争いは他所でやってくれ!最後は平穏無事に過ごしたい 作:大気圏突破
でも投票はありがとうございます
「会場に紛れ込ませたこの黒猫一匹でここまで来てくれるなんて、お姉ちゃん感動しちゃうにゃ〜」
和服を着崩し胸元を大きくさらけ出した女性は懐いてくる黒猫を撫でながら足音を立てずにドレス姿の小猫へ近づいてくる
「……姉さま。どういうつもりですか?」
小猫はゆっくりと後退りをしているが逃げようとはしなかった。次第に距離を詰められてしまい最終的には大きな胸に顔を埋める状態で抱きつかれてしまった
「白音を迎えにきたのにゃ」
「………っ!」
「そんな怖い顔しないでほしいにゃ」
両手で胸を突き飛ばして無理やりに距離を開けようとしたが、再び抱きしめられてしまい窒息しそうになる。小さな手のひらで背中をタップすると黒歌と呼ばれた彼女は小猫を抱擁から解放した
「私は……姉さまと」
「一昨日の試合を現地で見ていたけど、何で仙術を使わなかったのにゃ?」
「………」
その問いかけに黙ってしまった彼女はドレスの裾を強く握ってしまい拳の色が段々と変色していく、黒歌と呼ばれた女性はそれを見て優しく触れて強張っている部分を解していった
「だって、あれは……あの力は」
「暴走するかもしれないって思っているのかにゃん?」
「だってそのせいで、私は……たった独りで冷たい悪意の目で見られて、寂しくて辛いのに誰も頼ることができ…なくて」
嗚咽混じりで大粒の涙を流す妹を三度抱きしめるが今度は真綿で包み込むようにした。次第に乱れていた精神が落ち着き、赤ちゃんが母親の腕の中であやされるような感覚に陥り涙も流れなくなった
微かに残る記憶を手繰り寄せ母の顔を思い出そうする。それは懐かしくて幸せな時間で頭を撫でてくれる温かい手が大好きだった
「落ち着いた?」
「…はい……」
「少し端折るけど全部を教えてあげるね」
「出来ればトイレ休憩込みで頼む!」
「‼」
声のする方向へ視線を向けた。そこには少し息を切らした伸元と匙が立っているが腕に神器を出してはいなかった
「石動先輩と……」
「ちょっと待って!なんで俺のところで詰まるの?」
「えっと…待ってください、すぐに思い出しますので」
その発言を耳にした匙は膝から崩れ落ちて四つん這いになった。カテレア相手に共闘し一昨日は対戦相手だったのに名前を覚えてもらっていなかった。ホセ・メンドーサに負けた矢吹ジョーのように真っ白になった彼は小猫とは違う意味で涙を流している
「黒歌~、帰ろうや…っておい!赤龍帝が何でいやがるんだ」
繁みの中から会談の時にヴァーリとカテレアを連れ帰った。古代中国の鎧を纏う孫悟空の末裔の美候が如意棒を持って現れた
「この子がヴァーリをやっつけた赤龍帝?」
「そうだぜぃ、それでそこで白くなっているのが…誰だコイツ?」
何気ない言葉が匙を傷つけた。残念ながら彼の心を癒す術をここにいる4人は持ち合わせていなかった。少し遠くに放置すると切り株に座って現状を確認した
「搭城のお姉さん?」
「雰囲気や胸のサイズは全然違うけど、れっきとした姉妹だぜ」
この場で1番冷静な美候が説明してくれた。彼女は小猫の姉で『黒歌』という名前で禍の団でヴァーリチームという部隊に所属し、今日ここに現れたのは妹を連れていく為だった。元々はナベリウス家分家の上級悪魔の眷属だったが、そこの主が2人の力に興味を持ちすぎたせいで眷属ではない小猫を実験体として扱ったことをきっかけに黒歌は反旗を翻して主を殺害した
しかし世間では彼女の持つ力が暴走したことで主を殺めて妹のことを置き去りにした『はぐれ悪魔』と認定されSSランクの指名手配犯になってしまった。小猫に対し世間は「コイツも暴走する恐れがあるから処分しよう!」という風潮が主流だったがサーゼクスが守ったことで生きることを許された
「あの時は連れていくことができなかった。でも今なら帰る場所だってあるにゃん」
「テロリストの拠点だけど、住み心地は保障するぜぇ」
「だから白音はいただいて行くにゃん、抵抗するなら」
「どうぞどうぞ」
「「「えっ‼」」」
通称ウエシマ作戦が発動し3人は気の抜けた声を出してしまった。黒歌は和服が完全にはだけてしまい真っ裸を晒してしまうが小猫が乳首部分を小さな手でガードした。しばらく無言の状態が続いたが美候の咳払いで止まっていた時計が動き出す
「本当にいいのか?赤龍帝」
「だって俺が止める理由なんて無いじゃん、家族のいざこざに割って入るほど無粋な真似なんてしたくないけど」
「けど…って、何かあるのか?」
「この状態で連れ去ったらコイツの扱いって『はぐれ』なのか」
定義が若干曖昧なのだ、主人を殺害すれば問答無用で認定される『はぐれ』だが今の状況だとクッパ大王に攫われるピーチ姫だと思われてしまう
「今は姉さまのことを信じてみたいです。それに部長は口だけで」
「白音ありがとう」
どうやら小猫もリアス・グレモリーを見限る気満々だ、同じ立場で久々に会った身内から真実を聞かされたら手を伸ばすのは当然のことだ!…ふと伸元の脳内の水面に1つの石が投げ込まれ波紋がドンドンと広がっていくのを感じる
極悪な笑顔を浮かべ頭の台本に筆を走らせる。役者が足りないので彼は未だに四つん這いで固まっている匙を叩き起こして演目に加えることにした。最初は渋っていたが条件を1つ提示すると強く頷いて賛同してくれた
「何をする気だい赤龍帝?」
「美候…少し手伝ってもらうぞ!主演女優はもちろん猫魈姉妹だ」
上映開始まで時間が無い、伸元は小猫を連れて戻りパーティー会場で198階から73階まで全力疾走をしていた木場と合流し彼女を見つけて保護したことを伝えた
会場では先日行われたレーティングゲームの表彰式が行われ壇上にはソーナを筆頭にシトリー家の眷属たちが並んでいる。セラフォルーは叫びながらカメラのフラッシュを焚いて感極まって号泣していた
MVPに選ばれた椿姫にはトロフィーの他に冥界の土地が授与される。貰ったトロフィーを高々に上げると来場者たちは拍手で応えてくれた
「続きまして、サイラオーグ様に勝利いたしました赤龍帝の石動様…壇上までお越しください」
司会進行を務める悪魔が彼の登壇を促すと、モーゼの十戒のようにステージまでの道が開かれた。まるでプロレスラーの入場みたいに歓声を浴びながら壇上に立った伸元は参列した方々に頭を下げドレス姿のグレイフィアから豪華に装飾された楯を受け取った
「(あれ…指輪が)」
渡された時に彼女の左手に触れたが普段から身につけていた指輪が無くなっていたことに気づいたが口には出さなかった。彼の目と鼻の先には少しゲッソリして頬がこけたサーゼクスが立っていて額からダラダラと汗が流れ落ちていく
「サーゼクス様は『焼き土下座』以外の願いを叶えると堂々と口にしています。さて何をお求めになりますか石動様!」
司会からマイクを向けられ全員の視線が彼に集中する。アザゼルに焼き土下座をさせた赤龍帝が魔王に何を求めるのか興味津々なのだ
「会場の修繕費でカツカツみたいだから金銭はいいや」
その言葉にサーゼクスは胸をなでおろして安堵した。これで余計な出費をしなくて済むのだから、何せ修繕費を捻出する為に所有している美術品や骨董品を全部売却しても4割しか確保できなかった。しかし金目のモノ以外になると何を望むのか見当がつかない、もしかしたら『焼き土下座』のような罰ゲームの類かもしれない
「リアス・グレモリーのところにいる搭城小猫を今ここで寄越せ!」
「なっ!」
伸元の発言に会場内はざわつく、今まで勝者が敗者に対して不釣合いなトレードを求めた事例は過去に何度もあった。しかし彼はレーティングゲームに参加する選手ではないのだ、では何のために彼女を求めるのか?
「君は…発言の意味を理解しているのか?何でリーアの眷属を―――」
「発言の意味?もちろん分かっているさ、リアス・グレモリーのことが気に食わないから単純に嫌がらせのつもり」
堂々と口にした言葉を聞いて会場は盛り上がった。勝利の品を嫌がらせの為だけに求める彼を見て腹を抱えて笑っている。そしてここまで嫌われるリアスを見ながらテーブルを叩いて抱腹絶倒の大爆笑だった
「頼む…他のモノにしてくれないか、リーアの眷属だけは」
「じゃあ『焼き土下座』をしてくれるのか?それも兄妹で」
「それは…」
顔をしかめるサーゼクスを見てイニシアチブを掌握したことを実感した。彼が代替案を模索しながら悩む姿を見下していると
会場内に女性の声が響き渡る。爆笑していた貴族たちが声の主を探そうとして周囲を見渡すとシャンデリアの上にベネチアンマスクで顔を隠した和服女性が立っていた
「とぅ!」
猫特有のしなやかな動きで着地すると、ダッシュで伸元に急接近し肘を鳩尾に入れて壁際まで弾き飛ばしてしまった。彼女はサーゼクスの頭を土足で踏みつけて周囲をキョロキョロ見渡すと獲物である妹を見つけだして華麗に攫ってしまった
「匙!捕まえて」
「ラインよ!」
神器を呼び出した彼は盗っ人を捕獲するために龍脈を伸ばしたが、目測が逸れてしまい彼女ではなく後方にあるドアに繋がってしまった。匙は舌打ちしながら引っ張るとドアは開いてしまい逃亡をアシストしてしまう
木場を含めた機動力に優れた面々が小猫を取り戻そうとして追跡をしようとするが、既に2人の姿は存在せず誘拐からの鮮やかな逃亡に悪魔たちは開いた口が塞がらなかった
イメージとしてはカリオストロの城でルパンがクラリスを盗むような感じです
もちろん石動君は報酬を貰っていないのでサーゼクスへ別なモノを要求します
感想ありがとうございます(おまちしてます)
お気に入り登録もありがとうございます
誤字訂正もありがとうございます