…なんか閑話が描きたくなってきました。
それではどうぞ。
第十二話:東という名の獣
一、二番組との合同訓練から、一週間が経った。
あれからというもの、ベルちゃんをしこたま鍛えている。といっても、私にできるのは身体能力の強化か、それに伴った能力と体の使い方くらいしか教えられない。それだけでも、ベルちゃんは前とは比べ物にならないほどに成長している。
とはいえ、能力はほとんど伸びていない。元がチートだから特に問題はないが、改善できるならしておきたいところだ。だが私にそれはできない。
理由はわからないが、おそらく、能力の性質の違いが問題だろう。
まず私の能力は、『斧を作る』…つまり物質を生成する能力だ。それに対し、ベルちゃんの能力は、『形あるものを滅し、自身は基本死なない』…よく見ても見なくてもチートだが、要は概念に関与する能力だ。
この二つは、全く違う性質を持っている。だから、なんというか感覚が合わないのだ。
さてと。現在、ベルちゃんは会議に行っている。議題はもちろん合同会議の成果だ。合同訓練が終わって、このタイミングでの会議ということは、おそらくそろそろだろう。
そうこう思考を張り巡らしていると、ベルちゃんが帰ってきた。
「お帰りなさいませ。月夜野組長。それと…いらっしゃいませ。母様」
そこにいたのは、いつになく無表情で、それでも目でしっかりとコチラを捉えている母がいた。
「…綺利香。東の晩餐にでなさい」
《東の晩餐》。それは、東家の、足を引っ張り合う血生臭い儀式である。簡単にいえば、次の当主を決める殴り合いだ。実際に死ぬことはないとはいえ、実質的に殺し合いと同じである。
「…承知しました」
私は二つ返事で承諾した。断る理由ないしね。むしろ断ったらこっちが仕留められそうだしね。
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さて。晩餐まではあと5日。一応鍛錬はするが、正直今回は風舞希さんの一人勝ちだろうなーと思う。
確かに私は前の合同訓練でより強くなった。だが、どうやっても越えられない壁というものが存在する。少なくとも、現時点での東家の強さはこうだと考えている。
風舞希さん>>>>海桐花>>>(越えられない壁)>>>>私>日万凛>>>麻衣亜≒誉≧八千穂
もちろんこれから変動することは大いにあり得るが、大体こんな感じだろう。…これを見るに、海桐花は風舞希さんvs私を見たがっている可能性が高いな。でも私が晩餐を受けたのは、『断られた後の皺寄せが怖いから』だ。ぶっちゃけ出る理由はないので、日万凛vs風舞希さんを見届けたら、すぐにギブアップするとしよう。
というわけで特段何か対策する必要はない。よって普段通りに生活しよう。またペン子から依頼来てるし、書類もまぁまぁ溜まってる…あ!ベルちゃんを鍛えるのもありだな。
…………でも私が遊んでいる間にも、他の姉妹は強くなるために努力してるんよなぁ。……ちょっと筋トレのメニュー増やすか。
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〜八千穂視点ー
「八千穂。東の晩餐にでなさい」
母様が寮に来た時、ついに、と思った。日万凛は東家を出てから、七番組の元で凄まじい成長を見せておる。だが、それでも、私抜きで他の東のものに勝てるとは思えぬ。特に誉は、日万凛を人質にして綺利香と私様を仕留めうとするじゃろう。それは何としても避けねばならない。私様が、真っ先に誉を見つけ、倒すしか道はない。…だが、私様の力では、誉を完全に倒すことは不可能じゃ。時を止めて銃弾を放っても、当たる寸前で止まる。であれば、誉は放ってくること前提で避けてくるじゃろう。普通にカウンターでKOじゃ。
一番確実なのは、ゼロ距離で銃弾を当てること。じゃが、それをぶちかますには、体力の向上あとは……
「サハラ」
「ん〜?どうしたの、やっちん」
「話がある」
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〜日万凛視点〜
お母さ…風舞希に晩餐に出ろと言われた時、ついに、と思った。私は、東家の人間を見返してやるために、鍛錬に励んできた。その成果を発揮する機会が、ようやく訪れたのだ。もちろん、この5日間で最大限準備する。優希と共に、能力の底上げだ。組長には許可をとっている。
「じゃあ早速やるわよ!優希」
「ああ!」
*数時間後
「ん…今のうちの能力を共有しておくわ」
「わ、わかった」
鍛錬が終わり、“ご褒美”で優希に太ももの裏に口付けされながら、能力の共有を始める。
「まず風舞希ね。何としてもぶっ飛ばさなきゃいけない人よ。能力は『
「シンプルだな」
「そうね…ん、だからこそ、シンプルに近接戦が強いわ。何とか対応策を見つけないとね*1」
「次に、誉ね。こいつは多分向こうから突っかかってくるわ。能力は『
「突っかかってくる?…詳しくは聞かないが、何かあったのか?」
「昔、いじめられててね。そしてそれを止めに入った綺利香とそいつが殴り合いになったのよ」
「えぇ…」
優希が困惑の表情で見上げる。日万凛の表情は、どこか苦しげで、それでいて明るかった。
「でもそれなら、綺利香さんの方に向かうんじゃ…」
「…どうなんでしょう、ね。アイツは、綺利香が私を気にかけているのは知っているから、私を人質にして綺利香を倒す…なんてことを思いつきかねないわ」
「なるほどな。そういえば聞いてて思ったんだが、風舞希さんとその誉ってやつの対抗策は同じじゃダメか?晩餐まで時間がない以上、一つに絞って伸ばしたほうがいいと思うが」
「初めからっ…そのつもりよ。
……ところで、いつまでこのご褒美は続くのよ!!」
対策について話し始めて十分。合間合間で優希が口を開いて舌を止めるからか、一向に終わらない。
「す、すまん!すぐ終わらせる」
「………変態」
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〜三人称視点〜
「そうかそうか!日万凛も晩餐に出るか」
風舞希が晩餐開始の通達をした少し後、東家の本邸では、九番組の面々が集っていた。
「交流戦で八千穂に勝って、気が大きくなっているようですわね」
「八千穂が日万凛に甘いから勝てたって、分かってねーわ」
誉も麻衣亜もは、日万凛の参加には否定的である。日万凛の実力は、東の中では下位に相当すると思っているのだろう。
「日万凛が成長なく排除されるか…それとも一花咲かせるか。…いずれにせよ、来たる八雷神との戦いや総組長選挙は万全の形で望まねばならぬ」
「これで弱き東はいなくなるのじゃ。祝着♪祝着♪」
海桐花は東の未来をどこかにこやかに語る。
「日万凛は私が泣かす。そんでもって綺利香をしめる」
「誰が倒すか。貴方にその決定権はありませんわ」
誉と麻衣亜は火花をバチバチと散らす。誉にとって、綺利香は目の上のたんこぶである。一度殴り合いになったあの日から、日万凛をいじめようと向かってもことごとく邪魔されてきた。*2
故に、自分の手で綺利香を葬らねば気が済まないのだ。
「二人とも、今日はたくさん醜鬼を狩ったというのに元気ね」
「まあいい君じゃろ。…心弱きものは、東にはいらんのじゃ」
海桐花が近くの薔薇に手をかざすと、瞬時に枯れ果て、茶色になった葉や花弁が地に落ちた。
それは、弱き東の者を表しているのやもしれない。
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5日後。東の本邸に、一族が集う。東の…血で血を洗う伝統が、今始まろうとしていた。
小話:この小説での誉が日万凛を狙う理由は、人質として利用することで八千穂・綺利香両名の動きを制限するという理由もありますが、それ以上に、『綺利香と似ている目をしているから』というのもあります。プロローグのあれは、誉にとっては大変屈辱的で、本家への恨みを募らせることになったことでしょう。
次回『第十三話:八千穂という姉』お楽しみに。