「ふうー、疲れた……」
買い物を終えたぼくは駐屯地の女性寮に戻り、一時的に借りている部屋で息を吐いた。
と同時に、扉からノックの音が飛び込んでくる。
「リリィさーん? 入ってもいいですか?」
ハクアさんの声には微塵も疲れを感じず、(やっぱり女性はショッピングで体力を回復する特殊能力でも持ってるのかな?)と思わずにいられなかった。
「はーい、どうぞ?」
疲れてるとはいえ、断るわけにもいかないか。そう考えて部屋に彼女を入れる。
一時的に女性寮の空いている部屋を借りてるだけなんだけど……仮といえど自分の部屋に友だちを入れておいてなにも出さないというのは、成人した身としてはよろしくない。
というわけで、グランドストレージから飲み物を出してハクアさんに手渡す。
グランドストレージは
真珠みたいな丸い宝石に触れると、それが4つに分裂して長方形に繋がり、空中にディスプレイを作り出す。そこに映るいろいろな物の中から飲み物を2つ選択すると、空中浮遊ディスプレイは地面と平行になって、内部からゆっくりと飲み物を出現させた。
(こういうの、すごく良い……ハリウッドの近未来SFっぽくて)
その光景もまあまあ見慣れて来てはいるけど、なかなかに趣深い。
「大したおもてなしはできませんが……」
「いえいえこちらこそお土産もなしに……」
ちょっとふざけて言ってみると、ハクアさんはおばあちゃんみたいな声で返事をしてきた。
やっぱりこの子、すごくノリが良い。話しやすくておまけに可愛いときた。こりゃ男が放っておかないね。
そしてグランドストレージから出した飲み物に、ハクアさんが口をつけてから出した言葉は……
「リリィさんってルードさんのこと好きなんですか?」
という凄まじく突拍子もないものだった。
「……理由を聞いてもいいかな?」
驚きを隠しつつ、とりあえずその思考に至った経緯を探ってみることにした。
「まず最初に……ルードさんとの初対面は、戦場に突然現れたリリィさんが、最初に出会った兵士さんに槍を向けられてたところですよね?」
「うん。小隊長さんが私に槍を向けてて、ルードくんは庇うように槍を弾いてくれたんだ」
「はいそこラブポイント一つ目です」
「……ん?」
なんだその未知のポイントは? と考えているとハクアさんが語り出す。
「突如この時代に飛ばされて、ここはどこ私は誰? ってしてるとこに颯爽と現れた金髪イケメンくんが自分を助けてくれるなんて、ちょっと出来すぎ少女漫画すぎませんか?」
言われてみると確かにそうかも? でもこの場合助けた側に好意があるって考えるんじゃないかな。現にその時はルードくんの方がぼくの顔が好みなのかなとか思ってたし。
「次に、ルードさんが小さい頃にお世話になった人と同じような外見をしてて、その人もリリィって名乗ってたこと。憧れのお姉さんとそっくりとか……まあこれはルードさん側なので
「別口ラブポイントとは?」
「今はうちの推理パートなので質問はあとで。そしてついさっきの買い物で、ラブポイント爆増の決定的な行動をあなたは起こしたんです! 知らないとは言わせませんよ?」
(さっきから何を言ってるんだこの子は? なんか変な雰囲気だし……とはいえぼくとルードくんに関することか……あっ)
「あれ……なんだっけ、あのおばあちゃんが言ってた……『ラキスケの女神』だっけ?」
「ああそれは違います。ちょっとえっちすぎるので別口のエロポイントですそれ」
「別口エロポイントとは……??」
「ああもう自覚ないんですか!? 新しい服装と髪型を見せびらかして、ルードさんにだけ感想を求めたじゃないですか! あれが好意じゃないならなんなんですか!?」
「あー、あれかー……」
そこまで言われてぼくはようやくハクアさんの意図に気付いた。
ここまでの流れを整理すると……
ぼくがこの世界にやってきた瞬間に助けてくれたのはルードくん。
ルードくんには幼い頃にお世話になった憧れのお姉さんがいて、ぼくの今の容姿はそれにそっくりらしい。
そしてぼくはつい先ほど、ハクアさんとのショッピングで得た戦利品を、ルードくんにだけ見せて感想を求めた。
……うんこれは確かにラブポイント爆増かも。ラブポイントってなんだよ。
ハクアさんが勘違いするのも無理はないかもしれない。
ぼくは無意識のうちに、ヒロイン仕草をルードくんに対して行っていたのか。
ルードくんに過度に気遣うなと言っておきながら、自分は女性的な行動を連発していたのか。これで気遣うなって方が無理あるかも。
とはいえあれには、ルードくんのような真面目な人の方がからかい甲斐がある。というのとは別の理由もあるし……伝えておこう。
「いやあれは、真面目な人の方が良い反応するからっていうのと……」
「っていうのと……?」
ハクアさんがぼくの語尾を繰り返すのを見てから、一呼吸を挟んで言葉を紡ぐ。
「コクトくんに見せて感想求めたら、ハクアさんが嫌がるかなって思って……」
「なっ!!?? ……えーと、ソンナコトナイデスヨ?」
おっと良い表情。タイトルは『素直美少女のはぐらかし顔』ってとこかな? 写真撮ったら飛ぶように売れそうだね。
何はともあれ、これは攻守交代のタイミング。
「私たちが初対面の時、通い妻とか夫婦漫才って言ったのはハクアさんの方だったよね? これが一つ目のラブポイント」
「うぐ……」
ぼくが名探偵ぶって話し始めると、ハクアさんは誤魔化しきれずに呻き声を上げる。「ぎくっ」という文字が目に見えるかのようなリアクションだね。
「今日ハクアさんの発言の中でDV男子とかも気になったけど……コクトくんが言った「故意」って単語を「恋」って聞き間違えた時の表情は決定的だよね? ふざけてるって言い訳が通用しないほどの好意があったように思えるけど……?」
「なっ……!?」
「そして今、私とルードくんの間に好意があるか確認したかったのは……この二人がくっつけばハクアさんとコクトくんとの関係性を進める起爆剤になる……そう考えたからじゃないの?」
「うわー!?」
勝ったッ! 第3部、完!
敗者は錐揉み回転をしながら吹き飛ばされる。ぼくはなにもしてないのに。
ってか借りてる部屋で暴れるな。
「お、面白い推理ですね名探偵さん……でもそれは全て憶測に過ぎません。うちがコクトくんのことを、すす……好きだっていう確たる証拠はあるんですか?」
この期に及んでまだシラを切るのかなこの子は? まあいいか、この言い逃れ的な発言にも最後まで付き合ってあげるのが友だちってものだし。
「確かに証拠はないよ。心なんて目に見えないし、物証なんてあるわけない……でも」
「……でも?」
「ハクアさんを見ればわかるよ。よっぽど鈍感じゃなければね?」
「……そんなにわかりやすいですか?」
お、ようやく認めたか。
ぼくはハクアさんの言葉に頷いてみせる。
「うう……そうですよ! どーせうちは初恋拗らせ系めんどくさ女ですよ! 累積ラブポイント500を超えた、あと一歩が踏み込めない臆病者ですよ!」
累積ラブポイントってなんだよ。とは思ったけど、口には出さないでおいた。
武士の情けってやつだね。ぼくは武士じゃないけど。