ブルーアーカイブでブルアカを   作:粋刺@翻訳

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総力戦//桜花ノ舞(3) 前編

アビドスに住まう者たちの間には、一つの常識があった。

 

──砂漠に足を踏み入るな。

 

どうしてわざわざ砂漠に入りたがるのかは別問題として、アビドス砂漠を横断することは実質死刑宣告されたようなものである。だが人が見せる不屈とは実に驚くべきもの。あまりにも過酷な環境下であっても、生き延びる術を編み出すのだから。とはいえ、生存が可能という条件が前提だが。

 

砂漠を照りつける灼熱の太陽の下で、生命が生き延びることなど不可能だった。熱に耐え得るサボテンもなければその裏に潜む生物もいない。世界を不毛な地へと変えるべく砂漠という自然にそぐわない存在が作られたと、恐怖と共に噂として流れ続けている。それは徐々に広がっていき、かつてのアビドスの栄華は、今や絶望だけとなった。

 

──脈が打つなら踏み入るな。

 

──息を吐くなら踏み入るな。

 

──夢を持つなら踏み入るな。

 

踏み入ったが最後、「死」そのものがただあるのみ──

 

…ただし、あえて踏み入れたのなら、それに出会えるかもしれない。それは過酷な環境で唯一生き延びられる生命体。スチールで作られた関節、ワイヤーで接続された神経、チップで構成された脳を持ち、ただ死ぬことなく生きることを目的として作られた怪物。

 

もしくは彷徨うだけの白く滑らかな鋼のロボットに遭遇するのかもしれない。ガトリング砲を装甲に固定した巨大なロボットの隣で、目的不明のままちょこまかと動き回る立方体状の小さな機械群。過去30年間に映画を見たことがある者なら知っているように、一度姿を見られたら、即座に襲われる。とはいえ、カイザーコーポレーションとやり合うよりはマシ。

 

「わぁ~!」とコトリが歓声を上げる。「あの、部長!あの大きいのって持ち帰れますか?」

 

「トラックに入らないかも。」ミレニアムのエンジニア部部長はそう言いながら、彼女たちが乗っている車両を覗き込む。

 

ほとんどがヘリコプターに乗りたがっていたが、ヒマリ曰く、ビナーが実在するなら、そのスーパーAIは自身が狙われていることを察知して潜伏している可能性が高いとのこと。「都市伝説とはこうでないと。」ということで、ミレニアムの経費で車両を借りることになった。

 

「あいつらって本当に昔からいたの?」セリカは目の前の光景が信じられず、不思議そうに尋ねる。

 

「…一、二回見たぐらいかな、こっちは。」アビドス最年長が口を開く。「でもその時は忙しかったからそんなに気にしてなかったんだよね。まさかここで群れを作ってるなんてね、知らなかった。」

 

「小さくて可愛いですね~☆」ノノミは笑いながら、廃墟と化した家屋の間を素早く移動する集団を見つめる。「一体何をしているのでしょう?」

 

「ん、敵。」シロコは手元の銃の整備をしながら呟く。「それだけ。」

 

「ネットワークに侵入できたら楽なんだけど…あっ!」マキはパソコンの画面を睨みつける。「アクセス拒否!?噓でしょ!?」

 

「クローズドのネットワークでしょうか?ヴェリタスから持ってきた機器なら突破できるはずですが…」しばらくタイピングしたのち、コタマは肩を落とす。「すみません部長、固すぎます。」

 

「今の部長はチーちゃんですよ。」ヒマリのアバターが通話越しに微笑む。「私は迷える隣人を導く華凛な花です。」

 

エイミは彼女の部長にじっと見つめる。「華凛な花…」

 

「とにかく!」()()しが聞けられないとは素晴らしいものだ。「お力添えになりたいところですが、旧式のドローンでは行動が制限されてしまいます。」

 

「最新モデルをご用意できなくてすみません。」と同じエルフが謝る。

 

「昔のハードでも色々とできるよ。」マキはニヤリと微笑む。「スクリーンさえあればBOOMを動かせるんだよ、知ってた?」

 

コトリは眼鏡の位置を直す。「あっ!そういえばあの時ロボット犬をハッキングさせてBOOMを動かしていましたね!」

 

「かわいそうなライカ君…」ウタハは首を横に振る。「もう元通りにはなれないんだ…」

 

「でもスマホを無理矢理組み込んだのそっちじゃん。」

 

「うん。確かにレーザーガンシステムの起動用として組み込んだね。」

 

「なんでレーザーガンなんてのを組み込んだの!?普通ロボット犬にいらないでしょそんなの!」とツッコむセリカ。

 

「あー…」とアヤネは頭を抱える。「何かいつもより話が脱線しているような…」

 

「これだけの大人数ゆえ、脱線するのは致し方ないことです。」アカネがフォローを入れる。

 

「ですね。移動にも時間が掛かりましたので、日が暮れない内に終わらせましょう。」とヒマリはため息をつく。「手始めに、あのロボットを破壊してデータの収集からお願いします。」

 

「はい?なぜ破壊する必要が…ってシロコ先輩!」

 

「分かった。」と狼少女は返事をして、すぐさま駆け出す。

 

運転手であったエイミがすぐさまドアを開ければ、銃を手に取る。「もう帰りたい…」

 

「かしこまりました。」とアカネは微笑むと、服の中に仕込んでいた爆薬を取り出す。

 

「ちょっと待ちなさいよー!!」と砂漠の猫が叫べば、調査部隊はトリガーハッピーの後を慌てて追いかける。

 

が、すぐにその協力関係に亀裂が入ることになる。総力戦の環境キャラを投入すれば上手くいくと思われていたが、アビドスもミレニアムも、考慮していなかった点があった──誰も連携した経験がなかったのだった。

 

火花を散らす小さなロボットたちのスピーカーから断末魔のような音声が鳴れば、砂漠の狼は勝ち誇るような笑顔を浮かべる。「ん、これで三体目。」

 

「別に競っているつもりじゃないけど…」とエイミは呟き、作業用ドローンの群れへ距離を詰めていく。屋根へと軽快に飛び移り、止まることなくタイル張りの床を駆け抜けて寸分の狂いもなく撃ち落としていく。再び砂へ足を着けた時には、背後のロボットはただの鉄屑と化していた。「あなたのやり方は非効率的。これで五体目。」

 

シロコの耳がぴんと立てば、小さく唸り声を上げながら廃墟となった街並みを駆け抜けて、ルービックキューブのように密集した集団を見つける。しかし彼女がトリガーを引く寸前、地面が揺れればその集団は爆発に巻き込まれる。煙が晴れれば、そこには楽しげに微笑む気品溢れるメイドの姿しか残っていなかった。「これで十二体目ですかね?」

 

「三人ともペースを落としてください!」と彼女たちの後ろからライトを照らすアヤネのドローンが追いかけてくる。「他の方がついていけてません!」

 

そして彼女たちの背後では、銃声やら熱のこもった叫び声やらで賑やかだった。

 

「あの白くてキラキラしたコーティング…」マキは笑みを浮かべて弾帯を交換すれば、"筆"を走らせる。「アーティスト魂が燃えてきた!!キャンバスにピッタリだー!!」

 

鮮やかな色彩が廃れた街並みに飛び散り、塗料が無造作に爆ぜ散っていく。その勢いはあまりにも激しく、巻き添えを食らうほどだった。

 

「ちょっと!」とセリカは声を上げてオレンジと赤で汚れた制服を引っ張る。「気を付けて狙いなさいよ!汚れを落とすのにどれだけかかるか分かってるでしょ!?」

 

「イメチェンだと思って!アビドスの制服って元々地味だし。」

 

「このガキー!!!!!」

 

一方、彼女たちの後ろの砂丘では、二人の少女がのんびりと歩いていた。コトリは巨大なマシンガン撫でながら、笑みを浮かべる。「プロフェッサーKをこのように改造した理由については50年から、いえ!銃火器が初めて開発された時の頃に最も大きかった課題について──」

 

「あ、ちょっとあそこ見てください。」ノノミが話を遮ると、近くの壁を指さす。「一体いますよ。」

 

たった一体だけなのに、二人の少女は笑顔でマシンガンの回転数を上げる。神に着想を得た小さな機械は悪魔の恐怖を知ることになる。だがその悟りは残酷なことに、無慈悲に浴びせられた弾幕で奪われることになった。そうして砂埃が収まれば、そこには瓦礫の山しか残っていなかった。ノノミが企業の跡を継がなくとも工事現場でやっていけると証明した瞬間でもあった。

 

数キロ離れていて無事とはいえ、アヤネは未だに両手で顔を覆っていて絶望せずにはいられなかった。「もう何が何やら…」

 

「雷ちゃん、設置したよ!」

 

「ありがとうございま…ってどうして敵がいない場所に!?」

 

「最初はいたけど、設置作業に取り掛かっているうちに先に倒されてしまった。でもそれで止めるわけにはいかないだろう?」

 

「ゲームじゃないですから!場所は事前に変えられますじゃないですか!」とエルフは叫び、急いでドローンを眼鏡仲間が隠れている路地裏へ動かす。「コタマさん!EXスキルお願いできますか?」

 

「EX…あっ」と彼女は眉をひそめる。「できます。場所は?」

 

「シロコ先輩に…いえ、マキさんとセリカちゃんに…あっ!コトリさんとノノミ先輩へお願いします!」

 

コタマが各エリアの監視を始めようとした瞬間、彼女の敏感な耳には雷のような激しい轟音が入ってくる。振り返れば、ギィギィと鈍く低い金属音を鳴らしながら武装したロボットの集団が近づいてくる。彼女は素早く装備を手に取って駆け出すが、すぐに別の集団に阻まれる。そしてピストルを抜き、発砲をする。

 

たった一発で、巨大なそれは沈んだ。

 

「今の…私が…?」とコタマは呟きながら、自分の銃を見つめる。

 

「ごめーん、それおじさん。」と対策委員会の委員長が答える。そして何の躊躇いを見せずに最初の機械の集団へ近付き、それに搭載された機関銃が迎撃すべく作動するが、ホシノはただ欠伸をしながら、腰に携えていた(Iron Horus)のそれを構える。だが完全に展開することはなく、片手で持ったショットガンの一撃でその機械は転がるように砂へ倒れ伏し、数分前まで脅威であったロボットは今や廃品置き場行きの廃棄物となった。「もっと気を付けようね~…うへへ~」

 

好き勝手にやりたい放題なこの状況下でも、調査部隊はものの数分でエリア内の敵を全て掃討した。完全勝利と言っても過言ではなかった。

 

たとえそうは感じられなかったとしても。

 

「もっと周りのことを考えてから行動してください!倒した数で競うのも、喧嘩を始めるのも、敵に過剰なまでに撃つのも止めてください!特に弾薬の浪費は禁止です!」アヤネは頬を膨らませて りつけていく。「どうしたらアヤネ先生のようにできるのでしょうか…」

 

「まあその、ゲームで動しているのはたった六人ですし。」と言った人物に皆が振り向くと、内向的なヴェリタスの部員はびくりと身を震わせる。「す、すみません。」

 

「いえ、気にしないでください。コタマさんは頑張ってくれていましたので。」励まつもりだったのだろうが、その少女に更なるプレッシャーを与えることになった。「この調子で本当にビナーを倒せるのでしょうか…」

 

「ひとまず落ち着きましょう。」とヒマリは面白そうに笑いながら口を挟む。「あくまでもこの調査の目的は、存在を実際に確認するだけです。」

 

「…だね。これはただの偵察任務。皆はそれを遂行しているだけ。」一歩、ホシノが踏み出す。いつもの気の抜けた笑顔はそのままだったが、その目つきは更に鋭くなっていた。「じゃあ一つ聞くけどさ、なんでこんなにおじさんをこき使ってるのかな?背中グギッってなりそうなんだよね。」

 

「ロボットを止めたのはこっち!先輩は丸投げしただけ!」突然、耳をぴくぴくさせたセリカがそれに気付く。「というか聞くところそこ!?皆一生懸命やってるって言ってたよね!?」

 

そんな中、特異現象捜査部の部員は天才ハッカーに視線を送った後、うなずく。「部長。」

 

「はい。それではお伝えしますね。」「現在、私たちが調査している存在の名は『ビナー』ですが、本当の任務名はご存知ですか?」

 

知識を披露するのを躊躇わないシロコはすぐに答える。「デカグラマトン – ビナー」

 

「その通りです。」とヒマリは微笑む。「その昔。とある科学者集団がこんな仮説を立てました。『神を研究し、その存在を証明できれば、その構造を分析し、再現できるだろう。すなわちこれは、新たな神を創り出す方法である』…その仮説を元にして、対・絶対者自律型分析システムが開発されました。そのシステムは神性を探し出す前代未聞の超人工知能(AI)──お分かりだとは思いますが、それこそがデカグラマトンです。」

 

エンジニア部とヴェリタスの部員らは互いに見合わせた後、興奮した様子で再びハッカーの方を向く。

 

「部長!なんでそんなに凄いのがあるのに教えてくれなかったの!?」

 

「そのAIを動かすとなったら、ハードウェアの要求スペックはとんでもないことになりそうだね。」ウタハは独り言のように呟く。「コトリ、どのくらいのスペックが必要だと思う?」

 

「全然さっぱりです!」と目をぐるぐる回しながらコトリは叫ぶ。「神になろうとするAIって…最低でもフライステーション3 5000台分のスペックが必要ですよ!」

 

「何その例え!?」またしてもツッコむ猫。「そのAIとフライステーションって関係あるの!?」

 

「あ、ご存知ないのですか?実はフライステーションは──」

 

「もういいから!誰か止めて!!じゃないと耳がおかしくなっちゃう!!!」

 

「あはは、申し訳ございませんね。」とアカネは軽く頭を下げる。「ミレニアムは理系分野に特化した学校ですので、こういった可能性の話になるとついつい目の色が変わってしまって熱狂的になってしまいます。」

 

「アカネさんの言う通り、あくまでもこれは可能性の話です。」ヒマリは首を振る。「これまで、デカグラマトンという存在は忘れ去られた伝説にすぎませんでした。実際に存在したという確かな証拠は一つもなかったのです。」

 

「ブルーアーカイブが出るまでは。」ホシノは疲れたようにため息をつきながら完結に言う。「やれやれ、あのゲームのせいでおじさんの心臓が持たないよ…」

 

「ホシノさんだけではありません。」と自称ミレニアムに咲き誇る一輪の花はホシノを励ます。「さて、これまでのゲーム内の予測が驚くほど正確だったことを考えれば、デカグラマトンの存在は特異現象捜査部の活動を始める動機として十分──」

 

「またSuper Phenomnona Task Forceに変わったみたい。」エイミが割り込む。「さっきセミナーの会長が変えたって。」

 

「またですか!まったくもう!五秒ほど気を逸らしただけなのにですか!これほどデカグラマトンに惹かれていなければ今頃この部の部長にはなっていませんのに…」とヒマリは不満そうに鼻を鳴らせば、タイピングを行う。数分後、エルフのハッカーは咳払いをすると、再び聞き手の方を向く。「さて、質問への解答はこれで十分でしょうか?」

 

「いや。」とシロコは首を振って、何故かスクラップの山を蹴る。「このロボットについての説明がまだ。」

 

「ああ。」とヒマリはうなずく。「最近、キヴォトス中でこのような機械が裏で動き回っているという目撃情報がありまして、私なりに調査した結果、正体は掴めませんでしたが、デカグラマトンと何かしらの関係があることが判明しました。」

 

そして新旧含めた部員へ、ヒマリは向き直る。「コタマ、マキ、すぐに可能な範囲でいいですので分析を始めてください。エイミはサンプルをいくつか持ち帰ってください。」

 

「了解したよ、元部長!」

 

「分かりました。」

 

「小さい方だよね。」とエイミは尋ねるが、返事が返ってこない。「だよね?」

 

「ちょっと、仲間はずれにしないでください!」コトリは頬を膨らませる。「こんなに凄いのを独り占めして分析するのはずるいです!私たちにもやらせてください!」

 

「あなたたちエンジニア部には知識方面で助けられるかもしれませんが、少なくとも──」

 

彼女が話を続けようとした途端、天才少女のホログラムが点滅し始め、ドローンのスピーカーからは雑音が混ざり始める。

 

「ヒマリさん?どうかしましたか!?」アヤネが叫ぶ。「接続が不安定ですが?」

 

「接ぞ──変で──ます!」途切れ途切れの声で彼女は答える。「ハブが──」

 

そして突然、爆発音と共に通信が途絶えてしまう。

 

「ヒマリ!?ヒマリ!!!」マキが叫ぶも無駄だった。かつて部長だった彼女には届いていなかった。

 

「ハブに何かあったら…」エンジニア部部長は目を細める。「学校全体が大混乱になってしまう。まずいね…」

 

「申し訳ありませんが、これにて失礼させていただきます。」と放たれたアカネの声色は、これまでの優しさが微塵も残っていなかった。「アビドスの皆様、ご協力してくださりありがとうござい──」

 

「あの、皆さん?」緊張からなのか、アヤネの声は震えていた。「何かが近づいてきます!しかもかなりの速度で!」

 

調査部隊らは全員銃を構え、周囲を見回すも何もなかった。間違いかと思われたその時、突然コタマが口を開く。

 

「地面、地面から来ます!」ハッカーである彼女は足元の砂の振動を感じながらそう伝える。「危ない!」

 

まるで合図があったかのように、彼女たちの背後では砂が勢いよく噴出される。全員が驚嘆の声を上げる中、その勢いは止まることを知らずに天へ届く高さへと登り切る。やがて赤い稲光と共に砂が霧散されれば、光る四つ目と身体の二倍大きいヘイローが現れる。そしてそれの脈動と共に砂塵は消え去り、彼女たちの前に立ちはだかるは機械仕掛けの大蛇(Serpent)──その身体は、視界の限りまで伸びていた。

 

それが探し求めていたもの。己が存在で己を証明したもの。

 

デカグラマトン三番目の預言者。(The third prophet of Decagrammaton.)

 

違いを痛感する静観の理解者。(The Contemplator of Disparity.)

 

ビナー(Binah)

 




[訳者あとがき]
次回は22日に投稿します
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