ブルーアーカイブでブルアカを   作:粋刺@翻訳

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総力戦- Decagrammaton: BINAH 前編

たとえ荒唐無稽な状況下に置かれたとしても、生徒の大半は取り乱すことがない。外部の者たちにとっては、この学園都市全体が狂気に包まれているに映るが、中で暮らしている者たちにとってはまさしく日常茶飯事。銃撃されても命を落とさないの常識。犬が喋るのも常識。馬鹿みたいな格好をしている生徒がいるのも常識…とはいえ、最後については面食らうのかもしれない。

 

つまり、この楽園の住人たちが動揺を見せるのは稀。だからといって文化の差異がないわけではない。ゲヘナにカルチャーショックを受けるトリニティ生もいれば、逆もまた然り。

 

突然襲撃されたことに対してアビドス生たちが驚愕したことはごく普通の反応だった。彼女たちの文化は黄金の砂の下深くに埋もれており、あの学校こそが、部外者の常識に一番近い存在だった。だがミレニアム側は──巨大な機械を呆然と仰ぎ見ていた。その事実こそが、如何に非現実的な存在であったかという証左だった。

 

街の至る所では、ロボットが店を切り盛りしている。

 

しかしヘイローを持つ個体は一体もいなかった。

 

そして人の集団を丸呑みしかねないような巨大な蛇でもなかった。

 

ビナーの瞳が、少女たちをスキャンするかのように走った。細められた瞳孔を向けられ、少女たちの背筋は凍りつく。脅威の検知か、ただのハッタリか、それとも単に嘲笑っているだけか──もしくはそれらすべてが混ざり合い、鋭い眼差しがそれを伝えていたのかもしれない。

 

『我はビナー、汝らが探し求めし()()。勇があれば我に立ち向かえ。』

 

一方、ある一つの疑問が調査部隊全員の脳裏を駆け巡っていた。

 

()()()()()()()()()()()

 

その答えは三者三葉だった。

 

「…今から()()を倒すんですか?」不安げに呟くコタマ。

 

「何アレ!?」と声を荒げるセリカ。「いやほんとにアレ何!?」

 

「か──」と一気に興奮し始めるコトリ。「かっこよすぎます!!!!すごいすごいすごいすごいすごい!!!本物だ!ほ・ん・も・のだ!!!!!」

 

「確かに凄いけど、今は時間がない。」彼女の部長が顔をしかめる。「すぐにミレニアムに戻らないと──」

 

獲物が逃げ出そうとするのを察知したかのように、預言者の眼光が鋭く光る。ドローンからアヤネの叫び声が響いた。「動いています!退避を!」

 

阿鼻叫喚を砂漠全域に響かせながら、少女たちは崩れかけの廃墟に身を隠す。白い蛇の頭が激しく揺れ動けば、それに呼応するかのように地響きと共に地面が砕け散る。その首の付け根は砂塵に覆われ、遠くでは不吉な音を立てて尾が雷鳴のように轟いていた。

 

「ん。」砂漠の狼は考える間もなくアサルトライフルの照準を合わせて、トリガーを引く。銃弾が空を飛んでいき、白い金属に命中する──が、ヘイローによって防がれてしまう。その目が彼女の位置を鋭く捉えれば、スピーカーからパチパチと音が響く。その瞬間、少女たちは息を吞む。ゲーム内では一度も喋っていないビナーではあるが、本物だとしたら…

 

だがしかし、スピーカーからは非常に聞き覚えがある曲が流れ始めた。

 

「ビナー戦のBGM…!?」アヤネは信じられないといった様子で瞬きをする。「スピーカーから流しているのですか!?」

 

「成程、『受けて立つ』ということですね。」同じく眼鏡をかけたメイドが呟く。「一刻も早く戻りたいところなのですが…その前に軽くお掃除をしなければなりませんね。」

 

「ん、やれる。」シロコはそう答え、さらに銃弾を怪物の装甲へ撃ち込んだ。

 

「だよね!」マキは笑みを浮かべ、自分の銃を取り出して連射し始める。「観光しにここに来てないからね!」

 

「…いや、偵察しにここに来たんだけど。」とエイミが言えば、少女たちは次々と怪物に銃弾を撃ち込んでいく。「任務自体が観光みたいなものだし…」

 

「おちおちそうも言ってられないみたいだね。」というホシノの言葉は、ショットガンの轟音にかき消された。「あれが街まで来ちゃったら…ね?」

 

「ミレニアムの方たちはすぐに戻らなければいけないのに戦わないといけないなんて…」オペレーターは頭を抱えながら結論を出す。「よし、では!迎撃部隊を編成します!部隊は二つに別れて、第一部隊はビナーの牽制をして出来る限りの攻撃を、第二部隊は車へ向かってください!」

 

「名案ですね!でも──」ガトリングガンの銃声でかき消されそうになりながらも、ノノミは声を上げる。「あっちの部隊にいない人で車を運転できる人って確かエイミさんだけでしたよね?」

 

「つまり一人足りないということですか!?」アヤネの頭はひねり出される。この戦闘では誰が最適か、考えろ!「なら──」

 

シロコが手を挙げた。

 

「「ホシノ!」さん!」とミレニアムサイエンススクールの生徒たちが一斉に叫んだ。

 

「うへ~」とピンク髪の先輩は後輩を慰めるような視線を向けて答えた。「ごめんね~環境キャラ直々にお呼ばれされちゃったからさ~」

 

「ずるい。」と銀髪の少女は唸る。そう唸っていた。別に拗ねていたわけではないのである。拗ねていると言おうものならばアヌビス(死の神)と向き合うことなるだろう。

 

「…ゲームのことさておき、この中ではホシノ先輩が一番頑丈です。」とアヤネはどこか罪悪感を滲ませながらそう言った。「では早く車の方までお願いします!そこまで距離は離れていません!」

 

別れの言葉を残して、一行は散開していく。受けて立つのは、キヴォトス初の正式な迎撃部隊だけとなった。とはいえ、彼女たちに戦略があったとは言い難い。最初の数分間はただひたすらその恐れ慄いてしまうような機械に銃弾を浴びせることしかできなかった。ヘイローに守られたビナーに、果たしてダメージを与えているのかさえ判然としなかったが、『ブルーアーカイブ』で得た知識を信じることしかできなかった。ビナーは倒せられる──少しずつ、削っていくしかなかった。

 

残念なことに、その預言者は基本無料のソーシャルゲームの制約に縛られる存在ではなかった。総力戦のビナーは動かないが、現実は全く違う。ビナーが唸り声を上げる度に、地面が揺れていく。そしてその機械は戦場を這い回り、目には白い残像としてしか映らず、波打つ砂の中を飛び込んでは飛び出していった。そして尾が一度振られていくと、周囲の廃墟は粉砕されていった。

 

「ぎゃっ!」とマキは悲鳴を上げながら身を隠していた遮蔽物もろとも吹き飛ばされる。そして地面から顔を上げれば、視界の隅ではちらりと白い影がぼやけて見えていた。すぐさまトリガーを引き続け、弾切れになるまで撃ち続ける。そして咳き込み、砂埃が視界を遮る中、背後から声が聞こえてくる。

 

「こちらです!」とアヤネが叫び、彼女のドローンが上下に飛行する。ミレニアムのアーティストは熱砂を巻き上げながら崩落した壁に身を隠す。ドローンの底部が開き、赤い箱が落下して、太陽の光で白い十字が輝いていた。「これで回復を!」

 

「あっ!これが噂のぶっ壊れ回復アイテム!」

 

「いえ、ただの医療物資なのでそこまで凄くは…」照れ笑いをしながらアヤネは答える。マキが留め金を外して開ければ、瞬く間に傷が癒えていった。エルフの少女は眼鏡をかけ直す。「マキさんはペイント弾で防御力を下げることが出来るはずでしたよね?」

 

「ん?あー多分?」遠くから爆発音が響く。「ついデバフの存在を忘れちゃうんだよね。だって撃ち始めるとだいたいすぐに倒せちゃうから!へへ!」

 

「そ、そうなんですね。」とオペレーターはため息をつく。「ゲームの知識を根拠に一か八か出るつもりなのでゲームのように上手くいくといいのですが…今はペイント弾はありますか?」

 

「もっちろん!あるに決まってるよ!」赤毛の少女は、派手に彩られた銃の弾種を交換して、機械の金属を狙うも、舌打ちをする。「あー!駄目だ!」

 

「えっ!?ですが撃てるのでは?」

 

「あそこだとペイントが目立たない!」グラフィティアーティストは唸るように言う。「もっと目立つ部位に撃たないと!」

 

「目立つ部位…?」ドローンのカメラは最も目立つ預言者の部位へと捉える。「もしかして…!」

 

「そう!」マキはボロボロの屋根に登りながら答え、スコープを覗く。「頭とかそういうの!一番上から塗り上げないとね!」

 

「どうして上から!?」

 

「アートだから!」

 

「それなら…」アヤネは胸を押し殺し、ドローンを戦場の禍中へと動かす。「皆さん!少しだけでいいですのでビナーを抑えてください!マキさんが頭を狙います!」

 

「へぇ~?」ホシノは片眉を上げて、撃ち続ける。「ちょっとそれはきついねアヤネちゃん。もう既に手一杯なんだよね。」

 

「いえ、出来ますよ。」とアカネは眼鏡を直してニヤリと微笑む。「少しだけ、ですよね?」

 

「少しだけでも大丈夫です!」一つ忘れていることがある、そう──アヤネは前線にいるコトリに駆け寄る。「コトリさん!箱を!」

 

「箱?あっ!あの箱ですね!」彼女は武器の上部にある数個のボタンを操作して、指差す。「どうぞ!」

 

ドスンと大きな音と共に白い箱が地面に叩きつけられて、アヤネは目をぱちくりさせた。「あの、これどこから出しましたか…?」

 

「ブラックボックスが全て解明されてしまったら、ブラックボックスとは言えませんよね!」

 

「自分で作ったんじゃないのですか!?」

 

「良い着眼点ですね!そもそも──」運がいいことに、エンジニアの長話は砂の流れ弾でぶった切られることとなった。「わっ!ぐえーっ!」

 

「まあまあ。仕組みが分からなくても使えるんだったらそれでいいよ。」ピンク髪のタンクは箱を開ければ、エネルギーのシールドが形成されていく。

 

「ふふふ、これからもエンジニア部とは協力していった方がいいかもしれませんね。任務でもあの箱が役に立ちそうです。」メイド服の少女はピストルをずらしながら言い、視線をドローンに向ける。「それに初対面とは思えないほど連携ができています。とても上手ですよ、アヤネさん。」

 

「そうですか?」とアヤネは後頭部を掻く。「ありがとうございます…?ブルーアーカイブの知識に頼っているだけですが…」

 

「成程、ではアヤネ女史とお呼びさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「かわいい一年をからかうのはほどほどにしておいてよ。」とホシノは欠伸をしながら言う。「アヤネちゃんはこの中だと一番頭が良いから、おだてすぎて固まっちゃうと困るでしょ。」

 

「二人共…」額に手を当てるアヤネ。「これ以上はやめてください…箱のおかげでずっと凌げるわけではありませんよ。」

 

「こちらの援護をしてくれると助かります!」口の中の砂に入った砂をようやく全て吐き出したコトリがそう叫びながらプロフェッサーKのボタンを押す。すると扇形の弾幕が形成され始める。普通であれば無駄撃ちになるだけだが、ビナーの巨体相手ではどこに撃とうとも命中しやすい。ただし問題点もあった。「今のプロフェッサーKは弾の消費がものすごく激しいモードなのでリロードで時間がかかります!」

 

「承知しました。」とアカネは一礼すれば、隣の三年生へ向く。「共に援護に向かいましょう。」

 

「はいはーい。」と三年生は目を細める。「んもー最近の若い子たちときたら…」

 

ぶつくさと不満を漏らしながらも、ホシノはメイドの後をついて、二人は大蛇の頭めがけて一直線に駆け出す。二人の胸囲に驚異の差があるように、戦法にも驚異の差があった。砂漠の猛暑など意に介さず、フリルがついたメイド服を着た少女は戦場を軽やかに駆け飛ぶ。優雅に跳び、ステップを踏んでいき、そして宙に舞ってくるりと身体を回した後、小さなピストルで礼儀正しくウィンクと共に一発撃ち込む。

 

まるで夏の時期に蚊を見るかのように、真紅の瞳がギロリと彼女を鋭く睨む。その弾丸でビナーが怯むことはなかったが、元からそれでよかった。アカネの小さなピストルは精密爆撃(プレジションストライク)の起点であり、頭部の近くで撃ったのは本命から注意を()()()()()。そのメイドがピストルをコッキングすれば、爆発音が周囲に響き渡った。

 

ビナーの全身が震え、周囲に仕掛けられていた爆弾が一斉に爆発する。金属が軋むような咆哮を上げ、爆風から逃れようと別の戦場へと這いずろうとするが、更なる爆発が阻んでいく。地面に潜るのも危険だ。道路には感知式の地雷が仕掛けられており、近づこうとするならばすぐに起爆するように設定されていた。

 

ただし、そこには代償というものがあった。

 

「あんなに使う必要はあったのかな!?」とウタハは安全地帯で伝説の雷ちゃんに守られながら、部隊に近付いたビナーが攻撃される瞬間を見守っていた。もっとも、ダメージが一番大きかったのはもう一人のサポーターであったが。

 

「うるさ…すぎ…ます…」繊細な聴覚を持つ少女は耳を塞ぎ、顔を歪ませていた。「あたまが…」

 

この状況で冷静に対応できたのはアビドスの生徒たちだけで、そのうちの一人は戦場から数キロメートル離れた場所でズルをしていた。アヤネは煙の中へドローンを突っ込ませていけば、ある考えが浮かび上がる。ビナーの動き…そう!「もしかしてマキさんの方へ──」

 

「しぃー」とアカネは指を唇に当て、微笑む。意図は明らかだった。次々と爆発されて発生する衝撃がマキの方へと誘導していた。メイドの少女は戦闘態勢に戻り、一歩踏み出すたびに爆発の跡を残して駆けていく。

 

当然、蚊に何度も刺されるのと同じように、生物であれ機械であれ、最終的には核兵器レベルの手段に訴えるのが自然の摂理である。ビナーの巨大な顎から蒸気が噴き上がり、あついよ~だった砂漠の暑さが命に関わる暑さへと一気に急上昇し、口内から眩しい光が漏れ始め、目の前に見えるありとあらゆるものを破壊すると分かりきったものであった。

 

に着地すると、少女に向かって軽くお辞儀をする。「後はお任せします、お嬢ちゃん。」

 

「褒めた程度でおじさんはデレないよ。」とホシノは答えながら、愛用のIron Horusを展開する。右手のショットガンは預言者の身体へまっすぐ突き付け、トリガーを引く。アカネのピストルは違い、機械仕掛けの身体に撃ち込まれた弾は確実に衝撃を与えていた。ヘイローがあっても、装甲には焦げ跡が残っていた。

 

瞬時にビナーは狙いを変えて、ネズミを一瞬で消し去るべく、ブレスを吐き出そうとしていた。しかしゲームとは違い、それはじっとしていない。むしろ地面が揺れていて、尻尾が潜ると同時に、彼女は唸り声を上げながらその衝撃を受け止め、横に転がりながら受け身を取る。もう一度吐き出されるまで数秒かかったが、今度は効果が薄かった。

 

対策委員会の委員長にはアカネほどの優雅さがない。そもそも優雅である必要がない。重い盾を背負っているのにもかかわらず、蛇の動きに難なくついている。鋭い突起を避けて、時折仲間に支えられながらも、再びショットガンで一発撃ち込む。

 

突如としてビナーの攻撃が止まり、今が好機と捉えたホシノは盾を構えて大蛇の瞳を真っ直ぐに見つめる。瞬間、視界は巨大なレーザーの光に包まれる。ほんの数秒間の出来事だったが、光が収まった時にはレーザーに当たったものはガラスのように溶けていた。

 

そしてただ一人、ホシノだけは普段と変わらぬ自信に満ちた笑みを浮かべたまま、その場に立ち尽くしていた。身体の周りには青い光がちらつき、やがて六角形のフラクタルのように消え去っていった。

 

ミレニアムの面々は口を開けたまま彼女を見つめた。

 

「あの盾、どのくらい固いんだろう…」とウタハは思わず疑問を呟くも、答えは返ってこなかった。

 

「マキさん!」とアヤネが叫ぶ。「今です!スタンしているうちに!」

 

「分かった!」グラフィティアーティストであるマキは我に返り、軽機関銃の照準を合わせると、ニヤリと笑った。「世界をもっと色鮮やかに!」

 

ペイント弾は砲弾のような勢いで飛び、ビナーに命中した。Endless Carnivalにリズムに合わせて、マキは預言者の滑らかな装甲を赤や青で色鮮やかに染め上げていく。まるで大きなキャンバスにアートを描くかのようだった。染められる度に、ビナーはよろめくが逃げ場がない。なぜならその一年生がすでに自分色に染め上げていたからだ。

 

「EXスキル名を言わなくても──」待った。「これEXスキルじゃないのですか!?」

 

「どっちもペイント系だから別にいいでしょ!」まるでお菓子屋の子供のように、赤髪の少女は無邪気に微笑んでいた。「組み合わせられると思ったんだよね!」

 

「効いてますね…」とコタマが小声で呟いた直後、ビープ音が聞こえた。彼女は無線機に手を伸ばし、声を発した。その声は小さかったが、他のメンバー全員にはっきりと届いた。「ビナーの分析が完了しました。マキさんが塗った箇所を狙ってください。恐らくあのデバフは塗った場所だけ適用されるはずです。」

 

「ならもーっと染め上げないと!」マキはそう答えると、再びペイント弾をリロードした。「弾切れになるまで撃ち続けるからガンガン撃って!」

 

同意を示す声が一斉に上がり、ビナーに再び総攻撃が襲い掛かってくる。明らかな有効打ということが一目瞭然で、預言者は激しく暴れ回り、足元の地面が揺れ動く。砂埃が立ち、戦場は砂煙と煙に包まれたが、染め上げられた装甲はマークとなっていた。そうして臨界点に達する。ヘイローを脈打たせ、更なるレーザーを発射しようとしている。

 

「うーん駄目だ。」とホシノは断言すれば、勢いよく前に進む。「流石に二回目は無理。」

 

華奢な少女はぴょんと小気味よく巨体に跳び乗り、ビナーは振り落とそうと試みるもホシノはしっかりとしがみつく。そして荒々しく駆け上がり、最上部へと到達する。足裏から伝わる預言者のエンジンの振動──蛇のように曲がりくねった機体の側面を全力で駆け上がったホシノはビナーの頭部にある突起に掴まり、頭部の側面から飛び降り、その突起を足場にした。

 

キヴォトス最強の神秘が、神の預言者の瞳を真っ直ぐに見据えた。

 

「こーんな辺鄙な砂漠で何してるのかはわからないけど…」ショットガンの銃口が、ビナーの切れた瞳孔にぴたりと押し当てられる。「アビドスにちょっかいだしたら二度と元に戻れないようにしてあげる。分かった?」

 

──ホシノはトリガーを引いた。

 

──スピーカーは断線した。

 

初めて、人工生命体としての存在として──ビナーは()()()()()()()()()。地面に倒れ込むと、その衝撃で砂の大波が発生し、他のメンバーを丸ごと飲み込んだ。彼女たちが立て直した時、目に映ったのは目を閉じて疲れたようにあくびをしながら、のんびりと歩いていくホシノの姿だけだった。「うへ~本当に疲れたぁ~…」

 

「お見事です。」アカネは服に砂を払い落としながら、軽くお辞儀をした。「噂に違わない実力でした。」

 

「ん?」とホシノは琥珀色の瞳を小さく覗かせた。「もしかしておじさんのこと耳にしたことがあるの?」

 

「C&Cは日々膨大な量の情報が集まっています。なのでホシノさんの話題の一つや二つ上がるのは当然のことです。何しろ──」

 

その時、エンジン音が彼女の言葉を遮った。全員が一斉に通りの方へ視線を向けると、車が猛スピードで道路を走ってくるのが見えた。狼が窓の外に身を伸ばし、アサルトライフルを構えて待ち構えていたが、ビナーの動かない姿を確認するや否や、明らかに落胆した様子で銃を下ろした。車は地面を滑るように進み、さらに砂埃を巻き上げながら、キイーッという音を立てて急停止した。

 

「…皆にはナイショだよ。」とホシノはため息をつく。「分かった?」

 

「勿論です。」

 

「ねえ!」セリカはレンタカーのドアを勢いよく開けながら叫んだ。「本当に勝ったのかしら!?」

 

「『勝った』はちょっと言い過ぎかな。」調査部隊と無事に合流した後、ウタハが答えた。「あんな大きな機械が銃弾一発で倒されるのは有り得ない。」

 

それに応えるかのように、蒸気の熱波が戦場一帯に吹き付けてきた。その勢いはスカートを揺らし、少女たちが顔を覆うほどだった。そしてゆっくりと、デカグラマトン第三の預言者が起き上がる。特に変わった様子を見せていなかったが、一つだけ違った──その瞳は闇しか広がらない虚無に染まっていた。再びチームの方を一瞥したものの、その心中は依然として謎のままだった。

 

アビドス生らは次の攻撃を警戒して銃を抜き構えた。

 

ミレニアムのメカニックは、その視線に微かな嘲笑を見出した。

 

しかし何よりも、ビナーはホシノに対して…不本意ながらも敬意を込めた視線を向けていた。それは死の神(シロコ)にとってはよく見知った表情だった。

 

シロコはグローブをはめた手でアサルトライフルのグリップを握りしめて、こう言った。「今度は…私が勝つ」

 

その口からは雑音のような音が響いた。まるで笑い声のようにも聞こえた。最後に軽く首を横に振ると、預言者は再び地中に潜り込み、黄金の砂の中に消えていった。ホシノはそこを見つめながら、顎をさすった。「今度かぁ…おじさん興奮しすぎて心臓がもたないや。」

 

「中学生に見えるけど。」とエイミが口を挟み、車を指差しながら言った。「じゃあ、早く帰ろう。」

 

今日はやけに長く感じたものの、アビドスへの帰路はあっという間だった。間もなくミレニアムの生徒たちは、別れの挨拶をしながらヘリコプターに乗り込んでいく。

 

「どうやらこちらの調査はまだ終わりそうにはありませんね。」とアカネはお辞儀をする。「ですので、アビドスの皆様はまたすぐにお会いすることになるかと思います。」

 

「さようならー!」とコトリは手を振る。「楽しかったです!」

 

部長であるウタハも、笑顔でうなずいた。

 

「廃墟だらけでサイコー!」マキは笑いながらそう言う。「あたしが綺麗にしないとね!」

 

思わずムッとするセリカ。「犯罪は禁止!」

 

「もう帰りたいです…」コタマは疲れたようにため息をついた。

 

「私も…」と同意するエイミ。「頭がフットーしそう…」

 

全員が凍りついたように彼女の方を振り向き、エイミは不思議そうに首を傾げた。「え?」

 

「今度は覆面水着団のクリスティーナが相手だお☆」

 

「そういう意味じゃなーい!」

 

「救援に行かないといけないんでしょ?早く行っちゃえばー?」ホシノは疲れたように手を振った。そう言うとミレニアムの生徒たちはシートベルトを締めて、やがて彼女たちを乗せたヘリは離陸した。夕日の中に消えていく様は、まるで砂漠の蜃気楼のようだった。「いやーまさかミレニアムの子と友達になる日が来るなんてね~」

 

「ですね。」とアヤネも疲れたようにうなずいた。「慌ただしい一日でした…ん?」

 

まるで合図があったかのように、全員のスマートフォンが同時に鳴り始めた。対策委員会は顔を見合わせた後、通知を確認する。

 

それは想像以上に非現実的なものだった。

 

「噓でしょ!?」

 




[訳者あとがき]
次回は12日に投稿します
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