ブルーアーカイブでブルアカを   作:粋刺@翻訳

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総力戦//桜花ノ舞(1)

ミレニアムサイエンススクールのホールにて、勝利BGMが響き渡る。一日中外に出ずに研究室に引きこもる生徒でなければ、何度も聞いてきた曲だ。テクノロジーに憑りつかれてしまった者たちが集う学園にとって、自分たちの生徒数人がメインを張るこのゲームが流行するのは当然のことであった。そうして時が経つにつれて、小言を言うユウカのメモリアルロビーを設定して登校する生徒の数が増え、そして本物の会計よりもずっと可愛いと全員が口を揃えるのであった。

 

「ふぅ…これでウィークリーは終わりですね。」某病弱美少女は一人微笑むと、視線をパソコンモニターへと向けた。「おや?何でしょう?」

 

彼女の目はモニターの画面を滑るように見つめ、微笑みがゆっくりと顔に浮かび上がってきた。「あらあら、興味深いですね。」

 

こうして、また一つの呼び声が響く。運命の歯車をさらに大きく狂わせるような呼び声が。

 


 

慌ただしい生活になってきたアビドスの少女たち。とはいえ、関心の波が落ち着いた今、ようやく事態が落ち着きつつあるように見え始めていた。

 

「ん、また来た。」砂漠の狼が報告する。シロコは愛用のアサルトライフルのスコープを覗き込み、標的を確認する。「撃った方がいい?」

 

「駄目です!あの人たちはまだ何もしていません!」とアヤネが咎める。「銃弾は無駄遣いしないでください!今はまだお金に余裕がありますが、もしも不良の数が増えてしまえば底を尽きてしまうかもしれません。」

 

「どうせ無駄でしょ…」とセリカが机の向こうから呟いた。「あの時のこと覚えてるよね?」

 

対策委員全員が、あの事件を思い出して身震いした。それはブルーアーカイブの配信から数日経った日、好奇心旺盛な生徒たちが『本物の』アビドスへと押し寄せてきた時のことだ。本来であれば喜ぶべき出来事だったが、『お客様』が不良風の格好をしていたため、シロコは反射的に発砲してしまった。幸いその生徒は逃げ出さずに済んだが…問題はその後だった。撃たれた生徒はたまたまガチャを回せる量の青輝石を持っており、そしてすぐにピックアップのシロコを当てたのだった。

 

これがきっかけとなり、ブルーアーカイブに新たな迷信が生まれることになった。

『本物に撃たれたら出る』

 

言うまでもなく、ピックアップ期間中は「撃ってください!」と叫びながら狂乱する生徒がアビドスに押し寄せていった。結果としてアビドス生たちは校門を閉鎖し、『ご予約無しでの見学はご遠慮下さい』という看板を掲げざるを得なかった。

 

「有名になりすぎちゃうと逆に困っちゃうんですね☆」とくすくす笑うノノミ。

 

「最近やかましいよね…」と眉をひそめて同意を示すホシノ。「お昼寝してるところまで見られちゃってさ、おじさんゆっくり寝れないんだよね。」

 

誰もが羨む豊満さを持つ(あくまでも資産の豊満さである)アビドスの姫は微笑んではいたが、どこか奇妙な色が混じっていた。彼女の視線は最年長の生徒に釘付けになっていた。「ホシノ先輩、昨日の夜に先輩の絆ストーリー読んでみましたよ。」

 

「そうなの?」椅子の上で身をよじりながら、ピンク髪の少女は答えた。「夜光ステッカーみたいなお宝、見つけた?」

 

「夜更かしは健康に良くないですよ☆」

 

「…何のことかおじさん分かんないや。」

 

「あの、何のことでしょうか?」アヤネは困惑していた。「ホシノ先輩を引くことが出来なかったので…」

 

「そんな大したことじゃないですよ。ただホシノ先輩が働きすぎているなと思っただけですので。」

 

「働きすぎているのは私の方!!」まさにその時、セリカは車に轢かれた猫の真似をやめて椅子から飛び上がり、両手で机を叩きつけて大声で叫ぶ。「最近の柴関ラーメンにどれだけ客が来てるか知ってる!?もう本当にとんでもないの!こっちはまだどうすればいいか分かっていないのにずっと毎晩、人が一杯なの!他のバイトを辞めなきゃいけなかったのよ!」

 

「そ、そんなに大変なことになっているのですか?」同じ一年生が尋ねる。「流石にバイト代は貰っていますよね?」

 

「貰ってる。けど…」猫耳の少女は疲れきったため息をつきながら、再び椅子に腰を下ろし、髪を搔きまわす。「()()のせいで大変なことになってるの…」

 

()()…?」

 

「8話でゲヘナ生が食べてたあのラーメン、覚えてる?」部屋中の全員がうなずく。「あのラーメンを食べたら便利屋になれるというネタポストがモモトークでバズったせいで、それ目当ての客が毎晩来るようになってきたの!」

 

「あまり悪いことではないと思いますが…」周囲を見回しながらアヤネは言う。「皆で協力して食べ合えば、完食はできるかと。」

 

「あのねアヤネ、皆()()で完食する気なの。」セリカの瞳には、サービス業で働く者にしか理解できない狂気が渦巻いていた。「安いから『とりあえず』で頼んできて、途中で『あっこれ無理だ』って気づいても柴大将が見ているせいで無理に食べきろうとするの。だから食べすぎて気分が悪くなって、その後片付けを私があああああああ!!!!!」

 

「どうどう。」と彼女の背中を優しく叩いて宥めるシロコだったが、効果は今一つだった。

 

猫耳の少女はそのことに全く気づいていなかった。机に顔を叩きつけて悔しがるのに必死だったからだ。「あの便利屋どもめ…いつかリアルで会ったらぎゃふんと言わせてやるぅ…!」

 

「便利屋の方たちはまだ何もしてませんよ…」アヤネはどこかにいる便利屋に同情しながら不安そうに言う。するとその時、タブレットからの警告音に彼女の意識が向いて、琥珀色の瞳が大きく見開かれる。

 

ホシノは人差し指を上げた。「シロコちゃん!緊急事態!」

 

「分かった。」

 

「緊急事態って何の──ぎゃあ!」瞬く間に、セリカは椅子から引きずり降ろされて床に倒れる。黒髪の少女は言葉を出そうと必死にもがいた。「ちょっと!離しなさ…むぐぅ!」

 

「しー…」と銀の狼は友人の口を手で押さえる。「じっとして。」

 

周囲に気を取られることなく、アヤネは切り替えて完璧に練習した挨拶を口にする。「お電話ありがとうございます、アビドス廃校対策委員会の奥空アヤネと申します。この通話は録音されておりますのでご注意ください。銀行強盗の依頼を申込まれた場合は速やかにヴァルキューレ警察学校へ通報させていただきます。」

 

車椅子に乗った白髪の少女のホログラム画像が目の前に現れ、くすくすと笑う。「その依頼、よく来るのですか?」

 

「想像以上に来まして…」その時になると、いつもシロコを止めなければならなくなる。「よろしければ、お名前を頂戴してもよろしいでしょうか?」

 

「さあ~?どうでしょう?」

 

「どう、と仰られても…」

 

「そうですか。ミレニアムの清楚な高嶺の花という異名を聞いたことはありませんか?」

 

アヤネは部室内を見回したが、皆首を傾げて困惑していた。「申し訳ありませんが、電話が混み合っているため、申し上げて頂かないとこちらで切らせていただくことになりますので…」

 

「こほん!そのようにして頂かなくても…」通話相手は「学外でのイメージ作りも努めないとですね…」と独り言のように呟いた後、こう続けた。「ミレニアムに咲く天才病弱繊麗美少女ハッカー、特異現象捜査部──英語表記ではParanormal Affairs Department(パラノーマル アフェアズ デパートメント)、旧名Super Phenomenon Task Force(スーパー フェノメノン タスク フォース)部長のヒマリと申します。」*1

 

「ちょっと長すぎるような…?」

 

「ミレニアムかぁ…」とホシノは呟く。「初めて聞く部だけど、こんなおんぼろの弱小校に何の用かな?」

 

露骨に疑いの目が向けられているにも関わらず、ヒマリの表情には何一つ動いていなかった。「一つお聞きしたいことがあります。ここまで注目を浴びているということは、やはり皆さんはブルーアーカイブをプレイしているのでしょうか?」

 

「はい、その通りです。」アヤネはため息をついた。「こちら側としては不可抗力なものですので…」

 

「であれば、マシロさんが追加された時に来た新モードもプレイしましたか?」

 

アヤネは目を瞬かせる。「総力戦のことですか?」

 

総力戦とは新しく追加されたレイドのようなモードで、プレイヤーは生徒たちを指示して様々なボスと戦う。難易度が上がったと評価する声もあったが、アヤネはノーマルしかプレイしていなかったため、今のところそこまで変わっていないように感じていた。

 

シロコは眉をひそめる。「変な蛇と戦うやつ?」

 

「むー!」実に示唆に富む一言をセリカは挟んでいく。「むぐー!」

 

「意外と可愛いと思いますよ~☆」

 

「さて、導入には目を通しましたか?興味深い内容でしたよ。」

 

「確か…」とアヤネは眼鏡を直す。「アビドス砂漠にいるという内容でしたが…あれはあくまでもゲームとしての話、ですよね?実在はしないかと。」

 

「ブルーアーカイブが証明する実在性を疑うのはあなた方ぐらいでしょうね。」ヒマリは微笑む。「特異現象捜査部は、科学では説明のつかない現象を研究する活動を行うミレニアムサイエンススクールのセミナー直属の部であり、こちらとしては『ビナー』は実在すると確信しています。」

 

「…時間の無駄だよ。」ホシノはため息をつく。「フィクションと現実をごっちゃにしない。砂しかない砂漠に変なものなんて埋まってないよ。」

 

「残念なことに、状況は想像以上に複雑なものとなっています。」突然、複数のファイルが回線を通じて送信される音がした。「ビナーに類似した生物の目撃情報は何十年も前から挙がっているのです。遭遇情報もセイントネフティスやカイザーPMC、その他様々な組織や人物から挙がっています。それ故、二年前までアビドス生徒会が調査報告書を纏めていたと、私はそう確信しています。そちらにはまだその資料が残っていますか?」

 

アヤネの素早いタイピング音が部室に響くが、彼女は首を横に振る。「そのような資料はデータベース内には存在していません。」

 

「多分旧校舎から移転する時に紛失したんでしょ。」最年長が首を横に振る。「で、結局何がしたいの?」

 

「まず、その生物が実際に存在するかどうかの確認を行いたいです。」ヒマリは何気なく髪を指でかき上げた。「こうした目撃情報だけでもありがたいのですが、私としては確固たる証明をしてから行動を起こしたい。ですので、ブルーアーカイブの情報の正確性を共同で検証するというのはどうでしょうか?正しかった場合、アビドスもこの脅威を見過ごす訳がないのですから。」

 

「ちぇ」とホシノは舌打ちをする。「分かった。」

 

「ありがとうございます!」くすくすとハッカーは笑う。「では、この後ミレニアムからチームを派遣しますね。」

 

「おお!」とノノミは目を輝かせる。「ブルーアーカイブのキャラクターと共闘出来ちゃうんですか☆」

 

「現在、私が考えていることとして…」

 

一方、キヴォトスの反対側ではある発見がされた。

 

「よし!」ユウカはペンを机に叩きつけて叫ぶ。「これが今持ってるキャラで組める総力戦の編成の最適解のはず!これなら…」

 

会計は一旦言葉を切り、今書き留めた内容を読み直した。数分後、彼女はたった一つの結論に達した。「なんでほとんどがミレニアムの問題児なの!?」

 

本当に開発者は何を考えているのやら。

 


 

「本当にあの時の私は何を考えていたんだろ。」そんな独り言を呟きながら、私はスマホの画面をスクロールしていた。「ブルーアーカイブでブルアカを作ったら面白くなりそうって、ハハハ。こんな大量の仕事をやるハメになると知ってたら、絶対しなかっただろうに…」

 

半分だけ本当だ。神秘があったとしても、ソシャゲを作るには多大な労力が掛かることは重々承知していた。そして事業の制作部分以外のすべての業務をこなさなければならなかったのが嫌だった。

 

MXスタジオが主力タイトルをリリースしてからしばらく経ったが、成果はまあまあだった。マーケティング戦略が主に口コミに頼っていたため、プレイヤー数は全体としてまだ比較的小規模だ。だが誤解のないように言っておくと、かなりの高評価を得ているものの、重課金者は数人程度だ。すぐに大儲けできなくて落胆する部下がほとんどだったが、ひとまず家賃については二か月間心配せずに済む、と刀の鞘で背中を優しく叩いて慰めた。

 

ここからが本題。調査によれば、プレイヤーの大半が生徒を占めている。何しろここは学園都市、キヴォトスにおいて生徒とは強力な経済力を持つ存在で、レッドウィンターが示しているように市場を独占している。ただし、成績に合わせて学園から貰う金に行動を縛られている生徒がほとんどだ。

 

さらに言えば、クオリティがいいからゲームを続けているということが調査で判明し、自分の学園の有名人が出たのが遊ぶきっかけになったというプレイヤーがほとんどだった。確かにこの戦略は注目を集めるためには有効だったが、ネット上での反応が少々…過激になってしまった。

 

『ブルーアーカイブの世界観とストーリーとグラフィック最高すぎ!!こんなゲーム他にないって!!』

 

『ハァ?有名人パクッて人気になっただけじゃん』

 

『クラブふわりんの信者おるやんけ まっクソブラゲで我慢してくださいよ』

 

『ブラゲじゃないし少なくともクソゲーじゃない』

 

『カメラをいい感じに動かすとパンチラするよ リアルだよね』

 

「相も変わらずモモトークは荒れてるなあ。」ますます混沌としていくスレッドへ、指は次々とスクロールしていく。「メインアカウントでもほとんど投稿していないのにこんなに話題になるなんて。」

 

某帝国建設ゲーで例えるとするならば、今のMXスタジオは文化的勝利を徐々に掴みつつある状態だ。時間をかければ、オリジナルが達したレベルまで到達できると確信している…だが、ゲームのクオリティアップには多額の資金が必要だ。スタジオが爆発大炎上になるような事態になった時は考えたくもないし、誰から矛先を向けられるかを考える前からそれは十分に発生し得る。だからこそ再び、経済的勝利狙いに切り替える時が来たようだ。

 

キヴォトスでの富裕層は誰か。それは言うまでもなく、イカレたネジ頭共で、その次がまあまあまともな動物。そしてほとんどがスポーツチームのように生徒を見ている。地元の学園には多少の興味を寄せているものの、有名人については名前だけしか知っていなかった。そのせいか、正義実現委員会の委員長として遊べるということよりも、ハスミの大きさ(羽)を堪能できる方が大きな魅力となっていた。だからこそ、その層から注目を集めるには大胆なことを仕掛ける必要があった。

 

「それにしても…」ため息をつきながら私はスマホを置いて、目の前の人だかりの向こうにある待機状態中の無数の端末の海が広がっている光景をちらりと見やる。「どうすればこの通り全体の分の金を私に払わせたんだ!?」

 

「そういう話ならひっそりとやってください!」マーケティングの予算を丸ごと騙し取った悪魔が る。「外にいるお客様に聞こえてしまいます!」

 

「Look here!」もう一人の着物姿の少女が、自分とそっくりな金髪の少女のキーホルダーを持ち上げた。「ワタシのキーホルダーも作ってくださったんデスネ!So coolデス!姉貴!」

 

「お前もか…」と私は呻く。「グッズとかは元からなかったのか…?」

 

「シールならあるのですが、こんなにハイクオリティなのは初めてですね。」百夜堂オーナー、河和シズコが笑顔で答える。「シズコの姿を拝めたくば直接足を運んでこい!それかモモトークの写真を見てこい、というスタイルなので。」

 

「どうしてこのイベントがこんなに大事になってるのかが分かってきた…」

 

決して悪くないことが…財布が悲鳴を上げている…

 

この騒動の発端は数日前、ブルーアーカイブ初のコラボイベントの企画書が作成された時だった。最初のマーケティング費用をケチれたおかげで、その予算と初期の収益の一部を使って、もう少し大胆なことをやってみようということになった。もちろん、イベント企画のノウハウなど私たちにはほとんどなかったので、専門家に相談したところ…

 

「にゃんと!?シズコのゲームを作ったのですか!?」

 

「あー、いえ、あなたのゲームじゃなくてですね…」私は不安を感じながら訂正し、彼女が書類をめくる様子を見守る。「でも今回初めて開催するイベントで主役を務めてもらうのと、百鬼夜行が舞台なので百夜堂と一緒に宣伝できればと思いましたので。」

 

「つまりコラボイベントということですね!」彼女は納得したようにうなずいた。「実は百夜堂もこれまで何回かコラボをしてきましたが、大抵が食料メーカーとのコラボなんですよね。なのでゲームとのコラボは初めて…って…そうじゃなくってぇ!」

 

シズコが机に叩きつけるように書類を置き、驚きのあまり私は飛び上がるように背もたれに背中を押し付ける。「百夜堂の看板娘をゲームに出すのならもっとドーンといかないと!ポップアップストアだけじゃ足りません!最低でも通りの外に掲示するポスターの一枚ぐらいは必要です!音楽もそうです!何か参考資料とかはありますか!?」

 

「え、あ、ふぇ?」まずい。動揺している。落ち着け…しっかりしろ!「はい。イベント公開前にオンラインで告知する予定ですが、その──」

 

「まずはティザーだけでも!そうすればこちらもPVを同時公開できます!」彼女の唇から邪悪な笑いが漏れ出る。「お祭り運営委員会の予算も充てれば…えへへへ!」

 

結局、私は百鬼夜行でメインイベントを開催させて、広告をいくつか屋外に掲載する程度に交渉をまとめさせなければならなかった。MXスタジオで決めたルールに、可能な限り納期ギリギリまでの作業を避けるというのがある。だからいくら大規模にしたいと思っても、神秘の力を借りようとも、お祭り並みの催し物を一から作る時間は到底なかった。

 

まあでも、これも悪くはない。蜂の巣を蹴ったわけでもない。百鬼夜行といえばお祭り、だから百夜堂と良好な関係を築けば他の学園と繋がる手段に使えるかもしれない。資金援助が得られて、なおかつ突然自分が拉致された時に助けてくれるかもしれないということについ涎が出てしまう。PMCの交渉役はこんな感覚なんだろうか?

 

そうして私はぼんやりと考え事をしていたが、突然鳴り響いたベルの音に意識が引き戻される。シズコが笑顔を浮かべて外に出てきた。「百夜堂、ただいまから開店しまーす!そして第一回ブルアカふぇす、開催でーす!にゃん!」

 

「コラボイベントだ!」おかしい、私が叫んでいるのに、誰も聞いていない。「まだ一周年すら来ていないのにもうコラボイベントだ!」

 

通りに沿って設置されたスピーカーから響くパチパチという音が私の叫び声をかき消したからだ。Sakura Punchのエレクトリカルなビートが街全体に響き渡り、客が歓声を上げながら一斉に押し寄せてくる。

 

滞ることなく順調に行ってるかを確認するために約二十分間留まり、その後に出来るだけその場を早く離れる。人混みをかき分けながら進んでいくと、数人の客がスマートフォンで今回のイベントをダウンロードしている様子が見えて、同時にPVが空中に浮かぶホログラフィックモニターで再生されていた。息苦しさを感じるほどだったが、周囲の熱気に押されながら指定された見張り場所へと登っていく。

 

街の歓声を感じながら、百鬼夜行に引っ越したのも案外悪くはなかったかも…と思った矢先、スマホの着信音で仕事の存在を思い出させられる。「準備はどうだ?」

 

「全員位置につきました姉貴!」不良がゲームスタジオのスタッフと警備を兼ねているとは面白い。「客が多すぎます…本当にこんな数のプレイヤーがいるんですか?」

 

「恐らくほとんどがシズコ目当てで来ている。」手を振って答える。「いいか、絶対に正体はバレるなよ。犯罪者と間違われたくはない。」

 

「了解しました!」スマホを置く間もなく、テクニカルチームからサーバーの進捗状況についての連絡が次々と来る。イベントの噂はモモトークにも広がり、ユーザー数は刻一刻と増加している。しかし退学したとはいえ元ミレニアム生、メンテナンスでサーバーを停止させる前に、何とか対応できるだろう。

 

さて、ピークは正午、シズコがイベントの実況配信を行うからだ。その時になるまでとりあえずのんびりしておこう。ポケットからクッキーを取り出して、かじる。うん、チョコチップ味だ。

 

時間はあっという間に過ぎていく。見張り、モモトークでのやり取り、そして一日中来る部下からの定期的な報告にそれぞれ意識を割いていた。いよいよメインイベントが迫ってくる…

 

その時、MXスタジオリーガルアドバイザー(くじ引きで決めた)からメッセージが届く。「カイザーコーポレーションから5通目の運営停止要請書が届きました。」

 

「フッ」と鼻で笑う。「ディルド頭にはレスポンスAを。」

 

「『生徒は全員18歳以上であり、ある種の感情を抱いても問題ない。』というやつですか?」

 

「ん?違う、それはレスポンスBだ。私が言いたいのは『このゲームはフィクションです。実在の人物とは関係ありません。』。それは送ったか?」

 

「あ…いいえ…」

 

「面白くなってきたな。」電話の向こうで、明らかにリラックスした様子が伝わっていた。「それなら、両方のレスポンスを送れ。」

 

「了解!」と通話相手はくすくす笑っていた。

 

電話を切った直後、モニターにはシズコが座ってタブレットの画面を見ている場面が映し出される。「それでは皆さん!今日は私がイベントをやっていきますが、ゲームはそこまで得意じゃないので大目に見てあげてくださいね~?」

 

通り全体が笑いに包まれる。

 

そして内容を把握するのが難しいほど、凄い勢いでチャット欄が流れていく。

 

そうして爆弾が起爆された。

 

「ぎゃあ!」とシズコが叫ぶと、通り全体に爆発音が響き渡り、百夜堂が揺れた。「なんなんですかいきなり!?」

 

「あーはっはっはっは!」黄色い着物を着た少女たちが煙の中から現れ、肩にロケットランチャーを担いでいた。「あたしらは──ぎゃっ!」

 

自己紹介が始まる前に、MXスタジオのスタッフは既に鉛の弾丸を撃ち込んでいた。「魑魅一座です!」

 

風に髪をなびかせながら、私は下の通りへと飛び降りる。「どうやら困ったちゃんたちが動き始めたようで…はっ、それなら手加減無用!」

 

手にした刀は待ちきれない様子で、鞘から勢いよく飛び出した。まるで祭りの雰囲気に触発されたかのように、期待に胸を躍らせているのが伝わってくる。

 

ニヤリ、と微笑む。

 

「百夜ノ春ノ桜花祭、開幕!」

*1
ゲーム公式で用いられているのはSuper Phenomenon Task Force。Paranormal Affairs Departmentは特異現象捜査部を直訳したものであり、非公式翻訳である。




[作者あとがき]
経済的理由で刀を選んだんです本当なんです。
[訳者あとがき]
描いたら出る
撃たれたら出る
訳したら…出る?

次回は17日に投稿します
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