争いは他所でやってくれ!最後は平穏無事に過ごしたい   作:大気圏突破

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闘神への兆し

我、目覚めるは

終末の日に遣わされた白日の使徒にして紅蓮の龍なり

永遠と須臾の狭間に、無量の願いと夢を抱こう

光なき覇道を往く、我、赤朱の龍神と成りて

汝を真紅に輝く道へ誘おう

 

 

 赤龍帝の発する言葉に対して真っ先に反応したのはオカルト研究部で顧問を務めるアザゼルだった。神器に封印された存在の力を強引に開放する禁じ手で『覇龍』と呼ばれる代物で、発動させれば一時的に神をも上回る力を発揮するが発動中は理性を失い暴走する。そして最後は…

 

 

「『紅赤朱の兆覇龍』」

 

 爆発的なオーラが空間を支配しサイラオーグや近くにいた悪魔たちは目を閉じてしまった。やがて段々と光が収まるのを感じた彼は瞼をゆっくりと開けた

 

 

 

「……っな!」

 

 目の前にいたのは赤龍帝の伸元だったが異様な雰囲気であり、上半身の服が破け右腕に備わっていた籠手が消失していた。しかしその体には刺青のような模様が浮かび髪の毛が逆立っている

 

「それは覇龍なのか?」

 

 幼少の頃に母から伝え聞いた内容と乖離している。身の毛がよだつような禍々しいオーラと厄災を撒き散らし宿主の生命を食らう代物だと教えられてきた。しかし目の前にいる彼からマイナスな感情が全く伝わってこない、むしろ真綿で包まれる心地良さを感じてしまう

 

「素直に教えるとでも?」

 

 

 

 しかしその視線は全く違い、睨みつけられただけで鳥肌が立ってしまい身震いをしてしまう。震えを止めようと気合いを入れて腹から大声を出して雄叫びをあげるが恐怖が吹き飛んでくれない

 

 

 

「ま〜あれだ……頑張って耐えてみな」

「なん…だと?」

「出力を落としてもまだ完全に扱えてないから制限時間を設けているんだ、下手したら暴走する可能性もある」

 

 

 嘘を口にしている様子は無い、試合が始まる前に発言した「負けるつもりは無い」という言葉は虚言・妄言・ハッタリではなく自信そのものである

 

 制限時間がどれぐらいか分からないが、攻撃に耐え続けるか逃げ続けていればガス欠に至って自滅するはずだ、耐えて…にげ

 

 

「(逃げるだと!ここまで来て弱虫のように逃げることを俺や眷属たち…それに母も望んでいない、魔王になって家柄に関係ない実力評価の世界を作る夢を叶える為に)」

 

 

 

 サイラオーグから逃げるという選択肢はゴミ箱に捨てられてしまった。魔力を持たずに産まれたことで母親と共に辺境の地へ追いやられ懸命に生きた。魔力が無いのなら肉体を鍛え上げることに全てを捧げ若手悪魔の最強格に至った

 

 血が出るほど強く握った拳から闘気が溢れて弱っていた心に喝を注入し全身に巡らせる。挑戦状を叩きつけたのに弱虫の思考に傾いてしまったことを謝りたい、だが頭を下げるのは拳を振った後にさせてもらう

 

 

「だぁあああああああああっ‼」

 

 喉が枯れるほどに叫び1番最初に習った正拳突きを最大・最速で撃ち抜く、激突した瞬間に大気は震え会場内が地震で揺れを感じた悪魔たちもいた

 

 その様子を近くで見ていたソーナは声を出すことが出来なかった。アーシアは泣いてゼノヴィアもサイラオーグから発せられる闘気に慄いてしまっているが匙と椿姫だけは平気な顔をしていた

 

 

 

「あなたたち―――」

「ノブさんなら大丈夫ですよ会長」

「…えッ?」

「よく見てください」

 

 椿姫に促されて中央にいる彼の方へ視線を向けた。確かにサイラオーグの拳は伸元の顔面を完全に捉えているが苦悶の表情を浮かべているのは攻撃を繰り出した方だった

 

 

「あっ…ぐぅ…ううぐぐぅ」

「耐えてみなって言っただろ?なんで攻撃するのかね」

 

 

 ダメージを負ったのはサイラオーグの方だった。拳は砕け手首から肩に至るまでの骨が全て粉々に砕け散ってしまい、痛みに耐え歯を食いしばって脇腹へミドルキックを放つが伸元は涼しい顔のままだ

 

 

「何を……した?」

「特に何もしていない、お前が勝手に痛がっているだけだ」

「ふざける、な!」

 

 

 砕けていない反対側の拳で同じように顔面を攻撃したが負けたのはサイラオーグの方だった。彼が言うように"何もしていない"のだ、目にも映らぬスピードで攻撃した訳でもなく特別な防御魔法を発動させてもいない

 

 

「俺の力…負けなのか」

「この場合レベル負けがしっくりするな」

 

 

 至極単純なことだサイラオーグの攻撃力より伸元の防御が上回っているだけの話だが、10のパワーを持つ悪魔が10万の防御力を持つ赤龍帝を殴れば負けるのは当然悪魔の方だ

 

 

「俺は…オレは!」

「これで攻撃したら弱い者イジメをしているように見えてしまうな」

「憐れむな、俺を…サイラオーグ・バアルを」

 

 

 

 粉々に砕けている両腕で何度も殴り続ける。拳が当たった瞬間に激痛が駆け巡るが歯が砕けるほど嚙み締めて唇の端から血が溢れ出ていた。口の中に鉄分の味が充満し気持ち悪くなっても攻撃を止めることはしなかった

 

 

「もう一度聞くが―――」

「人間のお前にとって関係の無いことだ!これは俺が成し遂げなければいけないことなんだ、俺は象徴であり続けなければならないのだ!」

 

 

 満身創痍の体で無事な部分は首から上だけだった。サイラオーグは痛む体でゆっくりと近づいて渾身のヘッドバットを叩き込むが無意味なことであった

 

 

「教えてくれ…それは『覇龍』なのだな?」

「『覇龍』はとっくに克服した。これはその先にある」

『相棒は破壊に溺れた歴代赤龍帝との対話を全て終わらせた』

 

 

 産まれた時からドライグの存在を感じ取っていた。そして小学生の頃から籠手に宿る先代たちから漏れる呪詛の言葉に耳を傾けると何分・何日・何年も互いの時間が許す限りトコトン話し合った。ブラック企業で働いていた元サラリーマンにとって呪詛よりも酷い暴言を受けてきたのだ、心なんてとっくに擦り切れている

 

 そして行き着いた答えは『理解』だった。今まで赤龍帝を宿していた者たちは寂しくて自分のことを分かってほしかったのに赤龍帝というだけで奇異の目で見られてしまった。いつしか誰かと握る手は傷つける拳に変貌してしまう。だけど伸元はその拳をゆっくり解いて固い握手を交わした

 

 

「これは歴代赤龍帝からの贈り物(ギフト)なんだ」

「ギフトだと?」

「あいにく箱の中に説明書なんて入っていなかった。だから試行錯誤しながらプレゼントの中身を組み上げていった」

 

 だから未完成を表す『兆』なのだ、そして全てが完成した時に『極』に至るはずだ

 

 

「赤龍帝…お前の名前を教えてくれ」

「駒王学園2年、石動伸元だ!」

「あぁ……しかと心に刻んだぞ石動ぃぃ」

 

 彼は最後の力を振り絞って全速力で突撃する。鍛えた拳を振るうことは出来ないが両親から譲り受けた頑丈な体が残っている。技でもなんでもない、誰でも出来るただガムシャラに突っ込むだけの体当たりだ!

 

 

「うおぉぉぉぉおおおおあ!」

 

 腹の底から声を出して伸元にぶつかるだけだった。足の爪がボロボロになって力を入れた皮膚から噴水のように血液が溢れ出す。

 

 心臓が動き続ける。全身に血が巡り味わったことのない熱さを傷ついた身で味わいながら突進をしているが、額に当てられた1本の人差し指だけで止められてしまった

 

 

「やはり、届か…ないのか」

「お前の気持ちは俺の心にちゃんと届いた」

「負けたく……ない、な」

「悪魔は長生きだろ?正式な手順を踏めば気が向いたら……やっぱ嫌だな、こんなのは」

 

 

 伸元はサイラオーグの腹に拳を叩き込むと彼は衝撃で上空に浮かび上がった。肋骨は内臓に突き刺さり吐血しながら骨が砕ける音を耳にする

 

「終わりにしようか」

『派手に見せてやれ!』

 

 相棒に促され軽く息を吐いた伸元は右手に魔力を集中させる。それは太陽のように光を輝きを放ち観客たちが見入ってしまった。そして落ちてくるサイラオーグに向けて渾身の一撃を放つ

 

 

「これが赤い一撃だ(レッド・フレイム)

 

 

 衝撃の余波で会場内の窓ガラスが全て割れてしまった。芸術家に作らせた魔王の姿を現したステンドグラスも木っ端微塵である。被害は地上だけでなく地下のワインセラーにも及びボトルが粉々となり上級悪魔の年収に匹敵する高級ワインたちが地面の栄養になるのであった

 

 

「勝者!赤龍帝…石動伸元様」

 

 

 グレイフィアのアナウンスが響き若手悪魔の挑戦は敗北という形で幕を閉じたが、ボロボロの体で倒れ込む彼の顔には悲壮感などなく満足した笑みを浮かべるだけだった

 




サイラオーグ戦の決着となりました
次話はお疲れ様会のパーティーになります(当然あの猫姉が出てきます)

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