それではどうぞ。
組長会議が終わった後、私たちに待ち受けるのは、他の組との合同訓練だ。今回の訓練は、対八雷神を想定してか組から組へどんどん回るたらい回しシステムを採用している。
まずは二番組と一番組との鍛錬である。ということで、我々三番組のメンツは、一番組寮へ向けてオフロードカーを走らせている。ベルちゃんは組長会議以降、どこか元気ない感じだ。あの総組長がよぉ…。
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「来たね。じゃあ合同訓練を始める…といっても、序盤はアタシがあんたらを見る感じだ。道着に着替えたら道場に来な」
着いて早々吐き捨てるように指示を飛ばすのは、一番組副組長:冥加りう。この前の会議で組長を退いたイケババである。加えて現組長の多々良木乃実は才能の塊だし、一番組は実質組長が二人いるような者だ。
数分後道着に着替えた私たちは、道場への扉を開けた。すると、ドンっと轟音が響いた。音の方に視線を向けると、二番組組長:上運天美羅が壁に伏していた。どうやら、りうさんにぶっ飛ばされたようだ。
「っつアー!やっぱ強ぇナ、りうさんは」
「あんたはちょっと真っ直ぐすぎるね。もうちょっとフェイントを挟んだ方がいいよ」
美羅さんはムクリと起き上がって道着を軽くはらう。能力を使っていないとはいえ、格闘主体の美羅さんをぶっ飛ばすとは、さすが魔防隊創設時からのベテラン。技巧は随一だな。
私も存分に学びたいところだが、それよりもやることがある。
今回の…というか、これからの訓練での最優先事項は、ベルちゃんの身体能力及び能力の向上であると考えている。
組長会議の時に分かったが、今のベルちゃんに足りないのは実績だ。だがベルちゃんの身体能力と能力の噛み合いが悪く、サポーター必須とかいうハイリスクハイリターンな以上、まず根本的な底上げをしなければならない。
「揃ったね、聞きな。今日はアタシがあんたらを徹底的に叩き直す。それは組長だろうが例外はない。強くなりな」
当然ながらキツイものになるだろう。もしかしたら、途中でベルちゃんが折れてしまうやもしれない。でも…それでもこれは…ベルちゃんを役立たせるためだ。八雷神がいる以上、私も自重してはいられない。だから、
「ごめんなさい…ベルちゃん」
「それじゃあ、始めるよ」
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〜ベルちゃん視点〜
「はぁ…はぁ…んはぁ…」
「そこまで。…ベル、あんたは基礎体力が足りないね。もうちょっと鍛えな」
ベルは、木乃実ちゃんとの組み手で何度も地に伏しました。
分かってはいたんです。ベルには、近接格闘ができない。綺利香ちゃんと一緒にトレーニングをして、少しはマシになったと思っていたのに。やっぱりベルは、ダメダメです。
…やっぱり、綺利香ちゃんに、組長を譲るべきなんでしょうか?
綺利香ちゃんは強くて、優しくて、かっこいい。はは、ベルなんかより、よっぽど組長らしい人じゃないですか。
この前の会議で恋ちゃんが言っていたことも、冗談じゃないように聞こえてしまいます。あれから、綺利香ちゃんの顔を見るたび、あの一言がフラッシュバックします。
このままじゃいけない…でも、とても耐えられない。キツイ…辞めたい。もう、逃げてしまいたい。
そう思いながらも、飲み物を取りに台所へ向かいました。そうしたら、何やら話し声が聞こえてきました。
隠れて見てみると、そこにいたのは美羅ちゃんと綺利香ちゃんでした。
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〜綺利香視点〜(少し時を遡る)
一番組の…りうさんの訓練は相当な厳しさだ。このレベルなら、京香さんや木乃実ちゃんのようなフィジカルゴリラが出来上がることにも理解できる。でも、
「はぁ…はぁ…んはぁ…」
ベルちゃん…見事にやられているな。私が頼んで厳しくしてもらっているとはいえ、流石に心が痛む。だが、すまない。本当にすまない。
それはそれとして、そこで嘲笑してる奴ら!あとで組み手でボコボコにしてやるから覚悟しとけよ。
流石に見てられなかったら台所に来た。作業台に突っ伏して、蛇口からぽたぽた垂れる水滴をただ茫然と眺める。…自分が嫌になるな。こんな…自分で仕向けておいて。
「おい」
声に気づいて、ゆっくりと立ち上がる。振り向くと、美羅さんがいた。その表情からは、静かな怒りが見てとれた。
「あなたも休憩ですか?」
「まぁな。だが本題は違ぇ…お前に聞くことがある」
「………」
「単刀直入に聞くぜ。お前………
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〜三人称視点〜
「なんでベルへの指導を厳しくするように頼んだんだ?」
静かで、されど重い言葉が、台所に浸透する。綺利香と美羅が真顔を貫く中、二人に見えない位置にいたベルは、ただ一人声も出さずに戸惑っている。
「あんな恥を晒すような真似をしちまって…お前はベルを貶めたいのか」
「……それは違「何が違うんだ?」
綺利香は反論しようとするが、美羅の眼光がそれを阻む。
「……確かにベルは身体能力が高いわけじゃねぇ。鍛錬も必要だ」
美羅が一言話すごとに、綺利香は心の中を突っつかれるような感覚に襲われた。飲み込んだはずの罪悪感が刺激されていくようだ。
「お前がベルを慕っていることは分かる。だが、合同訓練っつう衆目の場でやることじゃねぇ」
綺利香は拳を握りしめ、今まで閉ざしていた口を徐に開く。
「………………………ってますよ」
「あ?」
「わかっていますよ!そんなこと!!」
綺利香は、ポーカーフェイスを解き、大きな声をあげた。二人は一瞬体がビクついた。彼女がこんなに声を荒げるのを見たことがないからだ。
「月夜野組長に…ベルちゃんに恥をかかせることになるのは重々承知しています。ですが私は、ここで彼女に成長していただきたいのです」
綺利香はどこか悲しそうな声で告げる。
「入隊当初は、ベルちゃんを守れればそれでいいと…私が強くなればいいと思っていました」
「でも、この前の会議で、それではダメだと分かったんです」
「総組長のアレか?あれは冗談だろ?」
「ええそうでしょう。あれはあの人なりの冗談です。ですが、このままではそうなりかねない」
綺利香が言っていることは、概ねその通りである。少なくとも、このまま綺利香だけが戦果を挙げ続ければ、ベルの肩身は狭くなり、周囲の人間は『東綺利香こそが組長に相応しい』という考えになってしまう。綺利香はそれを避けたいのだ。
「だがよぉ…それをベルに話せばよかったんじゃねぇのか?」
「………それはダメです。ベルちゃんにプレッシャーをかけては、きっと潰れてしまう」
「伝えないで潰すよりかはよっぽどマシだろうが」
「…………」
綺利香は分かっているのだ。自分がやっていることがいかに愚かで、鬼畜だということは。だが『実績作り』のためには仕方ない、として気持ちを押し殺したのだ。
「もう少し、自分の上司を信頼してやったらどうだ?」
「そう……ですね」
綺利香は目を伏せる。彼女の胸中にあるのは、ベルのことだ。ベルは、許してくれるだろうか?否、そんなはずはない。自分を意図して貶めた者を、許せるはずがないのだ。少なくとも、綺利香は許せない。だからこそ、ベルに打ち明けることに恐怖を覚えている。
美羅はそんな綺利香に『ムリそーならオレも一緒に言ってやる』と声をかけようと近づいたが、
「綺利香ちゃん」
隠れていたベルが二人の前に姿を現し、ゆっくりと綺利香に近づく。よくみると、目が少し赤く腫れ、節々が震えているようだ。
「月夜野…組長。申しわけ…ありませんでした。私は、あなたに…」
綺利香はベルに90度頭を下げる。ベルはそんな様子を見て少しだけ口角をあげ、
「綺利香ちゃん。ベルのためにやってくれてありがとうね。…ベルは弱虫で、綺利香ちゃんに頼り切りで、自分のことばっかり。情けないけど………それでも、ベルは変わらなくちゃいけないから。だから
たとえベルが泣いても、お尻を叩いてでも鍛えてほしいの!」
「ベルちゃん…」
綺利香は、もはや取り繕うことなくベルの成長を視た。彼女の覚悟が、よく伝わってくる。
「……私は厳しいですよ。よろしいんですね」
「うん。お願い、綺利香ちゃん」
その瞳は、前のような弱々しさを残しつつも、確かな勇気を孕んでいた。
「…………分かりました!では望み通り、スパルタで行かせていただきます!!」
そんな上司の勇姿をみた綺利香は、盛大に、そして吹っ切れたように宣言した。その顔には、先ほどまでの影はなく、ただ…明るかったのだ。
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〜綺利香視点〜
「「「「「ありがとうございました」」」」」
一、二番組との訓練を終え、私たちは帰路に着いた。今回の訓練で、私たちはかなり成長できた。最初は色々あったが、ベルちゃんの曇りも晴れたし、みんな強くなれたし、まぁよかっただろう。
「綺利香ちゃん」
車で揺られる中、隣のベルちゃんが私に話しかけてきた。
「どうかしましたか?」
「えっとね?その…………………………
………………二人きりの時なら、『ベルちゃん』って呼んでいいよ?」
「え?え?え!?」
「えへへ」
ベルちゃんは、イタズラっぽく笑った。
第二部『組長会議編』完
相変わらず、ベルちゃんの敬語なしエミュがむずすぎるぅ!
小話:最後のアレについてですが、解釈違いだったらすいません。一種の気の迷いってやつです。
…でも、普段おとなしい子が小悪魔っぽくなるのってヨくありません?
次回『第十二話:東という名の獣』お楽しみに。