争いは他所でやってくれ!最後は平穏無事に過ごしたい   作:大気圏突破

17 / 18
早かった再会

 それは脱走の罰で本堂から離れた倉庫の掃除をしているときだった。床板が少しだけ浮き上がっていたので一誠は試しに叩いてみると乾いた音が返ってきた。もしかしてと思い床板を剥がしてみると

 

「トンネル?」

 

 子供の頃に深夜のアダルト番組を予約したつもりが、チャンネル設定を間違えて大昔の海外映画が録画されていたことがあった。収容所に集められた軍人が施設から脱走するために仲間たちと一緒にトンネルを掘る内容だった

 

「(これなら…でも罠の可能性も)」

 

 100人中78人が罠だと断言するだろう。しかし穴が塞がれていないということはバレていないのでは?トンネルの先が求める出口ではないかもしれない、最悪の場合は誰かが気付いて入口の穴が閉じられてしまい生き埋めになる可能性もある

 

「(迷っていられるか!)」

 

 一誠はトンネルに飛び込んだ!なりふり構っていられない、ここから脱出して安寧の生活を取り戻す気概である。チャンスなんて何度も訪れない自分は手繰り寄せたんだ!足の裏を土や泥で汚しながら一心不乱に進んでいく

 

「帰るんだ俺は、駒王町に」

 

 心にガソリンを注入して出口に向かう。こんな最低最悪な寺から逃げ切ってやる。薄い煎餅布団じゃなくてフカフカのベッドに身を沈めてお気に入りの写真集を枕の下に置いて幸せな夢を見ることは不可能に終わってしまった

 

 このトンネルは脱走者の覚悟を推し量るモノ、立ち止まるか欲に目が眩むかを問い掛ける寺側が与えた選択である。自業自得という言葉が当てはまる兵藤一誠であった

 

 

 

 

「お疲れのようねノブさん」

 

 隣の席に座る桐生藍華の声で目が覚めた伸元は瞼を擦りながら背骨でドレミファソラシドの音階を奏でていた。エクスカリバー騒動が終わりヴァチカン関係者との交渉を済ませると疲れがドッと出てしまった

 

「エナドリじゃないんだ」

「あれの砂糖の量エグイんだよ」

 

 机の上には漆黒に染まったコーヒーの入ったペットボトルが2本置かれていた。真夏日を記録する日々が続き制服も夏服仕様となって薄くなる。当然のように変態コンビの鼻息は荒くなって女子生徒たちに迷惑を掛けると思われていたが今のところ目立った被害は起きていなかった

 

「学園もエグイことをやるよね。あの2人に対して」

「去年のこともあるし対策はするだろ」

 

 去年は兵藤が学園から永遠にグッバイされる案件を引き起こしたので、生徒会に寄せられた陳情をもとに松田と元浜の2人対して期間限定で専用の教室を与えた

 

・扇風機を完備

・机と椅子は中等部が技術の授業で製作

・学年主任とのマンツーマン授業

・トイレに行く際は腰と手首に荒縄で縛られ目隠しで連行

 

 テストも赤点で通信簿も10段階評価で1.2.3のオンパレードなので学園内で長期間の学力向上合宿へと突入するのであった

 

 無論2人から抗議の声が口うるさく述べられたが、退学処分の4文字に黙るしかなかった

 

 

 

 

 

「お願いします!俺を1から鍛えてください」

 

 授業が終わると彼はいつものように生徒会室へ向かった。教会側への要求は前回で終わらせたが堕天使側の要求が決まっていなかったのだ、レイナーレの起こした騒動で『金銭』で決着をつけたので今回は同じものを要求したくなかったのだ

 

 ドアを開けると既に全員ではないが眷属たちが座りソーナが来るまで駄弁っていた。伸元もいつもの指定席に座ると遠くにいた匙が近づいてきて、いきなり腰を曲げて頭を深く下げて骨をボキっと鳴らした

 

 

「どういうつもりだ?」

「俺は井の中の蛙どころかオタマジャクシ…いえ卵以下の存在です。この前も独りよがりで俺ならやれると思って、結局なにも出来なくて」

 

 

 負けて当然である。神器を持っていてもフリードとの経験はダンチで違うのだ、言動は狂っているが聖剣を持っていなかったとしても匙が勝利する未来なんて5%以下ぐらいしかない、伸元と木場が駆けつけるまで生き残ったのが奇跡なのだ

 

 

「最強の兵士になって会長の夢の為に強くなりたいんです」

 

 目に炎を宿す匙はOKを貰おうと顔面を至近距離まで迫らせてくる。これがスポ根少年漫画だったら2人はマスターアジアとドモンカッシュのような師弟関係になって夕陽に向かって走るのだが

 

 

ダメだ!

「どうしてですか?だってノブさんも会長の夢を応援しているんですよね?」

「もちろん、そのことに偽りは無い」

「じゃあ…なんで!」

 

 大きな声を出すとソーナが椿姫を伴って現れる。そして今の状況を確認するためにアーシアや目撃していた眷属たちに質問する

 

 

「そういうことでしたのね」

「会長だって俺が強くなれば決定力不足を補うことだって」

「匙…石動君の立場は分かってますか?」

「えっと…会長とシトリー家の協力者でしたよね?」

 

 確かに彼はソーナ及びシトリー家の庇護を受ける協力者である。しかしそこに主従関係は存在しないのだ、以前に彼女たちを指導したのはアーシアの身分保障に関する対価で行ったにすぎない

 

「もし匙が赤龍帝である石動君から指導を受けたことが周囲に吹聴されたら、私たち以外の悪魔はどんな感情を抱くと思いますか?」

「…ん~~~!シトリー家ばかりズルい俺たちのところにも来て指導してくれ、とかですか?」

 

 

 その言葉に彼女は強く頷いた。伸元は悪魔ではなくシトリー家という括りの為に動いているのだ、しかも今年になって彼の存在が冥界に知れ渡ったことで赤龍帝を手元に引き入れようとする悪魔も一定数存在する

 

 

「それなら会長がノブさんに『俺を鍛えてくれ』と言えば可能なんですよね?」

「もちろん可能ですよ」

「じゃあ早速…」

「それで私は何を石動君に差し出せば良いと思いますか…匙?」

「えっ?」

「金銭?土地?権利?それとも私自身ですか?」

 

 さっきも述べたように『お願い』ではなく『対価』なのだ、今の匙を最強にするには時間が掛かる。相応の『対価』が必要になってしまう。自分の願望のせいで主であるソーナが苦しむのを想像してしまった彼は四つん這いになってしまった

 

 

「あなたが強くなろうと石動君の門を叩いたことは素敵なことです」

『ドラゴンの知恵ぐらいは無償で教えてやるぞ』

 

 ドライグの言葉を耳にした匙は椿姫が肩を貸してもらって椅子に座った。少し遅くなったが全員集まったので会議が始まった

 

 

 

 

 

「(何も決まらずの保留か)」

『(別に今すぐに決めなくてもよかろう)』

 

 夕陽が沈むまで生徒会室で喧々諤々の会議が行われたが何も決まらなかった。とりあえず保留の形となり閉める形になった。堕天使は腰の重い連中なのでセラフォルーに頼んで交渉の場に座ってもらうので長引かせることもしたくない

 

 

「(堕天使側にもデュランダルのような唯一の武器があればね)」

『(アザゼルに期待するな、アイツただのバカだ!)』

「(バカでも出来る堕天使トップって)」

 

 トップが組織の全てを把握することは不可能だ、レイナーレたちが好き勝手に神器所有者を狙っていたのが何よりの証拠である。コカビエルの起こした騒動で向こうから謝罪の言葉すら送られていないのをみるとドライグの言うようにアザゼルと呼ばれる奴は馬鹿なんだろう

 

 

「(今日は何にしようか……ん?)」

 

 鍵を取り出して自宅のドアを開けて靴を揃えると変な違和感を抱いた、寸前まで誰かがいたような空気を感じる

 

 

「(ドライグ)」

『(何かいるぞ!)』

 

 泥棒にでも入られたか?ドア以外だと窓が考えられるが割られた形跡は無かった。赤龍帝の籠手を顕現させると足音を立てずに台所へ向かうと鍋やコンロを使用した形跡があり、インスタントラーメンの袋が床に落ちていた

 

「(ラーメンを食うって腹が減っていたのか)」

『(どんな輩だ)』

 

 

 試しに冷蔵庫の中を開けてみると朝はラベルの上まであったペットボトルのコーヒーの水位が下がっていた。ドアを閉めて臨戦体勢になった彼は息を殺して耳に神経を集中させる

 

「2階か」

 

 微かに物音がする方向へ足を向けて階段を上る。そして非常食やトイレットペーパーが備蓄してある物置きのドアが僅かに開いているのを見てノブに手を掛けて思いっ切り引っ張ると

 

 

「おい、ゼノヴィアお前何してんだ!」

「おじゃましてます」

 

 無銭飲食の罪で捕まりデュランダルを取り上げられたエクソシストのゼノヴィアがラーメンを啜っていた

 

 




とりあえず堕天使への請求は後回しになってますが会談後に正式に決まります

感想ありがとうございます(おまちしてます)
お気に入り登録もありがとうございます
誤字訂正もありがとうございます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。