ブルーアーカイブでブルアカを   作:粋刺@翻訳

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総力戦//桜花ノ舞(4)

まだキヴォトスに来たばかりの頃の私は──弱かった。

 

実際に言葉に起こすのは難しいが、この都市の生徒は基本、強さを気にする()()()()()。銃のおかげで同じ土俵に立てられる。そしてこの都市での「強さ」の基準というのは様々な要素が入り混じっており、技量、戦術、装備、身体能力の順で評価されていく。そう、ヒナやホシノのようなバケモノも()()()()。とはいえ彼女たちの自治区(縄張り)内で好き放題しない限り、相対することはほぼない。そしてブラックマーケットで最も用心するべき存在が、エンフォーサーと燃え尽きた退学生だ。七囚人はたった七人()()()()()伝説になっているわけで、それにブラックマーケットをぶらつくよりもずっと重要なことをしている。

 

気の毒ではあるが、もしまたニヤニヤに会ったら今度こそ地獄を味わわせてやるつもりだ。

 

少し逸れたが、要するにキヴォトスの犯罪組織は出落ちする雑魚ばかりだということだ。

 

私はそれ未満の存在だったが。

 

一つ想像してみてほしい。部屋に入ってみたら、そこには子供の頃から銃の取り扱いを教わってきた人しかいない。そして自分はというと、ちっぽけなピストルを握るまで実銃なんてものは一度も見たことがなかった。そう、安全装置(セーフティ)の解除方法が分からずに私は蜂の巣にされた。調子が良い日でも運良く狙った所に当てるのがやっとで、反動(リコイル)に振り回されない正しい構え方すらも分からなかった。

 

そうしてピストルを捨てた後は、廃品置き場から掘り出した錆びて刃こぼれした刀剣を振り回すだけの飢えた野良ネズミに成り果てていた。本当は雑魚そのものだったのに刀を振り回す姿が姿なせいか怖れられていた。そして運良く立ち直っていった。その後は…

 

カイテンジャーと袂を分かち、もっと強くなければならないと悟った。私を受け入れてくれる学園なんて存在しなかったから定石通りにはやれず、ゲヘナのBDの入手先を知っていたとしても時間と金が許してくれなかった。だがキヴォトスの生徒には持っていない、ある強みを私は持っていた──観点だ。

 

自分の頭上で浮かぶヘイローの脈動を感じた。まるで車輪のように回転していたが、その形はまだ見えなかった。刀を振るうたびに力が血管を駆け巡り、その軌跡に輪廻(サンサーラ)の花々が散っていった。

 

「に、逃げろ!」路上流の一人が叫べば、花びらに当たる。その瞬間、彼女は後ろへ吹き飛ばされた。瞬く間に無数の斬撃が彼女を襲い、服を粉々に切り裂けば、彼女は地面に倒れ伏していた。「バケモノ…」

 

私は目を回す。「こういうのは誰でも出来るぞ。コツさえ知ればな。」

 

神秘のせいでとんでもないことになりかねないというのに、ほとんどの生徒はそんなことには気にかけない。どうも妙だ。そのことについて話題を出した時も「あーはいはいなんか凄いことやっちゃう人っているよね」と軽く流し、神秘のおかしさをまったく理解していなかったようだった。陰陽()と一文字違いの陰陽()は官僚組織的な役割だ。だからゲマトリアというものが出来たのだろう。()()()としてキヴォトスにいるのは本当に気が狂いそうだった。

 

その真価を引き出さずにはいられなかった。私の場合、神秘の研究という方法だった。ヘイローの真の姿を見極めるのは『先生』だった頃よりもはるかに困難だったが、自分の顔が呪われたそれだったおかげか、手掛かりを得ることができた。そこで、ちょっとした修行の旅としてキヴォトスを彷徨っていたところ、あることに気づいた。ヘイローは静的な存在ではない。特定の行動、言葉が『神秘』に反応を起こす。つまり適度な刺激を与えれば、その潜在能力を最大限引き出せられるはずだと考えた。

 

そうして引き出せた。

 

路上流との戦闘を虐殺だったと言うのはある意味では控えめな表現なのかもしれない。刀を振るう度に、五人が花吹雪の中に散っていき、数が減っていくごとに、相手の恐怖は募っていった。爆弾を投げようとする者もいたが、私の防御を破る前に爆発してしまい、逆効果となった。そうして私は煙で身体を隠しながら、彼女たちを斬り裂いていった。

 

悲鳴が続く中、得物の「無刀の奇跡」は心ゆくまで歌い続けた。私の神秘が青輝石に流れ込み、真紅に染まっていく。形がぼやけているせいか、神秘の終端と現実の始点との境界線はもはや意味を成していなかった

 

狗子仏性(犬にも仏性があるか)

 

それは山海経でくすねた書物に書かれていた初関──一番目の公案だった。典型的な謎かけの一種で、「はい」か「いいえ」で答えると自らの仏性を放棄してしまう。その初関の真意は、ただ問いに答えることではなかった。答えを理解することにあった。則ち(Mu)(Nothingness)虚無(Void)

 

解釈の仕方は様々だが、私なりの解釈を述べるならば、アニメを見過ぎた人ならどこかで耳にしたような現代版狗子仏性がある。シュレディンガーの猫は生きているのか、死んでいるのか。

 

答えは両方。生きていて、死んでいる。犬には仏性があり、ないのと相似している。ではなぜ「はい」も「いいえ」もあり得るのか?それは答えが「可能性」そのものだからだ。この問いを解くには世界を二元論的な見るという考え方を捨てなければならない。猫は死んだか、生きていたか、あるいは半分死んでいて、四分の一生きているのかもしれない。死にかけになっているのかもしれないし、あるいは、カスみたいな毒入りボックスのせいでストレスフルな一日を過ごしていただけなのかもしれない。

 

その犬は仏になる可能性がある。もしかすると、今まさになっている途中なのかもしれない。この世界に常住は存在しない。全ては無常で、可能性に満ちている。「はい」か「いいえ」に自身を縛り付けるのは、思考を狭めてしまう。たった一つの点が、1と0の間に生み出す無限の可能性に気づいてようやく、『(Mu)』を理解し始める。

 

万物は無に存在する。

 

それが無門関(門無き門)を理解する第一歩だ。

 

しかし、それで完璧ではなかった。

 

「ろ、浪人!」とイズナは叫び、指さす。その時に一輪の花びらが私のシャツをかすめて、裂く。即座に私のヘイローが反応して切り傷は出来なかったが、肉を削がれる感覚は残っていた。

 

「立つな!伏せろ!」と私は唸り声を上げた。きゃんという声と共に狐の少女はうなずくと、床が崩れ落ちる。もって30秒程度か。

 

さて、あの初関は可能性の原理に基づいていた。発声されるやいなや、無刀は超音速で振動し始めた。あらゆる動きが、あらゆる可能性の一撃が、神秘の斬撃として具現化された。そしてその斬撃は、触れただけで爆発して斬撃を放つ花びらへと融合する。そのせいか、刀を振るっていけば、戦場に花吹雪が舞い散っているようだった。韓国人によって日本のアニメみたいな街がひっそりと創られたという証拠はこれ以上必要だろうか。

 

この技がどれだけの破壊力を持つかはもう既に想像がつくだろう。見境なく敵にも味方にも襲い掛かるためで、人前で使おうものなら大事故を引き起こしかねない。制限時間については…

 

顔に駆け上がる熱を我慢して、上着を直す。30秒以上は持ちこたえられるはずなのに、なんでいつも私のヘイローが邪魔をする!いくら気を付けようがあの花びらのせいで一定時間経つと()()花びらで私の服が破れ始める!まるでこの顔になってしまったあてつけみたいに!

 

多少のことなら我慢できるが、絶対ロリひん剝き刀の使い手として知られるのだけは御免だ!

 

そんなものは他の奴がやれ!

 

「凄い刀持ってるからって調子乗るな!」自分だけがまともかと証明するかのように、アラタはライフルで花びらを撃ち散らして、ボロボロの机の下に隠れる。が、机は何千もの斬撃によって木端微塵となった。そのたぬきは一瞥し、唸り声を上げる。「そのまま撃ち続けろ!絶対どこかであいつのボロが出始めてくるぞ!」

 

悲しきかな、私が近接ユニットだということをすっかり忘れていたみたいだ。

 

「ずっと気になっていることがあるが。」一歩踏み出し、私は混沌の中で舞いながら障害物を切り伏せていく。視線が合った瞬間、木屑が宙に散っていく。「どうして逃げ回っているんだ?そんなサラシの結び方だとすぐに乳首が見えてしまうぞ。」

 

彼女の瞼がピクッと動き、ライフルの銃口を私の顔に押し当てる。「お、おっぱいはあるぞ!」

 

「おっぱいがあるから負けるんだよ。」彼女が引き金を引く前に、私は足で勢い付けて体をひねり、無刀を上に振り上げた。熱風が吹き抜ける中、彼女の銃の銃身が空高く吹き飛んだ。目の前の出来事が信じられないと言っているかのように、アラタの視線は銃の残骸を追い続けていた。そこで私は一思いに取り巻きに投げつけて現実に引き戻してやる。手足をばたつかせながら悲鳴を上げるが、そのまま機関銃手(マシンガンナー)へと直撃する。「これでお終い。」

 

青輝石の刃を鞘に収めていけば、それに秘められたあらゆる可能性が、一つの状態へと収束していくのを感じていく。手が震えていた。無刀が抗っていた。納刀ができなかった。身体に残った力を全て振り絞って払い、潜在能力の全てが大きな波となって解き放たれた。血のように赤い花びらが彼女たちを飲み込み、苦痛の声をもかき消した。花びらが散ったころには、意識と尊厳を失った路上流の雑魚たちが無様に転がっていた。

 

相手が相手なせいか、私は微塵も後悔は感じていなかった。

 

「銃が…」意外なことに、アラタは立ち上がれなかったものの、耐え抜いていた。「あたしの銃を壊したな!?」

 

「不良もどきから足を洗った方がいいぞ。」私は疲れ切った足を引きずりながら彼女の方へ歩み寄り、ため息をついた。「このままでは駄目だってのは薄々勘付いているんだろ?」

 

「何様──あ”っ”!」無刀の柄が後頭部に叩き込まれ、アラタは夢の世界へと送り出された。

 

「終わった…」安堵のため息をついたが、その直後にアドレナリンの効果が切れた。瞬く間に、私はその場に崩れ落ちた。地面に倒れ込む前に、素早く刀を地面に突き刺し、それを支えにして体を支えた。その間、私の顔色は徐々に元に戻っていった。

 

「ろ、浪人―!」とイズナが叫びながら私の元に駆け寄ってくる。「大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫だ。」頭が爆発しそうな気分だったが、ひとまず答えてイズナを安心させる。耳元で鳴り響く心臓の鼓動のせいで、彼女の声がほとんど聞こえなかった。しばらくの間、体から力が抜けていて、ただ必死に息を整えることしかできなかった。だが、やがて力を取り戻し、なんとか立ち上がることができた。「よし。イズナ!」

 

「は、はい!」狐はぴんと背筋を伸ばす。「イズナに何か御用でしょうか!?」

 

「どうだ、今の私は?」私は自分の体をさすりながら叫んだ。

 

「凄く格好いいです!」彼女は目を輝かせて叫んだ。「イズナもいつかあんな風に戦ってみたいです!」

 

「そうじゃなくて!」私は遮るように言い、くるりと振り返った。「公然わいせつで御用になるかの格好になっているのか?」

 

かつてスカートの後ろに巨大な穴が開いていることに気づいていなかったことがある。その時「岡田以蔵」流の対応を取らざるを得なくて本当に恥ずかしかった。

 

「あっ!」とイズナは一瞬ためらった後、巻いていたピンクのマフラーを差し出した。「マフラー入りますか?」

 

「ありがとう。」彼女からスカーフを貰い、一番ダメージが大きい部分に素早く巻きつけた。巻き終える頃には、外から猫特有の鳴き声が聞こえてきた。「あっちは無事に済んだみたいだ。」

 

ゆっくりと廃校の外へ歩み出ると、スタジオMXのディフェンスチームに囲まれ、窮鼠に嚙まれた猫がいた。その猫は膝をつき、両手を背中で縛られていた。ニャテ・マサムニェは哀れげな目で私たちを見上げた。眼帯が地面に捨てられていたため、両目で見上げていたが、犬ではなく猫だったため、その作戦は失敗に終わった。「その、あー…今回は見逃してくれないか?」

 

「黙れ!」と不良生活で鍛え抜かれた部下の一人が銃口で彼を突く。「お前みたいな大人はキヴォトスから消えるべきなんだよ!」

 

「そうだよ!」もう一人が同意する。「姉貴の言うことは聞いた方がいいぞ!じゃないと…全身丸刈りだ!」

 

「やめろおおお!」ニャテ・マサムニェが叫ぶ。「丸刈りだけはよせ!」

 

「…馬鹿真面目にやったら何時間掛かると思ってるんだ?」私は首を横に振って、部下の方へ向く。「修行部が来たらそいつを引き渡しておけ。あと路上流を縛る時は気を付けてくれ。ちょうど地獄送りにさせたばかりだから。」

 

不良たちはその含みのある言葉に、こっそりとくすくす笑った。これで路上流は社会的に終わることになるが、こっちとしては特に関係ない。そこで、私はイズナの手を掴んで引きずるように前に進んだ。「さてと、行くぞ。時は金なりだ。」

 

「え?」彼女はまばたきをし、よろめきながら私についてきた。「どこへ向うのですか?」

 

「ここは百鬼夜行。もちろん行き先は分かるな?」私は柔らかな笑みを浮かべて、忍者を影から引きずり出してスポットライトの下へと導かせる。「お祭りは主役がいてナンボ!」

 

百鬼夜行の入り組んだ路地裏を、疲れ果てた体でイズナを連れていきながら駆け抜けて、大通りまでたどり着いた後も、イズナは状況を把握できていなかった。派手な衣装と特徴的なふさふさの尻尾をした彼女を見るやいなや、ささやき声が街中で飛び交い始める。視線が全て彼女に注がれる中、動揺した少女は慌ただしく辺りを見回した。「え?え?」

 

「失礼!ちょっと通ります!」そう叫びながら、群衆を搔き分けていく。ようやく百夜堂についた頃には、後ろには大勢の人がついていっていた。そしてあのタヌキが配信を終えようとしたまさにその時、私はスクリーンに目をやる。「ドンピシャだ。」

 

「いやー!すっごく楽しかったです!」シズコは笑顔をカメラに向ける。「皆さんも楽しんだみたいですし、ゲーム配信はこれからもどんどんしていった方がいいかもしれま──えっ?」

 

MXスタジオのスタッフの一人が彼女に耳打ちする。すると突然、百夜堂の看板娘は席から飛び上がった。「ご本人が来てる!?なんで教えてくれなかったんですか!?」

 

目まぐるしい動きでシズコは店のドアを蹴り開けて、通りに飛び出す。そして数秒後、小悪魔が声を限りに叫ぶ中、忍びを志す少女は突然きつく抱きしめられた。「イズナさぁぁぁん!!あなたの夢、シズコ先生が全力で100%…いえ1000%で応援しますからねっ!」

 

その狐が返事をする間もなく、シズコはきびきびとドアの方に顔を向ける。「あの!早くカメラをこっちに!」

 

1000%で応援しますという言葉は本心からなのか、マイクパフォーマンスなのかは分からない。恐らくは両方だろう。「な、なぜイズナがこんなにも注目を!?」

 

「私のオファーを受けたからだろ?」私は少女の手を離し、一歩下がる。「これから進む道は決して楽なものではない。辛いことばかりだ。もしかしたら、時間をドブに捨ててるバカだのと、現実を見ろだのと周りから馬鹿にされるのかもしれない。それでも、教えてくれ──お前の夢は何だ?」

 

こんなに非現実的な場面でも、イズナであればこの問いは即答できる。「イズナの夢は──忍者です!」

 

彼女の手は、私が渡したカードを握りしめていた。「また悪い大人に会ったとしても、また誰かから夢を笑われたとしても…構いません!ひたむきに突き進んで、イズナは最高の忍者になります!絶対になります!」

 

突然、群衆が熱狂の渦に包まれた。歓声、拍手、そして彼女の名を呼ぶ声。子供の夢に対する盛大な祝福だった。それでもなお、私たちは皆、笑顔で彼女を前へと押し進めた。

 

その光景は、私にも強く響いた。普通であったら、子供じみていると一蹴されるのだろう。だが、彼女の歩み、苦闘、そして決意を目の当たりにした今、選択肢は残っていなかった。『ブルーアーカイブ』は、人が執着していた『理性』を奪い、『青春』という夢で魅了させた。

 

自分の行いは本当に正しかったのかと、思ってしまう時もあった。

 

そんな時、答えをくれたのは──この瞬間だった。

 

「皆さんありがとうございます!」イズナは涙をぬぐいながら、満面の笑みを浮かべた。そして間髪入れずに、カメラに向かってピースサインを送った。「イズナ、これからも頑張ります!」

 

そう、それだ。無限の可能性に向かって一歩踏み出すと、気付けば桜花と共に舞っている。

 

そうしてイズナは地面に煙玉を投げつけ、ドロンと姿を消した。「ニンニン!」

 

 

「あっやべ──」

 

本日の教訓『お祭りは盛り上がりすぎるとあっという間に暴動と化す。』

 

修行部にこっぴどく られ、タヌキに復讐を誓うような睨みを食らった後、お祭りは終盤に差し掛かり、疲れ果てた体を休めるため、スタジオへと向かうことにした。ところが、そこに着くやいなや、ドアが勢いよく開かれると、部下がスマホを掲げていた。

 

「姉貴!」彼女は叫びながら、スマホを私の顔に突きつけてきた。「ミレニアムが襲われてます!」

 

ふざけるなあああああああああ!!!

 




[訳者あとがき]
次回は5日に投稿します
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