ぼくはヒロインになった   作:タンクトップ桶狭間

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第5話 コミュニケーション

「あはは、なんだかあの二人がいると雰囲気が良くなるからすごいね。楽しくなるよ」

 本心からそう思つつルードくんに話しかけると、彼はぼくの顔を真っ直ぐに見つめてきた。

 

「そうですね……リリィさん、改めてさっきはすみませんでした」

 一瞬何かと思ったら、さっきのラッキースケベに関する謝罪を改めてしっかりとしてきて……びっくりしてしまった。

 

「なんでまた謝るの? 大丈夫、気にしてないって」

「たとえ不可抗力だとしても……ああ、いえ。こういうのも言い訳ですね。どんな事情があっても男の俺が女性であるリリィさんの胸に触ったのは事実ですから。しっかり謝らないと、と思って」

 

 そこまで話してみて、やっとぼくは気付いた。

 ルードくんがぼくをちゃんと女性として扱ってるという事実を。

 

 さっきの「きゃー、ルードくんのえっちー」という発言にくっついた恥じらいは、つい最近まで男だったぼくがヒロインっぽいリアクションをすることに対してのものだ。

 要するに「男として恥ずかしい言動」をしたことに対しての羞恥。

 

 男という性別に執着はないけど、男として生きてきたっていう事実、そして価値観はすぐに消え去るわけでもないみたい。

 

 でもルードくんにとっては「不可抗力だから強く拒絶できない。でも女性としての恥じらいはある」という女性としての反応に見えてしまった様子。

 

 だからルードくんは「改めて誠意を示しておかなければいけない」と考えたんだろう。

(ルードくんはすごく真面目な人だとは思ってたけど、これはなかなかだね)

 

 と同時に、

(……めんどくさ)

 とも思ってしまう。

 

 だって今後ぼくがどんなにふざけてみせても、ルードくんはクソ真面目に受け取ってしまい、ぼくのことを「繊細な女性」として扱ってしまう。割れ物を扱うかのように気を遣ってしまうということ。

 

 気を遣わせるのも嫌だし、「いちいち誠意を示さないと関係性を保てない人」と思われるのも本意じゃない。

 

 なにより、面倒くさい女扱いみたいで、ぶっちゃけ嫌だ。これもぼくが憧れのお姉さんに似てるからなのかな?

 

(まー、こういう反応をやめさせる手っ取り早い手段がないわけでもないけど……)

 

 やっちゃうか。やっちゃおう。

 この間わずか0,2秒。

 

 ぼくはすぐさま行動した。

「えい」

「り、リリィさん!? なにを!?」

 

 ぼくはルードくんの頭を両手で掴んで、さっきの行動を繰り返す。

 すなわち、ハグだ。

 

 ルードくんは驚きつつも、振り払おうとはしなかった。

 ぼくがケガをすると危惧したのかな? 優しいのは好印象だね。

 

 なんて考えていると、ルードくんの口から声が飛び出してくる。

「リリィさん!? なんでこんなことを……!?」

「私は気にしないでって言ったのに、ルードくんが気にするからだよ」

 

「なっ!?」

「わかったら謝らないって約束できる? できるなら離してあげるよ」

 

 胸元で話されるとちょっとくすぐったいなと思いながら、ルードくんに和平の条件を突きつける。

 すると答えはすぐに返ってきた。

 

「わかりましたから、早く離してください……!」

「よーしオッケー」

 

 ぼくが両手を離すと、ルードくんの頭部は射出された弾丸と錯覚するほどの速度で離脱して、距離を取る。

 流石は戦闘員。危機からの脱出が素早いね。

 

 感心していると、ルードくんが口を開く。

「ど、どうしてこんなことをしたんですか? 謝ることはダメなことじゃないと思うんですが……」

 

 またも真面目な顔をして言い放つルードくんに、ぼくは少し呆れつつ声をかけた。

「それはそうだけど、私はルードくんを責めるようなことを言ったかな?」

 

「い、いえ……」

「相手が冗談めかして返事をしたなら、冗談で返すのがコミュニケーションだよ。……まあ、ちょっと恥ずかしがったのはこっちの責任だけど」

 

 誠意には誠意で返す、冗談には冗談で返す。これがコミュニケーションの基本だ。

 じゃんけんに例えれば、常にあいこを繰り返すような感覚。

 

 要するにルードくんはぼくの冗談(グー)に対して、誠意(チョキ)を出しちゃったから会話(じゃんけん)が終わっちゃったんだ。こういうのは続けるのが大事。

 

 会話が苦手な人が話をぶった斬ってしまうのは、大抵の場合こういう原理。

 そうした説明をしつつ、最後に提案してみる。

 

「ハクアさんが冗談混じりに私の胸に抱き着いたのが良い例かな。あれは同性だからできることだけど……ともかく、誠意を求めてない相手に謝ったり、過度に気遣うのはやめてほしいな。せめて私相手の時は……ね?」

 

「わかりました。……なんだかリリィさん、先生みたいですね?」

 ぼくの提案を受け入れてくれたルードくんは、最後に疑問を投げかけてくる。

 

 これは丁度いいかな。さっそく実践といこう。

「ふふふ、ルードくんにはわかっちゃったかな? 私のこの溢れ出るお姉さんオーラが……!」

 

 言いながら連続でウィンクをすると、流石のルードくんも理解したようで、

「わかってたまるかそんな謎オーラ! ……こんな感じですか?」

 とツッコミを入れてくれた。

 

 まあ語尾についた顔色うかがいは、初心者への優しさで不問にしておこう。

「そうそうそんな感じ!」

「なんとなくわかってきました」

 

 ルードくんは素直で真面目だから、けっこう可愛いかも。

 どことなく弟感がある。ぼく弟欲しかったんだよね。

 

 

 

 一連のやり取りを終えると、警官が罪人を連れて戻ってきた。

 二人にも、ぼくにはそんなに気を遣わなくてもいいよという旨を伝えておいた。

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