ブルーアーカイブでブルアカを   作:粋刺@翻訳

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[訳者まえがき]
特異現象捜査部の英語訳は公式訳ではSuper Phenomenon Task Forceとなっており、Paranormal Affairs Departmentはファンによる非公式訳です。


それぞれの立場(1)

「そう…成程…そうなのね。」曖昧な言葉が、一筋の風のようにさらさらと流れた。「…分かったわ。最善は尽くすわ。」

 

ボタンが押されるとともに、電話は切れた。

 

調月リオ──セミナーの会長でありミレニアムのビッグシスター──彼女はスマートフォンをしまい、部屋にいるメンバーらに向き直る。「連邦生徒会の総意が決まったわ。」

 

「おや?」とまるで会話の流れを既に読んでいたかのように、白髪のエルフは微笑む。「詳しくお聞きしても?」

 

常人の目では察知できないものの、冷静沈着なリオの表情は微かに揺れ動いていた。「今から伝えようとしていたところだけど…ふう…」

 

彼女は小さな吐息と共に鬱憤を吐き出した。「ビナーの出現がアビドスにて確認されたことにより、デカグラマトンはキヴォトス全域における脅威として認定されたわ。それに合わせて、対策会議が開催される予定で、セミナーも出席する予定よ。」

 

「分かりました。」ノアは瞬きすることなくタブレットに内容を素早く記録していく。「開催日時はいつでしょうか?」

 

「…未定よ。」とリオは首を横に振る。「『近日中に』としか伝えられていないの。」

 

疲れ切ったため息が部屋中に広がっていく。

 

部屋中に疲れたため息が漏れた。デカグラマトンがミレニアムのキャンパスを襲撃してからまだ丸一日も経っていないというのに、彼女たちの疲労はすでに限界に達していた。睡眠は碌に取れておらず、授業は休講になったのにもかかわらず、セミナーの全メンバー(どこへ消えたか分からない(問題児)一人を除く)は、早朝からずっと緊急会議室に閉じ込められていた。連邦生徒会による官僚特有のくだらない手続きに構っている暇があるかは言うまでもない。特に、普段からこうした馬鹿げたことを生徒会に丸投げしていた一般生徒三人にとっては、なおさらだった。

 

「ざっけんじゃねえぞ!!」ネルは机を強く叩き、そこにはへこみが残っていた。普段なら会計が彼女を睨みつけていたはずだが、今の状況ではいつもの器物破損レベルでは今直面している問題に取るに足らないものだった。「チッ!いきなり来いってつったのに約束のやの字もしねえのかよ。これが連邦生徒会のやり方か。」

 

「元からそういう組織ですので。」ヒマリは独り言のように呟いた。「ですが、今の状況を鑑みると…近いうちに連邦生徒会長はSRTの派遣という手段を使って自力で対処すると言っていいでしょう。」

 

SRT特殊学園(The Special Response Team Special Academy)──連邦生徒会長からの任務を専門とするエリート校。そのため、ありとあらゆる犯罪に対する即応が可能である。ミレニアムの収入源の多くはこの学園への装備品の供給によるものである。

 

もしヒマリ部長の部員がここにいたら、きっと「なんで()()Specialという同じ意味の単語を入れてるんだろう」という皮肉を言っていたに違いないだろう。しかし、その部員はここにいなかったため、代わりに、ミレニアムの会計が乾いた小枝のように机をパキッと叩きつける音が部屋に響き渡った。「それよりも!デカグラマトンの分類が変わったということは、災害援助金が送られてくるっていうことよね?!」

 

「ふむ…」とノアは目を閉じて少し考え込む。「会議が行われるまではまだだと思います。」

 

「ぐっ!」とユウカは乱れたツインテールを頭にたたきつけながら、うめき声を上げる。「今すぐにでも必要だっていうのに…」

 

「早瀬会計。」黒髪の会長に呼ばれ、会計はすぐに席に戻り、姿勢を正す。「被害額の計算は終わったのかしら?」

 

「終わりましたが…その…」とユウカは顔を歪める。彼女はボタンを数回押してホログラムのモニターを出し、計算結果を表示する。「幸い、被害はキャンパス内とその周囲で収まっています。また、規模自体は()()()()異常なものではないため、返済自体は比較的簡単に終わります。…他の事件と比べれば、という場合ですが…こほん!ですが、対処しなければならない問題が大きく二つあります。」

 

画面には無惨な状態になった校門の映像が映し出された。かつてバリケード()()()ものは、今や入り口を塞ぐ粗大ゴミ同然の瓦礫と化していた。「まず、防衛体制の全面的な見直しが必要です。これまでの防衛設備はほぼ全てが破壊されました。」

 

「ふむ、成程。」リオは数字に目を走らせた。もちろん、映像自体は新しい情報ではなかった。窓の外を見れば誰にでも分かることだが、この惨状からの復興には莫大な費用がかかるだろう。「ターレットはほとんどが量産品だから補充は比較的簡単に終わるはず。でも、非実用的と証明された機械に頼るのは非合理的。アップグレード用の予算を充ててちょうだい。」

 

「え、ええっ?!」とまるで実際に殴られたかのようにユウカは身を引いた。「あの、そんなことができる時間なんてありませんよ!?」

 

「設計図は既にいくつか用意しているわ。」リオはパチンと指を鳴らしながら自分のタブレットでファイルを開き、冷徹な事実と論理で彼女の反論を封じた。「材料費もすでに算出済みよ。」

 

「こ…これって…新しい機械だけじゃない。」ユウカの目は今にも飛び出しそうなほど見開かれ、目の前で展開されていく膨大な資料を必死に追う。「ターレット以外にも防壁や校門や…キャンパス外の道路まで!?一体いつから用意していたんですか!?」

 

「ミレニアムの警備体制が不十分だった場合に備えていただけよ。」

 

「一年生の頃からです。」ヒマリは素早く答え、長年の友人から一瞬だけ睨まれる。

 

「あの、()()でも実現できるかどうかは…」咳払いをした後、ユウカは他のメンバーに向き直る。「単刀直入に伝えますね。ハブ──いえ今はホドと呼べばいいでしょうか。あれの消失によって、我が校はしばらく大きな損失を被ることになります。恐らく影響は今の二年生が卒業してからも続いていくでしょう。」

 

「まさか動き出すとは思いもよりませんでした。」とノアは首を振りながらため息をついた。

 

「まったく…」と頭を抱えた友人は不満を漏らす。「どうして!ただの故障だったら修理だけで済んだのに!これじゃ無理です!本当の意味で()()()()()()()()()()()んですよ!兎にも角にも代替できるものは──」

 

「存在しない。」

「存在しません。」ウタハとヒマリは同時に断言した。

 

「私の知る範囲では、ハブは知性を持たなかったのですが、それでも非常に高度なソフトウェアでした。」超天才病弱美少女ハッカーは説明を続ける。「もちろん、この私であれば似たようなものを作製することが可能ですが、ソースコードが学園の基盤にまで組み込まれているので、学園内にある全ての機器で動いているソフトウェアを一から全て作り直さないといけません。」

 

「そういえば…」とネルの視線が一瞬だけ動く。「ビリビリする触手みてぇなのを付けたバカは誰だ!こっちは死ぬほど面倒くさかったんだぞ!」

 

「それは戦闘に転用したケーブルだね。」紫色の瞳が横を向き、声のトーンが落ちる。「一度ロケットランチャーを取り付けてみたんだけど、システム全体とどう連携させればいいのか分からなくて…」

 

魔王が唸り声を上げる。「なんで学校の設備にロケットランチャーなんてのを付けるのよ!?」

 

「エンジニアとしての足跡を残したかったから…」

 

「実行には移さなかったのだから、この話を続けるのは無駄よ。」リオきっぱりと断言し、ユウカの反論を封じる。「今私たちが考えるべきことは現在の状況についてよ。」

 

「要はもうお開きってコトか?」とネルは唸り、背もたれに頭を預けて、倒れないどころかむしろ椅子が後ろに反り返るほどの体勢になる。「そもそもなんであたしらを会議に呼んだんだ?」

 

「デカグラマトンの預言者たちと対峙した部の代表として、皆の意見は本当に参考になったわ。」そう言いながらも、議題は報告書に書いても問題ないようなものばかりなせいか、メンバーたちは数時間前から心ここにあらずの状態だった。とはいえ話は真剣に聞いていたとしても、今まさに会長が打ち明けようとしている衝撃の事実を知る由もなかったのだろう。「だからこそ、一時的にC&Cとエンジニア部を特異現象捜査部へ併合させることにしたの。」

 

ネルは椅子から派手に転げ落ちた。そして路地裏の猫しか立てないような音と共に床から飛び起き、机に拳を激しく叩きつけて更なる物的損害を与えることとなった。「マジかよ!?」

 

「ちょっとそれは…」ウタハは頭に弾が撃ち込まれたような衝撃を味わっていた。「唐突すぎる。」

 

「この状況下では最も合理的な判断よ。」会長は承認するかのような口振りではあったが、事実上命令であることは明らかだった。「デカグラマトンの危険度がこちらの想定を上回っていると証明された以上、SRTが正式に対処するとしても、私たちは廃墟の境界沿いにいるから衝突は避けて通れないわ。ミレニアムの防衛力の脆弱さは預言者との戦闘から自明の理。唯一有効打となったのは全校生徒の総力と試作兵器であるアバンギャルド君の二つだけよ。」

 

ウタハは会長を見つめた後、首を傾げる。「…ゲブラに一撃で倒されたあの何とも言えないロボットのことかい?」

 

リオは少し身構えた。「こほん、大事なのは美的感覚ではなくて結果。ご覧の通り、一対一の状況下では預言者相手に長時間持ち堪えることが出来たの。倒された原因は他の預言者から奇襲を受けたことよ。」

 

「まあ、言われてみればそうだね。」

 

「それにしても…製作費はどこから調達してきたんですか?」ユウカは首を傾げた。「そんなプロジェクトに取り組んでいたなんて知らなかったです。」

 

「ああ、入学する前から個人で取り組んでいたんですよ。」味方としての信頼を裏切らないように、ヒマリは平然とその事実を明かした。「小さかった試作品をわざわざ私に見せてくれた時のことは今でも鮮明に覚えています。まるで学校で発表するかのように、仕組みについて熱く語っていましたよ。」

 

「事実の湾曲はやめてちょうだい。特許の申請時と同じように、正式なプレゼンテーションとして行ったものなの。」そう言いながらも、彼女の頬に帯びた赤みの跡は、他を納得させるには不十分だった。「あー…」と小さく声が上がり、皆がうなずいた。財宝の魔王である彼女は、部の予算を使わない限りは、ミレニアム生が個人で研究に時間を費やすことを咎めるつもりはないようだった。「…閑話休題。今回の襲撃で明らかになったこととしては、従来の武器では通用しないということ。オーバーテクノロジーを持つ存在と戦いたいのであれば、こちらもオーバーテクノロジーを駆使しないといけないということになるわ。」

 

彼女は机を指で叩きながら続ける。「そのため、科学的に説明がつかない現象を研究するだけでは不十分。私たちに必要なのは、それら現象の研究と対抗手段の開発、並びにこの新技術を活用できる実力を備えた組織。そう、その組織こそが、私たちが誇る特異現象捜査部、英名ではSuper Phe-」

 

「Paranormal Affairs Departmentです。」とノアが横槍を入れた。

 

そしてリオは横槍を入れた書記を睨む。

 

白髪の少女の笑顔は微動だにしなかった。

 

「…The Su-」

 

「Paranormal Affairs Departmentです。」とノアは間髪入れずに訂正をする。「よろしければ認可を受けた正式名称でお願いします。セミナーの書記として、正式名称とは異なる意訳的な名称を議事録に記載するわけにはいきませんので。」

 

真紅の瞳が、空気を読まないエルフを睨みつけた。人間離れした精密さで、リオは机の上に置いてあったバッグを掴むと、一枚の紙を取り出して書記に滑らせる。ノアはその紙を一瞬で確認すると、今度はヒマリに向かって微笑んだ。「申し訳ございませんが、セミナーの意向により、この部は──」

 

ハッカーの少女は一言も発さず、車椅子のホログラフィックインターフェースを操作した。

 

ノアのタブレットに通知音が鳴り、彼女は改めてセミナー会長の方を向いた。「The Paranormal Affairs Departmentです。」

 

さらにもう1枚、リオは紙を取り出した。

 

「The Super Phenomenon Task Forceよ。」

 

ヴーッ

 

「Paranormal Affairs Departmentです。」

 

もう一枚。

 

「The Super Phenomenon Task Forceよ。」

トンッ

「Paranormal Affairs Departmentです。」

 

動くことのない物体と止まることのない力が会議室にてぶつかり合う、果てしなき戦いが静寂ながらも続いていく。受け手から受け手へとノアは素早く旋回しながら、その姿がぼやけていった。「Super Phenomenon Task Force. Paranormal Affairs Department. Super Phenomenon Task Force. Paranormal Affairs Department. Super Phenomenon Task Force. Paranormal Affairs Department.」

 

「目が回りそうだけど大丈夫かしら…?」

 

「大丈夫よ。Super Phenomenon Task Force.」

 

「Paranormal Affairs Department.」

 

「Super Phenomenon Task Force」

 

「Paranormal Affairs Department.」

 

この時点になると申請が多すぎるせいか、ノアが言い終わる前に次々と訂正が入る状態になっていた。「Super Phenomenon- Department.」

 

ネルの顔が歪む。「なんか違くないか?」

 

「Paranormal Affairs- Task Force.」

 

「意外と悪くない名前だね。」ウタハが呟く。

 

「Parano-」

 

「いい加減にしてください!」ついにユウカが本気で先輩たちを睨みつける。「どうして小学生みたいなくだらない水掛け論に発展しているんですか!大事な議題が残っているんですよ!いいですか!?こんなことで時間を無駄にしないでください!」

 

「そうね、確かに時間の無駄よ。」リオは睨みつけるが、後輩たちの意見については我関せずだった。JRPGでの真のラスボスは魔王ということは周知の事実だから。「だけど、どうしてこんな素敵な名前にしないのかが私には到底理解が及ばないの。」

 

「うふふ。到底理解が及ばない、と?」ヒマリは目を閉じ…再び開けば、晴天の霹靂のような叫び声を上げる。「最悪としか言えません!」

 

まるで雷が天井を突き破ってきたかのように三年生に吹き飛び、彼女は言葉を詰まらせる。「い、いえ──」

 

「何ですか?そんなに悪くないと言いたいのですか!?」その友人は顔をしかめていた。「Super Phenomenonという単語選びはどうかしています!ナンセンスです!普通『特異現象』であれば'Paranormal'か'Supernatural'でしょうに!一度も辞書を引いたことがないんですか!?漫画だけで英語を学んできたのですか!?」*1

 

外はせっかくの雲一つない晴天というのに、哀れな少女にだけは嵐が降り注いでいた「もう!格好よくしようとして適当に意訳したのですか!?センスが30年前ですよ!しかも真剣な顔をしながらそんな名前を口にするなんて!痛々しすぎて見ていられません!低予算のスーパー系のロボットアニメの物真似でもしているのですか!?」

 

「い、いえ…」デカグラマトンの信奉者たちが撤退する際にミレニアムの気象システムを乱したらしく、今日の豪雨は完全に見逃していたようだ。「う、ウルトラマンを参考にして──」

 

「もういいんですよそれは!」その叫び声はあまりに激しく、聞いた者全員の声まで奪ってしまうほどだった。誰も止めようとすることはできなかった。「特撮とかロボットアニメとかもうどうでもいいんです!もう一度言いますし何ならこの先何千回も言ってあげます!!何が何でも私に部長をやらせる気であればもっとちゃんとしたものにしてください!そんな小っ恥ずかしい名前を堂々と口に出す時点であなたはただの泥水で!私は山の頂まで登ってでも味わいたい清らかな川のせせらぎそのものなんです!!!」

 

この時点でリオには防御する手段はなかった。あっという間にただのしかばねと化してしまったからだ。

 

目を凝らしてみると、肉体からは彼女の魂が離れ、同時に真剣な雰囲気もどこかへ消え去っていくのが見て取れた。

 

「か、会長…」とユウカは足をせわしなく動かしながら呼びかける。ヒマリにチャンスを与えてしまった張本人である彼女は、知らず知らずのうちに殺人の共犯者のような気分になっていた。そのため、これ以上の会話ができないくらいに気まずくなった時の女子高校のように、話題を急に変えて逸らし始めた。「あの…会長は…計画を沢山抱えているようですが…費用についてはどのようにして賄うつもりですか?」

 

一方の会長はしかばねであったため、楽園の門に手を差し伸べた。「ブルーアーカイブ…」

 

「えっ?」

 

「ブルーアーカイブの統計よ。」リオは言葉を継ぎ、崩れかけた態度を継ぎ接ぎのゾンビのような状態でなんとか体裁を整えた。「早瀬会計、具体的な数字はどうなっているのかしら」

 

「あ…えっと…」ホストサーバーは全てミレニアムが所有していたため、確認自体はそれほど難しくなかった。仕事用のタブレットでアクセスすれば──「うわっ!?」

 

ユウカは目を丸くして驚愕した。議論を呼びつつもそのクオリティの高さから、稼ぎの大黒柱となっていたが、初回稼働月の売上は例年とさほど変わらない水準だった。真に驚くべきものは、目の前に表示された新規ダウンロード数とアクティブプレイヤー数のグラフだった。「プレイヤー数が急上昇しています!!」

 

秒単位で上昇の一途をたどっている。数百どころか数千単位で増加している。

 

「当然の帰結ですね。」とノアはうなずきながら結論を付ける。「昨日の百鬼夜行でのイベントに加え、その他の要素も影響を及ぼしているのでしょうから。」

 

「それに、その後の対応の仕方も大きかった。」とウタハが呟いた。

 

昨夜、女子生徒たちが一睡もできなかった理由の一つとしてSNSが炎上していた様子を見ていたからだった。当初は「デカグラマトン」という名前が共通している程度の憶測に過ぎなかったが、アビドスが現実でビナーを攻略している動画が公開されるや否や、単なる炎上が制御不能な大火災へと発展していった。

 

最終的にスタジオが対応した際には、デカグラマトンとは一切関係がないという、明らかに無理のある釈明を繰り返し表明していた。通常なら、世論という狭い世界ではこうした発言は何の意味も持たない。そのため、スタジオは火に油を注ぐような対応を避け、一気に水素爆弾級の強烈な反論を展開する道を選んだ。

 

次のメインストーリー更新まで、あと数日しか残されていない。

 

まだ1章だけだったかもしれないが、皆が我を忘れて熱狂した様子から判断すると、この戦略は見事に成功したようだ。

 

「全生徒がこのゲームに課金してくれたら…!」とユウカはは思わず過呼吸気味になった。通常であれば一時的なブームに過ぎないと心配するところでしょうが、最近の出来事を経た後では、誰もがこのゲームから目を離すことはなかった。「こちらの取り分だけでもとんでもない額になりそうです!」

 

「ユーザーデータと学校の生徒数を比較すると…あら、95%のミレニアム生がこのゲームをプレイしているようです。」ノアは感嘆した。「これが『学園の誇り』というものでしょうか?」

 

恐らく、ストレスの捌け口として唯一機能していたのかもしれないが、いずれにせよ明らかだった。マッドサイエンティストたちの巣窟の中でも、普段ソシャゲを遊ばないプレイヤーも遊んでいる。

 

例えば某チビメイドとか。「クソッ対抗戦の相手が多すぎる!ランキングがごちゃごちゃしすぎててどうすりゃシロコカワイイにリベンジできるんだよ!」

 

「あ、あなたもランカーなの?」ユウカは目を丸くしながらスマホを取り出しました。「今のランキングは何位かしら?私は五十位あたりで足踏みしてて…」

 

「イオリを引けていないから?」

 

「アドバイスしないんなら黙ってろウタハ!全員が全員課金してるわけじゃねえんだよ!」

 

「ブルーアーカイブ…そうよ…その手があったわ…」リオは半ば錯乱状態になりながら、決断を下す。「全プラットフォームでプロモーションの強化をしましょう。さらにミレニアム全域でマーケティングの展開もするのよ。認知度が上がれば収益もそれに比例して増加するわ。」

 

「わかりました。」とノアはメモを取りながら、唇を尖らせた。「ですが、認可を得ずに開始しても大丈夫なのでしょうか?」

 

「マーケティング程度であれば顰蹙を買うことはないわ。」と会長は結論づける。「でも、いずれにせよMXスタジオと話し合う必要があるわ。連絡を取ってデカグラマトンの対策会議に出席するよう連邦生徒会から依頼されているの。」

 

ユウカは眉をひそめた。「あくまでも私たちはプラットフォーム側で、そんな権限は持っていませんよ。」

 

「配信プラットフォームの管理権についてはあなたが考えている以上に重要だけど、今回は関係ないの。」ここまで踏み込んできたという事実自体が、結論を物語っている。「MXスタジオは百鬼夜行の協力を得られなかったため、私たち救いの手を求めている──これが最有力のシナリオよ。」

 

リオは大きく息を吸い込み、椅子から立ち上がる。「この件をうまく処理できれば、収入は襲撃前の水準を上回る可能性さえあるわ。そうなれば、特異現象捜査部を継続するために必要なリソースを全て確保できるわ。そうね…早瀬会計、ゲーム開発部の予算増額分の一部を別途確保しておいてちょうだい。」

 

「いくらなんでもやりすぎです!」とユウカは叫んだ。「あの子たちとMXスタジオとは比べものになりませんよ!『テイルズサガクロニクル』と『ブルーアーカイブ』を比べるなんて、泥水と川のせせらぎを比較するようなものですよ!」

 

「ど、泥水……」と言葉に詰まるリオ。

 

「あっ」と気づいたのはその時だった。今しがた自分が言ったことの意味を、ユウカはようやく理解した。ヒマリの言葉があまりにも衝撃的だったため、その比較が頭にこびりついてしまっていた。「すみません…」

 

「大丈夫…よ…」会長はよろめきながらドアの方へ向かった。「…そろそろ休憩を取るべきだと思うの。」

 

「え、あ、はい。」とユウカは罪悪感から彼女を行かせかけるも、ようやく頭が冴えてきました。「ゲーム開発部の予算の増額は取りやめるんですよね!?」

 

「…少しゲーム開発部を試してみましょう。1ヶ月で立派なゲームを作れるなら、予算を増額させるわ。でも、もしも失敗した場合は──」弱っているにもかかわらず、ミレニアムのビッグシスターはその場で判断を下すだけの理性は保っていた。「問答無用で即廃部よ。」

 

そう言い残すと、ドアは閉まり、部屋にはただ静寂だけが残っていた。

 

「では、そろそろお開きですね。」何事もなかったかのようにヒマリは微笑んだ。「こちらとしては、新しくできた小さくて可愛い後輩たちとたくさんお話しをしたいので。」

 

「誰が小さいだぁ!?」と叫びながら、その体にぶら下がった鋼鉄の鎖がぶつかり合う。確かに彼女は小さくて短気だったが、少なくとも障害者差別的な発言はしなかった。「誰だよヒマリを部長にした奴!?」

 

「もちろんこの私、Para-」

 

ノアは顔を上げる。「Sup-」

 

トンッ。「Paranormal Affairs Departmentの部長である天才が、リーダーを務めるのは当然のことです。」

 

「ハァ!?お前しかいないだろ部員!」ネルは歯ぎしりをする。「あたしはC&Cのリーダーだから、トップも当然このあたしがやる!」

 

「大分ややこしくなってきたね。」ウマ耳のような機械をぴょこぴょこ動かしながら、ウタハは席から立ち上がる。「少なくとも、うちの部室は使えるようにしておいてくれると助かるけど…」

 

3人が去った後、部屋にはセミナーの勤勉な2人だけが残っていた。

 

「もう…」ブルーアーカイブで時間を潰したい気持ちでいっぱいになりながら、ユウカは机に突っ伏す。少なくともユウカ()()は幸せな日常を送っている。こんな心配をする必要はないが、残念なことに、好奇心はユウカを殺す。そのためか、気づけば彼女の手は自由時間に調べていたデータセットに伸びてしまっていた。

 

「本当に色々なことがありましたね。」どこか感慨深く、ノアは言う。「ブルーアーカイブのリリースからまだ1ヶ月も経っていないんですよ。凄いですね。」

 

「本当にね…」と彼女は小さく返事をした。

 

友人は彼女の肩越しに覗き込んだ。「ずーっと一生懸命見つめているようですが、これってなんですか?」

 

会計は部屋を見回した後、ため息をついた。「ヒマリ先輩の部活について気づいたことがあったのだけど、調査部隊が派遣される前の頃に、エイミに話を聞いたことがあったんだけど…部活は数ヶ月も続いていたらしいけど…その時は部員は一人しかいなかったらしいの。」

 

幽霊部だった。

 

ミレニアムサイエンススクールでは絶対にあり得ないことだった。部活動に対しては非常に厳格な基準が設けられており、成果が認められない場合や、部員数が少ない場合は即廃部となる。部員はたった一人、しかも最近まで何も活動をしていなかった──そんな話をエイミから聞くまで、ユウカは思いもしなかった。

 

セミナーの会長自身が直接設立した部だったからこそ、そんなことが出来たのだろう。

 

「少し調べてみたら、資料から存在を確認できて、設立当初から予算は割り当てられていたわ。しかも額は部室を借りれるほどの余裕があったの。」関連する記録はどれも奥深くに隠されていた。怪しすぎるほどに。「でも、最近まで紙面上だけだったから…()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

一瞬、部屋は静まり返った。

 

すると、答えが返ってきた。

 

ただし、答えた人物はユウカの予想とは異なっていた。

「早瀬会計。」

 

「会長!」青髪の少女はタブレットを隠しながら叫んだ。そして素早く後ろにいたノアの方へと投げ渡し、彼女は難なく受け取った。すべて筒抜けだったのか?そうだとすればまずい。だが今のところは疑惑のみが上がっている。会計としての経験から、告発には確固たる証拠が必要だと痛感している。そうでなければ──

 

「『ブルーアーカイブ』では、あなたは人気キャラクターなのよね?」リオは尋ねた。

 

「はい?」彼女は目をぱちくりさせた後、後頭部をこすりながら答えた。「あ、まあ…多分そうですかね…?確かにアビドスと比べると人気は劣りますが、それでも私は最初から使えますし、その…」

 

「それで十分よ。」黒髪の美女はうなずいた。「モデルになりたいと思ったことはあるかしら?」

 

「…はいぃ?!」

 

*1
なおParanormalとSupernaturalの違いは、Paranormalは科学で説明できない現象や力で、主に心霊系を指し、Supernaturalは自然法則を超えるものや超自然で、魔法系を指す。




[作者あとがき]
Super Phenomenon Task Force (特異現象捜査部)のファンです
[訳者あとがき]
次回は10日に投稿します
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