ぼくはヒロインになった   作:タンクトップ桶狭間

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第4話 まるで尋問

「第一大隊・D小隊所属。ルード・アルファニウスです。対象を連れて参りました」

「ご苦労。……それでは謎の女性? まずはアタシから……ここの第一大隊を総括する大隊長、ミム・カゾットだ。よろしく」

 

 巨大な大砲をくっつけた建物の中、おそらく会議室らしきところで、ぼくは座っていた。

 さっきの場所にいた戦闘員さんも複数人いて、ぼくを警戒するように睨みつけている。

 

「よ、よろしくお願いします……」

 周囲の視線に怯えつつ、なんとかぼくは彼女の言葉に答えられた。

 よく見ると、彼女の頭部には赤髪を割るように鬼のような角が存在を主張していた。それがより一層彼女の纏う威圧感を増しているようにも感じる。

 

「さて……あなたの名前は?」

 やっぱり来た。そりゃ聞くよね。

 

 予測できたから、一応対策は考えておいた。

 

 今のぼくは女の人……少なくとも他人からはそうとしか見えないと思う。

 そしてこれまで見て、聞いた中で気付いていた。彼らの主言語が日本語であることを。口の動きと聞こえる言葉が一致しているから、まず間違いない。

 

 いったいどんな経緯を辿って、どんな歴史を歩んだら、明らかに日本名じゃないルード隊員やミム大隊長が日本語を話しているのかは……わからないけど。

 

 とりあえず彼らは日本語を話しているし、もしも日本名にも詳しいとしたら。

 ぼくの名前、沢渡(さわたり) 良一郎(りょういちろう)は名乗れない。明らかに男性名だから。

 

 ただでさえ警戒する彼らにとっては……「偽名を使われた」という印象しか受けないだろう。

 この状況で、さらに警戒される選択肢をとるほど、ぼくは馬鹿じゃないつもりだ。

 

 それにここにくるまで、建物にあるガラスである程度ぼくの容姿は確認できた。

 真っ白なローブを着ていて少し分かりづらいけど、銀髪の女性だった。

 

 そしてルード隊員には、ぼくのニックネームが知られている。

 だからぼくにはこれを名乗る以外の手段は取れない。

 

「り、リリィです……」

「そう……じゃあ、リリィさん? あなたはどうやってあそこに転移してきたの?」

 

 そしてここから、ぼくはたぶん一切嘘をつけないはず。

 ルード隊員は軍人、つまりここは軍事施設。不審な人物と会話して情報を聞き出すなら、嘘を見抜くなんらかの手段が用意されていて不思議じゃない。

 

「わ、わかりません……」

 

「なら、あなたが元いた場所はどの大陸のどの国? そしてどの町だったのか……わかる?」

「わかりません……」

 

 これは嘘じゃない。ぼくの故郷は日本だ。この国どころかこの世界のどこでもない。

「どこか答えろ」と言われたら日本と答えるしかないけど……「この世界のどこかわかる?」と聞かれたら、地理的にはわからないと答えても嘘にはならないはず。

 

「ゼレーナ、計測器は?」

「聞こえてるけど、なんとも。けどミム……私が話してもいいかな?」

 

 謎の波打つ球体を手のひらに持っていた、ゼレーナと呼ばれた女性がぼくの方へと近づいてくる。

 緑の髪から飛び出した長い耳が、ピクピクと楽しそうに動いていた。

 

「リリィさん……じゃあ、私がどんな種族か……わかるかな?」

 その質問に、どんな意図が含まれているのか……ぼくには理解できなかった。

 

 今はとにかくぼくが危険人物か否かを判断する状況のはず。そんな中で、いきなり私の種族を答えて……って、それでなにがわかるんだろう?

 でもこれも、嘘発見器的なものがある以上、素直に答えるしかないか。

 

「えっと……見るのは初めてですけど、エルフ……でしょうか?」

 フィクションでしか知らない種族名。もちろん実物を見るのは初めてだから、自信はなかった。

 

 でもその瞬間、会議室の中にどよめきが広がる。

「なっ、エルフ!?」

「計測器は……正常!? 嘘じゃない……?」

 

 周囲の人たちがすごく驚いて、ゼレーナさんの持っている球体を見るけど、特段変化はない。

(えっ、なにこの空気? まさかエルフが蔑称になってる……とか?)

 

「やっぱり……!」

 でも当のゼレーナさんはぼくの返答が満足できるものだったみたいで、さらに質問を重ねてくる。

 

「じゃあ、こっちのミムはどう? どんな種族か……見た目で判断してみて?」

「ゼレーナ……大隊長をつけなさい。今は仕事中よ」

 

 ゼレーナさんの様子を、ミムさんが嗜める。

(まあこれも、とりあえず見たままの姿を答えるしか……)

 

「……鬼人族(きじんぞく)、とかでしょうか?」

 ぼくの言葉に、さらに周りがざわついた。

 

 なんだろうこれ。周囲の人たちはまるで未確認生命体を見つけたみたいなリアクションをしている。それはミム大隊長も、ルード隊員も同じ。いや君もそっち側の反応なの?

 

 ぼくのことを知ってる感じだったけど、あだ名だけなのかな?

 

「あ、あり得ない……!」

「計測器は正常……そんなことある? だってこの国に、いえ、この世界に……」

 

集的混合人種(しゅうてきこんごうじんしゅ)を知らない人がいるなんて」

 

 なにそれ? 人種? もしかしてポリコレ的なアレ? 異世界のタブー的な発言しちゃった…‥かも。

 

 でも戦闘員さんたちの反応は、人種差別をしたことに対しての怒りじゃない。さらに驚いて、宇宙人を見つけたみたいな表情をしている。

 

 ただ一人、ゼレーナさんを除いて。

 

「ふふふ……魔力測定器はもういいかな? 故障かどうか判断できないし……これ自体が判断の邪魔になるかも。それとミム大隊長。私の識眼(しきがん)の情報も伝えておこうかな」

 

「……なに?」

「私の目が、性別身長体重、種族と……その生命体の現状を端的に表す文字が浮かんでくるのは知ってるよね? 彼女を見た時からずっと気になってたんだけど」

 

 言いながらぼくを見てくるゼレーナさん。

 たぶんそれは人を見る目じゃなくて……面白そうな研究対象を見つけた時の、マッドな科学者の視線に近いと感じた。

 

「彼女は『異邦人』。そして……人族さ」

 

 ざわめきが、もはや騒音に聞こえた。

 

「単一種族……!? あり得ないでしょうゼレーナさん!」

「それに異邦人って、どういう状態を示すんですか?」

 

「私も初めて見るから、『異邦人』はわからないけど……単一種族っていうところは、たぶん説明できるよ? いいかな総隊長?」

 

「ゼレーナ情報官、説明を」

「りょーかいだよ親友」

 

 ゼレーナさんは、周囲の人たちを見回しながら、説明を開始する。

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