「ニンジャ・アンブッシュ!」
「驚かせるな!」
まあ、授業の少し後の出来事ではあるが。
「さて、それじゃあ始めていくぞ。」私たち4人は、百鬼夜行の片隅にある使われていない教室──忍術研究部が部室として使っている教室へと集まっていた。非公認の部とはいえ、他の部室とは何ら変わりはなかった。予備のホワイトボードに書き込みながら、私は話を続ける。「ご存知の通り、私はブルーアーカイブのディレクターのMXブレードで、今回の忍者ショーのレクチャー担当だ。今回のレクチャーは時間が限られているため、本格的な授業というよりも集中講義的な形になる。三人の自己紹介はしなくて大丈夫だ。名前はもちろん、下着の色まで知っている。」
当然、ミチルは目をぱちくりさせる。「え──」
「全員白色だ。」と私は新たに弟子となった三人の方へ向き直り、一人ひとりを見渡す。ツクヨは顔を赤くしていたが、恥じらいなのかそれとも生来の照れ屋だから赤くしていたのかは分からない。タヌキ娘は頭を強く叩かれたせいでまだ頭痛がしているようだったが、それ以外は真剣に話を聞いていた。最年少の…いや、イズナはここでまた集まった時から目を輝かせていた。少しエッチな話をした程度では止まらないようだ。もっとも、次の一言で止まるのかもしれないが。「ここで一つ、はっきりさせておこう。この授業は忍術の授業
「…え?」イズナは動き止める。「ですが師匠!一人前の忍者にしてくれるって皆に言ってしまったんです!」
勝手に約束させるな!
「大丈夫です。」ツクヨは前髪で顔を隠しながら、小さくつぶやく。「まさか陰陽部が、上忍を見つけてくれるとは、思っていませんでしたので。」
「いや全然大丈夫じゃないよ!忍術を学ばないのなら何を披露すればいいの!?」と部長が叫び、席から飛び上がると私の方へ向き直る。私は無表情のまま見つめ返し、彼女の憤りを少しだけ落ち着かせる。「師匠は凄いってイズナが言ってたけど、まさか師匠も…信じてないの?」
「いや、忍術は実在するのは疑いようもない。」私は肩をすくめて、刀の方を指す。「ただし、私の専門分野ではないだけだ。」
銃を持っていたのなら、今の行為は無意味だっただろう。私の刀を見た瞬間、三人は一斉に「あっ」と声を上げた。
「あはははは…」と少し恥ずかしそうにそのタヌキは座り直す。「そうだったね。浪人だから──」
私は手首をしならせて、マーカーを投げる。それを頭頂部にぶつけられたミチルは痛そうに声を上げ、私は手で咳払いをしながら続けて言う。「一つ!浪人、侍、特に『先生』と呼ぶのは禁止。ただし、あまり好きではないが師匠と呼んでいい。ブレードと呼んでもらえるのが一番丸い。」
「はい!師匠!」
まったく、こいつらはちゃんと話を聞いているのだろうか?
「とにかく。さっきも言った通り、これは忍術の授業ではない。これから教えるのは──」できるだけはっきりと文字を書き出していく。自分が知っているのはほとんど独学で体得したものなので、ああいった技術に正式名称はもたない。それでも私は最も相応しいであろう呼称を考え、最終的な結論は──「崇高学と神秘術の入門だ。」
ツクヨは首を傾げる。「崇高学?」
「神秘術…」とミチルが呟く。
「あっ、イズナ、知ってます!」狐の少女は嬉しそうに手を挙げる。「師匠がずどーんどかーんってしてたあの技のことですよね!」
「惜しい。」と私は笑いながら答える。「あの技の方法を具体的に教えることはできない。その代わりに、独自の忍法を開発できる基礎をそれぞれが身につけてもらうことが、今回の授業の目的だ。」
「つまり、チャクラの操作を教えてくれるってこと?」
「…まあ、そういうことだ。その認識で構わない。」よし、ナルトの話題で一時間溶かす前に本題を進めないといけない。「残念だが、崇高についての具体的な説明をする時間はないので、その代わりとして神秘とは何かについてを教える。」
私はホワイトボードにできるだけ簡単な棒人間を描き、上部に小さな円を描く。「生徒は皆、ヘイローによって守られている。これはキヴォトスの常識。では、そのヘイローが具体的に
「えっと…」とツクヨは頭上を見上げるが、当然ながら何も見えない。「一度も考えたことがありませんでした…」
イズナが再び手を挙げる。「イズナのヘイローってブルーアーカイブと同じですか!?」
「え!?」とミチルは目をぱちくりさせる。「あれって演出とかそういうのじゃなかったの!?」
「そうだ。あれこそがイズナのヘイローだ。実は…」私は胸ポケットからある手帳を取り出す。目的のページを見つけ、小さく唸りながら狐の少女たちを見やる。片手を上げ、指の隙間から目一杯覗き込むようにしてこう言う。「ふむ…なるほど…」
一番背の高い部員は身を縮こまらせる。「あの、確かに私は大きいのですが、そんなじっと見つめられると…」
「魂を見つめられているみたい…」と彼女の友人が言う。「って…瞬きしていない!」
「少し時間をくれ。」私の目が潤みそうになりながらそう伝える。「こういうのはいつも時間がかかる。」
当時のブルアカファンなら覚えているが、ある生放送で開発者らが「生徒はヘイローを見ることができない」と発言した時、コミュニティは騒動に発展した。開発者サイドが一切の説明をしなかったため、この不可解な設定をどう解釈すべきか、考察系のファンの間で激しい議論が巻き起こった。その後、主に二つの説が浮上した。一つ目の説は、先生という特別な立場にある者だけが、他の生徒には見えないものを見ることができるという説。二つ目の説は、キヴォトスの住民はヘイローに慣れ親しんでいるため、それを意識することがないため、外部の人間にははっきりと見えるという説。
私はどうにかしてこの楽園のような環境に潜り込むことができたので、答え合わせをするならば…どちらとも当てはまるように感じた。
事実、普通の生徒はヘイローを視認できない。私も、神秘を積極的に開発しようと意識し始めてようやく見え始めるようになったが、恐らく外部の観点を持っていたおかげで、本来よりも簡単に事が進んだと思っている。
チート級の能力で瞬時にヘイローを視認できる先生と異なり、私は目を凝らしてようやくヘイローの色が分かる程度だった。集中すればするほど細部が鮮明に見えてくるが、ほんの一瞬だけ目を閉じるだけで、最初からになってしまう。とはいえ、初めてとなる正式な教職の場でミスを犯すわけにはいかないので、生徒たちのヘイローを正しく記憶できているか、何度も確認する必要があった。
「おお!」とイズナが歓声を上げる。「ツクヨ殿のヘイローはお花の形をしています!」
「…着物の柄と同じ、ですね。」と彼女は優しく微笑みながら、着物の柄を見つめる。
「…ってちょっと待って。」ミチルが私をじっと見つめる。「なんでイズナとツクヨは花なのに私だけシンプルな手裏剣なの!?別に忍者みたいなヘイローでいいけどさ、私だけ別ジャンルじゃない!?」
「素晴らしい質問だ。」正直なところ、私にも明確な答えを持っていない。「ヘイローの形は、個々人の内面的な性格が表れたものだとする説がある。つまり、忍者を深く愛してるからこそ、ミチルのヘイローは忍者にふさわしい形になったということだ。」
「あぁ…」銀髪の少女は間の抜けた笑みを浮かべながら、仲間たちと一緒に自分の頭上に浮かぶ見えない印を見つめる。「皆に忍者好きがバレちゃってる。」
違う、そうじゃない。
「だが私としては、事はずっと複雑であると考えている。」さて、どう説明すれば狂人扱いされないのか。「ヘイローはどこから来たのか、というのをほとんどの生徒は疑問に思わない。ヘイローはただ単に、自分の身を守るためのものであるという常識で終わる。ただ好奇心を持った奴らがこのテーマを掘り下げ、最終的にある結論へと達した。」
ホワイトボードに書き連ねていく。「
数々の眠れぬ夜を過ごした記憶がよみがえり、私は肩をすくめる。「外からやってきた少女が自身の超常的な力をキヴォトスに持ち込むと、それがヘイローとして顕現するという説もある。ただし、その説は考慮すべき要素が多く、そもそも公式設定かどうかという問題も絡んでくる。そうとも言えるしそう言うともいえない…」
「お待ちください師匠!」狐の少女は頭を抱えながら叫ぶ。「こ、これ全てをイズナが覚えるのでしょうか?」
「え…?私みたいな人が、祝福されている?」とツクヨの目はぐるぐると回っていた。「そんな…まさか…」
「はあ…」さて、適当に話を進めれば、だいたいの事は伝わるか。「断言しよう。キヴォトスで起こるあらゆる超常現象は崇高による影響だが、そこはまだ研究途上の分野だ。これ以上詳しく話すとなると時間がなくなるので、今回は要点のみに絞って説明をする。その要点とは、生徒が授かる祝福──『神秘』についてだ。」
ホワイトボードもそろそろスペースが足りなくなってきた。どこか消した方がいいか?いや、よそう。「神秘とは生徒が授かる力。それはヘイローの源でもあり、身体的な危害から身を守るだけでなく、独自の能力も与えてくれる。生徒のほとんどは受動的なものとして現れる。例えば誰かが怪我をしているのを察知できたり、簡単にお湯を見つけられたりするようなものだ。だがより強力な神秘であれば、それに比例して能力もより顕著に現れることが知られている。」
三人共に話を聞いているかを確認すれば、イズナとミチルは私が言っていることを一言一句逃さずにノートへ書いていた。「例えばトリニティのティーパーティーは、百鬼夜行の創設者のクズノハの予知能力に似た預言の力を授かったセイアという預言者がいる。正義実現委員会の委員長のツルギの再生能力もだ。ゲヘナの風紀委員会の委員長のヒナは銃弾をレーザーのように強化できる。ミレニアムのネルは近接戦においては比類なき実力を持つ等…探せばいくらでも例は見つかる。ともすれば、こんな疑問が湧き上がってくるだろう。どうすれば自分たちにも同じようなことができるか?」
しばらく沈黙が続いた後、ミチルが手を挙げる。「自分たちが持ってる神秘をそのまま使う?」
私は片眉を上げる。「どのように?」
その答えはなかった。さっき挙げた例は無意識のうちに使った神秘だった。恐らく自分は今何をしているのかという直感や本能的な感覚を持っていたのだろう。しかしキヴォトスの森羅万象と同様に、「自分にできないはずがない」という常識的な感覚に帰結する。
さらに数分間、生徒たちにこの問題について考えさせ続けた。そしてついに、ツクヨが静かに手を挙げた。「もしも祝福みたいなものであったら…色んなことができるように…お願いできるのかも?」
「その通りだ。」パチン、と私は指を鳴らす。彼女自身は驚いた様子だった。「『神秘』とは、能力が休眠状態ではないものの、どちらかというと受動的な性質のものを指す。だからこそ『
マーカーでホワイトボードを叩き、私はニヤリと笑う。「これこそが神秘術!意識的に神秘を刺激することで超常的な効果を創り出す術──これから教えるのはまさにこの技術だ!」
再びホワイトボードの方へ向いたが、途中で言葉を止めた。まずい、スペースが足りない。「…ここまでの内容は各自ノートに書き取ること。」
もちろん、優秀なイズナはすでにノートをすべて使い切っていた、「だから最初に出会った時に、誰でも出来るって言っていたのですか!?」
「その通りだ。だが当然、神秘は人によって異なってくるから、具体的な動作まで細かく教えることはできない」
「神秘が陰なら…」ロップイヤーの少女が考え込む。「陽は何ですか?」
「あー…」できる限り早く手で咳払いをする。「崇高が陽としてあるという説もあるが、まだ実証されていないため、現時点では仮説の域から出ていない。」
「は、はい。」
次のブルアカのアップデートが来ると彼女たちはテラーとは何かを知ることになるが、今のところはそれを伝えるつもりはない。テラーとは絶対に関わってはいけない。耳にタコができるレベルで言っておくべきだったか。だが私はキヴォトスの情勢を十分に把握しているからこそ分かるが、強く言ってしまうと逆効果になってしまう。だから、できるだけ淡々と、聞くのが退屈になる程度の方が賢明だろう。
たとえそれが、不要な疑いを招く結果になったとしても。
ミチルはため息をつき、耳の後ろを掻きながらこう口にする。「そういう説があるって言ってたけど…そんなの初耳だよ…」
「初耳なのも無理はない。そもそも分野自体がかなりニッチで、最近になって再び注目を集めてきているものだ。というのも、崇高に関する文献の大半は時の流れとともに失われてしまっているからだ。」無名の司祭の後のキヴォトスに関する資料があるとは確信しているが、実際に見つかったのは地球のオカルトの文献ばかりだった。「戦国時代の前のものはほとんどない。ましてやクズノハがいた時代の神秘関連の資料を探すのは困難を極める。本人に直接会って聞かねばいけないが、それが出来れば苦労はしない。」
タヌキは目をぱちくりさせる。「ちょっと待って。本人に直接会うっていっても──」
「色々と複雑だ。」
「教えてほしいんけどさ。」とミチルは唸る。「これと忍術に何の関係があるの!?」
「ちょうどその話に移ろうとしていたところだ!」好機とばかりに、私はホワイトボードをきれいに拭き取って新たに書き始める。「さて、私が使っている神秘を刺激する方法は主に三つ。一つは
「印を結ぶようなものですね!」
「そうそれだ!」私が声を上げると、彼女は嬉しそうににっこりと笑う。「まさしく!忍術における印は
「な、なんの話してるの?」なぜかミチルは両手で頭を抱えていた。「忍者に詳しいはずなのに内容が1ミリも入ってこない!今までずっと井の中の蛙みたいな状態だったの!?」
「大丈夫です。」ツクヨは同情するように彼女の背中を撫でる。「私もよく、わかりませんので。」
私は思わずため息をつきそうになる。そう、キヴォトス人にとっては、忍者なんてのはただのフィクションの存在に過ぎない。歴史的な背景を説明したところで、理解は得られないだろう。「──こほん、つまり三人共知らず知らずのうちに神秘術を実践してきたという点では、周りよりも一歩進んでいる。ただし、そのほとんどは物理学的に再現できるものだ。神秘術の基礎をしっかりと身につけることで、
「ふっふー!」最年少の少女は手を叩く。「イズナ、全力を尽くしますね!師匠!」
「むむ。」と部長は呟き始める。「これがうまくいけば、あの同人誌にも書けれるかも…あっ!それに『○○の○○を再現してみた!』っていう動画も作れるかも!そうすればチャンネル登録者数50人突破も夢じゃない!」
100人突破を目標にしていなかったか?マーケティングチームを何人か派遣させて手伝わせるのもアリだが…それだと彼女自身の成長に繋がらない。それなら相談役としてサポートする程度に留めておくか?
そんなとりとめのない考えは、柔らかな声によって中断される。「…あの、すみません!私みたいな人が質問してもよろしいでしょうか?」
「え?」私はツクヨの方に向き直る。「ああいいぞ。どうぞ。」
「師匠を信じていないというわけではないのですが…」彼女は指をもじもじさせながらこう言う。「神秘があるのに、どうして学校はそのことを教えないのですか?」
「ああ、そういう質問か。」彼女は身をすくめるが、私は慌てて手を振る。「いや、大丈夫だ。ただこれがややこしいんだ。」
一呼吸置き、窓の外を見つめて私はこう答える。「正直言って、私にも確かなことは分からない。さっきも言った通り、数多くの歴史的な文献が失われているため、ほとんどが失伝している。自治区間の争いも一因ではあるが、私としては、生徒たちの
ツクヨは瞬きをしながら、私の指の先を追って、花柄のサブマシンガンを見つめる。「銃…ですか?」
「意識して神秘を使うのは難しい。」と、私はため息をついて続ける。「自分と共鳴するものを探し回ったり、それを現実に顕現させる方法を見つけたりしなければならない上に、その過程で疲弊してしまう…そんな手間をかけるよりも、引き金を引いた方がずっと楽だ。」
人間というものは利便性に引き寄せられるものだ。地球上で武術が銃火器に取って代わったのもそうだ。効率的で習得が早い。武術の精神が失われ、神秘が歴史の中に消えていく中で、キヴォトスの少女たちが銃火器を選んでいったのも自然なことだ。数世紀も経てば、起源となった過去も忘れていくのだろう。
…とはいえ、現代兵器への執着がいささか過剰ではないかと思う日がある。もしかしたら、銃火器で意図的に神秘を封じた者がいたのではないかと邪推することがある。陰謀論止まりではあるが。
そんなことをする奴が果たしているのだろうか?無名の司祭か?
「ということは!」部下たちを震え上がらせる、いつもの笑みが私の顔に浮かび上がる。「神秘と簡単に同調する方法がある!」
ニヤリと笑い、三人を震え上がらせる。「
[訳者あとがき]
次回は12日に投稿します