ぼくはヒロインになった   作:タンクトップ桶狭間

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第13話 旅を

 司令室へ着いたぼくたちを迎えたのはミム大隊長の言葉。

 

「リリィさんへの要請がまとめられたわ」

 それは『治癒の輪(ヒーリング・リング)』の効果を調査した時から言われていたことだった。

 

 治癒魔法は肉体を治療することに特化した魔法。

 効果範囲や再生速度、諸々が突出している『治癒の輪(ヒーリング・リング)』ではあるけど、怪我を治すという結果だけを求めるなら、普通の治癒魔法でも事足りる。

 

 重要なのは精神体への作用だった。

 現代に至るまで、精神体とその体内を巡る魔力を治癒する魔法や技術は存在しない。そのため、精神体に症状が表れる類のものは、その多くが対処のしようがなかった。

 

 基本的に精神体に異常が表れる事態になれば、治療は困難。それがこの世界の常識だ。

 

 でも唯一の例外になったのが、ぼくの『治癒の輪(ヒーリング・リング)』。

 肉体と精神体の両方に治癒を施すことが判明したから、今まで手の打ちようが無かった精神体疾患への効果が期待されている。

 

 精神体は魔法学的に存在が認められてから、数百年が経つ。だけどいまだに謎は多く、いわばブラックボックス。だから精神体疾患の多くは、症例が少ないこともあって、いまだに不治の病とされている。

 

 その不治の病に対して効果を発揮するかは、まだわからないけど……それでも精神体に作用する希望(ホープ)として、研究者やお医者さんに広く認知されたぼくの『治癒の輪(ヒーリング・リング)』。

 

『……という事情で、世界各国から精神体疾患への治療依頼が舞い込んでくるだろうね』

 とゼレーナさんが話していた通りになった。

 

 そんなこんなでぼくはいろんな町へ行って、精神体疾患を持つ患者さんを治療することになった。

 ミムさんが言うには、各地にある転移装置の使用も可能になるそう。ぼくは現状、世界一貧弱な純血の人族だし、襲撃するのも誘拐するのも難しくない。

 

 そうした事情から、世界最弱のぼくを守りつつ各地の病院のもとへ連れて行くため、この町の戦闘員から精鋭を集めて、部隊を編成することになった。

 

 ちなみに肉体に魔力を纏う『闘気術』。戦闘員さんが当たり前に使っている魔力操作技術で強化しても、ぼくの身体能力はこの世界における高校一年生の平均を下回った。うそ、ぼくの体、弱すぎ……?

 

「ということで、入りなさい」

 

「はーい!」

「……うす」

 

 ミム大隊長の言葉に呼応して、二人の男女がぼくの前に並ぶ。

 

「うち、ハクアって言います! たまに見たことはあるけど、こうして話すのは初めましてですね!」

 

 元気な声の成人女性……だよね? 見た目には小さな子どもにも思えるけど……軍人ってことはある程度の年齢ではあるはず。

 

 ハクアと名乗った身長の低い女性には、エルフっぽい耳もないし、鬼人や龍人のような角も見当たらないから、あまり人族と変わらないように見える。ただ一点、腕が翼であることを除いて。

 

 最初は町で見て驚いてたけど、鳥人種の翼だ。確か第二大隊には、鳥人の特徴を持つ戦闘員だけで構成された空戦部隊があるって、ゼレーナさんが言っていた。たぶん彼女の所属はその部隊だ。

 真っ白な翼の先端にある五つの羽根が、人の五指のように動いていて面白い。実際の鳥とは異なる動きだ。

 

「ほらコクト君もちゃんと挨拶して!」

「……わぁってるよ」

 

 小さなハクアさんが、横に立つ大きな男性に声をかける。

 二人の様子から、互いに近しい関係性を匂わせてくる。なんだかとても親しげだ。

 

「俺ぁコクト。よろしくお願いします……」

 

 コクトと名乗った長身の男性。黒い髪が長くて目元が見えづらいけど、チラリと見えた目尻は鋭く、ぶっきらぼうな話し方も相まって不良みたいだ。

 でも……

 

「ウサ耳……」

 頭部に生えた大きな耳が、彼の近寄りがたい雰囲気を緩和している。……というかチグハグと言うべきだろうか。

 

 獣人種の兎の特徴が出ているんだろう。数多ある獣因子の中で、どの動物の特徴が顕在化するかはランダムなんだっけ。

 

 コクト君の耳を見ながら獣人の特性を思い出していると、ミム大隊長が口を開いた。

「ここに集まった戦闘員……ルード隊員、ハクア隊員、コクト隊員、リリィさんを含めた四人が一部隊になって行動するわ」

 

 年齢や実力などを加味した上でこの人選になったのだと言う。

 確かに年齢が近い方が接しやすいというのはわかるし、ぼくらよりも年上となると家庭を持っている可能性も出てくる。どう足掻いても長期出張になるだろうこの旅路に、そうした人を連れて行くのはたぶん難しい。

 

 大隊所属の小隊は確か十人程度だったはず。それよりも人数が少ないのはいわゆる少数精鋭というのが理由かな。

 

「リリィさん、この三人は全員があなたと同じ希望(ホープ)持ちよ。各地の病院に行って患者さんを治してはい次の町へ…‥ってわけにはいかないわ。経過観察もあるし、最低二週間はその地に滞在することになる」

 

「魔晶獣はいろんな町に出てますから、うちらはその助っ人として、二週間はその町の駐屯地にお邪魔することになります! もちろん、リリィさんも軍所属の治癒師ですから、一緒に頑張りましょうね!」

 

 ミム大隊長の言葉に、ハクアさんが付け加える。

 どうやらぼくの仕事は、病院で精神体疾患の患者さんに『治癒の輪(ヒーリング・リング)』を使うだけじゃないらしい。

 

 とはいえ魔晶獣掃討作戦を終わらせた戦闘員さんや、その治療に当たっていた治癒師の方々に、『治癒の輪(ヒーリング・リング)』を使うくらいかな。

 

 戦いの最中に緊急性の高い負傷をした戦闘員がいたら、その限りじゃないだろうけど。

 とはいえある程度は話が理解できたかな。

 

 これからこの四人で精神体疾患持ちの患者さんがいる町へ向かう。

 患者さんに『治癒の輪(ヒーリング・リング)』を使った後は、二週間ほどその町の駐屯地に滞在。

 

 その間は派遣軍人のような形で、魔晶獣掃討などを手伝うことになる。

 だいたいこんな感じ。

 

「それじゃあ出発は一週間後、転移する町は各自、手持ちの炉器(ロキ)を確認して。これで伝えたいことは終わりよ、解散」

 

 ミムさんの言葉で、ぼくたちは司令室から退出した。

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