニアムから許可は得ています!あとはアプリストアにビルドをアップロードするだけです!」
「ふぅ、そうか…」アプリを開くと、いつもの曲が流れ始める。「ようやくこの時が来たのか。」
この無謀なアイデアを思いついた時は本当に実現できるとは思ってもいなかった。他にやることがない人生で、実現できっこない夢を追いかけるのも案外悪くないのかもしれない。
というのも──
子供たちが営む都市であればさぞ素晴らしい神レベルの娯楽があるのだろうと思われるが、そんなものはない。地球にあったものを薄めただけのパロディでない限りは、晴れた日の水たまりほどの深さもないものばかりだった。テイルズサガクロニクル(笑)という傑作を除けば、どれもゴミしかなかった。
例えるならば世界一辛いインド料理店からイギリスに1週間滞在したようなものだった。そして最も多く視聴されているテレビアニメがモモフレンズというひどい有様で、最高のコンテンツを享受してきた私としては、著作権フリーの地獄のような世界でなんとかやりくりしている哀れな子供たちをただただ見下すことしかできなかった。
さっき言ったように、地球にあった作品はすでに劣化したバージョンとして存在しているし、盤面をひっくり返すような文章力が私にはなかった。とにかく金が欲しかったので、仕方なく道徳観を捨てて、キヴォトスを舞台にしたとあるゲームを再現することにした。
完璧なものにするため、様々な芸術系の学校から落ちこぼれを拉致スカウトし、数え切れないほどの徹夜をしてきた。だがこれが成功すれば…
そして何年間もガチャからの収益でガッポガッポの大儲けだ!わーい!
どうして落ちこぼれや不良の寄せ集めが地球のゲームとほぼ完璧に再現できたのかは自分でもさっぱり分からない。恐らくキヴォトス特有のご都合だと思うが、そこはどうでもいい。そして百鬼夜行には『文化振興に貢献した』場合に税が免除されるという制度がある。拠点ごと移転しなければならないほどの好条件だったので、私は迷わずそれに飛びついた。
「ですが姉貴…」ヘッドマーケティングマネージャー(適当に選んだ)が手にしたタブレットを不安そうに見つめる。「本当にあのタイトルでいいんですか…何か──」
「いい。」
「でも──」
「私を信じろ。上手くいく。」単に面白いからやっているわけではない。「今まで私が、お前らに誤った道へ踏ませたことはあるか?」
スタジオ全体が私の方に注目し、作業が一斉に止まる。「ビジネスでも、私がお前らに誤った道へ踏ませたことはあるか?」
不満の声は多少あったものの、誰もそれに反論することはなかった。
問題点があるといえば、実在する人物を使わなければならないという点だった。もしくは連邦生徒会長が失踪していないと私が確認した時点で、事実上この世界のネタバレをしてしまうことになっているという点もあった。それか──これ以上考えすぎると自信を失ってしまう。やめよう。
サンクコスト効果なぞ知ったことか!覚悟せよキヴォトス!今まさにこの瞬間が──!!!
「ブルーアーカイブ 日常で奇跡を見つけるRPG…」それ相応の緊張感と共に、早瀬ユウカはタイトルを読み上げる。「変なタイトルね…」
彼女の通う学校のゲーム開発部は問題児だらけの部ではあったが、ミレニアムサイエンススクールはキヴォトス全域においてゲームの聖地として知られていた。当初は最先端のゲーム機を擁していたこともあり、ミレニアムアプリストアやヴェントといった各種ゲームプラットフォームを展開した際、大きな注目を集めることになった。そして固定収入源の一つとなり、利益の大半は予算を貪る生徒たちの懐に消えていくとはいえ、重要な財源となっていた。
主要な財源の一つである以上、セミナーの会計が取引内容を厳しくチェックするのは自明であった。これは彼女が長年のゲーマーとして、『好きなものほど希少価値が高くなる』という古からの法則に苦しめられているわけではなかった。
「またソシャゲなの?」青髪の少女は説明文を読みながら呟く。青春×物語×学園RPG──セールスポイントはどこなのか。軍事訓練のカリキュラムはどの学園でも実施しているし、もちろんミレニアムでも実施している。「キヴォトスの先生という設定は初めてね…」
普段であれば、ユウカはスルーしてそのまま忘れ去ることになっていただろう。しかしこの日は、偶然とある部が雀の涙ほどしかない予算をゲームの購入に注ぎ込むといういつもの失望を感じる羽目となったので、数少ない自由時間の間だけでもその部の存在を忘れてしまいたかった。それが怪しい新作をダウンロードすることになったとしても。
「基本無料だから…」そう自分に言い聞かせて、ダウンロードが完了するのを待つ。「試しにやってみてもいいよね。」
課金圧が強かったら、消せばいい。
そう考えたユウカはアプリを開く。
そして二十分後、ミレニアムサイエンススクール中にユウカの叫び声が響き渡る。
「何なのよこれー!!!!???」
[訳者あとがき]
原文では公衆の面前でとても言えないお排泄物ワードがポンポン出てたので先生の口調はこれぐらいの悪さにしました。はい。
この一話の動画バージョンもあります。(作:CakeTown氏)こちらからどうぞ(動画見ればKV要素がどこにあるのかが一目瞭然です。)
イラストリクエストならぬ翻訳リクエストを頂いて、この作品の翻訳をさせて頂きました。本当にありがたい限りです。
次回は4日に投稿します