争いは他所でやってくれ!最後は平穏無事に過ごしたい   作:大気圏突破

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放課後のラグナロク
デジタルよりアナログ


 週末の朝食は主にゼノヴィアが担当している。外が晴れていたら屋外でストレッチをした後に2人で町内を走って、帰りに早朝から開いているスーパーに立ち寄って食材を調達する。住み始めて最初の頃は大雑把に焼く・煮る・生だったがYouTubeや個人ブログを参照して人並みに調理が出来るようになった

 

 当たり前の景色であり普段と変わりない光景なのだが、テーブルには3人前の料理が配膳されている。黙々と食べ続ける少女を目にしたゼノヴィアの箸は止まったままで、皿に盛られた茹でたウインナーは来訪者によって奪われてしまった

 

 

「……おかわり」

 

 ご飯粒を頬についたまま空の茶碗を差し出し伸元は、炊飯器の蓋を開けて盛り付けて渡したが

 

 

「何しに来たんだオーフィス!」

「美味しい」

 

 無限の二つ名を持つ龍神の箸は止まることなく動き続けて再びお代わりを所望した

 

 

 

 

 

「満足」

 

 味に御満悦だったのか大きくなった腹を擦りポンポンと小気味の良い音を鳴らし終えると朝食を提供してくれた2人に対して頭を下げた

 

 

「オーフィスって、まさか?」

「あの時に俺を攫った禍の団のトップのオーフィスだ」

 

 全てを言い切る前にゼノヴィアは人工神器を取り出して構えるが、その挙動を見てもオーフィスは何食わぬ顔で食後のお茶を啜っている。流石に彼女も無防備どころか気にも留めない相手に剣を振ることが出来なかった

 

 

「次元の狭間に帰りたい、赤龍帝の力がいる」

「俺は断っただろ!」

「だから赤龍帝の承諾の返事を貰うまで粘る」

「折れるまでここに入り浸る気か?」

 

 その質問にオーフィスは首を横に振って立ち上がると、冷蔵庫のドアを開けてデザートのプリンを取り出して窓辺から音もなく飛び去っていく

 

 

「結局何だったんだアイツは」

「持っていかれた。私の…プリン…」

 

 主成分は殆ど同じなのにソーナが見せてくれた落涙とは全く違う。このままだと1週間ぐらい引きずるので自分が食べようとしていた水羊羹を分け与える

 

 涙を拭いて完全復活には至らなかったが調子を取り戻したゼノヴィアと食後のトレーニングに励みつつ、昼過ぎに訪れてきたグレイフィアたちを交え今後のことについて相談するのであった

 

 

 

 

 

「京都の文通相手?」

 

 日々の学業が終わり生徒会の仕事を済ませるとソーナを含めた眷属たちは学園地下に造られた訓練スペースで汗を流している。元々はサーゼクスが妹の為に私財を投じて完成させたのだが伸元がサイラオーグとの戦いで破壊した会場の修繕費を捻出するためにセラフォルーへ持ち掛けたところ、足元を見られてしまい想定していた金額の半分以下で売却することになった

 

 

 ソーナは初代当主が残した文献を解読しながら『閻水』の形態を長時間維持することから始め、巴柄と桃が話しかけて精神を乱れさせようとしている。この剣は持ち主の心に反応するので周囲の出来事に反応してしまうと刃の形が崩れてしまい、アーシアに指導しているグレイフィアを呼んで助力を請う

 

 

 椿姫は『戦車』の翼紗と実戦形式の模擬戦を行いながら気になったところを指摘している。シャルバとの戦闘で全く力になることが出来なかった彼女は眷属の中で近接戦を得意とする副会長とゼノヴィアに頭を下げて根本から鍛え直してほしいと頼み込んだ

 

 

「そんなテレフォンパンチが当たると思いますか」

「でもそうしないと力が…」

 

 口ごたえする彼女に対して椿姫は目の前に立つと腰の回転からの連動で繰り出したパンチで翼紗を5メートル後方に殴り飛ばしてしまった

 

「大振り=大ダメージの概念を捨て去りなさい!駒の特性を過信して防御も疎かにしない」

「………ふぁぁぁい」

「返事はハッキリと腹から言いなさい!」

 

 まさに鬼コーチの様相だ、しかし生半可なトレーニングよりも厳しくしないと実戦で生き残ることは出来ないのだ!主戦力が神器を持つ匙たちになるので敵も集中して狙ってくる。翼紗・巴柄・桃がシトリー眷属の命運を握ると言っても過言ではない、なお『兵士』の留流子はシトリー領から植物学者を呼び寄せて冥界で育つ品種を掛け合わせて新種を作り出そうとしている

 

 

 

 そしてメインアタッカーのゼノヴィアは

 

『音に雑念が混じっておる。無心で振うのだ!』

「分かりました。ストラーダ猊下」

 

 タブレット端末でヴァチカンと通信を繋ぎ、彼女の師匠であるヴァスコ・ストラーダが画面越しでダメ出しを行っている。こちらの映像が届いているのに画面内に収まらない巨漢の老人は目を閉じて伝わってくる音だけで甘いところを指摘する

 

 ハリケーンと称された元プロ野球選手はテレビ電話の無い時代に、受話器から聞こえる素振りの音だけで教え子の不調を察知して何時間も電話口の前で延々と振らせていた。凡人には分からない感覚で鈍い音ではなく刀で空気を切り裂く音がした時に合格を与えると、翌日の試合から快音が鳴り響いた

 

 

『腕力だけで振ろうとするな余計な動き剣先を鈍らせる。円運動ではなく一直線を意識するのだ』

 

 

 教会を破門されても師弟の関係は続く、手取り足取りを全て伝えるのではなく気付かせるのが重要である。行き詰ったときにヒントを与えて最後は自分の頭で答えを導き出せるようにするのが名伯楽だと思う

 

 なお匙はメンバーの中には居ない、彼はアザゼルと共に堕天使領へ向かいヴリトラのパワーアップに向けた特別メニューに取り組んでいる。帰ってくるのは暫く先であり生徒会の力仕事は伸元が代理で行っている。クラスメイトからは『よっ!次期生徒会長』と呼ばれる有様なのだ

 

 

 

 

 

「京都に駒王学園の姉妹校があって、国語の授業で『手紙を書こう』というのをやったんです」

「このIT全盛の時代にアナログな」

 

 

 訓練を遠くから眺め、隣に座るミリキャスにコンビニで買ってきた果汁グミを手渡す。終了まで時間はたっぷり残っているので彼の話相手になることにした

 

「それで…どんな子と文通してるんだ?」

「実は漢字が読めなくて、担任の先生に見せたら九重(ここのえ)って書かれていたみたいで」

 

 

 彼はランドセルの中にあったクリアファイルから封筒を取り出して伸元に見せた。そこには筆で書かれた綺麗な字で『九重』と記されている

 

 

「小学生じゃ使わない漢字があるな」

「中は読まないでください!」

 

 手紙の文面に目を通していたが顔を頭髪と同じように赤くしたミリキャスに取り上げられてしまった。大方の内容は頭の中に入っていたが漢字の他に言い回しも古風で現代では使われない表現も多数見受けられた

 

「相手は中学生か?」

「僕より年下の女の子です。この前の水曜日に届いた手紙に書かれていました」

「その言葉遣いだと、箱入り娘で相当なお嬢様じゃないのか?平安時代から貴族の血筋を持つ高貴な家柄出身だとか…写真は無いのか?」

 

 その問い掛けに彼は首を横に振って否定した。どうやら向こうは恥ずかしがり屋みたいで写真に撮られることも嫌っているみたいだ!なおミリキャスの方も京都に送っていない

 

 

「修学旅行先って確か京都でしたよね?」

「ったく、今回だけだぞ」

「いいんですか!」

 

 

 ミリキャスの言おうとしていることは分かっているので先回りして了承の返事をした。文通相手がどんな女の子か調べできてほしいという頼みなのだ

 

 旅行中は自由時間もあるし姉妹校側に事情を伝えれば分かってくれるだろう

 

 

「お前も写真を用意しておけよ」

「ありがとうございます!」

 

 

 上手くいけば互いの写真を交換出来るかもしれない、冥界では味わうことのないアナログな経験は小さい子供にとって良い刺激になるはずだ!正月の年賀状すら送らずLINEだけで済ませる世の中だがペンを握って相手のことを想いながら紙に残す文化は廃れずに残ってほしいものである

 

 

「変に着飾った写真は選ぶなよ」

「じゃあ冥界で撮ったやつはダメですね」

 

 相手のことを思いやり理解して納得してくれる。父親のサーゼクスとは大違いであり、これはグレイフィアの教育が行き届いている証拠なのかもしれない

 

 




ミリキャスの文通相手は察してください(名前は間違っていません、担任が普通に「ここのえ」と読んでしまったんです)

次の章の京都編に繋がる文通相手なのです

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