争いは他所でやってくれ!最後は平穏無事に過ごしたい 作:大気圏突破
元龍王との特訓が始まって3日が過ぎた、着替えはシトリー家のメイドが魔法陣を使って2日1回のペースで届けにくるが食料はサバイバルらしく現地調達をしている
「うおぉぉぉぉ!」
ここには入浴施設は存在しないので汗を流すには近くを流れる川に飛び込むかドラム缶風呂を用意しなければならない、当然のことだがこれも特訓で水辺には悪魔を襲う魔物がいるしドラム缶を満たす水を汲むバケツもデカくて1杯に50リットル入るので筋力と持久力を鍛えることが出来る
もちろん当たり前だがレディファーストなんて存在しない、椿姫も入浴する為にバケツを担いで水を汲んで薪を焚べる
「絶対に覗かないでくださいね」
「テンプレート乙!その辺は弁えている、学園を追い出された奴のように犯罪に手を染めるつもりは無い」
ガンガン行こうぜ!好奇心旺盛な奴なら突撃するだろう。しかし『好奇心は猫を殺す』という言葉もある。戦闘では人の嫌がることをするがプライベートは紳士の心が必要なのだ
なおタンニーンと相撲のようにぶつかり稽古をしていた匙が弾き飛ばされて入浴中だった椿姫のところへダイブしてしまうのはお約束であった
「タンニーンとの出会い?」
食後の片付けを終わらせてマグカップにコーヒーを注いでいると、頬に真っ赤な紅葉を作った匙の問い掛けに脳の中から当時のことを思い出そうとしている
『シトリーの嬢ちゃんたちと出会った後じゃないか?』
「そうだなセラフォルーさんと一緒だったし」
ドライグのアシストで埃を被っていた宝箱から昔の思い出が呼び起こされ懐かしい記憶が蘇ってくる。シトリー家の庇護を受けるようになった翌年の夏休みにセラフォルーが領地の案内をしてくれた時にタンニーンと遭遇した
『あの頃の相棒は無鉄砲で、タンニーンのふてぶてしい態度に頭がプッツンして禁手化して殴りかかったんだ』
「セラフォルーさんを侮辱するようなことを言ってたし」
失敗談を笑い話にするように語っているが転生悪魔の2人は引きつった顔で額から汗をタラリと流している
「ノブさんって会長たちと出会ったのは?」
「8歳ぐらいだからタンニーンと喧嘩したのは9か10歳だな」
なお喧嘩は知恵と機動力を活かした伸元が勝利した。最後は吐かれた火炎のブレスの中を泳ぐように直進して体内に入ると無防備な臓器に攻撃を繰り出し続けたことで元龍王はギブアップをしてしまった。通称『一寸法師作戦』であるが彼以外に成功した人物はいない
「規格外にも程があります」
椿姫のカップが空になったのでポットを持つと彼女は差し出してきた。タンニーンは最上級悪魔の立ち位置にいるので本来なら相応の品を持って交渉をしなければならないが、彼もまたサーゼクスの統治に疑問を抱いたことと伸元発案による堕天使総督の焼き土下座を見てロハで受けてくれた
「会長とノブさんが出会って、副会長を皮切りに生徒会のメンバーが眷属になってアーシアとゼノヴィアが入ってくるなんて漫画やラノベみたいな展開ですね」
「5巻まで続けば御の字だな」
「そこはこち亀越えの巻数を目指しましょう」
「長期連載でマガジンのボクシング漫画みたいなことにならないことを祈るよ」
火を消して寝袋に包まって背中を向けた。匙も明日に向けて休もうとしたが寝る間際に椿姫から質問される
「理由?」
「匙は何のために強くなろうとしてますか?」
腕を組んで少し黙った彼には強くなって叶えたい夢がある。しかし女性の目の前で口にするのは完全にタブーな内容だ
「家族の為に強くなりたいんだ!会長のおかげで妹と弟が不自由なく暮らしていけるようになったけど、いつかは援助無しで生活したい」
「家族ですか…」
「あぁ…お兄ちゃんは強くて頼れる。華穂や元悟の前ではカッコイイ姿でいたいんだ」
誰かの為に強くなりたい…真っ当な願いであり不純を感じることはない、困窮する生活から抜け出すために強くなって大金を稼ぐことも王道である。しかし『家族』という言葉を耳にして椿姫は顔を曇らせてしまった
生まれ持った神器を操ることが出来ずに幽閉され迫害されていた。家族の優しさや愛情とは無縁の日々を送り、灰色に着色された世界を悲観する余裕も無かった
「ノブさんから聞いたぜ」
「それって…?」
「自分のことを弱いって向き合えただけ副会長は凄いと思うぜ、少し前の俺なんてノブさんに対抗意識を燃やしちゃって意見に噛みついて、あげくの果てに"俺は強いんだ"って勘違いして返り討ちにされて」
悪魔に転生し神器を持っている。目の前には二天龍を宿した人間が意中の人の隣にいて信頼されていれば匙の心に黒い炎が燃えるのは必然であった
フリードには相手にされずボコられるだけだった。伸元と木場が助けに来てくれなかったら自分の命はあそこで終わっていたはずだ、あの時の2人を見てホッと安心した感情に包まれた匙は己を振り返って心を入れ替えた
「俺って馬鹿だけど…やっぱり向き合うことって大切なんだと思う。弱い自分を自覚できたから新しい可能性を見出せると感じるんだ」
「匙…あなたは」
「会長やノブさんから恩を貰いっぱなんだ、1つでも返せるぐらい成長したい」
ソーナが自分に手を差し出してくれた瞬間に見えている世界に鮮やかな色が着色された。実家と縁を切ることが出来て神器の制御を行うことも出来るようになった。名前で呼んでくれた。場所を与えてくれた。役割を与えてくれた
「(迷う必要なんて無かった)」
モヤモヤを霧散させると彼女は小さな声で匙に礼の言葉を述べて眼鏡を外し背中を向ける
『(狸寝入りか?)』
「(ただの盗み聞きだよ)」
寝ていなかった伸元はドライグからのツッコミを返すと目を閉じて夢の世界へ旅立つのであった
迷いが無くなり吹っ切れた椿姫は翌日から熱意を込めた特訓を行いタンニーンに向かって突撃を行っていた。ブレス攻撃も自身の神器で反射し薙刀で斬りかかる。固い皮膚で根本から折れたとしても素手で刃を掴んで突き刺す姿に野郎たちは恐怖した
「今なら魔力無しのグレイフィアさんとタイマン出来そうな気がする」
「俺も頑張らないと」
生肉を齧り薙刀が刃こぼれしたら山に捨てられていたドラゴンの爪で即席の武器を作り再び挑む、身につけているジャージが焼き焦げボロボロになって下着が露わになっても彼女は気にせず暗くなるまで自身を追い込んで経験値を積んでいく、羞恥心なんて投石器で遠く方に投げ飛ばしてしまったのだ
「世話になったな」
「ありがとうございますタンニーン様」
2週間で山籠もりを終えた面々は付き合ってくれた元龍王に頭を下げた
「グレモリーとの勝負はここで見させてもらうぞ」
本番が始まるまでシトリー家の本宅で休養と作戦会議に充てられる。現時点でやれるだけのことはやったのだ、あとはレーティングゲーム開始のゴングが鳴るのを待つだけである
魔法陣に乗って久しぶり人工物を見て3人は戻ってきたことを実感した。ソーナやゼノヴィアたちが出迎えてくれて成長した姿を見て驚いた表情をしている
「椿姫たちにいったい何を…?」
「うまい食事と適度な運動かな」
あくまで伸元が基準の食事と運動である。彼はシスコン魔王たちに指導された他のシトリー眷属を見て彼女も頑張ってきたのを感じ取るのであった
「ノブチカ今から私とやるぞ!この2週間の成果を見せてやる」
「今日ぐらい休ませてあげなさいゼノヴィア」
ソーナに窘められた彼女は肩を落としてシュンッとしてしまうが、彼が頭の上に手を乗せて慰めている。触れた瞬間に伝わってくる魔力の揺らめきを受け取りハッタリではないことを示す
「では…私たちはこれで失礼します」
「ありがとう☆レヴィアタンの名においてフェニックス家には相応の対価を送るから☆」
トレーニングに付き合ってくれたライザーの眷属たちも今日でお役御免となった。全員で感謝の意を述べて頭を下げると彼女達も魔法陣に乗って姿を消していった
とりあえず今日は休養として蓄積されていた疲労を抜くと翌日から現状における戦力確認と戦法を模索しながらレーティングゲームが行われる日まで詰めの作業を行い、あっという間に本番を迎えるのであった
サーゼクス・ルシファーは高を括っていた。冥界では自身の妹よりソーナ・シトリーの評価が高い傾向になっていたが、それは彼女の背後に赤龍帝が存在しているからで当人たちの能力は低いと見くびっていた
だからこそ今回の勝負はうってつけなのだ、今日の勝負でグレモリー家が勝利すれば評価は逆転する。完膚なきまで叩きのめせば会合の場でリアスを笑っていた貴族たちの鼻をあかすことが出来る。準備を怠ることなくルシファー眷属を使って指導をしてきた
「(リーアたんは絶対に勝つ、それに余興も必要だよね)」
試合終了後に鳴り止まない拍手の喝采を浴びる妹を想像したサーゼクスはルンルン気分で会場入りするが、試合開始のゴングは現実を直視するための合図であることに彼はまだ知る由もなかった
椿姫さんが原作よりもフィジカルが上昇していると思う(もちろん匙も成長しています)
ゲーム前における黒歌との接触はありません(あくまでゲーム前ですが)
サーゼクスは「余興」と言ってますがゲーム後に行います
感想ありがとうございます(おまちしてます)
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