転生系卑屈ぼっちは今日も行く   作:納豆巻

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9話

 ダンジョンの最深部まで行けば、帰りはワープゾーンがあった。

 結局、ダンジョン内にいたのは七日足らず。

 それでも、久しぶりの太陽は尊かった。

 脱出直後の朝焼けは、焼かれ死ぬ吸血鬼ってこんな気分だろうかと思うくらい、眩しくてキツかったけれども。

 数日経った今は晴天の下、気持ちも晴れやかだ。

 気分が軽い。

 疲れが抜けてないからなのか、妙に体は重いけど。

 それでも、こんなに気分が軽いのは久々だ。

 忌々しい刀が無くなった。

 あれは人生の重荷だった。

 最高の気分だよ。

 ことあるごとに干渉してくる、俺にしか聞こえないダークな声が耳障りだった。

 普段から無視するのに必死だった。

 ……まあ、アレもよくやってくれた。

 今にしてみれば、そういうことにしておいてやっても良い。

 仕方ないんだ。

 なんか、いつの間にか無くなってたし。

 そして俺は、代わりに手に入れた。

 安らかな日々と、ちっぽけなナイフ。

 ダンジョン踏破の記念品。

 なんか切れ味は、いまいちだけど。

 良いのさ、記念品だ。

 ――さて、弟子は元気にしているかな。

 久々に、弟子と訓練する森に向かった。

 

「はーなーしーてー!」

 

「いいじゃないの、減るもんじゃ無いし」

 

 弟子は見知らぬ女の子に背後から抱きしめられ、うんざりした顔をしていた。

 弟子より少し背の高い、赤く燃えるような長髪の少女。

 女子達のキャッキャウフフ。

 心が反復横跳びするような光景だ。

 微笑ましいとも言える。

 ゆるふわ日常系な雰囲気。

 

「先生ー!」

 

 ――と、そこで俺に気付いた弟子が助けを求める

 どうすれば良いのだろう?

 あるいは、ココで手を出すのは無粋ではなかろうか?

 ほら、実は仲良しだったり、弟子がツンデレだったりするかもじゃん?

 

「……なに?」

 

 ようやくそこで俺に視線を向けた赤毛。

 服装こそ質素なワンピースだったが、その瞳は精霊に愛された者特有の輝きを帯びていた。

 蒼い輝き。

 もしかすると、貴族関係者だろうか。

 俺がいない間、何があったんだ?

 

 

 

「この子はあたしと遊ぶの!」

 

「やーだー!」

 

 弟子もまんざらでは無いような気がしてきた。

 とは言え、一応嫌がっているような弟子をそのままにはしておけない。

 赤毛が権力者だったら、俺は男らしく、潔く権力に屈するのだが。

 そこんとこ、どうなんでしょう?

 

「私は先生の子分だし、先生はお前なんかよりずっとスゴイの!」

 

「なによ、こんな奴」

 

 ……それから聞いた話を要約すると、最近越してきたこの子は、近所の子となじめず遊び相手を探していたらしい。

 と、そこで魔術による身体強化込みでトレーニングする俺らを見かけていたらしい。

 俺がいない間に、弟子を取り込もうと目論んだわけだ。

 弟子は可愛いから良いけど、俺は要らんそうだ。

 ――この辺の男の子だって、がさつで野蛮なくせ、皆あたしより弱いんだから、あんただって大したことないに決まってるわ。

 胸を張っていても、ふてくされた様子だ。

 周囲になじめないのは、血統の差だろう。

 俺と大して年の変わらないような少女だが、同年代の子供からすれば手のつけられない相手だ。

 つーか、一見して分かるこの魔力は、相当な大貴族ではなかろうか。

 身分に関しては、どうも聞いても濁される。

 もしかすれば、お家騒動から逃れてきた名家のご落胤とも考えられる。

 シャットアウトしたいんだけど。

 

「なによ、なんなのよ……!」

 

 俺の態度を嗅ぎ取ったのか、赤毛は泣きそうな顔になった。

 

「……私が、一番の子分だからね!」

 

 そっちは、2番目だから――。

 弟子が折れた。

 

「あんたの子分になんて、なった覚えないからね!」

 

 この子と遊んであげるだけだから――。

 赤毛は俺を睨め付けて、それからきびすを返して去って行った。

 そんなに弟子が気になるか。

 赤らんだ顔とモジモジした視線は、まるで俺を意識しているようでもあった。

 まあ、そんな勘違いはしないけどな。

 

「あいつ、先生の子分になりたいのに、嘘ついてる」

 

 弟子の目はけっこう節穴だということは知っていた。

 そして、久々の訓練を再開した。

 ……何というか、半月くらい見ない間に、弟子がまたちょっと強くなったというか。

 久々でついて行けないというか。

 前は、焦りつつも少しだけ余裕が残っていたのだなぁと今更ながらに認識したというか。

 誰だよ、マゾ開眼しても良いとか抜かした馬鹿。

 マジでくたばれよ。

 そうだよ俺だよバーカくたばれ。

 ――とまあ、ちょっと洒落にならないキツさだった。

 

 

「……ちょいと、その子のことは気に掛けてやってくれ」

 

 最近変わった事は無いか。

 夕食の最中、同居人に珍しく話しかけられたので、赤毛の子を話題に出した。

 そしたら先のお言葉だ。

 どうやら赤毛の境遇を知ってるらしく、貴族と平民の能力差から問題が生じるのを懸念していたらしい。

 

「お前なら、あの娘の気持ちを分かってやれるだろうしな」

 

 察した。

 隠し子とかそんなアレか。

 どうして今更この辺りに越してきたのかは、知らないが。

 気になるけど、後が怖いので突っ込まないが。

 

「……善処します」

 

 他人の事を理解するとか、無理に決まってるけど。

 ましてや女子の気持ちなど。

 流されるままに生きるコミュ障に何を期待してるのやら。

 口に出さないよう、内心でブー垂れた。

 その後はまた、シンと静まる空気。

 話すことも思い付かなかったので。

 一回、弟子が剣の天才かも知れないから、真面目に指導者探した方がいいかも的な事を言ったら、スルーされたし。

 聞き流されるの分かって、話しかけるの面倒くさい。

 同居人の人相に、未だビビってるワケではない。

 

「そういや、お前が言っていた子供だがな」

 

 そこで、思い出したかのように同居人。

 もしかしたら、先生が見つかるかもしれないぞ――、と。

 俺が弟子から解放される日も、近そうだ。

 仕方ないよね。

 そろそろ本気で、俺の手に負えそうにないし。

 

「それはそれとして、だ」

 

 同居人は更に続けた。

 

「お前がここにいられるのは多分、後二月くらいだと思う」

 

 別れの準備をしておきなさい。

 そう言われた。

 珍しい、憂いを帯びたような表情で。

 ……もしや、お屋敷に戻れるのでは!?

 そうはしゃいでいられたのは、僅かに数日のことだった。

 もしかしたら、別れが近いのに、不謹慎にもはしゃいだ罰だったのかも知れない。

 

 

 ――手作りの木刀は宙を舞った。

 ここ数日、ずっと体が重かった。

 思うように動かない。

 もっと俺の体は軽やかに動くはずだったのでは……。

 木刀がそこで地べたに落ちた。

 今日、弟子に初めて敗北した。

 その事実は、思ったよりも強い衝撃を俺にもたらした。

 

「先生、どうしたの?」

 

 弟子は、不安げに問いかけてくる。

 今の俺は、随分と景気の悪い顔になったらしい。

 特に気分が悪いとか、体の何処かが痛いとか、そういうことは無い。

 ただ、もう少し俺は出来る筈なんじゃないか?

 そう思った。

 もしかしたら、そう思ったのは単なる思い上がりだったんじゃないのか?

 拭えない焦燥感。

 

 そうして俺は初めて、別れに備えなくてはならないと、強く実感した。

 

 つづくかもわからん

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