「ねえ、聞いた?なんかさ…」
「えっ!?そうなの!?」
「そそ、全部本当だって!」
「あの馬鹿!何かしないと…!」
「あのね…」
「マジ!?さっさとしないと!行くよ!」
『おかえり、ホシノ先輩。』
『ただいま』
『それでは、引き続きよろしくお願いしますね。先生。』
「わぁ…いいお話でしたね。」画面に赤い「完」スタンプが表示されて、ヒフミはぽつりとため息をつく。ゲームには散々手を焼かされたが、ブルーアーカイブのストーリーが感嘆を覚える程素晴らしいと否定できなかった。ラストで全員でホシノを救出するシーンには、思わず涙が零れかけていた…楽しんだものを順位付けするタイプではなかった、間違いなく、アニメモモフレンズ3期最終回に次いで、2番目に好きになった。「ネットの感想はどうなんでしょうか。」
フリックをして、少女はSNSを起動する。一日中忙しくしてすでに数時間乗り遅れていたこともあってか、ネット上はすでに白熱しており、予想通り大盛況だった。フィード欄は対策委員会のファンアートや、ヒフミと同じ感想を持った生徒らが泣きながら綴った投稿などで埋め尽くされており――
「え?」ある言葉がトレンド入りしていることに気づき、ヒフミは目をぱちくりさせた。「【速報】アビドス、カイザーを提訴?!」
「はい?」屋上の日陰に座っていた二人のうち、スズミが彼女の方を向いた。彼女は目を細めました。「本当ですか?」
「まあ、クロノスなので…」正直、当たり外れはある。ヒフミは急いで記事を開き、スクロールする。「でも、本当かもしれませんかね?どうやら、債務で手に入れた土地の税金を払っていなかったみたいで…」
コメント欄はひときわ辛辣で、3件に1件は自然言語史上かつて口にされたことのない中傷が書き込まれており、ヒフミは読むのを止めざるを得なかった。
アビドスにとっては朗報であるにもかかわらず、白髪の天使は思わずため息をつく。とはいえ、相手は彼女を責められるはずもない。「あと一日二日遅かった方がよかった…というのは少々不謹慎でしょうか。」
「二人とも何をしているのでしょうか?!」レイサが叫び、眼下の景色を見渡しながら腕を振る。「もうすぐ時間ですよ!」
「さっきから端にいますけど、危ないですよ。」
「そんなことはどうでもいいんです!」元気いっぱいの少女はそう言い放ちながら、すぐにそこから離れる。レイサは小型犬のような勢いで、二人の方へ駆け寄る。「二人とも集中です!今日という今日を待ちわびていたんですよ!」
「覆面水着団のことなのか正義実現委員会のことなのか…」ヒフミはぎこちない独り笑いをしていた。事実、どちらにも当てはまっていた。
覆面水着団の『大集合作戦』は、名に反して理由はシンプルなものだった。それは企業に少しでも関わりのある者を爆破するという市民的行為を通じて、カイザーに抗議するというものだ。そして、ヒフミの想像していた数よりもずっと、ベンダーがトリニティ中にいた。その全員を捕らえるべく、覆面水着団の戦力は自治区全域に分散されて配置されていた。もっとも、支部のトップの指揮官のうち3人が学園のスパイであり、一挙手一投足を報告されていたという事実がなければ、そうなっていたのだろう。
3人が最初に調査結果を報告した際、正義実現委員会は
こうして、普通の少女でありながら、その実は団員であり、さらに警察のスパイでもあるという、ヒフミの二足どころか三足の草鞋を履く生活が始まった。恐ろしきブルーアーカイブの次章の配信準備に加え、多忙なスケジュールのやりくりに奔走した丸一週間。しかし、日没とともに爆破開始までのカウントダウンが始まり、混乱が始まるまで残り数分という状況になってようやく、少女はようやく安堵のため息をつくことができた。
とはいえ仕事はほぼ終わっていた。スズミ、レイサ、そしてヒフミ自身には、デパートを爆破するという
こんな形で終わってしまうのは、少し残念だった。不良として活動していた頃に出会った子たちの中には、本当にいい子もいたからだ。
ふと、少女はある考えに至る。「ナギサ様に今の状況を伝えておいた方がいいかもしれませんね…」
あいにく、ヒフミがモモトークを開く前に、ライブ配信前のVTuberファンのように叫ぶレイサに乱暴に遮られてしまった。「始まりますよ!」
ヒフミがレイサのスマホに目をやると、陽気な音楽が流れ、カウントダウンが始まっていた。一滴の汗が彼女の額から伝い落ちる。「こんな風にカウントダウンされたら緊張感がありませんね…」
「油断は禁物です。」スズミがたしなめた。「仮に一大事へ発展したら、どれほどの生徒が巻き込まれてしまうかが分かりませんので。」
それを証明するように、彼女は傍らの無線機に手を伸ばし、スイッチを入れた。すると瞬時に、回線越しに慌ただしいやり取りが飛び交い始めた。
「イチカっす!包囲しましたっすよ!」
「マシロです。標的を視認しました。」
「こちらハスミ。現在跳澗虎がいる現場へ向かっています。」副委員長が喧騒を遮る。「改めてお伝えしますね。最優先目標は、跳澗虎たちを一刻も早く拘束することです。起爆させる隙を与えないようにしてください。」
回線越しに、返事が一斉に飛び交った。
「それと…スズミさん、そちらはどうでしょうか。」
「自警団の皆さんに、裏通りを警戒させています。」銀髪の少女は、グループチャットらしき画面に目をやる。「今のところ報告はありません。本部でさえも放棄されています。」
「であれば、一気に全員確保しましょう。」ハスミがそう結論付ける。「そのことが聞けて良かったです。では、正義実現委員会の皆さんへ、これより作戦を開始します。」
「まさか正義実現委員会と共闘する日が来るなんて…」レイサは目から涙を拭う。「いつもは邪魔をしてきてばかりですが…」
自警団団長は、疲れ切った様子で彼女を見つめた。「それはレイサさんが後先考えずに動くからでは…あっ。」
ちょうどその時、カウントダウンが終わり、画面が演出とともにカメラへと切り替わる。演出が終われば、覆面を被った配信者が現れる。花火が舞う火花のように、生意気な瞳と共に。「やっはろー!みんな今日もげんきー?ブルアカの最新ストーリー最高だったよね!」
チャット欄はコメントの嵐が巻き起こり、少女が更に明るくなる。「最後のところは超パンピーな展開だったけどね。スパチャ来ない限りあんなベタベタなセリフを言うのは無理無理!まっそれはいいとして!最後のカイザーへカチコミを仕掛けるとこは最高すぎたし!それにあーしらも負けてられないってやんの!」
覆面水着団の72番が一歩下がると、オフィスビルが現れ、その側面には「カイザーコンストラクション トリニティ支店」という看板が映っていた。「待ちに待った!大集合の日がやってきてやんの!」
彼女の隣に数え切れないほどのメンバーが現れ、手製の爆弾を取り出した。「
アラート音が鳴り響く中、チャットに色とりどりのスパチャが咲き誇る。すると即座に、跳澗虎がお馴染みのダンスを披露した。「にしし!スパチャありがとう!ハッピーうれぴーハッピッピー!いぇ──」
(自称)高校生が言い終わる直前、一発の弾丸によって遮られた。「ねえ!危ないでしょ!邪魔しないでって何度言って――きゃあ!」
「残念ですが、ショーはここまでです。」堕天使の声が、神の槍のごとくスピーカーを切り裂いた。黒羽根が宙を舞い、正義実現委員会副委員長の姿が画面に現れた。装飾が施されたスナイパーライフルの銃口からは、煙が立ち昇っていた。彼女の傍らでは、下級生の分隊が素早く展開し、銃を構えていた。「両手を上げて投降してください。逃げ場はどこにもありません。」
「ハスミさんが活動しているのは初めて見ました…」ヒフミが口に出す。小さなスマホの画面越しからでも、彼女の存在感は圧巻だった。「すごく…」
「真剣…ですか?」スズミが眉を上げ、茶髪の彼女は不安げにうなずく。彼女が知る
「あー…」レイサの瞳が虚ろになる。「あの事務所…あそこから必死に逃げ出したことがあるんですよ…」
しかし、神の御前にあっても怯まない意志の強さ(あるいは知性の欠如)を備えた者が一人だけいた。罪人本人だ。跳澗虎の視線は、つい先ほどまで立っていた焼け焦げた弾痕から、堕天使へと移る。「正実か…ちえっ。危ない危ない。もう少しで星2に撃たれるとこだった!」
「…そうですか。」深紅の瞳が、星2キャラの怒りを代表するかのように煌めいた。「攻撃開始!」
覆面水着団たちが慌てて武器を構えるも、時すでに遅し。その後に起きたことは、緩い小競り合いとさえ呼べないものだった。圧倒的な数と質に押され、覆面を被った少女たちは一人、また一人と倒れ、ついには愛機のドローンのマイクが拾えるほどの苦悶の声を上げて、配信主が地面に叩きつけられた。そして二人の少女が素早く路面に組み伏せたので、彼女にできたのは野生動物のように暴れることだけだった。
「起爆装置を確保しました。」正実の一人がそう言い、装置を班長に手渡した。「不良の集団にしては、ビックリするくらい徹底されていましたね。」
「建物内の爆弾については、許可を得てから解除ですかね。」ハスミは建物の看板を一瞥し、ため息をつく。「中へ入ることができるという前提ではありますが。今現在の状況では…」
彼女は堕ちし星に目を向ける。「随分と手間をかけられましたね。」
「ちっ!」地上の悪魔が襲撃者を睨みつける。「なんでパンピーがカイザーなんかを守ってやんのぉ!?アビドスで何しやがったか分かってるでしょ!賄賂でも貰ったの?!」
「ひとつはっきりとさせておきます。私たちが守っているのはカイザーではなく、トリニティです。」副委員長は首を横に振りながら断言する。「あなたたちの動機には同情しますが、罪のない人々が傷つくことを、正義実現委員会は許しません。」
「また、カイザーを調査するのは私たちであり、あなたたちではありません。」刃のような鋭い視線を向け、彼女は続ける。「いくら動機が高潔であろうとも、独断で動き、周囲への配慮もせず混乱を招くとなれば…ゲヘナ生と何ら変わりません!」
「ゲヘナと何の関係があるってんの?!」配信主の跳澗虎が叫ぶ。「好きにお気持ちしとけ!攻撃するのはここだけじゃないんだから!」
「仲間のことを言っているのであれば、残念です。」無線から慌ただしいやり取りが伝わってくる。「こうしているうちに、全員拘束しましたので。あなたたちの『大集合』は始まる前に終わってしまいましたね。」
「そ、そんな…」配信主の声が静まる。「うそでしょ…」
「まだ何か言い残すことがあったら、続きは矯正局で──」ハスミの声は、ドローンから鳴り響くスーパーチャットが来たことを伝えるチャイムに遮られた。
「まさか…あの鳥頭どもが本気で釣られたの!?」配信主がノイズ混じりの歓喜に満ちた声を上げる。「ってことは、いよいよその時が来てやんの?!すぐに合図!合図出して!」
その合図というのはおそらく、ヒフミたちが爆弾を爆発させることだろうが…当然そんなことをするはずがなかった。彼女は思わずスズミとレイサに視線を向け、二人は同時にうなずいた。そして三人は爆薬をそのままにし、その呼びかけを拒んだ。
「ごめんなさい…」72番には聞こえないと分かっていても、ヒフミは思わず画面の少女へ呟いた。これで正しいとはいえ、それでも誰かの信頼を裏切ることになるのだから…
でも、それで良かった。
というのも、一秒も経たないうちに、トリニティ全域に地響きのような爆発音が轟いたからだ。
「うわっ?!」レイサは飛び起き、様子を確認しようと爆発の方向へ駆け出すと、彼女の顔からみるみるうちに血の気が引いてきた。「メインキャンパスから煙が!」
二人はすぐに様子を見ようと駆けつけるが、愛する学校の方角から、紛れもない灰色の塔が空へと膨れ上がるのを目の当たりにし、その場に凍りついた。ヒフミは手すりを握りしめ、手を震わせていた。目の前の光景が信じられず、その瞳は揺れていた。しかし、現実を受け止める間もなく、反対方向から爆発が起こる。そしてまた一つ。まるで忌まわしき旋律の音符のように、次から次へと。
「どうしましたか?!」スピーカーから、ハスミのくぐもった声が響く。
作戦用の無線から、恐ろしい報告が届く。「ほ…本部で爆発が!」
「そんな…」ヒフミは生唾を飲み込んだ。「こんなのは計画にはなかったです!」
こんなことになると分かっていたのなら、同意なぞ絶対にしなかったのに!
「…えっ?」スズミは絶え間なく振動し続けるスマートフォンに慌てて手を伸ばした。目を見開いたかと思うと、光速の速さで無線機に飛びつき、そこに叫ぶ。「ハスミさん大変です!裏通りから覆面水着団の大群が押し寄せてきています!」
「視認したっす!」イチカが叫ぶ。「どんどんこっちに…近づいて…うわー…マジっすかー…」
地平線の彼方で、ヒフミにもその姿が見えた。集団と呼ぶのはあまりに不正確で、軍勢と呼ぶのも誤解を招く。事実、そのような言葉で表現すれば、その数を人間の理性の範疇に留めてしまうことになる。唯一言い表すとすれば、それは天災だった。
それは奔流だった。鮮やかな色とりどりの覆面を被ったスケバンたちが、トリニティの市街を猛烈な勢いで突き進む──人間が作る津波。何百――いや、何千に及ぶ生徒たちが、狂乱しながら突撃をしていく。瞬く間に、単なる点であったそれから、止まることもなくトリニティを蹂躙する巨塊へと変貌した。
通りを封鎖しようとする正義実現委員会らしき小さな人影がかすかに見えた。
「食い止めるっす!」イチカが叫ぶ。「一人たりとも通さないっすよ!」
拠点の四方に散らばっておらず、よくある襲撃の場合、急ごしらえで作り上げた守りでも、それなりの効果を上げたかもしれない。だがヒフミにはただ、圧倒的な流れに押し流されていく正義実現委員会たちを見守ることしかできなかった。抵抗も空しく、猛り狂う奔流に瞬く間に飲み込まれていった。現れたときと同じ速さで、消えていったのだ。
「数が多すぎます!」銃声と悲鳴に混じって、名もなき少女が叫ぶ。「もう弾切れに──」
そして恐怖に満ちた叫び声に遮られ、喋ることはなかった。
それでもこれで最後ではなかった。
「誰かシスターフッドに連絡を! とにかく色んなとこから助けてもらうよう頼んで!」
「無理です!パテル派とフィリウス派が口論から乱闘騒ぎになってます!鎮圧しようとしているものの、さらに悪化しています!学校全体が戦場と化してます!」
不幸が次から次へと降りかかる。どれもが以前よりも深刻だった。まるで災厄の手そのものが、運命のドミノを倒したかのようだった。あまりに広範囲にまで混乱が波及し、ヒフミは現状の理解に苦心していた。それでも、押し寄せる嵐に飲み込まれていたトリニティには、耐えるしかなかった。そして彼女は重い心を抱え、嘆く。「どうしてこんなことに?!」
「くっ!」疑問に思ったのはヒフミだけではなかった。彼女がライブ配信の方へ振り返ったときには、ハスミが覆面水着団の指揮官を掴み、小さな少女を近くの壁に叩きつけていた。「一体何を!」
「にしし!一度大集合が始まったからには、もう止められないよね?」ツインテールの少女はドローンのカメラに視線を向ける。「ところで、今の無線の声って先輩?まだ見てるんなら、一つだけ!言ってやんの!」
ウィンクをして──「いろいろ手伝ってくれてありがとう!みんながいなければ無理だったよ!」
その意味を悟り、ヒフミは目を見開いた。
「ここで配信が終わるのは残念だけど…皆外に出ててもう見てないだろうから、それじゃ!またね!」
堕天使が怒りの叫びを上げると、画面が暗転した。
「おのれー!」レイサは指の関節が白くなるほど、強くスマホを握りしめて叫ぶ。「騙しましたね!!!!」
「すぐに止めないと!」ヒフミは言うも、足元の惨状に目を落とし、その言葉の重みがのしかかった。「でも…どうしたら…えっ?」
さらに考えを巡らせる間もなく、かすかな電子音が辺りに響く。
「下がって!」スズミが叫び、足元にあった爆発物を掴む。そして慣れた手つきで腕を引き、爆発する直前に宙へ放り投げた。耳をつんざく轟音が響き渡り、熱波がヒフミの肌を駆け抜ける。煙が晴れると、そこには自警団の団長が小声で毒づいている姿があった。「どうして気付けなかったのでしょうか私は…」
ヒフミが口を開こうとするも、言葉を発する前に、モールの屋上へと続く自動ドアがスライドして開き、覆面姿の少女たちがなだれ込む。覆面水着団の手作り衣装ではなく、光沢のある硬質な金属製の──
「ヘルメット団!」自警団の星が自慢のショットガンを抜き放つ。「まさかこの包囲戦にもヘルメット団の手が!?」
「当たり前だ!カイザーにどれだけ面子潰されたか知ってるだろ!」赤いガスマスクを被った少女が、漆黒のアサルトライフルを振り回しながら叫ぶ。「標的がいるぞ!捕まえてさっさとずらかるぞ!」
「標的?」ヒフミは瞬きをし、銃口がどこに向けられているかに気づく。「えっ、私!?」
「ちっ。」スズミは深く息を吸い込むと――「閃光弾、投擲!」
ヒフミの目が閉じるかどうかも分からず、世界は灼熱の光の奔流に飲み込まれた。高音が耳をつんざくが、意識を取り戻す間もなく、何者かが彼女をつかもうと手を伸ばしていた。瞼が開けば、そこにはヒフミを引きずっているスズミ──背後からはレイサが続き、まるで空に新たな銀河でも作り上げるかのように、呆然とするヘルメット姿の不良たちに弾丸を浴びせていった。
「どうして私なんかを?!」普通の少女は、救世主の手を振りほどき、猛ダッシュする彼女の後を追いながら叫んだ。
「ヘルメット団の狙いは分かりませんが、まずはヒフミさんを安全な場所に!」団長がそう宣言し、さらに背後へ閃光弾を投げつけるが、直後、側からヘルメット団の第二部隊が現れた。スズミは周囲を見回しながらこう言う。「一緒に走れますか?」
彩度の高いピンクのマイネセシティの金属が、モールの照明に煌めいた。「はい!」
「分かりました。では私の後ろへ。」
そこからは、モールの出口へ一直線に猛ダッシュしていた。ヘルメット団の追撃は容赦なく、昔ながらのアーケードゲームに出るゾンビのように、ヒフミが一人倒す度に、死角からまた一人が飛び出してきていた。弾丸が放たれるたびに市民たちの恐怖に満ちた悲鳴が響き渡り、生徒たちが暴れ回る中、大人たちは金属の壁の背に身を潜めていた。距離は短かったものの、ヒフミがようやく出口に辿り着いたとき、温かな陽光が心地よい救いとなった。
――そう思ったのも束の間、暴走する覆面水着団たちによって大通りが完全に塞がれていた。三人はあまりに速く走っていたせいか、輪郭がぼやけていた。隙を突けそうにない。一階に降り立った今、ヒフミは足元の揺れを感じた。ヘルメット団の一歩一歩が、まるで戦太鼓のように鳴り響いていた。
遠くで、悪魔のような叫び声がトリニティ中に響き渡った。
「あれはツルギさんの声ですね。」スズミが顔をしかめる。「ツルギさんであれば押し戻せると思いますが、この数では流石に…いえ、最初からそれを狙っていたのですね。」
「多すぎます…」とライトブラウンの髪の少女が呆然と口にする。ふと、横から何かが近づいてくるのに気づく。ほんの一瞬ではあったが、ヒフミは慌てて身をかがめた。つい一瞬前まで自分の頭があった場所を、金属製の物体が振り抜いた。「ひえっ!」
「チッ。」顔の下半分を黒いマスクで覆った少女が舌打ちした。「ミスったか。」
「いきなり何ですか!不意打ちするなんて卑怯ですよ!」レイサが叫ぶが、友人を襲った相手と、その後ろに立つ集団に気づいて言葉を切る。ヘルメット団とは違い、相手は顔の下半分しか隠していなかった。そのため、飢えた獣のような鋭い眼光に晒されていた。相手は一目瞭然。ただの不良ではなく、トリニティ唯一の――「スケバン!?な、なぜヘルメット団と一緒に!?ヘルメット団とは永遠に戦い続ける宿命のライバルじゃなかったのですか!」
「うちは気は乗らんけど、まあ、そういうもんかな。」ヘルメット団のリーダーが、残った部下たちと共にモールの出口へと歩き出しながら声を上げました。「敵の敵は味方、っていうしね。覆面水着団がカイザーを片付けてくれたら、うちらが覆面水着団を片付けるっつー魂胆だ!」
「おい、調子乗んなよ。」金髪の少女が唸る。「あの変人どもが約束してくれたおかげで、お前らはボコられてないんだぞ。」
脅し合いを繰り広げてはいたものの、どちらのグループも自身の本質を忘れてはいなかった。辺りを見回したヒフミは、今やスケバンとヘルメット団の両方に包囲されきっていることに気づき、心臓が締め付けられた。彼女は必死に、不安に顔を染めたスズミの方を向いた。「どうすれば…?」
「っ…」銀髪の少女は辺りを見回す。その手は洗練されたデザインの銀色のアサルトライフルへと伸びたが、引き金を引くことはなかった。
決断を下したのは──「…二人は先に逃げてください!」
「れ、レイサさん?!」ヒフミは目を見開いて叫んだ。「一人で相手するなんて無茶ですよ!?」
「私なら大丈夫です!悪と戦うのが自警団の役目ですから!」それは天罡星にふさわしい啖呵だった。実際はそうでもないが。「どんなに敵が押し寄せようとも、この宇沢レイサが!命をかけてトリニティの皆を守ります!それこそが自警団員というものです!」
「レイサさん…」その団長が呟いた。
「それに――」普段は快活である少女の顔には、ほろ苦さを感じる笑みを浮かべ、ヒフミへと向く。「ヒフミさんには…親切にしてくれましたので…私が話しすぎた時もずっと、聞いてくださいましたし、その…お友達ってことで…いいんですよね?」
茶髪の少女は拳を握りしめた。「もちろんです!」
「負けれない理由がまた増えました!」目に見えない、電撃に近いエネルギーが大気を焼いた。レイサの瞳が燃え上がり、一見普通に見えても、ヒフミにだけはこの一瞬だけ、太陽よりも眩しく輝いているように感じずにはいられなかった。「絶対に無事に終わらせてくださいね!悪がヒフミさんを狙うということは、それ即ち!悪の計画を止められるのはヒフミさんだけです!ですのここから脱出して、ヒーローとして!世界を救ってきてください!」
「くっせぇセリフは言い終わりましたかー?」ヘルメット団の一人が叫ぶ。「あたしらが逃すわけね――ぶわっ?!」
不運にも、一個ではなく三個の閃光弾をスズミから立て続けに放たれてしまう。不良たちが態勢を立て直す間もなく、銀髪の天使はすでに動き出し、混乱に乗じて不良たちの陣形を突破した。「では、頼みます!」
「気をつけて!」ヒフミはスズミの後を追いながら叫んだ。
カラフルな友は、ただただ親指を上げて、快活に微笑んだ。
「お、追え!」ヘルメット団のリーダーが叫ぶも、弾丸の雨に阻まれ、その場で足を止めた。
「通しませんよ!」レイサが言う。「私の友達を傷つけるのは、私を倒してからです!」
哀れな少女たちよ、なんと不運なことか。夜空に高く舞い上がる星が遠き夢である一方…
天より降り注ぐ星は、厄災。
トリニティの使徒。
みんなの騎士。
「ヘルメット団!スケバン!決闘です!!!!!!」
[訳者あとがき]
次回は9日に投稿します