転生系卑屈ぼっちは今日も行く   作:納豆巻

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閑話2(彼が忘れた一幕)

【同居人が見た“器”の横顔】

 千人斬りに魅入られた子供は、奇妙な奴だった。

 あれだけの力を持ちながら、まるで自分には価値がないとでも言うように、俯きがちだった。

 だが、今思えば、あの卑屈さこそが異常の証だったのかもしれない。

 

 そもそも、あの剣はただの呪われた剣ではない。魂を喰らい、転生を繰り返すことで己を変化させ続ける、生きた武具だ。

 かつて、いつの間にかそこにあった入り口。

 力を求める誰かが、引き寄せられた。

 そして、このダンジョンこそが、奴の揺り籠であり、鍛冶場そのもの。担い手は狂気に呑まれ、力を求めた果てにダンジョンを目指す。そして、その奥で担い手の魂と命を糧に、奴は生まれ変わる。

 

 “千人斬り”は、そうして幾度となく転生を繰り返した果てに生まれた、一つの到達点だった。

 

 男の一族は、代々この仕組みを研究し、やがて封印することに成功する。

 だが、先代がしくじった。力を求める高位貴族に唆され、封印されていた剣は持ち出され、多くの血を吸った。王都を巻き込む大事件となり、先代辺境伯の尽力で何とか再封印にこぎつけたが、責任を問われた一族は没落した。

 それでも、辺境伯の一族は人知れず男を匿い、援助の手も差し伸べてくれた。

 

 ――千人斬りの、あの忌まわしき魔剣の因果を断ち切りたい。

 

 そして、かつて投げかけられたその言葉に、男と、そして今は亡き父は賛同したのだ。

 だから、新たな担い手の監視を任され、その時が訪れたのだと男は感じた。

 男の住まいへ連れられてきた対象の監視を続けていた。

 対象は、不自然なまでに理性的だった。

 地下の隠し部屋――研究室に用意した拘束用の道具が日の目を見ることもなかった。

 

 千人斬りが、なぜ再び封印を破ったのか。

 おそらくこうだ。アレは、更なる転生に行き詰まっていた。

 しかし見つけてしまったのだ。停滞を打ち破るに足る、糧を。

 

 観察を続ける中で確信した。

 魔剣なんて無くとも、この少年は化け物じみた才覚を持っている。

 そして、あの少年の魂の在り方は異常だった。千人斬りは、間違いなくその魂に根付いている。それなのに、平然としている矛盾。

 一つの器に二つの魂を宿しているような異質さ。千人斬りは、こいつを丸ごと喰らって至高の存在へ至るため、再び世に現れたのだ。

 

 だから、男は少年を引き連れてここに来た。

 ダンジョンは、待ちきれぬとばかりにうごめいているのを感じられた。

 過去に単身、マッピングのために訪れた時とは段違いに、起伏が、うねりが少ない。

 結果的に、予定より早く奥までたどり着いた。

 行き止まりの空間。天井の高い、広間。

 その中で、ダンジョンのどこか生物的な内観と不似合いな、石を高く積み上げられた階段状の構造物。

 その頂点にあるのは、薄闇を濃く塗りつぶすような黒い球体のような何か。

 

 男は息を呑んだ。

 おぞましい何かが引き込まれそうな錯覚を覚えた。

 あそこがきっと終着点だ。

 少年の精神が完全に喰われる前に、奴がこの場所で転生する瞬間を狙う。

 そして、一族の研究の全てを注ぎ込んだ儀式で転生を妨害する。それが、男に課せられた役目のはずだった。

 

 ――そして、結論を言えば、それは失敗したはずだった。

 

 

【彼が忘れた一幕】

 気づけば、俺は荒野に立っていた。

 赤錆びた大地がどこまでも続き、空には紫色の雲が渦を巻いている。ここはどこだ。俺は、同居人と一緒に、ダンジョンにいたはずじゃ……。

 

「ねえ」

 

 不意に、背後から声をかけられた。

 振り返ると、そこに少年が立っていた。俺とそう変わらない背格好。銀に瞬く髪と、片方が青く、もう片方が赤い不思議な瞳。

 なぜだろう。初めて見るはずなのに、どこか懐かしい気がした。

 

「行かなくちゃいけない場所があるんだ。この先にある祭壇に」

 

 少年は、少し申し訳なさそうに言った。

 

「お願い。途中まででいいから、一緒に行ってくれないかな?」

 

 断る理由は、思いつかなかった。俺たちは並んで、何もない荒野を歩き始めた。

 

「ねえ、君はどうして、自分のことをそんなに悪く言うの?」

 

 唐突に、少年が澄んだ声で尋ねてきた。

 

「……事実だからだ。前世でもパッとしなかったし、今世でもこのザマだ。母親には疎まれ、貴族の家に引き取られても、結局は厄介者扱い」

 

 自嘲気味に言うと、少年は悲しそうに首を横に振った。

 

「そんなことないよ。お母さんはね、心配してたんだよ」

 

「……なんで、君がそんなことを」

 

「おじさんも、教えてくれたお姉さんも、君がすごすぎて、びっくりしてたんだよ。弟子の子もね、君が大好きで一生懸命なんだ。もっと構ってあげてよ」

 

 少年の言葉は、俺の知らない『本当』を優しく紡いでいく。まるで、ずっと隣で俺の心の中を覗いていたかのように。

 

「……君は、一体、誰なんだ?」

 

 俺の問いに、少年は答えなかった。ただ、前方を指さす。

 地平線の先に、巨大な何かが見えた。石をうずたかく積み上げた、歪な祭壇。その頂には、黒く、ぽっかりと空間が口を開けていた。まるで、夜そのものを切り取ったような、絶対的な虚無の孔。

 

「僕が行くのは、あそこ」

 

 少年は、寂しそうに笑った。

 祭壇にたどり着いた瞬間、その黒い孔が脈動し、凄まじい引力で周囲の空気を吸い込み始めた。そして、その引力は、俺の隣にいる少年を捉えた。

 少年の体が、ふわりと宙に浮く。

 

「おいっ!」

 

 俺は咄嗟にその腕を掴もうとした。その指先が、少年の銀髪に触れた瞬間――すべてを、理解した。

 脳裏に、この世界に生まれ落ちた時の記憶が、閃光のように蘇る。

 

『正しき心を持つ者よ。貴方こそ、その美しき器にふさわしい』

 

 誰かの声を、思い出した。

 誰の声かを今、気づくに至った。

 

『受け取りなさい、受け入れなさい、運命を』

 

 それは精霊達の声なき思惟。俺の感性が、言葉のように汲み上げた祝福の囁き。

 精霊たちはいずこからかやってきた俺の魂を愛し、この世界で生きていくために、最もふさわしい、最も美しい器を与えてくれたのだ。

 たまたま拾い上げた宝石にふさわしいショーケース。

 それが――目の前にいる、この少年の肉体だった。

 

 千人斬りが求めていたのは、その純粋で強靭な魂だったんだ。

 

「ダメだっ! 行くな!」

 

 孔に吸い寄せられていく少年の腕を、俺は必死で掴んだ。

 

「生贄になるなら、俺の方だろ! この体は、元々君のものだったんだ! 俺が、君から奪ったんだ!」

 

 そうだ。俺は侵略者で、異物だった。彼の人生を、体を、才能を、知らず知らずのうちに奪い続けてきた。

 その彼が、更なる理不尽に飲み込まれていく。そんなこと、あっていいはずがない。

 

『でも、一緒にいてくれて、楽しかったよ』

 

 その瞬間、俺たちの体に、凄まじい亀裂が走った。

 世界が、真っ二つに裂けるような、絶叫と喪失感。

 意識が、遠のいていく――。

 

「――おい、起きろ! しっかりしろ!」

 

 体を揺さぶられ、俺はうっすらと目を開けた。

 薄暗い洞窟。松明の光が、同居人の険しい顔を照らしている。

 ……そうだ、俺はダンジョンの奥に。

 

「……記憶は?」

 

 記憶?

 どこからだ?

 途切れ途切れで、よく思い出せない。

 

「自分の名前は言えるか?」

 

「……ああ」

 

 俺は、今世で与えられた名前を口にした。

 その時、ふと、脳裏をよぎる。

 

 ――俺は、どっちなんだ?

 

 だが、その疑問が何を意味するのか、俺自身にも分からなかった。

 何か、とても大切なことを忘れてしまったような、胸にぽっかりと穴が開いたような感覚。それさえも、すぐに薄れていく。

 

『ありがとう』

 

 万感のこもった一言が、なぜだか胸の内から湧いてきた。

 傍らには、一振りのナイフが転がっていた。黒檀の柄に、鈍く光る短い刃。あの刀とは似ても似つかない、ただの粗末なナイフだ。

 

 俺は、そのナイフをぼんやりと見つめていた。

 

***

 

 ――――。

 転生は、成功のはずだった。

 しかし取り込めたのは、不完全な魂の欠片が二つ。

 担い手の肉体にも、同様に欠けた二つの魂が残存している。

 不可解な事象、最適化の終了までにかかる時間は――。

 

続くかもわからん




 ストックが尽きました。
 これ以降、更新速度が落ちること、ご了承願います。
 胸郭出口症候群による慢性的な手指の重だるさにより、執筆のモチベが上がりにくい現状。
 底辺WEB作家なのでちっぽけなプライドは捨て、これからはAIとかも躊躇なく使っていこうと思います。
 実は閑話1,2でそれぞれ使っておりました。
 雑なプロットから生成した本文を加筆修正しています。
 AIの使用へ忌避感のある方には、ご不快にさせてしまったこと謝罪申し上げます。
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