ぼくはヒロインになった   作:タンクトップ桶狭間

1 / 15
第1話 引き寄せられて

 それは唐突だった。

 

『こ、広域防護結界内部に異常発生!? これは……転移? まさかこんな戦場のド真ん中に!? 座標は結界中心部、対象の魔力反応は生物! 人です! 戦闘員は警戒を強め、目視にて対象を確認してください!』

 

 魔晶獣(ましょうじゅう)を手にする剣で斬りつけた。致命的な一撃を喰らった魔法構造体は、空気中に溶ける。

 そんな中、俺の耳に届いたのは司令室からの驚いた声。

 

「おい聞こえたかルード!? 結界内部に、しかも魔力が入り乱れてる戦場のド真ん中に転移魔法だとよ! 信じられるか!?」

 

 そして小隊長もまた、同じようなテンションで俺に話しかけてくる。

「はい、では少し離れます」

 

 だが俺には、彼らの驚きや懐疑的な考えへの共感は一切なかった。

 あるのはただ、予感だけ。

 

「おいルード!? ……珍しいな、あいつが持ち場を離れるとは」

「隊長の声がうるさすぎたんじゃないすかー?」

 

「あり得る……」

「おいお前ら……! あとで覚えとけよ……?」

 

 仲間たちの声を置き去りに、俺の胸中を支配していたのは。

 待ち侘びた日が来たという……もはや確信に近い予感だけだった。

 

 

 

 

「下手に動くなよ?」

 

「へ……?」

 

 人生の中で自分には関係ないと、あり得ないと断じていたことが起きると、人という生き物は固まってしまうものなんだな。

 

 だって…‥誰も想像したこともないはずだよね? 自分に槍の切先が突きつけられるなんて。

 

(なん……これ? どういう状況? てかここはどこ? ぼくの部屋は?)

 ぼくは確か……インフルエンザで寝込んでいたはず。少なくとも最後の記憶はそこで終わりを告げていた。

 

 仕事に行けないことを同僚に申し訳なく思っていると、抗えない睡魔に負けてしまい、意識を手放して……そこから先は存在しない。

 

(なるほどつまり、インフルエンザの時に見る、意味のわからない夢か……)

 夢というのは、眠っている間に脳みそが情報を処理する過程で見るもの。自分の見聞きした記憶がそこらに散りばめられていることも多い。

 

 でも見渡す限り、ぼくの知るものは一つも入ってこない。

 だって武装した人と、それに襲いかかる結晶でできた黒紫の獣なんて……まるで作り話の中だ。

 

「こちらB小隊、対象を確認……確かに人です。女性がいました……少なくとも魔晶獣ではないように見えます」

 

「え?」

 

 ぼくがこれを夢だと断定した直後、目の前にいる槍を持った兵士さんが、何やら耳に手を当てて報告しているように見えた。

 でもその中には少し気になることがあって……

 

 目線を少しだけ下げると、

「……わお」

 胸筋のあるべきところに、柔らかな双丘が鎮座していた。

 

 そしてチンはなくなっていた。

 触っても存在が確認できません隊長! ヤツは戦死しました!

 

「動くな……と言ったはずだが?」

「……はい!? す、すみません!」

 

 ……内心でふざけることもダメなのかな?

 

(そういえばテレビに出てた占い師さんが、夢はなりたい自分の写し鏡とかなんとか……え、ぼくって女の人になりたかったの?)

 

 驚きつつ、視線を動かしたことに、兵士さんは警戒を強めてしまった。

 夢の中とはいえ槍を向けられて切り裂かれるかもしれないと思うと……恐怖で従順になってしまう。

 

 とはいえある程度、今の兵士さんの言葉で理解できた。

 ここは間違いなく戦場。兵士さんの言葉にあった魔晶獣はきっと、あのクリスタルで作られた獣のことだと思う。

 

 そしてその魔晶獣との戦いの最中、突如現れた謎の女。

 それが敵か味方かわからないため、兵士さんは警戒心マックスでぼくを睨みつけている。

 

 

 ……だいたいこんな感じ。

 

(こちとらインフルエンザで寝込んだっていうのに、もう少し穏やかで楽しい夢でもいいんじゃない?)

 

 身体も精神も病で参っているっていうのに、なんだってこんなよくわからない夢を……せめて保育士っぽく赤ん坊を抱っこする夢とか、小さな子たちと遊ぶ夢とか……色々候補はあると思うんだけどなぁ。

 

 あ、そういえば赤ちゃんを抱っこした時に思ったかも、女の人になりたいとかちょっとだけ。

 こんな可愛い生き物を作り出す機能が自分に備わってないのかって、そんな意味不明な理屈で思ったことあったなぁ。

 

 ガキィンッ!

 そんな益体もないことを考えていると、ぼくの眼前にあった槍が真上に弾かれた。

 

「……なんの真似だ? D小隊のルード・アルファニウス隊員? 持ち場を間違えた……わけではなさそうだが」

 

「すみませんB小隊の隊長殿。でも彼女に刃を向けるのはよしてくれませんか?」

 

 そしてぼくを背に庇うように、一人の男の人が颯爽と現れた。

 太陽のような金髪を風に靡かせて、手にした剣で槍を弾いた……ぼくとそう変わらない年齢と思しき人物は。

 

 

「リリィさん……お久しぶりです」

 爽やかな笑顔をぼくに向けてきた。

 

 

 ……どちら様ですか?




感想、評価、その他諸々、いつでもどこでも歓迎ですわ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。