第1話 異常あり
そしてさらに二週間が経った。
セルムの町を旅立ってから一つの町を巡り、精神体疾患を持つ患者さん二人を治療した。
治療結果は完治。経過観察にも異常はなく、患者さん本人からもご家族友人からも感謝を伝えられ、ぼくの『
特に期待されていた精神体への作用が有用だとわかったことで、ぼくの異能の価値は跳ね上がったと言ってもいい。
このことはすでにニュースになっている。ぼくのプライバシーというものは尊重されないのか……とは思いつつ、実際隠し通せる物でもなさそうだし仕方ない。
今まで対処のしようがなかった病気に対しての特効薬。端的に言えばそれがぼくの能力への印象だから。
それに元はと言えばセルムの町で、魔晶獣との戦いの最中に飛び込んだのが原因だし。
何はともあれ、ぼくの
『
ぼくの前には一つの問題が立ちはだかっていた……
それはぼくに起因する、特殊な事情のせいだ。
ことの始まりは「第一級魔法師資格」を取ろうとしたこと。今後も治癒師として活動するなら、戦場でも活動できた方が何かと都合がいい。
以前はその資格なしで戦場に張られた広域防護結界の中に入ってしまい、結構しっかりと注意されてしまった。
けど、これから先もあの時のような不測の事態が起きないとも限らない。そしてぼくの『
そうならないために、戦場に行ける「第一級魔法師資格」を取っておいた方が今後のためになる。っていう話を小隊の四人とした。
だけど……ぼくはとある系統の魔法が使えないことが発覚した。
それが攻撃魔法。火球をはじめとした攻撃手段として使える魔法が軒並み使えなくて、魔法図を描き出しても「ぽすっ……」というなんとも情けない音とともに、魔力が霧散するだけ。
他の魔法はどんなに高度な物でも使えるだけに、ここにはみんなが疑問を抱いていた。
ただぼくには……一つだけ心当たりがあった。
小学生の頃、ちょっとだけ空手を習っていた時期があったんだ。
小さな男の子ならみんな憧れる、強くて格好いいヒーローを夢見て始めたんだけど……ぼくはそんなに時間もかからずにやめることになった。
なぜならぼくは、誰かを殴ったり蹴ったりすることができなかったから。
目の前の人を攻撃する。そう意識した瞬間、どうしても力が抜けてしまい、まともに攻撃できない。繰り出せるのは、撫でるような突きと蹴りのみ。
そんな人間が格闘技を習う意味なんてないし、ぼく自身もそう思って辞めてしまった。
心と意思を司るのが精神体。そこに流れる魔力はきっと、心の在り方を反映するんだと思う。
どうしても他者を攻撃できない。そうしたぼくの精神が魔力に影響していて、攻撃魔法を発動する瞬間に霧散してしまう。
攻撃魔法が使えない理由はきっとこれだと思う。
だけど、一応対外的には記憶喪失中の身としてはそんなことを打ち明けられるはずもなく。
あくまで仮説の範疇であり確証はないとはいえ、みんなに攻撃魔法を使えない理由は伝えられなかった。
とはいえ戦場に行ける治癒師が「第一級魔法師資格」を取る理由は、戦闘行為のためじゃなくて自衛手段のため。攻撃魔法が使えない、迎撃手段がないというのは確かに痛手ではあるけど、資格を取ること自体には問題はない。
そうして資格を取るための勉強をしているとき、不意にハクアさんが声をかけてきた。
「リリィさん! 明日は買い物に出かけませんか?」
と、それはもう声に炭酸でも混ぜているのかと思うほど、弾ける元気を多分に含ませて。
彼女の纏う勢いに押されて、ぼくがひねり出せた答えは短く、
「は、はい……」
という二文字だけだった。