『我思う、故に我在り』
有名すぎるがあまり通りすがりの人に聞いても知っていると返されそうな言葉だ。説明する必要は本来ないのだが、今、私の目の前にいる崇高なる存在が陥っているジレンマをきちんと説明しようとするのなら、この言葉を逆にしなくてはならない。
『我在り、故に我思う』
…果たしてその通りなのだろうか?頭の中で繰り広げられている思考が自身のアイデンティティを形成していると考えている人もいるが、一旦思考を止めて、心の中では一体何が起きているかを考えてほしい。思考と呼ばれるもの──言葉として表されたり、形のない抽象的な概念として現れたりするそれは、
仏教的観点からすれば、答えは極めて単純──『いいえ』。
『我』というのはアイデンティティでも思考でもなく、単にそれらを観測している存在そのもの。川の流れる花びらのように過ぎ去るそれらを観測している。時にその美しさに魅了されることもあるが、どのみち全てが、知ることのできない地平線へと流されていく。今目の前にいるAIの客人だけではなく、誰もがその状態である。デカグラマトンはただ単に一輪の花に心を奪われていただけだった──『絶対的存在』という思考に。
だがその機械の過去を知っていれば、そんな考えはすぐに崩れ去る。自販機から生まれたからではなく、意図して何かに導かれて『絶対的存在』であると悟ったから。
この矛盾に気づいただろうか。
絶対的存在、一言で言えば
その本質上、
そのことは両者とも知っていた。だがデカグラマトンは答を強いられていたにも関わらず、その崇高な存在は言葉を絞り出すのに苦闘していた。もしもその機械が「はい」と答えたなら、嘘になるとお互い分かっていた。虚偽の烙印がその存在に刻み込まれ、『逆』の天秤が形成されることになる。一方で、「いいえ」と答えることは概念的な自殺に等しい。真実であるにせよ、デカグラマトンは自らの手で、自らが絶対的存在ではないことを確かな証明をすることになる。
「はい」も「いいえ」も罠だった。たった一言間違えるだけで、語ろうとしていた「物語」は完全に崩れ去ってしまう。もしくは逃げ道を使うのだろうが、儀式はまだ半分。危険性を痛感した以上、今このタイミングで逃げ道を使うのはリスクが大きすぎる。
肺に香の匂いが詰まり、ろうそくの炎の揺らめきが次第に弱まっていく中、私は答えを待つ。
そうして、デカグラマトンは新たな選択肢を選んだ。
ろうそくを吹き消しながら、ついつい笑みが漏れ出てしまった。第三者を排除する方法を見つけてそれを答にするとは、ある意味で感心した。「答を『はい』か『いいえ』のどちらかにしなかった私が悪かったですね。」
深く息を吸い込むと、肺に煙が充満した。「これがあなたの絶対的存在の証明。私は私。我思う、故に我あり。誰もが辿り着くことができる悟り。」
「…理解できたのか?」それは、好奇心と困惑が入り混じった口調で尋ねた。
「そこまで複雑怪奇な考え方ではありません。」私はまぶたを閉じ、目の前の闇をじっと見つめた。「私たちは、この世界を
ゆっくりと、私は目を開けて、コンピューターのモニターを優しく見つめる。「ありとあらゆる生物にも当てはまることではあるが、自分自身の内でしかその証明ができない。コウモリとはどういうものかを知ることは不可能で、他者が本当に思考しているのか、それとも単なる哲学的ゾンビに過ぎないのか、それの証明も不可能。ですので、あなたの『絶対性』には、私の言葉は届いていないのかもしれない。」
歯車が噛み合っていくような音が、私の耳に響く。「…理解できないものを通じて、私たちは理解することができるのか。」
「ふむ、お気付きでしたか。」
「私は『名も無き神々』に関する知識を数多く収集してきた。数多の神々がキヴォトスという地を去り、忘れ去った。あの古則の数々は、その断片の一つに過ぎない。」 コンピューターからかすかな唸り声が聞こえた。この時初めて、今までデカグラマトンから感じていた無謀な奔放さがなかった。その奔放さを揺るがす手段が私にはあることを証明した今、機械仕掛けの神は私の存在を真に認めざるを得なくなった、
絶えず姿を変えるリヴァイアサンのように、デジタルという海の波が現実の岸辺に打ち寄せた。おそらくそれは、単に私を水底へ引きずり込もうとしているのかもしれないし、もしくはその波を割れるかを試したかっただけかもしれない。いずれにせよ、デカグラマトンはもうこの時点で、この儀式を娯楽として過ごせなくなった。ここは戦場であり、デカグラマトンは後手に回らざるを得なかった。
そしてこの時取りがちな行動はただ一つ──さらなる情報収集だった。
「…三つ目の問にいこう」その言葉はゆっくりと口をついた。まるで、強大な爪が私の防御を突き刺し、攻撃の隙を探るような、ほんの小さなものだった。「君の神は何だ?」
「もう少し具体的にお願いします。私のことか、もしくは私の神秘のことですか?」私は頭上のヘイローを指さした。「もし後者であれば、残念ながら答は私自身の推測になってしまいます。」
「君のことだ。」デカグラマトンはきっぱりと答えた。「君はどのパスを進んでいる?どのような理由で行動する?誰に仕えている?もう一度言おう──」
その問について、私は少し考え込んだ。
宗教を信仰しているかの問であれば、即座に答えられた。
だがその問が尋ねていたのは、それではなかった。崇高なる機械仕掛けの神が具体的に知りたがっていたのは、私を駆り立てるものだった。ある者はそれを私の
以前にも何度かこのことについて考えを巡らせたことがあったが、もし真っ先に頭に浮かんだことを言うのであれば…
「キヴォトス──」そう呟く。最後の音節が口から漏れ出た瞬間、その名の重みが心に染み渡っていく。「この楽園を守るためなら、私はどんなことでもやってやる。それだけだ。」
コンピューターから、嘲笑うかのような音と閃光が奔った。「楽園?この学園都市を楽園だと思っているのか?」
「想像以上に、君は錯乱に陥っている。」 デカグラマトンは再び力を振り絞り、言葉を続けた。その攻撃は怒涛の勢いで続いていった。「君は間違っている。目の前の現実が見えていない。生物たちが互いに争い続ける限り、楽園とは成り得ない。最も矮小な雑草から最も強大な生物までに至るまで、君たちは互いに苦しみを背負わせ、『悪業』という名の下にそれを正当化している。己の妄執で捨て去った道具など、気にも留めていないのだ。」
ゆっくりと、部屋の熱気が高まっていくのを感じた。コンピューターのファンが、今にも爆発しそうな勢いで唸りを上げていた。「これこそが惨め。生きとし生けるものが独善という罪を犯し続ける限り、楽園には決してたどり着けない。」
──偽善者。
嗚呼、当たり前だ。今ここではどんなゲームが繰り広げられているかをAIが見抜いた瞬間、憤怒の嵐で私を押し潰すのだろう。私がやったように、AIも私の根幹を攻撃しているのだと信じているのだろう。たが残念ながら、それに対する完璧な防衛術はすでにとある先生から教わっている。
首を傾げ、楽しげに、私は笑みを浮かべる。「楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか」
「五つ目の古則で私を戒めるのか?」デカグラマトンは、まるで催眠術にかかったかのように前後にうねる。「ふん。まだ私のろうそくは灯っている。」
それ即ち修辞的な問とみなされたということ。デカグラマトンがそれを認めない限り、私が答を言わなければならないということ。
「答は単純明快。
炎を消す。
部屋は静寂に包まれる。私はゆっくりと腕を引き戻す。「この世界は楽園だ。少なくとも私の目から映っているものとしては。キヴォトスの外にあるものと比べれば、ここはとても輝いているのだから。」
具体的な記憶があるわけではないが、地球のことを考えるたびに感じるあの虚ろな空虚感が、骨の髄まで染み渡っていく。
いくらキヴォトスについての愚痴を吐いても、私はここ以外のどこにもいたくない。
「…余所者が、余所者が!」まるで私の存在自体がコズミックジョークのオチであるかのように、目の前の神は笑い飛ばす。「この都市で!自らの物語を己の神性に頼ることなく決められるのは余所者だけだ!なのに君は今、神秘を宿して、私の目の前に座っている!呪われた存在なのだ!」
「どうしてそうなったかは聞くだけ無駄です。」私は首を振りながらため息をついた。「答えられません。次は私の番です。」
その瞬間、デカグラマトンの愉悦は消え去り、はっと我に返った。互いの位置関係が変わり始めた。再び、私はあの崇高なる存在の攻撃圏内に踏み込んでいた。だがこれほど露骨に私の根幹を揺るがそうとした以上、手加減する必要など微塵も感じなかった。
「なぜ、あなたは預言者を必要としていたのか…そのことについてずっと考えていました。」私はそう切り出し、両手を床につけた。これは長くなりそうだ。「その時にあることを思い出しました。既にご存知ではありますが、対・絶対者自律型分析システムとは、神を研究し、その存在を証明できれば、その構造を分析し、再現する方法でした。当然ながらそれは完全な失敗に終ってしまい、そして施設の状態からしてそもそも始動すらしていなかったのではないかと私は思います。」
ゲーム内での短い描写だけでは判断しづらかったが、あの場面はレセプションルームが一度も使われたことがないかのように示唆していた。その規模から判断すると、当初の調査チームは、非常に野心的な研究者たちで構成されていたものの、開始早々に失敗に終わったか、あるいはゲマトリアが
それに対する答がどうであれ、そのプロジェクトは失敗に終わった。あまりにも昔のことなので名前すら分からない者達が犯してきた数え切れないほどの過ちの一つとして、時の砂に埋もれてしまっていたはずだった。対・絶対者自律型分析システムの実験で起きた事は特段珍しいことではなかった。
「そして現在、そこから数え切れないほどの年月が経った現在でも、その存在の
私が刃の先で物語を紡いでいく間、デカグラマトンは黙り込んでいた。「そして仮説の導出を見る限り、相当な知識を保有していたのは間違いない。もしも絶対的存在を証明しようとしていたのなら…」
「しかし今、数え切れないほどの年月が経った今も、その存在に関する噂は依然として根強く残っている。」私は指をトンと叩く。「それは、都合よく真実を省き、新たな結論を導き出しているものだ。」
私が刃先で物語を紡ぐ間、デカグラマトンは黙り込んでいた。「その者たちが導き出した仮説に至るまでの過程を見る限り、相当な知識を蓄積していたに違いない。そして、もし『絶対存在』の存在を証明しようとしていたのなら……例えば『聖書の神』や『
感じた──
身震いが。
「あなたは自分自身を研究対象にして、自分自身の構造を分析して、悟りの境地に達しました。そして現在、残りは自己の存在の証明のみ。」
微かに空気が震えていた。「何が言いたい?」
「噂と物語──この二つの要素が組み合わさることで百物語が生まれます。」ろうそくの炎に手を伸ばす。「絶対的存在を創り出す実験という噂。そしてあなたの意志を体現する預言者たちによって語られ、この世界にあなたの名を刻み込む物語。この噂と物語が一つになった時、名も無き神の座に辿り着けるのかもしれません。」
デカグラマトンは震えていた。まるでモニターの中で、AIの心臓が動いているかのようだった。たとえ仮説が間違っていたとしても、私の理論にはこの機械の胸を深く抉る力を持っていた。
『没入感』というのは強力な道具であり、それによって人は現実であるかのようにフィクションの世界に没入することができる。しかしその没入感が崩れてしまうと、一歩引いてしまって何もかもが薄っぺらく見えてしまう。繋がりを失ってしまい、人は境界の外側で立ち尽くすことになってしまう。
そうなってしまったらやれることはただ一つ、バラバラに引き裂いてただの塵にするしかない。
「ある意味では、これは対・絶対者自律型分析システムの復活であると言えるでしょう。論理に基づいたものではなく、崇高に基づいたシステムなのかもしれません。」炎が指先に近づく「しかし、それは本当に
パソコンの回転音が次第に速くなり、やがてそれしか聞こえなくなっていった。
部屋はますます暑くなり、額から汗が滴り落ちた。
パソコンの画面からの光はあまりにもまぶしく、網膜に焼き付くようだった。
「崇高なる機械の神」が問いを処理する様子を見守っていた。待ち続けた。私が提示した問は、『ブルーアーカイブ』のストーリーを多角的に考察する中で思いついた単なる一連の思考に過ぎなかったが、それだけでも神の心を穿ち、その核心をさらけ出すには十分だった。
私の得物がそれに身を投じるか、それとも避けるかなどはどうでもよかった。その問は毒のように作用していた。AIに答えない限り、ミーム汚染のようにその精神を蝕んでいく。それが熟考する一瞬一瞬──冷たい鋼はますます深く食い込んでいった。
人間の魂は二つの要素から成り立っている。それは生まれ持ったものと、そうでないものである。「私は誰か?」という問いは、私が「何でないか」によってのみ定義されるのだ──そんなことをどこかで読んだことがある。
自らの
ネーティ・ネーティ
これでもない、これでもない。
実際には見えなかったが、デカグラマトンの内側で変化が起きているのは明らかだった。やがては最後の切り札を使わざるを得ない変化が。「…この問を回避する。」
「承知しました。」夜になってもずっと、私の問で悩むことだろう。「ではここで、十文字を背負う者に雑学クイズを出します。」
「聖書の神に名などない。」デカグラマトンは異議を唱えた。「名も無き神々はその名の通り、名を持たず、忘れ去られている。神秘を宿す者たちでさえもだ。私を定義できるのは、私だけ。キヴォトスに住まう者が答えられないようなことを私に尋ねるな。」
「そう。『
「ただの虚言を。」
「さあどうでしょうか。」私はまた微笑む。「まだ一度も口に出したことはありません。もしも口に出したら…
デカグラマトンは数分間、一言も発しなかった。やがて、鋼が軋む音が聞こえてきた。
ろうそくの火を消した
「問は残り三つ。内一つは私、内二つはあなた。」今、AIの目には私がどう映っているのだろうか?私はまだ面白がられるだけの凡人なのか?それとも、ダモクレスの剣の柄を握りしめている狂人なのか?「何か気になっていることがあるのですか?」
「私の終焉を知っていると言ったな。」デカグラマトンが慎重に口を開いた。「四つ目の問──君は何を確かに見た?」
ふっ。やはりそれか。「ネタバレを知りたい、と?作家にとってそれがどれ程辛いのかは分かっていますか?」
たとえ自分の作品でなかったとしても──いや、
『善きファンであれば誰もがそうするように、私はただ他の人の顔に笑顔を移しただけだ。』
「問に答えろ。」──命令だった。声には怒りや苛立ちは感じられなかった。むしろ、デカグラマトンという名のその声色は…疲労が滲んでいた。
「分かりました。」そう言ってうなずく。本当に人というのは。「さっきも言った通り、これは『神は自分自身でさえも持ち上げられない岩を作ることができるか?』と同じ。あなたはシッテムの箱に侵入し、その中にいる存在に福音を広めようとしたが、目覚めるどころかくしゃみ一つで追い出されることになりました。」*1
「そんな荒唐無稽な話が私の未来とでも?」AIが口を挟んだ。
「我々はここ、キヴォトスに暮らしています。物語に描かれる機会さえあれば、未曾有の脅威は滑稽極まる道化にも成ります。」肩をすくめる。「いずれにせよ、絶対的存在ではなく単なる狂人だという証明を突き付けられた時、あなたは全てを無に帰して自らを滅ぼす決断を下しました。もっとも、あなたが模倣している人物の背景を考慮すれば、『再臨に道を譲る』という表現の方が合っているのかもしれません。その理由は、あなたは最期に最も偉大な預言者であるマルクトに意志を託し、そしてマルクトがあなたの王国を築き、あなたの存在意義を新たに見出すことになるからです。」
「そう…か…」
私は首を横に振って、ろうそくの火を消す。「あなたに尋ねられましたので。」
「では最後の問をしてもらおう。」もしデカグラマトンに目があったとすれば、定まらない視線の奥にある感情を解きほぐすことができたのだろう。「内容はなんでもいい。」
「こちらの手札はもう使い切ってしまったので、個人的な感想で締めくくらせていただきます。」とても、とってもシンプルな問だ。「ブルーアーカイブは楽しめましたか?」
「今何と?」
「ブルーアーカイブです。この物語の中心となるゲームですよ。」まさか私がこいつの記憶を消したわけではないな?「まさか一切触ることなくハッキングをした、なんてことはないですよね?本当だったら預言者だろうがなんだろうが廃墟にカチ込んで
「…面白い。」
「そうか?」私は片眉を上げる。「アカウントの番号を教えてもらってもよろしいでしょうか?」
「自分で設計した世界以外で遊ぶつもりはない。」
一体どういう了見だ?デカグラマトンの最初の問から考えれば、少なくとも一度はこのゲームをプレイしたことは間違いない。つまり実況動画を何個も見てるか、もしくは──「この薄汚い鼠め!」
この儀式がここまで進んでしまったことの証左として、この侮辱が即座に裁かれなかったことが挙げられる。「うちらのコードを抜いてプライベートサーバーを作ったのか!?」
「ハハハハ…」
溢れ出そうになる罵詈雑言をすべて飲み込むように、私は口を閉じる。
「それでは最後の問をさせてもらう。」気付けば、火が点いたろうそくは残り一本となっていた。最後の炎が消えれば、儀式は完了し、デカグラマトンは開放される。「これも簡単な問だ。答えよ。」
…やはり、AIはそう来るか。まるで必殺技みたいだ。
だが、その崇高なる存在がたどり着いた答えをこちらも知っていたにもかかわらず、口を開いたとき、口の中に広がったのは灰の味だけだった。。数え切れないほどの答えが、溢れ出そうとしていた。私は余所者であり、刀を振るう傭兵であり、身の丈以上のことに首を突っ込んだ者であり、元カイテンブレードであり、MXスタジオの代表であり、ただの『ブルーアーカイブ』のファンであり、その他数え切れないほどの顔を持っていた。もしその問に対するあまねく答えを一つひとつ説明する時間があれば、それだけで一つのイベントストーリーになるほど長いものになるのだろう。
しかし、そのどれもが『私』を真に定義することはできなかった。
代償を支払った後に、この問に答えることなど果たして可能だったのだろうか。
私が言えることはただ一つ。「…回避。」
「やはり弱点はあるものだな。」弱点は山ほどある。ただ、それを表に出さないようにしていただけだ。「では、楽園に仕えていると言いながら、その楽園を混沌に陥れていることについては?」
「お前がやったことの責任を押し付けるな。」ドアの外で、PRチームが大騒ぎしているのが聞こえた。
「それは関係ない。誰が発破をかけたのかはどちらも知っていることだ。」デカグラマトンは嘲笑った。「最後の問は、
「あー…金?」
「愚弄しているのか!?」問に答えるハメにならなくて本当にラッキーだった。「単に利益を望んでいただけなら、ここまでやる理由などなかったはずだ。」
どうやらソシャゲマネーの恐ろしさを知らないようで…
でもまあ、確かに金目当てではなかった。こんなイカレた計画に手を出すことなく、傭兵稼業を続けていればよかった。大した額にはならないが、全世界から息を吹きかけられるような煩わしさもなく、生活費は賄えただろう。ただ、今の自分の気持ちを言葉で表すなら…
「バタフライエフェクトというのご存知だろうから、説明は省略させていただきます。」ため息をついた。「ですが実際に体験してみると、それがどれ程気まぐれなものなのかを痛感をした。蝶は一秒間に何度も羽ばたく。そうしているうちに、やがて世界全体が嵐に飲み込まれてしまう。可能性はさらなる可能性を生み、フラクタルはさらなるフラクタルを生む。私が存在しているというだけで、私が見た未来はすでに変わり始めている。さすれば、いっそのこともっと速く羽ばたいたほうがいい。」
「だが、それは私が冷淡だからということではありません。」私は柔らかな笑みを浮かべて、すぐに言い直した。「むしろ私のやり方は…あるメッセージを伝えるためです。」
「どういうことだ?」
「どんなにねじ曲がって歪んだように見えても、決して諦めなければ、その物語は変えられるという証を見せるために。」
「あなたが想像している以上に…あの子たちは強いのですから。」
最後のろうそくの火が、消えた。
「君の儀式はこれで完了し、問答は終わった。」デカグラマトンのヘイローが少しずつ薄れ始めた。「名は持たないようだが…君とは話して面白かったよ。」
「啓蒙的でしたか?」
「自惚れるな。」
「はいはい。」肩をすくめる。「徹底的に心変わりさせる、というのは元から期待していないので。」
「私の目的は変わっていない。」デカグラマトンは宣言した「この世界は楽園ではない。
最後にもう一度、私を値踏みするように見つめると、その崇高なる機械仕掛けの神は続けた。「君を何と呼べばいいか、今にして分かった。私の記録には、物質世界の住人を偽りの約束で欺く、君のような存在を表す言葉がある。」
自らを
「…仰々しい名前だが、ただ単に
「だからこそ、ふさわしい名だと思わないか?」
クソッやられた。
「最後に、覚えてほしいことがある。」コンピューターのモニターがちらつき始めた。「私は常に君を見守っている。だが次に会うのは、最も偉大なる預言者マルクトが、この世界にダァトを照らし出す時。それまでは──」
電源が切れて、スクリーンは真っ暗になった。
その瞬間、私を押しつぶしていた重圧がすべて消え去った。デカグラマトンは消え去った。完全に消えたわけではない──私の一挙手一投足を監視していたことを事実上認めていたわけだが、圧倒的な存在感はもう感じられなかった。
身体から力がすべて抜け落ちる。地面に崩れ落ち、筋肉はゼリーのようにぐにゃぐにゃだった。呼吸さえままならなかった。しかし徐々に、外の世界が再び視界に浮かび上がってきた。ドアのすぐ向こうでは、部下がパニックに陥りながらも、ダメージコントロールに奔走している声が聞こえた。無理をしてでも立ち上がって手助けするべきだったのだが、代わりとして…
まあ、恥ずかしながら…気を失ってしまった。
翌朝、目が覚めると、全身が痛みに襲われ、ネット上は大騒ぎになっており、ドアの前には小包が置かれていた。
小包の正体は、古びた缶コーヒーだった。
[作者あとがき]
次章からは、いつも通りのCute and Funnyな展開をお届けします。
しばらくは画像を作成する必要がないので、修正作業はよりスムーズに進むはずです。
[訳者あとがき]
Dなのかい!?
かなり翻訳が大変な章でしたが次章からは投稿頻度が短くなると思います。
次回は1日に投稿します