転生系卑屈ぼっちは今日も行く   作:納豆巻

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5話

 少し森を抜けた開けた一角、俺がそこへ近づいた瞬間だ。

 唐突にズドンと音を立てて、そいつは降ってきた。

 だからどうせ降ってくるならヒロインを――以下略。

 向こうの、少し高い崖から飛び降りてきたんだろうなぁ。 

 

 ――グオォォォ……!

 

 地の底から響くかの如く、暴風を思わせる唸り声が響いた。

 なんて言うのは、俺がびびっている補正もあるのだろう。

 魔物という存在には、未だ腰が引けるし。

 唸り声の主は、目の前の大きなトカゲ。

 焦げ茶色の鱗に覆われた、四つ足の細長い体型。

 カエルのように出っ張った目がギョロギョロと。

 そいつが間近に寄ってきたら、その大きさには面食らう。

 鋭い眼は重心を低く構えてもなお、俺の倍くらい高い位置でこちらを見下ろす。

 俺を一呑みに出来そうな大口には、牙が人とは違った三重のラインを築く。

 口の奥に飛び込んで内側から、とか考えたら牙の奥に並ぶ牙で容赦なく引き裂かれるね。

 いやぁ、なんか面倒そうなのに出くわしたなぁ。

 兎を狩りに来たんだけど。

 人里の近くでもこんなん出るんだー。

 呆ける俺へ向かってトカゲが歩み寄ってくる。

 静かで、ゆったりとした動作。

 俺如きがどう足掻こうと逃がすわけもない。

 爬虫類の分際で、そんな賢しらな余裕かましてるようにも見えた。

 まあ、錯覚だろう。

 暦の上で春が訪れたけれど、まだ少し寒いから動作が鈍いんだな。

 変温動物っぽいし。

 ヤレヤレ、面倒なのは御免だってのによう。

 嘆息して肩をすくめた。

 

 ――スパン、ってな具合に。

 

 飛びかかり間合いを詰めつつ、腰の刀を抜きざま横薙ぎの一閃。

 何となく習得した、居合抜き。

 居合は不意打ちに対応する技術で、実戦では使えない云々かんぬんとツッコミは聞きとうない。

 何となく格好いいから、自己流で磨いてみただけだ。

 見る人が見れば、俺の技なんて失笑物なんだろうなぁ。

 トカゲはこれでも効いてるようだけど。

 目のある辺りとか狙って、顔の一部をそぎ落とすように斬った。

 トカゲはひるんでいる。

 再生だとかする気配は無い。

 血がドピュードピュー吹き出てて、近づきたくない。

 後ろに回り込んで、背中の辺りとか数回刺してみた。

 刺す都度、その体が少し跳ねるように震えたが、反撃の様子は無い。

 暴れる事も無く、痙攣も止んだ。

 呆気ない。

 苦労とか、緊迫もありゃしない。

 冒険者を嘗めるんじゃねぇとか、ベテランに説教されるフラグ立ったねコレ。

 このトカゲは大した魔物じゃ無かったようだけど。

 さすがに身の丈より大きいのは初めてだ。

 肉を持って帰るのが面倒くさい。

 こいつの鱗って売れるのか?

 でも大物なドラゴンってワケじゃあるまいし、大した額にもならんかな。

 ……別に置き去りで良いかなぁ。

 臨時収入が入っても、どうせ同居人の酒代に消えるし。

 俺の将来の為とか嘘こいて、アンタはお年玉をボッシュートする親かっての。

 勝てたのは刀の切れ味良いからだし。

 どうせ俺自身の力じゃ無いんだ、とか気取ってみるお年頃。

 肉体は小学校低学年が良いところだけど。

 まぁ、こうなるに至った経緯もぉ、このクソ刀のせいだしぃ、これくらい役に立ってもらわないと困るんですけどねぇ!

 睨め付けても、手元の刀は何も返答しない。

 幻聴は聞こえない。

 それが普通だが。

 ……それから俺は兎を数匹仕留め、帰る事にした。

 冒険者協会で肉と皮を引き取ってもらうのは当然忘れない。

 

 そう、俺は現在幼くして冒険者となり、日々闘っているのだ!

 まさに異世界転生の醍醐味!

 素晴らしい日々!

 ――んなわけない!

 

 

 ……俺が拾った刀は、千人斬りの異名を持つ呪われたアイテムらしい。

 戦場で千人くらい斬っても刃こぼれしなかったとか。

 刀が良く切れるのは、砂鉄で出来ているせいか表面が見えないレベルでデコボコしていて、それが良い感じの摩擦になるからとか聞いた覚えがある。

 名刀であっても二、三人切れば血や脂がべっとり着いてナマクラ同然と化すのが刀というものでは?

あれ、それはデマなんだっけか?

 まあ、古い伝承が誇張されるのは仕方ないことだな。

 やーでも、集団戦が発達しつつある昨今、刃こぼれしない刀一本の何が怖いんで?

 

「遅かったようだね。既に契約は成っている」

 

 俺の住む離れに大人達と移り、ご子息達は家へと怒鳴り声で追い立てられた。

 大人達は俺を睨み、その中の魔女っぽい婆さんは重々しく告げる。

 辺境伯やゴリさんがその言葉に渋面を作ってうめきを漏らす。

 契約って何ですか。

 俺はそんなもん同意した覚えがないのだけれど。

 

「その子が触れてしまったときに、契約が発動したようだ。宿主を求める魔剣の望みを叶えたのさ」

 

 俺の意思を無視とか一方的すぎない?

 書面で出せよ。

 

「今は不思議と落ち着いているようだがね。一度本格的に浸食が始まれば、どうなるか分からない」

 

 ……本気でヤバイのでしょうか?

 大人達の緊迫した雰囲気で、今更不安が込み上げてきた。

 あの、どうにかなりませんか、お婆さん?

 

「アタシが来たそばから封印が解けるだなんて、不幸中の幸いだと言えば良いのか……」

 

 コイツ死んだな、みたいな諦念を窺わせる目で見ないでください。

 イヤ、マジで不安になる。

 そして少しの間、シンと静まりかえる。

 

「――どうにか、なりませんか?」

 

 重たい静寂を破ったのは、ゴリさんだった。

 

「どう見ても、この御方の様子は十二年前の時とは違う」

 

 まだ、どうにかする余地があるのではないか――?

 俺の背後に立ったゴリさんが、俺の肩に手を置きつつ言う。

 不安のまま、定まらない視線がお婆さんと辺境伯を行き来する。

 

「暴走した千人斬りの恐ろしさを知って、それでも言うのかい?」

 

「であれば、その時は私が命に代えても止めて見せましょう」

 

 なんだか分からないけど、ゴリさん素敵!

 その調子ですよー。

 

「馬鹿を言うでないよ。……様子を見るならば、任せられるのはアイツくらいのもんだね」

 

 どいつ?

 

 ――とまあ、ここに連れてこられるまでの経緯を思い出しつつ歩く。

 中身の詰まった麻の買い物袋を抱えながら、早足で。

 周辺の少し荒んだ雰囲気に慣れず、体が自然と家へと急かすようになった。

 歩く道すがら建て並ぶ、一見して見窄らしい家の数々は、以前住んでいた村を思い出させた。

 少し遠くの町並みは小綺麗なのに。

 ある家に入れば、閑散とした一間の隅っこに一つだけある粗末な木製寝具。

 手足をはみ出させて、昼間から横になっている中年の大男。

 そいつは身を起こし、開口一番に低いドスの利いた声で告げた。

 

「飯と酒、さっさと用意しな」

 

 男のほほには傷があり、くすんだ金髪に無精ひげ。

 いかにも堅気じゃ無さそうな雰囲気。

 職業冒険者の、同居人だ。

 俺は搾取されるだけだが。

 そしてここは辺境伯の屋敷から大分離れた、領地の外れ。

 その中でも治安の宜しくない一角に、俺は住んでいる。

 

 ……お屋敷に、戻りたいです。

 

 

 続くかもわからん

 

 

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