ブルーアーカイブでブルアカを   作:粋刺@翻訳

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総力戦//桜花ノ舞(2)

今になって思えば、街中でブルーアーカイブの戦闘BGMを流すのはまずかった。まさしくキヴォトスの天命に逆らう行為だったからだ。とはいえ、現状を鑑みれば、魑魅一座とその黒幕が黙って見ているはずがなく、祭りを台無しにしてくると初めから予想はしていた。だからこそ、せめてこの戦闘だけは()()()()()したかった。

 

なにせMXスタジオはお客様第一ですから。

 

「流石に──えっ?」誰かシズコに耳打ちをする。「このまま配信を続けてください!?本気で言ってるんですかそれ!?」

 

「これでも喰らえ!」魑魅一座の一人が叫ぶと、またしてもロケット弾が炸裂した。

 

「分かりました!」爆発で配信映像が揺れる中、お祭り運営委員会委員長は声を上げた。そしてカメラをじっと見据えれば、子犬のようなうるうるとした目つきで言った。「ですが…皆さんの身の安全はしっかりと守ってくださいね!」

 

その言葉は本心からのものだった。内心では勝手に小悪魔呼ばわりしていたとはいえ、シズコは()()()()()()()()()()()。彼女のことを十分に理解していたからこそ、裏があると分かっていた。もしも百夜堂に何かあったら…

 

「給料から天引きになると。」ある種の"まとも"な道に入った今でも、変わらないものもある。「分かった!それなら星3クリアを目指さないと!」

 

そして一座の下っ端へ全速力で駆けると、彼女は「わっ!?」と叫ぶ。「いつのま──ぎゃっ!」

 

私の刃が空気を切り裂くと、彼女のお面が真っ二つに割れた。頭上のヘイローのおかげで致命傷は負わないものの、その衝撃で足が浮き上がり、吹き飛ばされる。彼女は手で顔を覆い、刺すような痛みに呆気にとられているようだった。銃弾の衝撃以外を経験したことがない生徒がほとんどなので、鋼が肌を刻む感覚に対する反応は一生見飽きない。

 

そして、その痛みに気を逸らせるようにしてあげるつもりで、私は叫んでいる彼女の足を掴み、仲間の不良たちの方へ放り投げ、全員を転倒させる。

 

「な、なんだあっ!?」一座の一人がパニックになりながらガトリングガンを私へ向ける。「アイツヤバいぞ!」

 

「ここはキヴォトスだぞバーカ!」大きく振りかぶって、刀を思いっ切り投げつける。飛翔する鋼の全重量が刃の先端から彼女に伝わる直前に、お面の奥では彼女の目が見開いた。皮膚は貫けず、刀は頭から跳ね上がって空中に舞い上り、私は彼女へ突進していくがそれで終わらない。呆然としている彼女はなすすべもなく私の踏み台となり、空中で刀を拾えば、回転を加えた飛び込み斬りを繰り出す。彼女は悲鳴を上げ、衣服は私の刀で切り裂かれていく。

 

「さてと…」両足で着地して、呆気に取られる群衆に向かってニヤリと笑いかける。「魑魅魍魎って言うのなら、()()()()()()()()

 

「まーた姉貴張り切ってら。」と部下の一人が言う。

 

「BGMをHardバージョンに変えた方が良いかな?」

 

ピクリと、眉をひそめる。唸り声を上げながら、そんな部下たちへ刃を向ける。「ボーっとしないでさっさと撃つ!」

 

「「はい!姉貴!」」と二人は叫び、再び戦場は銃弾の嵐に包まれる。

 

爆発音にかき消され、ほとんど聞こえなかったが(そして当然、見るのは極めて危険だったが)、撮影現場のすぐ外では、明らかに不良同士の喧嘩ではない何かが激化しているにもかかわらずに配信は続いていた。「おお!本当に私だ!!えへへ、可愛いでしょ?…って私の声で喋ったあ!?」

 

風に叩きつけられながらも、私は目にも留まらぬ速さで標的から標的へと飛び回っていく。魑魅一座の一人が私へ鉛弾を撃ち込もうと必死になって怒号を上げる。「なんでこんなに速いだよ!」

 

Cute and funny(ガワがロリ)だから!」相手の腹部に柄打(つかうち)を繰り出す。「速くて当然ッ!」

 

「わ~!!百鬼夜行!とっても綺麗ですねー!えへへ~!」とシズコはクスクスと笑う。「あれ、忍者になるのが夢ってイズナさんが話してますけど…そ、そういうのって漫画でよく見かけますよね!えっイズナがメインヒロインなんですか!?私だと思ってました!ま、まあ別にいいんですけどね!にゃ、にゃんてね!」

 

おおっと、どうやら直接伝わっていなかったようだ。それにポスターの全部が全部イズナにフォーカスしているわけでもないし、モニターで交互に流している2nd PVはイズナだけしか映っているわけでもない。…いや、待て、しまった。全部シズコの罠か!?可愛い小芝居に引っかかるつもりじゃなかったのに!

 

一座が手榴弾を取り出した瞬間、「おい!」と叫びながら私はその腕を叩いてはたきおとす。「ロケットランチャーだけでも十分アウトなのにさらに爆弾を使うのか!それなら地獄を見せてやるしかないな!」

 

「地獄なんて怖くな──」激しい斬撃の嵐の中へ刃が消え去る。直後、そう叫んでいた不良はうつむき、自分の服が切り裂かれたことに気が付く。とはいえまだ尊厳が保つ程度だった…が、私が言った()()がどういう()()なのかは重々承知していた。赤い面の向こうでは、彼女の顔の血の気が引いていた。「あ、え?さっきの花火?」

 

「ナイストライ。」腹に一発食らわせると、彼女は倒れる。

 

卑怯な戦法だと思うかもしれない。

 

そこで一つ、私から教訓を教えよう。

 

キヴォトスでの戦闘する時のルールその一

『手加減無用』

 

このことはこの街に来た時にその身を以て痛感した。普通の人間には共感というものが存在する。相手に甚大な被害を与えることになると分かっているからこそ、一線というものがあった。しかし、この街の生徒たちはヘイローに守られて成長してきた。地球では躊躇するようなことでも、彼女たちにとっては紙を切るようなことだった。

 

かつてブラックマーケットを彷徨っていた頃、不意打ちを何度も喰らってきた。神秘というご都合のおかげで常人なら耐えられないほどの苦痛を、彼女たちは平然と耐え抜いていく。生き残るためには、そうした先入観を乗り越えなければならなかった。

 

え?それのどこが脱衣要素と関係あるんだって?

 

…過激すぎると思えるのかもしれないが、だからといって子供たちにただ()()()()()()()()()はない。私を誰だと思っている?ベアトリーチェか?

 

ここはキヴォトス、つまりアニメで見るようなサービスシーンになっても多少は大丈夫。

 

「ヘンタイ!」と少女が叫ぶが、すぐにショットガンの一発で倒される。

 

「私もやったんだからさ!お前も地獄行きになるんだよ!」元不良だった私の部下の一人が叫ぶ。「地獄から逃げるなーっ!」

 

「ゲームでも路上流がトラブルを起こしてるんですか!?って桜花祭!?…え?ちょっとチャット欄!キャラ崩壊ってなんですか!シズコがこんなことしませんって!ゲームの設定ですからこれは!に、にゃん!」

 

虐殺が起こった跡だと言いたいが、実際は誰一人として死んでいない。ブラックマーケットのBDを使って部下に戦闘訓練を強いたかもしれないが、それ以前は決して優秀とは言えなかった。こちらの戦力の大半は私の存在感に依存しているため、基本的に部下は私の援護に回り、私を狙う敵を制圧していく。そして接近戦となれば私についていける者はいなかった。

 

しかし突然路上に煙が爆発すれば、そんな状況が一変した。「あーちくしょう、どこのどいつが──」

 

違う、火薬の臭いがしない。甘ったるいケミカルな臭いが漂い、花の香りも混じっていた。つまりそういうことだ。ついに彼女が現れた。

 

「ドロン!」本日の主役、花柄の着物姿の狐の少女が決めポーズと共に煙の中から現れる。「イズナ、参上です!ニンニン!」

 

通りでは歓声と拍手喝采の嵐が巻き起こる。夢を追う少女は、初めてスポットライトに当たったかのように一瞬だけ動きを止める。「え?えっ?何ですか!?」

 

私は上へ指差すと、彼女はモニターへ視線を向ける。

 

「何という運命の悪戯…!」ゲーム内のイズナが叫ぶ。「ですがイズナは知っています!忍びの道を行くからには、こういったことも起こり得るのだと!ドラマで見ましたので!」

 

「なぜイズナがゲームに!?」彼女は混乱した様子で叫び、頬を叩く。「いえ、これはイズナを翻弄するための罠…!」

 

「まあ、だいたいそんな感じ。」刀を一振りしながら私は答える。するとイズナは路上流よりもはるかに素早く刃を躱して、私の頭上目掛けて銃撃を放つ。すぐさま頭をずらして避けつつ、斬り上げて叩き落とす。「ずっとあなたを待ちわびていましたよ!」

 

「おお!」と何故かイズナは目を輝かせていた。「その剣戟…もしや侍!?」

 

「どちらかというと浪人だ。」肩をすくめてそう認める。「次からそう呼んだら、たとえヘイローが浮かんでいようがぶっ刺す。」

 

これだけはどうしても気に障ってしまう。

 

「おのれ邪悪な浪人め!」今何て言った?「ご主人様からあの任務を託されたのも納得です!このイズナ、必ずや成敗致します!」

 

すると彼女は袖を翻し、只者ではないことを証明するかのように、本物のクナイの雨が放たれる。金属の武器が身体へと深々と突き刺さっていき、アスファルトの上を転がっていくが受け身を取って復帰する。

 

その後二人で戦場を駆け抜けていくが、こいつは厄介だ。

 

ここの生徒のほとんどは、敵が倒れるまでとにかく撃ち続けるというシンプルイズベストの戦法に頼る。だがこちらと相手の戦法は似た者同士──主に機動力を活かす。だが私が力で押し切るのに対して、イズナは忍者を志す者──ダダダダダッとサブマシンガンが絶え間なく鳴る間に、尽きることのない数々の技が繰り出されていく。暗器、煙幕、起爆札──戦闘が長引いていくにつれ、次第に本格的な忍術まで使うようになった。

 

「瞬間移動!?マジか!」煙幕が上がれば、そこには人形だけが残っていた。刀でバターのように滑らかに切り裂けばと、粉微塵に爆破した。「どこにそんなものを隠し持っていた!?」

 

「秘技!」という声が背後から聞こえ、私が手で顔を覆った瞬間、銃弾の嵐が耳をつんざくように響き渡る。必死に刀で身を守りながら嵐に耐える(素材を考えると凌げるのは当然)。だが峰が手に食い込んでいき、柄をしっかりと握り直さないといけなかった。歯を食いしばりながら、弧を描くように振り払う。狐には届かなかったが、勢いを利用して身体を回転させて回避する。

 

こちらの全身は痛みで悲鳴を上げているが、イズナは楽しそうにしており、空いている手で印を結ぶ。「これぞイズナ流奥義!」

 

けむり玉を足元に投げつけると、再び姿を消す。視界の端で残像は捉えられたが、振り向いた時には煙の跡だけだった。状況を把握すると共に、思わず笑ってしまった。

 

「冗談きついな。」背筋が凍りつく。「E()X()()()()()()()()()()()()()

 

皮肉なことに、実際にやられた経験から知ったことではあるが、ゲームの制約がない本物のキヴォトスの生徒はとんでもないことをやってのける。現実にスキルのクールダウンは存在しない。そのためイズナは好きなだけ瞬間移動できる。目にも止まらぬ速さで動き回り、見えたと思ったら消えていて、追いかけている限りは必ず死角から現れる。

 

だから私はしなかった。代わりに、戦場全体を俯瞰するように見渡して、赤い軌跡を描きながら縦横無尽に駆け回る姿を捉える。銃弾のように、ヘイローの光が動いている。つまり銃弾と同じ速さでしか動けないということだ。

 

「そこだ!」警戒を捨てて勢いよく刀を突き出す。イズナの動きは止まり、切っ先で彼女の身体を叩きつけて、叫びながら着物を掴んで地面に叩きつける。彼女は目を見開いて私を見上げれば、眼前には切っ先が向けられていた。

 

「イ、イズナ流奥義が見破られた…?」彼女の耳は垂れ下がり、悲しげに鳴く。「な、何故!?」

 

「銃社会で唯一の剣士だからだ。そのおかげで自ずと見切れるようになってくる。」

 

剣士と言った瞬間、イズナの目が輝いた。残念なことに、彼女の味方はそうではなかったようだが。「あーん!イズナ殿が負けたー!」

 

路上流はお互いに顔を見合わせて、当然の結論へと帰結する。「これ以上は無理だ!戦略的撤退だー!」

 

「あわわ…」とイズナが呟いた直後、けむり玉が炸裂する。そしてすぐに、何ともないような顔をして私の目の前に立つ。「イズナは諦めません!次に相まみえる時はイズナ、今の三倍くらい強くなっているはずですので!では、ニンニン!」

 

そう言い残して、他の路上流とともに逃げていった。

 

「ゲームと同じことを言ってたけど、多分見ていなかったな。」そう呟いた後、私は立ち上がろうとしている他の部下へ向き直る。「よし!後片付けを手伝ってくれ!」

 

「あい姉貴…」とうめき声を上げると共に、隠れていた民間人たちが次々に姿を現していく。中にはスマホを構えている人もいて、どうやらこの光景を楽しんでいたようだ。イベントの一部だと思っているのだろうか?

 

「だっ、誰がタヌキよ!?」と我らが進行役がゲームのキャラにタヌキ呼ばわりされていた。配信は既に先生とシズコが陰陽部に行った段階まで進んでいるようだった。

 

私は急いで納刀して、あいつらが来る前に近くの路地裏に身を隠す。大きく深呼吸して、意識を頭のヘイローに集中させながらそっと(スートラ)を唱える。身体の奥深くでカチッという音が響いて、痛みが徐々に和らいでいく。もうそろそろ修行部や紛争調停委員会が来る。調査に巻き込まれるのは御免だ。そうしてスマホを取り出す。「トラッカーをセットした。位置は分かるか?」

 

「はい!」MXスタジオのメンバーがうなずく。「すぐに送ります!」

 

彼女は言葉を区切る。「本当に姉貴の言う通りに進んでますね…」

 

これには苦笑いを禁じえなかった。「頭のいい奴を相手してるわけじゃないからな。そっちはどうだ?」

 

「ユーザーによるサーバー負荷が発生する前に、なんとかサーバーの不具合を修正できました。」そして少し間を置いてから、「ですが、テクニカルチームが調査していたら…()()ファイルがアクセスされた形跡がありました。」

 

「当然か。」そう言ってため息をつく。「おかしいと感じたらすぐに接続を切ること。」

 

「分かりました!」

 

そうして電話を切れば、まずは目の前の問題に集中することにする。

 


 

アビドスで暮らす上においての良い所、それはいくら借金がのしかかろうと、対策委員会は常に澄んだ青空を見上げられる。補足しておくと、これは青春の比喩ではない。アビドスはどうあがいても()()()()。そのため、雲は少なく、強烈な太陽の熱や砂嵐さえなければ一年を通して過ごしやすい気候だった。

 

だが人はいなかった。

 

衰退の一途を辿りつつある学校の生徒たちでさえ、この暑さを()()とは言えなかった。時には文明の恩恵から引き離され、自然の驚異に晒されることもあるからだ。

 

「まだ来ないわね…」セリカは何もない空を仰ぎながら不満を漏らす。「いつになったらミレニアムが来るの!?」

 

「まだ待ち合わせの時間は来ていませんから…」とアヤネは苦笑いを浮かべながら、手元のタブレットに視線を戻す。そこではとあるカフェの看板娘が、ゲーム内の自分の奇行に反応していて、BGMに混じって微かに爆発音が聞こえてくる。「また画面が揺れてますね。」

 

「百鬼夜行って楽しそうなところですよね。」ノノミは背中越しに眺めながら微笑む。「今度みんなで遊びに行きましょう!」

 

「そんな時間ある!?」猫耳の少女はため息をつき、スマホに向き直る。「このキャラなら…ってあーもう!なんでイベントのキャラじゃ無理なの!?」

 

同級生の一年生は眼鏡を直しながらこう言う。「上手く育成できてないからだと思いますが…」

 

「こっちはバイトで忙しいの!」

 

「イベントなら簡単だよ。」とシロコはニヤリとする。「私はもうクリアした。」

 

「カットシーン全スキップしてたでしょ。皆見てたよ。」とお昼寝スポットからホシノは声をかける。「PvPばっか考えずにさー、もっとのんびりやりなよ。」

 

「先輩、ゲーム起動して。早く闘ろう。」と狼少女はねだる。今週十五回目だ。

 

戦術対抗戦はそんな仕様ではないが、面倒くさくなったせいか誰もそのことを訂正しようとは思わなかった。

 

「おじさんにそんな時間はないんだってば~」ピンク髪の先輩が主張する。「お昼寝で忙しいの。うへ~」

 

こうしてShirokoKawaiiによる揺るがぬ支配は続き、キヴォトスサーバーを恐怖に陥れ続けていった。

 

そんなこんなでのんびりと午後を楽しんでいたが、数分後にアヤネは猛スピードで近づいてくる存在を察知する。「来ました!」

 

星野以外が慌ただしくスマホをしまえば、遠くには黒い点が見えてくる。やがてその点はヘリコプターの姿となり、その金属製の機体に装備された兵器類も視認できた。敵であったのなら対策委員たちは慌てふためくことになるのだろうが、今回はおそらく味方。数年ぶりの()()()に彼女たちは息を吞んで待つしかなかった。

 

ヘリコプターが着陸すれば、バタンと金属のドアが勢いよく開かれて、ストリートパンク風の格好をした赤髪の少女が飛び出してきた。「とうちゃーく!」

 

ミレニアムのグラフィティアーティストは、全員に向かって手を振った。「あ、アビドス生だ!よろしく!」

 

「突っ走らないでくださいマキ。」と眼鏡をかけた少女が友人の後を追うが、すぐに厚手のジャケットを着たことを後悔する。「うわっ、熱すぎる…」

 

「ですよね!」ミレニアムではジャケットがファッションのトレンドだろうか、後から出てきた金髪の少女はファー付きの厚手のコートを着用していた。「着いたばかりというのにもう溶けてしまいそうです!」

 

彼女はアビドスの生徒たちに目を向ける。「あの、エアコンが必要だったりしませんか?今ならタダでミサイル防衛システムをお付けしますよ!」

 

「プロジェクトを増やすのはやめておこう。」頭上の飾りが馬の耳に見える紫髪の少女が息を吐く。「ここには長くいられないからね。」

 

「でも肌が痛いくらいに暑いんですよ!」

 

更に二人、降りてくる。一人はブラジャーにジッパーがついていて、そして今にもこぼれ落ちそうなほどあまりにも薄着で、もう一人はその真逆、頭からつま先までフリルたっぷりのメイド服なのに、灼熱の砂漠の暑さなどものともしない様子だった。彼女は髪をなびかせながら、丁寧なお辞儀をする。「アビドスの皆様、初めまして。ミレニアム初の調査部隊、ただいま到着致しました。」

 

「初めまして…アカネさん、ですよね?」アヤネは恥ずかしそうに後頭部を掻く。「こうして実際にお会いするとなると、なんというか現実感がないような…」

 

茶髪の女性は軽く手を口に当てる。「うふふ、同感ですね。」

 

「ひとまず絵柄は統一されたね!」ヴェリタスのアーティストが冗談交じりで笑い、両手を頭の後ろで組む。「あたしはマキ!この部隊のエースだよ!」

 

シロコの耳がぴんと立つ。「皆環境キャラなの?」

 

「というよりは、編成の一例っていう感じの人選かな。」エンジニア部の部長がため息をつく。「そうじゃないと部が混成されている理由の説明がつかないからね。うちは武闘派じゃないし…あ、一応言っておくと私はウタハだよ。」

 

「個人的には組んだ人は無課金勢だと思いますね。」自己紹介の必要がないコタマが軽く笑う。「イオリは引けているんですかね。」

 

ホシノは欠伸をする。「風紀委員が来たら面倒くさいことになるよ。」

 

「さて、果たしてどうでしょうか。」とアカネは小さく微笑む。「ブルーアーカイブが配信されてから、風紀委員会は評判を大きく落としました。ですので、風紀委員会的にはあのゲームはただのフィクションであると、証明したがっているはずです。」

 

「メインストーリーと同じならゲヘナでじっとしてもらった方がいいわね。」とセリカは唸る。すると突然、彼女は目をぱちくりさせ、ミレニアム生の人数を数える。そして今まで一言も発していなかったメンバーに目を向ける。「ねえ、あんただけ初めてみる顔だけど…って何なのその格好!?」

 

「あっ、私はエイミ、二人しかいないSuper Phenomena Task Force(特異現象捜査部)の部員だよ。」と彼女はうなずく。「それにしても暑いね。」

 

「あれ?」とアヤネは瞬きをする。「特異現象捜査部の英語表記は確かParanormal Affairs Departmentだったはずでは…?」

 

「昨晩まではそうだったんだけど、今朝部長が急に変えたんだ。」突然、彼女のスマホからアラート音が鳴り、エイミは一瞬画面を確認した後、うなずいた。「ごめん。一応改めて自己紹介するね。私はエイミ、 Paranormal Affairs Department(特異現象捜査部)所属だよ。」

 

「そう…ですか。」アビドスのオペレーターが答えると、屋上にいた全員が顔をしかめる。

 

「うちの部長とセミナーの会長が名前のことでいつも言い争ってて…」とエイミはため息をつく。「本当に面倒くさい。」

 

「リオ会長で意外とみみっちいんだね…」と皆が思っていたことをホシノが代弁した。

 

「一般の生徒では知りえないことですので。」Cleaning and Clearingの部員が説明しながら、昔のことを思い出しているような表情を浮かべる。「普段は大変理知的な方なのですが、時々…ああ、すみません。会長の陰口を叩くつもりはなくて…」

 

「気にしないで~」とマキはニヤリと笑う。「セミナーって普段から堅苦しいから。」

 

「うん。」とエイミはうなずき、アビドスの方へ向き直る。「ところで、服脱いでいい?本当に暑くてどうしようもないから。」

 

セリカは目を細める。「そんな格好してても暑いの!?」

 

「いいよ~」と部長は答え、来客を見回す。「皆も脱いだ方がいいよ~。先生みたいになったら困るからさ~。」

 

「ん、いくら私が可愛くても、匂いは嗅がないで。」

 

「シロコ、伏せ。」

 

ミレニアムの生徒たちは皆、笑いながらジャケットを脱ぎ始める。腰に巻く者もいれば、バッグに入れる者もいたが、エイミだけは違った。許可が下りるやいなや、彼女のジャケットは某戦闘民族よろしく、どさりと勢いよく地面に落ちていく。驚きのあまり全員が固唾を飲んで見守る中、次々と脱ぎ捨てられていくが、誰もそれを止めようとはしなかった。そして彼女の手がブラのジッパーに伸びると、一気に引き下げられ──ミレニアムの戦闘力が遺憾なく発揮された。

 

「うわぁ…」ウタハは感嘆の声を漏らす。「大きすぎる…」

 

「こ、これで一年生なんですか…?」とコタマは小声で呟く。「こんなの不公平です…」

 

「ストップ!ストーップ!」トマトのように真っ赤になった顔で、セリカは必死に両手を振り回す。「いきなり何してるの!?全裸で走り回る気!?」

 

「え?いや。」とエイミは困惑した様子で腰のシェルベルトに指差す。「服は着てるよ。」

 

「それ服じゃなーい!」ツッコミが炸裂する。さらに追い打ちが続こうとしたその時、突然彼女は肩を叩かれて遮られる。「ノノミ先輩?」

 

「大丈夫ですセリカちゃん。」とアビドスきっての有力者が彼女を安心させながら、クリーム色の上着を脱ぎ始める。「大きさでは負けているかもしれませんが、学校のプライドなら負けてません!」

 

「へ?」そんな一年生は目を見開く。ノノミがブラウスのボタンに手をかけたからだ。「ちょっと!ストップ!」

 

「大丈夫です!」とノノミは声を張り上げながらシャツを破り、彼女の()()が露わになる。黄色い布の紐だけが、株式市場のように豊富なそれが乱高下するのを防いでいた。「そう、私は…覆面水着団のクリスティーナだお☆」

 

「最初から脱ぐ気だったの!?」

 

「あれで二年…」とコタマは肩を落とし、マキは苦笑いしながら友人を励ますように背中を叩いていた。

 

「わ…わ…」コトリの鼻から赤い血が垂れる。「こ、これが…"バズーカ"…!」

 

「二人共──」アヤネの頭のどこかでは、何かが切れる音がした。「いますぐ服を着て下さい!!」

 

数分経過したが、二人共々公然わいせつ罪で捕まる可能性はなくなった。ほぼほぼだが。

 

「本当にうちのエイミがすみません。」無線の先ではヒマリがため息をつき、額を押さえていた。「体質が特殊なので、つい…」

 

「部長は部長で暖房暑く設定しすぎ。」ピンク髪の少女は小声で文句を言っていた。

 

「その話は帰ってからにしましょう。」暖房を高く設定しすぎていた部長は首を横に振る。「それでは気を取り直して…調査開始です。」




[訳者あとがき]
次回は19日に投稿します
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