「ふぃ〜、良い仕事をしました! リリィさんは結構身長もあるので、うちが似合わない服も着れちゃいますね! ってあれ? どうして疲れてるんですか?」
「あ、あはは……ちょっと人の多さに当てられて……」
女子の買い物に付き合うのは疲れる。それは嫌ってほど知ってるし、なるべく態度に出さないようにはしてるけどやっぱり疲れた。
ただの付き添いと着せ替え人形じゃ負担は桁違いだね。女性の服が……というよりもこっちの方が負担が大きい。
「お疲れ様っすリリィさん……」
「ハクア、ちょっとくらい遠慮しとこうか? リリィさんは現代の文化に不慣れなんだ。気遣ってあげた方がいい」
コクトくんがぼくを労い、ルードくんがハクアさんに注意する。
(ルードくんは同い年と年下にはタメ口なんだよな……なんか親しげで羨ましい)
ハクアさんはみんなに敬語だから違和感ないけど……ルードくんの敬語は年上とかに使う感じで、言ってしまえば距離を取ってるような気がする。
(よし……ここはちょっとだけ、ふざけちゃおうかな?)
少し雰囲気を和ませれば、ぼくもこの三人の輪の中に入れる気がする。
そうと決まれば善は急げ。さっそく仕掛けよう。
「買い物できるお店も多いけど、人も多くて下手に動くとすぐ迷子になりそうだね。疲れるのは人の多さもやっぱりあるよ」
まずはなんてことない会話から始めてみるかな。
「そうですね。リリィさんは目立ちますから、周囲の視線も疲れる要因になるかも……」
と、ルードくんがぼくの声に返答してきたタイミングを見て、追撃をしてみる。
「私も『
突然の問いかけに、ルードくんは「えっ?」と不意をつかれた表情を見せた。
「ほら、服装が変わってるでしょ? それにこの髪型もハクアさんがしてくれたんだよ? どうかな?」
さっき買った服と、それに似合うようにとハクアさんがアレンジしてくれた髪型をアピールしつつ、ぼくはさらに言葉を重ねた。
今のぼくの容姿は、ルードくんが小さい頃に会った憧れのお姉さんとそっくりらしいし、良い反応がもらえそうだ。
(それになにより……ルードくんみたいな真面目な人はからかい甲斐があるからね)
なんて、ちょっとだけ言葉にするのは憚られるような考えをしていると、ルードくんがぼくの体を見る。
「あ、あの……えーと……その……!」
そしてそれは予想通りあたふたした様子で、目線はあちらこちらに行ったり来たり。
慌てたルードくんは次の言葉を必死で探しているけど、その成果は芳しくないみたいだった。
期待通りの、いや、期待以上に良い反応を見せてくれたルードくんに、ぼくから助け舟を出しておこうかな。流石にここから追撃しちゃったら「からかい」じゃなくて「意地悪」になっちゃうし。
「あはは! 良いリアクションだね。いいよ、無理に言葉にしなくても……」
と声をかけている最中。
「いえーい! ゲームコーナー行ってくるー!」
「こ、こら! 走らないの!」
という、よくある親子の会話とともに、走り出す男の子がルードくんにぶつかって、
「うおわっ!?」
ルードくんが前方に倒れそうになり、
「きゃっ!?」
彼の眼前にいたのは、新しい服と髪型を見せびらかしていたぼく。
必然、倒れる寸前のルードくんを支えるような形になる。
そして距離感が悪かったのか、それとも身長差のせいか。
ルードくんの顔面が、ぼくの胸に埋まっていた。
それはもうすっぽりと、そうなるように設計されたのかと思うほどに、シンデレラフィットしていた。
……
…………
「すすす、すみません!」
そんな現状を驚きのせいか遅めに理解したルードくんが、海老のような動きで背筋を伸ばして姿勢を正す。そしてすぐさま謝罪を口にした。
ここで「気にしなくていいよ」と言うのは簡単だ。だがそれじゃあ面白みがない。何よりついさっきルードくんをからかった手前、謝られても困るのが本音だ。
そして「不可抗力だから」も無難すぎる。ここでウィットに富んだコミカルな返事をすれば、ルードくんが感じているだろう申し訳なさを軽減しつつ、ぼくらの友好関係を進展させられるはず。
この間わずか0,2秒。
そうしてぼくのIQ152(自称)の頭脳が、辿り着いた答えは……これだった。
「きゃ、きゃー……ルードくんのえっちー……なんて」
………………
(やっべ、ミスった?)
周囲の沈黙にぼくが焦りを感じ始めた時、どこからか声が聞こえた。
「あ、あれは『ラキスケの女神』……!?」
「知っているのかい婆さんや……?」
「爺さんや……あの子が今したのは、不可抗力のスケベ行動を許すばかりか、茶目っ気を交えた返事をすることで相手に罪悪感を感じさせない高等テクニック……! それに恥じらいを隠しきれていないぎこちなさ……きっと無意識のうちにあの領域に足を踏み入れたのね……!?」
「ほー、婆さんは本当に物知りじゃのう……」
「寛容さ、包容力を見せつつ、しかし乙女の恥じらいもまたちらつかせる……私があの技を会得したのは10代後半……けれど初めての発動であれほどの威力は、私でも成し得なかったわ。あの子こそ、新時代のヒロインね……!」
「わしにとっては婆さんが世界一のヒロインじゃよ……」
「もう、爺さんったら……♡」
……
((((なんだったんだ、あの夫婦は……?))))
その時はじめて、ぼくたちの心が一つになった気がした。
こうしてぼくは新時代のヒロインになった……らしい。
(でもこれだと、ちょっとエッチなコメディ漫画のヒロインじゃないかな!?)
というツッコミを口に出すのは、なぜか憚られた。