ミムさんが言っていた
すごく長い名前から二文字取って、
面倒臭い説明を省いてしまえば、ぶっちゃけスマホだ。
この世界で魔法と言えばなに? という問いを投げかけたとして、百人が百人とも同じ答えを口にするだろう。
『図式魔法』と。
それは意味のある図形を組み合わせて描き出すことで、まるでスタンプでも押すかのように一瞬で魔法を使えるもの。
一例として、火の玉を飛ばす基本の攻撃魔法『火球』は、『火』『球体』『射出』の三つの図形を組み合わせて発動する。
魔法と言えば呪文があって、魔法陣が描かれて……っていうのがぼくのイメージだったけど、そういうのはもう何百年も前に使わなくなってしまったみたい。
一応、旧式魔法とか古代魔法とかの研究があるから、潰えてはいないみたいだけど……魔法と言えば図式魔法が一般的。
そして図式魔法が一般的になってから、魔道具は一気に進化した。
第一次産業革命。歴史の教科書にもあるらしい。
呪文を唱える詠唱魔法を物体に宿して魔道具を作り出す工程は、すごく複雑だったらしいけど、図式魔法はそれを覆した。
魔力が浸透しやすい材料に、魔法図を書き込むだけ。
単純で素早く、なにより効率的。魔道具はより小さく、機能的に進化した。
そして生み出されたのが、
ぼくらにとっての家電みたいな感じかな。馬車が自動車に進化した…‥みたいなイメージ。
そんでもってこの
通話や通信、カメラ機能などなど……本当にスマホと変わらないほど、たくさんの機能が詰め込まれている。
しかも小さいなんてものじゃない。
今ぼくの左腕につけているチェーンタイプのブレスレット……にくっつけられた宝石みたいな飾り。
これがこの世界のスマホ、
見た目には小さめの飴玉サイズの宝石。だけどこの小さな飾りに、この世界における魔法技術がこれでもかと詰め込まれている。
(最初に見た時はすごく感動したっけ)
などと考えていると、一緒に部屋を出たハクアさんがぼくに話しかけてくる。
「リリィさん! ちょっと前にニュースになってたのって本当ですか!? 過去から来たとか、記憶があんまりなくて困ってるとか、他にもいろいろ気になってて!」
……というかそれは話しかけるというより、質問攻めと言った方が正しいような感じだった。
彼女に抱いていた「元気で活発、明るく社交的」という第一印象に、「物怖じせず、好奇心旺盛」が付け加えられた。
悪く言えば無遠慮だけど、小さな身長と可愛い見た目がそれを打ち消している。女は愛嬌ってやつ? ちょっと違うかな?
とはいえ怒涛の質問攻めに驚いていると、彼女の背後から這い出た黒い影がそれを制した。
「……ハクア姉、一個ずつ質問してあげろよ……困ってるだろ。すいません……こいつ遠慮ってのがなくて……」
「こ、こいつ!? コクトくん? うちの方がお姉さんなのに、そんな言い方したらダメなんじゃないですか?」
「ならお姉さんらしく……少しは落ち着けよ」
たぶんこの二人、とても仲良しなんだろう。
それがすぐに察してしまえるほど、ハクアさんとコクトさんのやり取りは親しげだ。距離感が近いというか。
「はーわかんないかー、コクトくんにはうちの溢れ出るお姉さんパワーが伝わらないかー」
「そんな謎パワー、わかってたまるか」
「ならわからせてあげます! お母さんに褒められた、膝枕と耳かきの技術で!」
「それ……ただの親孝行だろ。つかお姉さんのイメージが幼稚……」
「幼稚!? うちのどこが幼稚なんですか!?」
「外見と……内面?」
「それ全部じゃないですか!?」
「……ふふふ」
突如始まった漫才に思わず笑い声が漏れてしまう。すると今度はぼくの背後から声が届いた。
「二人は幼馴染なんです」
ルード君の言葉には、少し羨ましそうな感情が隠れているように思えた。
(確かに、あれだけ親しい人が同じ職場にいるのは羨ましいかも。毎日楽しくなりそうだし)
「もう謝っても許してあげませんよ! そこまで言うなら、うちの膝枕と耳かきをとくと味わってもらいますからね!」
「じゃあ手料理と添い寝も、トッピングしてもらっていいか……?」
「いいでしょう! なんなら映画鑑賞まで一緒に……って、誰が通い妻ですか!?」
「言ってねえ……」
「じゃあうちと漫才するのもこれまでですね! これからは夫婦漫才になりますから!」
「妻になるの乗り気じゃねえか……!?」
「じゃあコクトくんはうちと漫才するの、乗り気じゃないんですか……?」
「だったらこんな風に楽しく漫才してねえだろ……」
「えへへぇ……」
漫才を見ていたぼくとルード君の口から同時に笑い声が出たことが、幕を下ろす合図になった。