ぼくはヒロインになった   作:タンクトップ桶狭間

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第10話 話題のタネ

 検診に来ていた親子の前で『治癒の輪(ヒーリング・リング)』を使用した後。

 

 奥さんは、

「なんだか体の疲れが取れたような気がします……さっきの呪文はいったい……?」

 と首を傾げて。

 

「あー、おまじないだよ。ね、リリィさん?」

 ゼレーナさんはなんだか誤魔化すようにぼくに問いかけて。

 

「あうー」

 赤ちゃんはさっきより少し元気そうな声を上げた。

 

 そして当のぼくはというと、

「??」

 疑問符を頭の上に何個も浮かべていた。

 

 

治癒の輪(ヒーリング・リング)』ってなに? 

 

 なんでぼくは今それを口にしたんだろう? 知らない単語。そのはずなのに……知っていることみたいに流暢に。なんだか本能がぼくの口を勝手に動かしたような?

 

 あの指輪みたいなものはなに? ガラスの指輪だった……内側に光があって、外側のガラスが砕けて光を広げた。

 なにもわからない……けど、どこか満たされたような感覚がするのも事実。

 

治癒の輪(ヒーリング・リング)』。

 今さっき、確かにぼくの口から出てきた言葉。

 

 知らないはずなのに、知っている。わからないはずなのに、理解している。

 まるで、誰にも教わっていないのに泳げる魚のよう。誰にも教わっていないのに空を飛べる鳥のよう。

 

 それが当然であるかのように、ぼくの口は滑らかに音を発していた。

 そして同時に理解する。この治癒の輪(ヒーリング・リング)がぼくを構成する、重要な核であることを。

 

 ひどく本能的な直感なのに、なぜか否定できない確信を含んでいた。

 

 そして『治癒の輪(ヒーリング・リング)』を持っているがゆえに、ぼくは今後大きな役割を果たしてゆくことになる。

 

 〜〜〜〜〜〜

 

「彼女は先日、魔晶獣(ましょうじゅう)との戦闘の最中、広域防護結界の内部に転移してきた人物であり……」

 

 翌日。ぼくの横でミム大隊長が説明をしている。並んで座るぼくとミム大隊長、ゼレーナさんに第一発見者の隊長さん。あとぼくを駐屯地に連れてきたルード隊員。

 

 その目の前にはずらりと並んだ報道陣。

 

 ゼレーナさん曰く、昨日病院でぼくが出した『治癒の輪(ヒーリング・リング)』は希望(ホープ)と呼ばれる異能に間違いないらしい。

 

 希望(ホープ)は多種多様ではあるものの名称が分かりやすく、その名に一切の嘘を含まない。名前通りの能力を発揮することがわかっている。

 ぼくの能力はきっと、あの光が当たる範囲内の人を癒すものなんだろうという予測もできた。

 

 そして攻撃魔法を妨害するための結界内部で使用できたことから、『治癒の輪(ヒーリング・リング)』の安全性は結界そのものが保証しているということになる。

 

 問題はここから。

 

 ぼくの戸籍登録は、役場で噂になったらしい。

 成人済みに見える女性が戸籍登録をしたら、そりゃみんな不思議に思うだろう。

 

 それでもそこで終わるくらいだ。町の中で噂になる程度。

 だが加えて、病院の中で希望(ホープ)を使ってみせ、それをあの場に居合わせた人全てが目撃したとなれば話は変わってくる。

 

 希望(ホープ)を持つ人は少ない。珍しいからこその異能。

 昔と比べれば人口が増えたこともあってか希望(ホープ)持ちの数も増えたけど、それでも希少価値には変わりない。

 

 その上で、ぼくの希望(ホープ)は歴史上に存在しないらしい。

 

 希望(ホープ)には多くの種類がある。

 

 伝説の勇者が持っていたとされる『剣王(ソード・ロード)』。吸血種に発現する『血統銃術(ブラッド・バレット)』。脚力を底上げする『バネ仕掛けの脚(スプリング・スプリント)』。

 

 他にもたくさんある。それこそ希望(ホープ)の研究も存在するほどに種類は多く、遺伝子やらに左右される要素はあるけど、そのどれもが歴史上に必ず二人以上の所有者がいた。

 

 でも『治癒の輪(ヒーリング・リング)』は違う。過去に存在したとされる希望(ホープ)の、いずれとも一致しない現状唯一の例外になるらしい。

 少なくとも希望(ホープ)の研究者によるとそうらしい。

 

 ゼレーナさんが誤魔化すように話していたのはこれが理由だった。

 ぼくが希望(ホープ)持ちであることは特殊な目の能力で知っていたけど、その中身までは知ることができない。

 

 だから興味深そうに聞いてきたけど、それが歴史上に存在しない能力だとは微塵も思っていなかった。

 

 

 ここまでの流れを整理すると。

 まず、身元不明の成人女性が役場で戸籍登録をした。魔力形認証には該当者なし……つまりデータベースに存在しない人物だったことも付け加えておこう。

 

 そしてそんな謎の女性が、病院内で人目につく場で希望(ホープ)を使用したうえ、それが歴史上に所有者のいない新種の能力だった。

 

(……うん、これは確かに特大の話題性を持った人物だね)

 

 そして今、ミム大隊長の発言によって、過去から来た人物だというトッピングまで乗ってしまった。

 

 報道に関わる人間にとって、ぼくほど美味しそうに見える人物はいないだろう。

 例えるなら、子どもにとってのお子様ランチ。学生にとっての大盛り定食おかわり無料。

 

 飢えた狼の群れに見せびらかされた、最高級ステーキ肉。

 それが報道陣、記者さんから見た時のぼく。

 

(……なんかお腹空いてきちゃった)

 

 たとえが良くなかったかな。なんて思いつつも、ミムさんとゼレーナさんが報道陣に説明をしている。

 

 すごく助かる。本当に。

 もしぼく一人だったらまともに話せる自信がない。

 

 感謝を抱きつつ、報道陣への説明を終えて解放されるまで、かなりの時間を要した。

 

 ……疲れた。

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