「リリィさんがルードさんのことを好きなら、それを応援したかったっていうのも嘘じゃないです。ただ……コクトくんのことをどう思ってるか聞きたいな、っていうのもあります」
「確かに私は、いきなり現代に現れた謎の女性だもんね。しかも二人とも格好いい見た目だし、どっちに矢印が向いてるかとか、コクトくんのことが好きならそういう考えになっても仕方ないか」
「あ、一個訂正お願いします。謎の女性じゃなくて、謎の銀髪巨乳美女です」
「要る? その訂正……」
「要りますよなに言ってるんですか?」
なんでそんなに清らかで真っ直ぐな瞳ができるんだろう?
「そっか……それでどっちが好きって話だけど、どっちも普通かな。ルードくんもコクトくんもすごくいい子たちだけど、そういう風には考えたことないよ」
「そうですか……ほっ」
ぼくが素直な感想を伝えると、ハクアさんは息を吐く。
「まだ安心するには早いぞエージェント・ホワイト。君の任務はターゲット・ブラックを確保することだ。違うか?」
「いえ、おっしゃる通りであります! 指揮官!」
おー、これにも反応するのか。打てば響くってこういう感じ?
内心で感嘆の息を漏らしながら、ぼくは言葉を続けた。
「よろしい。では吉報を待つ」
「イエス、マム!」
ぼくの声にエージェントが返事をして、茶番は一旦終わりを迎えた。
「それで気になるんだけど……そんなに好きなら伝えようって思わないの?」
「思ったことはあるんです……けど、なんというかその……」
「言いづらいなら言わなくても……」
「いえ、ただ自分のことながら情けないってだけなので。えーと……」
そこからハクアさんは語り始めた。
幼馴染との、学生時代のやり取りを。
〜〜〜〜〜〜
「それで卒業したら、
「まあ
それは進路に迷っていたコクトくんとの会話の中でのこと。
日に日に募る幼馴染への恋心。近い将来の話題。そして二人きりの帰り道。
これはいける。今しかない。そう思ったんです。
(勝負は今、ここで決めます!)
「あ、あの! コクトくん!」
「そんなでけえ声出さなくても聞こえてるって……この距離だぞ……? んで……?」
うちの声に、いつもみたいなゆっくりした声で反応するコクトくん。
夕日に照らされた帰り道に、「顔が赤くなっても大丈夫だよ」って背中を押してもらえた気がして。
うちははっきり伝えたんです。
「うち、コクトくんのことが……好きです……!」
って。目を閉じながら、顔を下に向けて。
目を閉じたのは、コクトくんの顔がもし拒絶だったら耐えられないから。顔を下に向けたのは、恥ずかしくて顔が見られなかったから。
でも、うちの言葉にはしばらく待っても返事が返ってこなくて。
たぶん十秒……いや、五秒くらいだったと思います。でもあの時の五秒は、うちが知ってる時間の長さじゃなくて。
なんで返事がないんですか? とか、断る言葉を慎重に選んでるのかも。とか。
そういう悪い想像ばっかりして。
つい言っちゃったんです。
「ハクア姉、俺……」
「な、なーんて! びっくりしました!? 昨日お笑い芸人さんの漫才見てて、こういうシーンがあったんですよ。あれ、コクトくんは見てないですか?」
その時たぶん初めて、うちは自分の心に嘘を吐きました。
茶化して笑って楽しんで。それは友だちとかコクトくんが喜んでくれるからしてたことなのに。
初めて、冗談を盾にしたんです。
コクトくんに断られるかもって思うと、返事を聞けなくて。
「なんだそういうやつかよ……」
小さく呟いたコクトくんの言葉に含まれるのが、どっちの思いなのか。
うちにそれを確認する勇気はありませんでした。
〜〜〜〜〜〜
「あの時うち自身が好きっていう気持ちを茶化しちゃって、そのせいでどうやってもふざけて言っちゃう感じになって……」
「うーん、そうだね……」
これはなかなか難しいかも。一度自分自身の告白を冗談だって言っちゃったから、そういう発言をしてもコクトくんにとってはツッコミどころとしか思えなくなってる。
それにハクアさん自身も、好きとか恋とか夫婦漫才とか、そういう言葉を日常的にジョークで使ってるから、どんどん言葉に重みがなくなっちゃったんだろう。
軽口を叩き合う気の置けない関係性が心地よくて、言葉がどんどん軽くなっちゃったんだ。日増しに積み重なる感情とは裏腹に、言葉はまるで羽のように。
これまでも何度か恋愛相談をされたことがあったけど、ここまで拗らせてるのは本当に初めてだ。
とはいえ解決策がないわけでもない。
「まずはハクアさん、冗談を言う時に結婚とか妻とか好きとか、夫婦漫才とかもだね。恋を連想する言葉を言わないようにしてみよう。軽口のために使った言葉は本当に軽くなるからね。伝えたい想いを乗せられなくなっちゃうから」
「サーイエッサー!」
「それと、困ったらすぐに相談して? ハクアさん意外とお姉さん気質だから、こういうのあんまり相談できたことないでしょ?」
「リリィさん……!」
「私も恋愛経験はない……気がするけど、一緒に悩むくらいは友だちとしてできるからね」
言い切りそうになって(そういえばぼくって今、記憶障害を持ってる設定だったな)ということを思い出して軌道修正しておく。
古代人設定、ちょっと忘れちゃう時あるな。
「リリィさん! うち、リリィさんと友だちになれて嬉しいです!」
「おわっ! ハクアさん……」
彼女はにっこり笑ったあとに、ぼくにタックルを仕掛けてくる。
軽いハクアさんの体重をぼくの体の前面にある緩衝材で受け止めて、ぼくらは抱き合う形になった。
「リリィさんは元の時代に戻りたいって思ってるかもしれないですけど……でもうちは、リリィさんがこの時代に来てくれたこと、ちょっと……ううん、すごく良かったなって思います!」
「……そうだね。私もこんなに可愛い友だちができて嬉しいよ」
お世辞じゃなく、本心でそう伝える。恋する乙女なんて、可愛らしいにも程があるからね。
それに小さい身長も相まって妹みたいで良い。そういえばぼく、妹も欲しかったんだよね。
「……ぐへへ」
前言撤回。
見た目がどんなに可愛くても、こんなスケベな妹は嫌かも。
「……ちょっと離れよっか?」
「そんなー……あっそうだリリィさん。知ってますか? 今の時代には、
「屁理屈を捏ねてもダメです」
「ちぇー、ケチ! 巨乳! 美女!」
「三分の二が褒め言葉!?」
「くっ……リリィさんの悪いとこなんて出てきませんよ!」
「…‥なにをしているんだい君たちは?」
「あっ、ゼレーナさん」
ハクアさんと戯れあっていると、不意に三人目の声が聞こえてきた。
「ノックしたのに返事がなくてね。悪いが勝手に入らせてもらったよ?」
「それは全然いいですけど……何か用事ですか?」
ぼくがそう訊ねると、ゼレーナさんはぼくたちを見ながら答える。
「いやなに、私たちはもうあと数日でこの町を出るだろう? その前に少し話でもと思ってね」