ぼくはヒロインになった   作:タンクトップ桶狭間

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第14話 黒ウサギと白カラス

 ミムさんが言っていた炉器(ロキ)は、ぼくが今持っている多機能魔道具……確か正式名称は「魔力炉(まりょくろ)変形式(へんけいしき)多機能魔器(たきのうまき)」のこと。

 

 すごく長い名前から二文字取って、炉器(ロキ)って呼ぶのが普通なんだそう。

 面倒臭い説明を省いてしまえば、ぶっちゃけスマホだ。

 

 

 

 この世界で魔法と言えばなに? という問いを投げかけたとして、百人が百人とも同じ答えを口にするだろう。

 

『図式魔法』と。

 

 それは意味のある図形を組み合わせて描き出すことで、まるでスタンプでも押すかのように一瞬で魔法を使えるもの。

 一例として、火の玉を飛ばす基本の攻撃魔法『火球』は、『火』『球体』『射出』の三つの図形を組み合わせて発動する。

 

 魔法と言えば呪文があって、魔法陣が描かれて……っていうのがぼくのイメージだったけど、そういうのはもう何百年も前に使わなくなってしまったみたい。

 

 一応、旧式魔法とか古代魔法とかの研究があるから、潰えてはいないみたいだけど……魔法と言えば図式魔法が一般的。

 

 そして図式魔法が一般的になってから、魔道具は一気に進化した。

 第一次産業革命。歴史の教科書にもあるらしい。

 

 呪文を唱える詠唱魔法を物体に宿して魔道具を作り出す工程は、すごく複雑だったらしいけど、図式魔法はそれを覆した。

 

 魔力が浸透しやすい材料に、魔法図を書き込むだけ。

 単純で素早く、なにより効率的。魔道具はより小さく、機能的に進化した。

 

 そして生み出されたのが、魔器(まき)

 ぼくらにとっての家電みたいな感じかな。馬車が自動車に進化した…‥みたいなイメージ。

 

 そんでもってこの炉器(ロキ)は、魔力線で描かれた魔法図が変形することで、いろんな機能が使える優れもの。

 

 通話や通信、カメラ機能などなど……本当にスマホと変わらないほど、たくさんの機能が詰め込まれている。

 

 しかも小さいなんてものじゃない。

 今ぼくの左腕につけているチェーンタイプのブレスレット……にくっつけられた宝石みたいな飾り。

 

 これがこの世界のスマホ、炉器(ロキ)だ。

 見た目には小さめの飴玉サイズの宝石。だけどこの小さな飾りに、この世界における魔法技術がこれでもかと詰め込まれている。

 

(最初に見た時はすごく感動したっけ)

 などと考えていると、一緒に部屋を出たハクアさんがぼくに話しかけてくる。

 

「リリィさん! ちょっと前にニュースになってたのって本当ですか!? 過去から来たとか、記憶があんまりなくて困ってるとか、他にもいろいろ気になってて!」

 

 ……というかそれは話しかけるというより、質問攻めと言った方が正しいような感じだった。

 

 彼女に抱いていた「元気で活発、明るく社交的」という第一印象に、「物怖じせず、好奇心旺盛」が付け加えられた。

 悪く言えば無遠慮だけど、小さな身長と可愛い見た目がそれを打ち消している。女は愛嬌ってやつ? ちょっと違うかな?

 

 とはいえ怒涛の質問攻めに驚いていると、彼女の背後から這い出た黒い影がそれを制した。

「……ハクア姉、一個ずつ質問してあげろよ……困ってるだろ。すいません……こいつ遠慮ってのがなくて……」

 

「こ、こいつ!? コクトくん? うちの方がお姉さんなのに、そんな言い方したらダメなんじゃないですか?」

「ならお姉さんらしく……少しは落ち着けよ」

 

 たぶんこの二人、とても仲良しなんだろう。

 それがすぐに察してしまえるほど、ハクアさんとコクトさんのやり取りは親しげだ。距離感が近いというか。

 

「はーわかんないかー、コクトくんにはうちの溢れ出るお姉さんパワーが伝わらないかー」

「そんな謎パワー、わかってたまるか」

 

「ならわからせてあげます! お母さんに褒められた、膝枕と耳かきの技術で!」

「それ……ただの親孝行だろ。つかお姉さんのイメージが幼稚……」

 

「幼稚!? うちのどこが幼稚なんですか!?」

「外見と……内面?」

 

「それ全部じゃないですか!?」

 

「……ふふふ」

 突如始まった漫才に思わず笑い声が漏れてしまう。すると今度はぼくの背後から声が届いた。

 

「二人は幼馴染なんです」

 ルード君の言葉には、少し羨ましそうな感情が隠れているように思えた。

 

(確かに、あれだけ親しい人が同じ職場にいるのは羨ましいかも。毎日楽しくなりそうだし)

 

「もう謝っても許してあげませんよ! そこまで言うなら、うちの膝枕と耳かきをとくと味わってもらいますからね!」

 

「じゃあ手料理と添い寝も、トッピングしてもらっていいか……?」

「いいでしょう! なんなら映画鑑賞まで一緒に……って、誰が通い妻ですか!?」

 

「言ってねえ……」

「じゃあうちと漫才するのもこれまでですね! これからは夫婦漫才になりますから!」

 

「妻になるの乗り気じゃねえか……!?」

「じゃあコクトくんはうちと漫才するの、乗り気じゃないんですか……?」

 

「だったらこんな風に楽しく漫才してねえだろ……」

「えへへぇ……」

 

 漫才を見ていたぼくとルード君の口から同時に笑い声が出たことが、幕を下ろす合図になった。

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