怪縁奇宴   作:なのさま

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現代人は仕事という名の怪異に憑りつかれています。
お札(退職届)を用意して、対策しましょう。


1話 怪異は友達

 私は物心つく前から、人に見えないものが見えていた。

 白い煙の塊。

 尻尾が二つに分かれた猫。

 異様に背の高い、白い服の女性。

 

 世間では、そういうものを怪異と呼ぶらしい。

 私は怪異たちに囲まれて育って、それが当たり前だと思っていた。

 朝起きれば天井の隅に誰かがいて、庭に出れば知らない狐が昼寝をしている。

 夜になれば、押し入れの中から小さな手が伸びてきて、布団をぽんぽん叩いてくれる。

 

 怖いと思ったことはない。

 むしろ怖かったのは、人間の方だった。

 

 怪異が見えると口にした途端、周りの人たちは私を気味悪がった。

 友達は距離を取り、先生は困った顔をして、近所の人は私を見るたび声を潜めた。

 実の親でさえ、最後には私をいないもののように扱った。

 

 それでも、寂しくはなかった。

 怪異たちが優しかったからだ。

 

 私が転びそうになれば、長い腕が支えてくれた。

 夏の夜は、雪女が涼しい風を送ってくれた。

 冬の朝は、動物の怪異たちが布団の周りに集まって、私をぬくぬくの毛玉にしてくれた。

 

 どうして私に優しくしてくれるのか。

 そう尋ねると、彼らは決まって同じように答えた。

 

『何故か、傍にいると心地が良いから』

 

 理由としては曖昧だけど、私にはそれで十分だった。

 

 私は彼らと過ごす時間が好きだ。

 私にとって怪異は()()で、()()同然の存在になっていった。

 

 だから私は、彼らと穏やかに暮らせたら、それだけで幸せだ。

 

 ◆

 

「最近、K県のS村というところに怪異が集まっているらしい」

 

 急に所長室へ呼び出されたと思えば、開口一番がそれだった。

 

 任務中にまたナンパしてたのがバレたかと思ったわ。

 この後は「調査のために出張しろ」って言われるんやろーな。

 めんどくせ。

 

「南場。

 お前には現地に向かい、怪異が集まっている原因を調査してもらう。

 可能であれば排除もだ」

 

「えぇ……いつからですか?」

 

 嫌そうな態度に、所長の目尻がすっと鋭くなった。

 

「今すぐ、だ。

 放っておけば、さらに集まって手が付けられなくなる可能性がある。

 そうなる前に対処しろ」

 

 今日は合コンがあんねんけど。

 しかも人生初の合コンやねんけど。

 

「明日からでも──」

 

「Now、だ」

 

「……ですよねー!」

 

 こういうとこが、社会人のつらいとこやで。

 

「はぁ……りょーかいです!

 ちゃちゃっと行って、パパッと解決したりますわ!」

 

「期待している。

 あと、現地で女性を口説くのもほどほどにしておけ」

 

 バレとったんかい!

 

 苦い顔で部屋を出ると、書類を持った小柄な女の子が歩いて来た。

 肩口で切り揃えた茶髪が、歩くたびにふわりと揺れる。

 黒い制服には汚れどころか皺一つない。

 今年の新人の中で、一番可愛いと俺の中で評判の子や。

 

「お! 小鳥遊ちゃんやん!」

 

「南場さん、お疲れ様です」

 

 声まで清楚とは、御見それしました。

 

「所長に呼び出されてたみたいですけど……何かやらかしたんですか?」

 

「ちゃうちゃう! 仕事押し付けられただけやがな!

 何や、俺そんな信用ない……?」

 

「い、いえ、そういうわけではないんですが……」

 

 ばつの悪そうな顔しおってからに。

 でも、可愛いからヨシ!!

 

「こりゃ俺のことをちゃんと知ってもらうためにも、一回飯でも行かんとあかんなー。

 来週とかどない? 俺はいつでも空いてんで?」

 

「あはは……」

 

 困った小鳥遊ちゃんも可愛い、ヨシ!

 

「まあ無理に、とは──」

 

 言いかけた瞬間、廊下の向こうから誰かが全力で走って来た。

 

「なぁあんばあああ!!」

 

 女は迷いなく俺の間合いへ踏み込み、的確に右フックを叩き込んできた。

 

「ゴガッ──な、何すんねん、柊!」

 

「お前、また後輩相手にナンパしてただろ!!」

 

 腕を組んで睨みつけてくる柊のポニーテールが、怒りでぶるぶる震えている。

 

「小鳥遊さん、早く行って!

 こいつはあたしが押さえておくから!」

 

「俺はボス敵か何かかいな!?」

 

「女の敵ではあるだろ……!」

 

 俺たちを尻目に、小鳥遊ちゃんはぺこりと頭を下げ、そそくさと所長室へ入っていった。

 

 デートの返事、まだ聞いてへんねんけど……。

 

「柊ぃ、ほんま毎度毎度、邪魔してくれよんなあ」

 

「大して成功しないんだから、時間の無駄でしょ?」

 

 鼻で笑われた。腹立つけど、否定しきれんのがまた腹立つ。

 

「ちょ、ちょっとは成功しとるがな……!」

 

 百人に声をかけて三人くらいか。

 

「その『ちょっと』も、やばい奴しか引っかからないじゃない。

 それで何度あたしが尻拭いさせられたと思ってるの?」

 

 引っかけた女が超絶メンヘラで目の前で自殺未遂を始めたり、カルト宗教に嵌っていて悪魔召喚の贄にされかけたり、結婚詐欺師で全財産を持っていかれそうになったり。

 その度に柊に助けられたから、過去の話を持ち出されると頭が上がらへん。

 

「そ、その節はどうも……」

 

「いい加減学習したら?

 あんたに引っかかる女はろくでもないって」

 

 ぐ、ぐうの音も出えへん。

 けどな、突っ立ってるだけで女の方からホイホイ来てくれるわけない。せやからこっちから行かなあかんねん!

 ……て言ってやりたいが、百倍になって返ってきそうやからやめとこ。

 

「ていうか、早く出なくていいの?

 今日中に現地入りするなら、早めに出ないと田舎のあぜ道を延々と歩く羽目になるわよ」

 

「っと、ほんまやな。

 怪異共もどうせなら都会に集まってくれりゃ楽やったのに」

 

 俺が愚痴をこぼすと、柊の表情がすっと変わった。

 

「今回の件、土地的には怪異が集まるような場所じゃない。

 何か異常事態が起きていると思った方がいいわ」

 

「異常事態ねぇ」

 

「それと、()()をばらまいている奴がいるって噂もある。

 もしかしたら、何か関係があるかもしれない。

 気を付けて」

 

「俺を誰やと思ってんねん。

 最年少で()()に上がった天才やで。

 大船に乗ったつもりでまかせとけ!」

 

 心配そうな柊に、俺は自信満々に笑ってみせた。

 

「……そうね。

 あんたなら大丈夫、よね」

 

「おう! ほな、行ってくるわ」

 

 そう言って、俺は駆け出した。

 妙に真剣な柊の表情だけが、しばらく頭から離れなかった。

 

 ◆

 

 スーパーで買い物を終えた私は、砂利道を自転車で走っていた。

 周囲はすっかり暗く、自転車のライトだけが細い道を照らしている。

 

 電灯もほとんど立っていない田舎の夜は、都会よりも星がよく見えるから好きだ。

 それに人が少ないのもいい。人と喋るのは疲れるし。

 

 ただスーパーが遠いのはやっぱり不便だった。

 自転車でも片道三十分はかかる。

 買い忘れに気付いた瞬間、人生をやり直したくなる距離だ。

 

 早く帰りたくて、ペダルを踏む足に少し力を込める。

 その途端、冷たい風が首元を撫でて、私は肩を震わせた。

 

 春先とはいえ、夜はまだ少し寒い。

 冬の忘れ物みたいな空気だ。

 ふいに、背後から白い腕が伸びてきた。

 とても()()()が、私の体をふわりと抱きしめる。

 

「寒い?」

 

 耳元で、大人の女性の声が囁いた。

 

「ちょっとね。ありがと」

 

 ()()の体温が伝わってくる。

 優しさと柔らかな膨らみも添えて。

 

「今日は炒飯?」

 

「うん。エビ炒飯と卵スープにしようと思ってるよ。

 ()()()()()も食べるでしょ?」

 

「もちろん! ()()の料理はどれも美味しくて好き♡」

 

「でも、あんまり食べるともっと大きくなっちゃうかもよ?」

 

「これ以上大きくなったら、屋根から頭が出ちゃうかも!」

 

 その光景を想像して、つい噴き出してしまった。

 

「な、何尺ちゃんになるのかな?」

 

「だいたい四倍くらいは必要でしょ?

 三十二尺?」

 

「そこまで行ったら、スカイツリー越えを目指そうよ」

 

「えー、観光名所になっちゃうよー」

 

 キャッキャッと笑いながら話していると、少し先から人が歩いてきた。

 暗くて誰か分からないけど、一応通り過ぎるときに挨拶はしておこう。

 田舎はすれ違い様に挨拶しないと、すーぐ村八分にされちゃうから。

 偏見だけど。

 

 近づいていくと、相手は見たことのない若い男性だった。

 

「こ、コンバンハ」

 

 取り敢えず挨拶はした。

 

 この村に引っ越して数カ月。

 私以外は老人しかいないと聞いていたけど、この人も最近引っ越して来たのかな。

 

「こんばんは」

 

 男性は普通に挨拶を返してくれた。

 けど暗い道、知らない男の人。

 失礼かもしれないけど、やっぱりちょっと怖い。

 ペダルを踏む足に力を込めようとした、その時だった。

 

「キャッ!?」

 

「え?」

 

 急に八尺ちゃんが悲鳴を上げて、私から腕が離れていった。

 驚いて振り向くと、彼女が地面に投げ出されていた。

 そして、さっきの男性が、いつの間にか()を握っている。

 

 普通の刃物で八尺ちゃんは傷つかない。

 でも、その刀からは()()な気配がして、何かまずいと私の直感(たましい)が叫んだ。

 

 私は咄嗟に自転車を降り、買い物カバンを掴んで駆け出した。

 背後でガシャン、と自転車が倒れる音がする。

 刀を振りかぶる男性めがけて、私は思いっ切りカバンを叩きつけた。

 

 ◆ 

 

「まさか、バスの最終便が十八時とは。

 恐れ入ったわ……」

 

 あぜ道を歩き続けること、およそ一時間。

 ようやく村唯一の宿に荷物を置くことができた。

 

 食事を終えた俺は、休憩もそこそこに宿を出る。

 田舎の空気が旨いのもある。

 都会やと見られへん満天の星空を眺めたいのもある。

 けど、一番の目的は怪異の痕跡を辿ることや。

 夜の方が、奴らの気が見えやすい。

 

 今日は合コンやったのに……キャンセルさせやがった怪異共は、絶対見つけてぶちのめしたるからな……!!

 

 やる気に燃えながらあぜ道に出ると、涼しい風が土の匂いを運んでくる。

 その癖、辺りには生き物の存在感がない。

 何かを畏れて逃げたんか、あるいは、もう喰われた後なんか。

 

 少し歩くと、十字路に差し掛かった。

 そこには薄っすらと怪異の気配が残っている。

 俺は痕跡の濃い方に歩みを進めた。

 

 今頃、合コンは盛り上がってんやろうか。

 初めての合コンやったから、気合入ってたのに。

 ナンパしようにも、田舎やとジジババしかおらんし。

 ほんま、女関係は上手く行かんな。

 女難の相でも出てんのか?

 お祓いでも受けた方がええか?

 もしくは、縁結びの神にお参りでもしたらええんか?

 でもなー、神の恐ろしさを見てきた身としては、安易に頼るんも怖いんやけどなー。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、前方にぼんやりとした灯りが見えた。

 まだ遠いが、声も聞こえてくる。

 若い女の子の声だ。

 

 その声に、もう一つの音が短く答えた。

 恐らく大人の女性。

 

 おいおい、こんな時間に女の子二人でお出かけかいな。

 これは紳士として、家まで送り届けねば……!

 

 近づくにつれ、女の子の声がはっきりしてくる。

 

「……きくなっちゃうよ?」

 

「……」

 

 女の子が笑った。

 楽しそうに会話しとる。

 俺も混ぜてーな。

 

「……ちゃんになるのかな?」

 

「……ぽ」

 

 自転車を漕ぐ音が近づいてくる。

 その中に奇妙な破裂音が混じっていた。

 

「……まで行ったら、スカイツリー越えを目指そうよ」

 

()()()

 

 ──目を疑った。

 自転車を漕ぐ女の子の背後から、人間ではあり得ない背丈の女が、その長い腕を回して抱きついていた。

 

 あの子、なんちゅう(もん)に憑かれとんねん!!

 どう見ても八尺様──特級指定怪異やないか!

 しかも、特級の中でも上澄みの霊気を纏っとる!

 

 冷静になれ。

 まずはあの女の子から剥がさなあかん。

 チャリから引きずり下ろした後は、一瞬や。

『具象世怪』──怪異の理を反映させた世界──に取り込まれる前に、一瞬でケリを付ける!

 そやないと、女の子まで巻き込んでまう!

 

 俺ならいける……!

 特級は何回も祓ってきた。

 八尺様かて祓ったことある。

 能力も把握済みや。

 能力を使わせへんかったら絶対勝てる!

 

 女の子が不意に黙った。

 俺に気付いたらしい。

 平静や、平静を装え。

 化物には気付いてませんよってな。

 

 すれ違い様、彼女は「こ、コンバンハ」と小さい声で挨拶してくれた。

 

「こんばんは」

 

 平静を装って、挨拶を返す。

 

 こういう子の人生を守るために、俺はいつも戦って来たんや!

 

 そのまま通り過ぎていく女の子を横目に、俺は後ろの八尺様を掴み、力任せに投げ飛ばした。

 

「ぽ!?」

 

 地面に倒れた八尺様へ駆け寄りながら短く唱える。

 

「燃やせ、()()

 

 手の内に、炎を纏った刀が現れた。

 

「え?」

 

 背後から女の子の驚く声と、自転車が倒れる音が響く。

 振り返ってる暇はない。

 距離を詰め、八尺様に刀を振り下ろす。

 だが、その刃は届かなかった。

 

 背後から迫る物体を察知し、俺は咄嗟に体を引く。

 目の前を、買い物カバンが唸りを上げて通過した。

 

「ちょっ、危なっ!?」

 

 見れば、少女がカバンを両手で振り回していた。

 二回、三回と殴りかかって来る。

 

「ちっ、洗脳状態か!?」

 

 八尺様にそんな能力あったか!?

 いや、個体差か? 進化か?

 最近の怪異、アップデート早すぎへんか!?

 

 仕方なく距離を取る。

 

 まずい。一瞬で決められへんかった。

 

「何なんですか、あなた!」

 

 少女が八尺様の前に立ち、両手を広げてかばった。

 

「嬢ちゃん、君にどう見えとるか分からんが、そいつはバケモンや。

 放置しておけば多くの人を不幸にする!

 せやからここで祓わせてもらう!」

 

「八尺ちゃんは化物なんかじゃない!

 私の大切な友達です!」

 

 八尺()()()……?

 ()()……?

 おいおい、八尺様の特性に『友達に擬態する』なんてあったか?

 いや、声を真似る能力から派生して、そういう能力を獲得した可能性もある。

 

 どちらにせよ、この子は騙されてるだけや。

 早く解放してやらなあかん。

 

 問題は、この状況をどう切り抜けるか。

 この子が間に入っているせいで、大技は使えん。

 いっそのこと、一瞬だけこっちの()()に引き込んで──

 

 そこで俺は、彼女たちの背後からもう一つの気配が近づいてくることに気付いた。

 

「椎名を迎えに来てみれば……これはどういう状況かのう?」

 

「姫!」

 

「う、嘘やろ……!?」

 

 姫と呼ばれた怪異を前にして、俺は反射的に目線を下げた。

 

 八尺様よりもさらに上の霊気を纏った怪異。

 いや、むしろ神に近い。

 青い霊気の中に白い気──神のみが持つ()()が混じっていた。

 

 高速で脳内の情報を検索する。

 

 姫と呼ばれている──これだけやと分からん。

 神気が混じっているから、祀られている可能性が高い。

 服装は小袿(こうちぎ)か?

 貴族の女性となると、数は絞られる。

 彼女の足元……水の球が浮いとる。

 水に関係する存在か。

 神より怪異としての気の方が強い──人から怪異に、怪異から神に昇華した奴の特徴やな。

 となると──恐らく橋姫。

 

 いや、何でこんなとこにおんねん! 橋なんかないぞ!?

 

 くそ、まずいな。

 霊気の多さだけで強さは語れへんが、八尺様とタイマンで五分五分。

 世怪の貼り合いでは確実に負けるから、瞬殺を狙っとったのに。

 そこにきて橋姫。

 しかも神の側面を持った個体が混じれば、普通のやり方じゃ勝ち目はほぼない。

 タイマンで良くて一割。

 準備を万端にして二割か。

 『魔王』は炎やし、水神の橋姫と相性最悪。

 奥の手を使えばワンチャンあるけど……。

 

 ……けどおかしいな。

 特級怪異が一か所におって、縄張り争いもせんとは。

 

 八尺様と橋姫らしき怪異が、少女の前に立ち塞がる。

 八尺様は『ぽぽぽ』と発しながら、目を見開いてこちらを凝視してくる。

 

 ムンクの『叫び』より怖いな。

 

 橋姫らしき怪異は、俺と刀を交互に見て言った。

 

「ふむ。お主、異祓師(いばつし)か?」

 

 その言葉に、俺は眉を動かした。

 

「……へえ、随分古い言葉を知ってるんやな。

 今は怪退師(かいたいし)って言うねん。

 そういうあんたは橋姫か?」

 

 俺たちのことをそう呼ぶってことは、相当古くから祓われずに残っとる個体ってことやな。

 いよいよ勝ちの目が無くなってきたぞ……。

 

「ほう、よう分かったのう。

 それで、わえらを祓ってみるかえ?」

 

 完全になめられている。

 

 怪異やなかったら、ご褒美なんやけどな。

 さて、どうしたもんか。

 渡辺綱でもおれば、勝てるんやけど。

 如何せん、今の俺には髭切すらない。

 今から土下座したら許してくれへんかな?

 

「どうするかのう、椎名。

 八尺ちゃんはずいぶん怒っておるようじゃが……呪い殺してまうかえ?」

 

 頬に汗が伝った。

 

 丑の刻参りの元祖から呪われたら、ひとたまりもなさそうやな。

 

「だ、だめだよ。

 人を呪ったり、殺したりしないって約束したでしょ?」

 

 おずおずと少女が答える。

 

「じゃが、向こうから殺意を向けてきたのなら、正当防衛じゃろ?」

 

 彼女は橋姫の裾を引っ張りながら唸った。

 

「ふむ。わえらが友は争いごとが苦手でのう。

 お主が大人しく退いてくれると、こちらとしても助かるのじゃが」

 

 最悪、奥の手を使って道連れにするつもりでおったが、向こうから提案してくれるなら話は早い。

 

「お前らは、ほんまにその子の友達なんやな?」

 

「ぽぽぽ」「当然じゃ」

 

 二匹はほぼ同時に頷いた。

 少女も赤べこみたいに頭を上下させている。

 

 人間と怪異が友達になる、ありえん話やない。

 泣いた赤鬼なんかは人間と友達になりたかったわけやし、子供のころ座敷童と友達やったって話は多い。

 少し違うかもしれんが、浦島太郎と乙姫、鶴の恩返しなんかも、人と怪異が友好的な関係を築いた逸話として残っとる。

 ……まあ、最後はだいたい別れとるけどな。

 

 橋姫は神として祀られてるし、元が人間や。

 神が人間と同じ視座で友好的なんも違和感あるけど、一旦そこは置いとくか。

 

 けどなあ、八尺様はなあ……。

 『ぽぽぽ』としか喋らへんし、人に友好的って話も聞いたことがない。

 ()()()の一種って説もあるけど、行動からして神隠しするタイプやろ……?

 

 この八尺様が特別友好的な個体なんか、それとも嬢ちゃんの方に友達になりたい魅力があるんか。

 前髪でよう見えへんけど、実はめっちゃ美少女とかか? うーん、それは俺もぜひ見てみたい。

 

 特級の上澄み二匹が、人間と友達。事実は小説より奇なり、か。

 そこはこの状況やし、ひとまず飲み込むしかあらへん。

 本題を聞かなあかんな。

 

「一旦、お前らが友達なんは信じるわ。

 ところで最近、この村に怪異が集まってるみたいやねんけど、何か知らんか?

 俺はそれを調査しに来たんやけど──」

 

 それを聞いた少女の様子が、明らかに挙動不審になった。

 髪に覆われているが、目が右往左往しているのが分かる。

 

「ぽ、ぽぽー?」「し、知らんなー?」

 

 前の二匹も、あからさまに怪しい。

 

「その反応、絶対何か知っとるやろ!?」

 

「知らんなー?」「ぽぽぽー?」

 

 次の瞬間、八尺様が少女を抱え上げ、猛ダッシュで夜道を駆け抜けていく。

 

「あ、お前ら! 待たんかい!?」

 

 俺の声は、田舎の夜に虚しく吸い込まれた。

 

 何やねん、あいつら……。

 




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