MXスタジオのディレクターは発見するのに難しくはない人物だった。
『桜花爛漫お祭り騒ぎ!』でその姿を現して以来、刀を振るうMXスタジオ所属の生徒の噂は各地で囁かれるようになっていった。だがその人物がディレクター本人かという議論はまだ盛んだった。とはいえ、アビドスの生徒たちにとっては、百鬼夜行の生徒たちに囲まれていても、すぐにその当人だと分かった。昔ながらの制服と派手な着物の差は一目瞭然だったからだ。
ネット上でその姿を見たのにも関わらず、実際の彼女にアビドス生らは驚いた。ブルーアーカイブにまつわる神秘的なイメージから、威圧感のある人物だと誰しもが想像していた。ところが実際に目にしたその姿は、ホシノと比較しようものならひと悶着起きそうなほどの小柄な少女だった。
もちろん、ぐーたら(自称)の三年生とは異なり、その赤髪の少女の視線はナイフのように鋭く、百鬼夜行の裏路地を駆け回っていた。「百鬼夜行の大通りに行くぞ!あそこまで行けば追っては来れない!」
「分かった。」とシロコはうなずきながら、銃撃が背後に迫る中でアサルトライフルを撃ち続けた。「ん、普通の赤い雑魚だけど、
「人型の敵は全部普通の赤い雑魚よ!違うのはレベルだけ!」とアビドスの一年生が耳を動かして叫ぶ。「とにかくここから脱出しましょ!道が迷路みたいに入り組んでるわ!」
「それなら心配ご無用!」と一人のタヌキ胸を指差しながら言う。「この千鳥ミチル、旧市街の道は全てこの頭の中に!多分!」
「多分!?」
「多分で充分!」刀を振るう生徒が唸る。「ミチル、先頭を頼む!他はミチルの援護を!」
全員が返事をすれば、魑魅一座の集団が角の向こうから現れる。
セリカが言ったように、この街は迷路のように入り組んでいる。昔に造られたせいか、中心部の高速道路と比べて、この旧市街では絶えず曲がりくねった路地裏を進まなければならない。まるで檻の中を彷徨うネズミの如く、しかもゴールにはチーズが置かれてある保証さえない。挟み撃ちになっているこの状況では、特に。
「たくさんですね~!」とノノミはマシンガンをワイドモードに切り替え、背後を援護しながら迫りくる敵を次々と撃ち倒していく。「どうしてあの人たちを怒らせちゃったのでしょうか?」
「お前が想像しているよりもわんさかいる!」赤髪の少女はそう答えながら、お面姿の少女の制服の真ん中に涙のような傷を残し、その少女を壁に叩きつけた。
セリカは辺りを必死に見回しながらこう叫ぶ。「遮蔽物として使えそうなのってある!?」
「遮蔽物か…」剣士の視線は、銃を持ってないせいで活躍ができてない最も背の高い少女へと向けられる。「ツクヨ!忍法を!」
「は、はい!」ウサギ耳の少女は慌てて両手を合わせる。「ツクヨ流忍法!」
煙が噴き上がり、やがて晴れると、その姿は木の張りぼてと化していた。猫耳の少女は目を丸くした。「え…なんで!?」
「忍者ですので!」とイズナは嬉しそうにしてその一言だけで説明をつける。
「シロコ、こいつを盾に!」剣士は間髪入れずに叫ぶ。「こいつのEXスキルが発動するまで30秒と銃弾100発の猶予がある。それまでに好き放題暴れてくれ!」
「あ、あの、シロコさん、いくらなんでもこれはちょっと──」
「ん。」と砂漠の狼は唸り、あまりに上背な少女を剛胆に担ぎ上げ、敵のど真ん中へと突っ込んでいく。
「ひええぇぇぇ!!!」とツクヨの悲鳴が轟く。樹皮めいた装甲が銃弾を防ぎ、弾き返す。
一撃ごとに彼女の木の仮装は引き裂かれていき、やがて開けた通りに飛び出した頃には、その仮装は一片も残っていなかった。シロコは彼女をそっと地面に下ろす。少女の身体は無事そうだったが、その瞳から、意識は朦朧としていることがはっきりと見て取れた。「私…もう、無理です…」
「もうすぐだよ!」ミチルは仲間を抱きかかえながら叫ぶ。「もうひと踏ん張り!」
残念なことに、数分後、事はそう上手くは進まないことに彼女たちは気付く。
「装甲車!?」とセリカは大声で叫んだ。軍用車が街中で暴走し、逃走経路が都合よく塞がれていたからだ。「なんで不良があんなのを持ってるの!?」
「隠す気ゼロか。」MXブレードは独り言を呟き、周囲を見回す。すると突然、あるものに目がつく。「…よし、作戦変更だ!セリカ!私を援護してくれ!」
「ちょっと待ちなさいよ!」何をしているかとセリカが尋ねる暇もなく、少女は赤い閃光のように姿を消した。猫耳の少女は舌打ちしながら後を追い、迫り来る魑魅一座に向けて必死に撃ち返し、MXブレードと共に古い看板を掲げた店へと向かう。「『お祭り亭サトシ』?何する気──」
「説明している暇はない!」と剣士が答える。「とにかく誰も店に入らせるな!」
ドアの向こうでの独り言を、セリカは聞き逃さなかった。「はあ…今日も閑古鳥が鳴いているのぉ…近頃の子供は皆あのミレニアムっちゅうとこのホロなんとか花火に夢中になってて…百鬼夜行の花火が持つ伝統の価値は──」
ブレードはドアを蹴り破る。年老いたブルドッグが吠える暇もなく、ブレードは棚から花火を次々と引っぺがしていき、腕に抱えきれなくなったところで、彼女はまっすぐ会計へ向かう「これ全部買います!早く!」
「は、はい!」鋭い視線を前にして、哀れな犬にできることはただ震えながら鳴くのみ。しばらくの間、彼はただ小さな手を震わせて旧式のレジをカチカチと打っていった。「合わせて──」
「クレジットカードは使えますか!?」
「申し訳ないのじゃが、現金のみとなっておりまして…」
「しょうがないな──!」赤毛の少女は慌てて財布を取り出し、紙幣をめくる。「ああもう、この…!」
「早くしてちょうだい!」と大勢の魑魅一座を押し返しながらセリカは叫ぶ。一方、他は装甲車に向けて撃ち続けていたが、まともな銃を持っているのが2人だけの状況では芳しくなかった。忍者たちは陽動を仕掛けるべく周囲を走り回り、煙の中を駆け抜けながら、ロケットランチャーを次から次にかわしていった。「あんたってお金持ちなんでしょ!?映画みたいにもっとこう一気にパーッて出しなさいよ!こっちはもう滅茶苦茶よ!」
「一円を笑う者は一円に泣く!」ブレードはそう言い返し、現金を会計に叩きつける。「どうぞ!」
「ゲホッ、安全の為に学生証の提示も──」その言葉にディレクターの顔は猛虎の如き様相を呈していた。「で、ですが今回は提示しなくて大丈夫です!」
「ありがとうございました!良い一日を!」購入した商品を手に、赤毛の少女は店から飛び出して、大声で叫ぶ。「イズナ!」
通りの向こうにいたはずの狐はいつの間にか主の元へと現れていた。「はい、師匠!」
「これをミチルに!着火しろと伝えてくれ!」
「御意!ニンニン!」
そして姿をくらまし、そこには狐の人形だけが取り残されていた。そして煙と共に現れ、刀を携えたタヌキにそれを投げ渡す。離れていた位置にいたセリカは二人の会話を聞き取れなかったが、二人の表情から内容は明らかだった。そして剣士の方に視線を向ける。「まさか爆発する気なの!?」
「それは無理だ。あの車を破壊できる火力は持っていない。」ブレードは首を横に振る。「ただ──」
その言葉は、通り全体に響き渡る叫び声にかき消された。「ミチル流忍法!」
その瞬間、セリカが見ている世界は光と煙に包まれ、真っ白になる。
爆風が収まった時、その少女には耳鳴りが起きていた。顔を上げると、魑魅一座たちが互いにハンドサインで合図を交わした後、あっという間に裏路地へと姿を消していった。エンジン音が轟き、煙が晴れる頃には、追跡者の痕跡は街にある大量の破壊痕のみだった。
ブレードは大きく深呼吸をする。「よし、ひとまず乗り切ったか。」
セリカは鋭い視線を向けながら叫ぶ。「何考えてああしたの!?」
「追手を撒くには大通りに出るしかなくてな…」と彼女は肩をすくめ、他のメンバーの元へ合流しようと歩き始めた。「そこで、騒ぎを大きくすればお巡りさんが来ると踏んだ。そうなれば、向こうは尻尾を巻いて逃げるしかなくなる。」
「そ、そういうことなら…まあ…?」
「よーし!」とミチルは拳を天に突き上げる。「これで忍術研究部の勝ち星がまた一つ!」
冷ややかな目で彼女を見るシロコ。「案内できてなかったし、ダメージも出せてなかった。」
「えー!?でも最後の一発を決めたんだよ!そこは褒めてよー!」
「はぁ~疲れました…」とノノミは手で扇ぐ。「新しいエリアに行くと難易度が上がるっていうのは本当なんですね!」
「あわわわわ…」残念ながら、ツクヨはまだ容赦のない扱いから回復できず、会話に参加できずにいた。
代わりに、イズナが考え深げに口を開く。「むむ…師匠?」
「何だ?」
「先ほどの魑魅一座、何かおかしいと思います。」
「そうなの?」セリカは片眉を上げる。「私としては何もおかしくはなかったけど。」
ノノミは微笑む。「でもセリカちゃんって、装備のことを叫んでたじゃないですか?」
「まあ、そうね。でもヘルメット団も──」待った。「あれ?ヘルメット団…?」
「イズナの言う通りだ。」ディレクターはため息をつきながらうなずく。「自治区外の生徒には分からないが、魑魅一座はいくつかの流派に分かれている。路上流、気まぐれ流、そして東…見た目はどれもそっくりだが、それぞれ装飾品で区別している。ブルーアーカイブだと、予算の都合上汎用のスプライトを流用してそれぞれを実装していたが、あいつらが着ていた制服こそがまさにあれだ。」
「きゅ、急展開だ!」ミチルは驚愕する「でも黒幕が魑魅一座じゃないのなら、誰が黒幕なの?」
「ん、決まってる。」砂漠の狼が唸る。「カイザー。」
「正確にはカイザーPMCだ。あいつらに雇われた不良たちはハンドサインでコミュニケーションを取ると聞いたことがある。」とブレードは苦笑いをする。「おそらくカイザーは魑魅一座を隠れ蓑にして、私を誘拐する気だ。」
ツクヨが口を挟みました。「ほ、本気で師匠を誘拐する気なのですか?!」
「これまでのことを考えれば──」ノノミは苦々しく笑みを浮かべる。「やらない方が自然なのでは?」
「プランCを実行するかのように過激な手を取るぐらいに、カイザーは追い詰められている。」赤髪の少女は小声で呟く。「今は百鬼夜行の法律が守ってくれるが、相手に有利な学園に引きずり込まれるとなると──」
「──容赦なく裁判をするということでしょうか?」グループで最大級の胸を持つメンバーがそう答える。
「その通り。」その場には疲労感が漂い、ブレードの肩が落ちる。彼女は歩き出した。「だが最悪の事態は免れた。そろそろお巡りさんが来る前に移動した方がいい。忍術研究部には日が暮れるまでに宿題を送っておく。」
「宿題?」とセリカは目をぱちくりさせる。自分たちより年下に見える少女からこんな言葉が出るとは、なんだか現実離れしているようだったからだ。
ミチルが手を挙げる。「あの──」
「駄目だ、私を守ったからといって免除は認めない。」
「ちぇっ!」
「アビドスについては…」ディレクターはアビドス生らに振り返る。その顔には疲労が残っているものの、誠実な笑みを浮かべていた。「混乱を招いたことは承知の上で、あまりこういった場で言うのもアレだが、百鬼夜行へようこそ。」
その笑みはやがて意味深な含み笑いへと変わった。「話すことは山ほどある。」
[作者あとがき]
いくつかのトラブルがあったため、この章を削除して再更新せざるを得ませんでした。通知が複数回届いてしまい、申し訳ありません。
[訳者あとがき]
次回は25日に投稿します